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“乙女ゲームの世界に転生した俺は、知らぬ間にシナリオを変えていました。”関連

乙女ゲームの世界に転生した俺は、知らぬ間にシナリオを変えていました。

作者: りんぐ

 


 ——飯崎いいさき嶺二れいじ


 俺の前世の名前だ。死んだ当時は日本の進学校に通っていた高校二年生だった。そんな俺は、高校からの帰り道に、遮断機の降りた踏切の中央部で倒れていたおばあさんを助けようとして、電車に撥ねられて死んだ。


 あの時は、かなりイラついたのを覚えている。


 誰もがおばあさんを見て、「あれ危ないんじゃない?!」とか「あばあさん! 早く逃げろ!」とか声をかけたり、悲鳴をあげたり、写真を撮ったりしていたからだ。危ないと思ったり、悲鳴を上げるくらいなら早く行って助ければいいのにと思うし、写真を撮っていたやつに至ってはぶん殴ってやりたいとさえ思った。


 俺はそんな連中をみて見て心底イラついたのだ。人の生き死にがかかっているのに何をやっているんだ! と。そして、俺はおばあさんを助けようと遮断機を潜り、線路に入ったのだが、少し遅かったようで、おばあさんをぶん投げた直後に電車に撥ねられた。それからの記憶が全くないことから考えると俺はどうやら即死だったようだ。


 だが、びっくりしたのは、その後だ。死んだと思った直後に目に飛び込んできたのが豪華な部屋とベッド、そして二人の美人さんだったからだ。その後すぐに分かったことだが、その美人さん二人は転生先の実の両親だった。


 当時の俺は二歳。赤ん坊からの転生でなくてよかったと心底思ったものだ。


 そして、ここでまた俺は非常に驚いたことがあった。なんと! 剣と魔法の世界に転生していたのだ!


 それを知った直後には興奮したのを覚えている。だって魔法だぜ? 人生で一度は使って見たいなと誰もが思うあの魔法が身近に存在しているのだ。


 しかも、転生したのは【ゼクスィート王国】という国の第三王子。名前はアレクセイ・ゼクスィート。何不自由なく暮らせる身分である。それに、第三王子なら、まず間違いなく国王になることはない。将来的には国王の直轄領から一部を与えられて、新しい貴族家を興すことになるか、どこかに婿養子に入るか、そのどちらかになるだろう。


 しかし、俺からしてみれば、国王なんてやりたくない。断固拒否である。大きくない領地を貰って、自由気ままに暮らしていければそれで良いのだ。平民になることも考えたが、それは早々に却下した。


 この世界は人の命が軽い。魔物に襲われて人が死んだり、盗賊に襲われて村が滅んだりなんてのは有り触れた話だ。そんな世界に王子として転生したということは、それは果たすべき何かがあるのだろうと思うのだ。それに今まで国民の血税で豊かな生活を享受して来た以上、その恩を返したい……いや返して然るべきだ。


 こうした考え方は“貴族の果たすべき義務ノブリス・オブリージュ”と言うそうだが、俺はこの考え方は嫌いじゃない。むしろ、率先して実行すべきだと思う。だって、自分の行動一つで、多くの人の命が救えるのなら、その手段を取らないという選択肢はないだろう。前世でも、将来は人の役に立つ仕事に就きたいと、漠然とながら考えていたしな。それが世界は違うとはいえ、果たせるのなら是非とも果たしたいと思う。


 だが、俺は良くも悪くも日本人気質だった……。ぶっちゃけ人の頂点たる国王は荷が重すぎる。それに国全体で何かしらの政策を実行するには、多くの貴族への根回し、そして会議での承認を得なければならない。


 それなら、領地を貰って、そこでしたいことをする方が即実行できるし、何より煩わしいことをしなくていい。


 まぁ、そもそも長子承継が基本のこの世界では俺に王位が転がってくることなんてないとは思うけども……。


 だから、俺は領地を治めるときのことを見越して多くの知識を蓄えてきた。王城にあった目ぼしい本は粗方読み尽くしたと思う。そして、剣術や魔法についても、かなりのレベルにあると自負できるほどには練習した。だが、一桁の年齢の時に、やりすぎて騒がれてしまったので、今ではいらぬ混乱等を避けるために表向きはちょっと優秀レベルを装っている。


 俺の真の実力を知っている者は俺以外にはいないだろう。この国に鑑定の魔眼持ちは報告されていないからな。……あっいや。もしかしたら母上は知っているかもしれない、か。時折、なぜか意見を求められることがあったし。母上は勘が鋭いし、頭が良すぎると言えるほど良いんだよな。あれで転生者でないのが驚きだ。


 さて、そんな俺だが、今では十七歳になった。転生に気付いてからは十五年だ。


 この間には実にいろいろなことがあった。


 慣れない価値観に戸惑う日々。王族としての威厳を身につけるための帝王学の勉強。その他、様々な学問を勉強する怒涛の日々。


 そして、完璧な計画を立てて城から脱走し行った冒険者登録。それは確か十二歳の頃だったか。そして、十三歳の時に、文字通り血反吐を吐きながら行ったドラゴンとの死闘をしたんだったな。あれはマジで死ぬかと思った。その後、気力を振り絞って自室に戻った後にぶっ倒れたのだったか……。そのあとは三日三晩寝込んだのは苦い思い出だ。


 証拠隠滅をした後だったので、そんな状態に陥った理由を悟られることはなんとか避けられたが、今思えばかなり危険な橋を渡ったものだ。両親、特に母上に知られたら、お説教三時間コース待ったなしだっただろう。ガクブルである。流石に、いくら鍛えていても三時間正座は辛いし、その上に的確に傷口を抉ってくる母上のお説教は勘弁である。


 ここまでくるのは本当に大変だった。だが、そのおかげで今ではかなりの能力を持っていると自負している。


 そんな形でまぁ、聞くも涙語るも涙な様々な困難に直面してきたわけであるが……今以上の修羅場はついぞ経験したことがないと思う。それは、


「レイリーナ・ジクマリン公爵令嬢! 貴様が行ったラナ嬢に対する様々な嫌がらせや所業は看過できるものではない! よって貴様との婚約を破棄する! そしてラナ嬢、ラナ・ボーヴィル男爵令嬢との婚約をここに宣言する!」


 他国の重鎮や国の上層部がいる中で行われた、突然の婚約破棄宣言である。レイリーナ嬢と対面する位置で、ラナ嬢と呼ばれたどこぞの馬の骨、もとい少女を守るようにして、兄上と、その側近たちが立っている。彼らのその目は、熱っぽくラナ嬢を見つめている。どうやら、全員ラナ嬢とやらに惚れているようだ。


 兄上には前々から暗愚な面が多々見受けられたけども、ここまで愚かだったとは……。 これでは、僕はバカでーす、と内外に示しているのだと何故分からないのだろうか?


 兄上——第二王子のアルフレッド・ゼクスィートが卒業したというから、その祝言を言うために留学先の隣国から赴いてみれば、これである。そんな簡単に王家と貴族家の婚約など破棄できるものではないことを小さな子供でも知っているだろうに……。そもそも、婚約破棄をするにしても、それはキチンとした場を設けて行うものである。


 兄上が婚約者であるレイリーナ嬢をエスコートせずに、見知らぬ男爵令嬢をエスコートして現れた時は思わず二度見してしまった。あんなに美しく、そして聡明なレイリーナ嬢を捨てて、見るからにバカそうな女……もとい頭の緩そうな女を連れ立って歩いているのだから、もう置いた口が塞がらなかった。


 もう驚きである。いや、むしろ怒りすら湧いた。レイリーナ嬢は俺の初恋の人だ。そんなレイリーナ嬢を蔑ろにするとは! 


 幼少の頃は兄上と俺、そしてレイリーナ嬢の三人でよく遊んでいた。彼女は最初こそ高慢ちきな我が儘令嬢といった感じだったのだが、これはアカンと思った俺が性格を矯正した。子供だったのが幸いしたのか、数ヵ月もすればそんな性格は鳴りを潜め、立派な貴族の子どもになった。そして今では、どこに出しても恥ずかしくない、むしろ褒め称えられるような立派な貴族令嬢へと成長進化を遂げている。


 そんなレイリーナ嬢に惚れたのを自覚したのは三年ほど前の話だ。最初の方こそ、精神年齢の差からか、レイリーナ嬢には妹に接するかのような感情しか感じていなかった。しかし、レイリーナ嬢が成長していくにつれ、次第にその美しさや凛々しさ、物事の考え方などに惚れた。だが、それを自覚した当時は、すでに兄上の婚約者としての地位が確立されていた。それを知った日は枕を涙で濡らしたものだ。


「なんとか言ったらどうなのだ!」


「では二言ほど発言させていただきます。まず、婚約破棄の件。私は特段構いません。謹んで婚約破棄の件を了承致します。


 そして、次にですが……先ほど嫌がらせや許されないほどの所業と仰っていましたが、それは一体なんのことでしょう? 確かに私は貴族令嬢としてあるまじき行動を取っていたラナ様に何度か注意したことはございますが、そのことでしょうか? そのことを仰っているのでしたら、私が責められるいわれはないと存じますが?」


「貴様はラナ嬢を通路で転ばせたり、教科書を切り裂いたり、靴を汚したり、飲み物をかけたりしたのだろう! 挙げ句の果てには階段から突き落としたそうではないか!」


「……私はそのようなことは断じてしていないと断言いたします。何かの間違いではございませんか?」


「とぼけるな! ラナ嬢が貴様の階段から突き落とされた際に逃げ去る貴様の姿を見たと言っている! 大方、俺の気を引こうとでも思ったのだろう! 今までの嫌がらせも貴様だったのだろう!」


「階段から突き落とされた事件はいつのことですか?」


「昨日だ!」


 ぶほっ。やべ。つい吹き出してしまった。兄上、いやもう阿呆でいいか。あの阿呆、なんも知らないんだな。昔から暗愚なところはあったが、俺が留学している間に、これほどまで落ちぶれるとは……。我が兄ながら情けない話である。自分の婚約者の動向くらい知っておけよ。


「そうですか。ならば、それは私ではございません」


「嘘をつくな!」


「嘘ではございません。私は昨日は王城に出向いておりましたので。確認でしたら、簡単に取れると思いますよ?」


 あっ。男爵令嬢が青くなってる……。もしかして自作自演か? 無実の公爵令嬢に罪をなすりつけようとしたんだから、良くて平民落ちだろうな。


「ぐっ。だが、嫌がらせの件はどうだ!」


「どうだと言われましても……。私はやっていないとしか言えません。殿下は何かしらの証拠があって仰っているのですか?」


「貴様の他に誰がいる!」


「……証拠はないのですね。まぁ当然といえば当然ですが」


「今すぐラナ嬢に謝る「やめんか!!!」父上?!」


 おっ。父上——国王アレックス・ゼクスィート——登場か。個室からタイミングを見計らっていたみたいだな。もっと早く登場してあげればいいのに。大方、かっこよく登場したかったのだろうな。……あとで母上にチクっておくか。母上はレイリーナ嬢を溺愛しているからな。


「アルフレッド。お前には失望した。沙汰は追って伝える。今は別室に控えよ」


「しかし!」


「くどい! 王命が聞けぬのか!」


「わ、分かりました」


「この者たちを連れて行け!」


 アルフレッドと取り巻きABC、そしてラナ嬢は肩を落としながら騎士に連行されていった。


「レイリーナ嬢。この度は愚息がすまなかった。今回は席をはずした方が良いと思うが、どうする?」


「はい。私もこの状況でパーティーに参加するのは遠慮願いたく存じ上げます……」


「うむ。では、帰りの馬車を手配しよう。……皆のもの! 此度は愚息が場を乱したことを詫びよう! これより存分に楽しんでくれ!」


 俺、何のために来たんだろう……。兄上に祝言を告げるために来たのに、来て早々にもう退場しちゃったしな。もう帰ろう……。


 俺もレイリーナ嬢に続く形で会場を後にした。



 ♦︎♦︎♦︎



 あの事件から三日が経った。あのあと、兄上は廃嫡の上に辺境にある砦に騎士として赴任することになった。兄上は剣の腕だけはそれなりに良かったからな。そして、兄上の側近たちも、学園内で色々とラナ嬢関連でやらかしていたようで、廃嫡されて家から追放されたらしい。


 最後にラナ嬢だが、彼女は公爵令嬢に、ありもしない罪を擦り付けようとした上に、国を混乱させかねない所業を犯したとして奴隷落ちした。本来なら平民落ちで済んだが、なんでも、ラナ嬢の親であるボーヴィル男爵が、些事ながら多くの不正行為を働いていたことが露呈したためにボーヴィル男爵と共に奴隷落ちとなった。


 ラナ嬢は入れられていた牢の中で「私はヒロイン!」だの「こんなのはおかしい!」だの「リセットよ! リセット!」だのと騒いでいたようだが、俺以外の人には何を言っているか分からないだろうな……。気でも触れたと思うだけだろう。


 ってか今更ながら、俺はそれを聞いて、この世界が乙女ゲームの世界であるらしいということを認識した。そして、おそらく幼少期のレイリーナ嬢に施した性格矯正が、シナリオを大きく変えたのだろうということも。昔の俺、ナイスである。


 まぁ、何はともあれ、今回の婚約破棄騒動は解決を見たわけだが、一つ心配なことがある。それはレイリーナ嬢のことだ。兄上が完全に悪いとはいえ、婚約破棄されたという醜聞は避けられない。俺が嫁に貰いたいが、無理だろうな……。


 そんな俺であるが、今、王の執務室へと向かっている。なんでも父上が国王としてではなく、父として(・・・・)話があるそうだ。


「父上。なにかご用で……しょう……か……」


 執務室をノックしてから入ると、そこには父上とジクマリン公爵、そしてレイリーナ嬢がいた。予想外の光景に思わず言葉を噤んでしまった。


「うむ。よく来た、アレクセイ。お前の婚約者が決まった。お前の婚約者はレイリーナ嬢だ。お前が了承すれば、だがな」


「はい?! なぜですか?!」


「……殿下。我が娘では不満ですか?」


 ジクマリン公爵が威圧感たっぷりの気配を漂わせながら言った。かなりの迫力だ。これがただの貴族令息なら逃げ出したくなるだろうな。俺の場合は生憎とドラゴンなどといった、とんでもない奴らと対面していたから大して怖くはないが。


「滅相もない。今のはつい驚いてしまっただけですよ。しかし、急ですね。それにその……よろしいのですか? あんなことがあったのに、また王家に、というのは……」


「……娘が殿下との婚約を望んだのですよ。新しい婚約者は誰が良いか、と聞きましたらね。娘はどうやら、昔から殿下のことを好いていたらしいですよ?」


「?! お父様! それは言わない約束では!」


「あっ、すまんすまん。つい、な」


 レイリーナ嬢が顔を真っ赤にして俯いてしまった。……ってあれ? レイリーナ嬢が俺との婚約を望んだ?!


「そういうことだ、アレクセイ。良かったじゃないか。お前もレイリーナ嬢を好いておっただろう?」


「?! 何故知っているのですか?!」


「お前、レイリーナ嬢がアルフレッドと婚約したと知った日、死にそうな顔していたではないか。あれで気づかん親はいない。その後に持ち込んだ縁談は、取り付く島もなく悉く蹴っておったしな」


 やべ。どうしよう。超恥ずかしんだが……。好きな子を親に知られるのが、こんなに居た堪れないとは……。


「……アレクセイ様。今のお話は本当ですか?」


 レイリーナ嬢が頬を染め、こちらを上目遣いで見ながら聞いてきた。可愛い……じゃない! 父上と公爵の前で俺の気持ちを言うのか?!


「……アレクセイ様。もし……もしお嫌でしたら断っていただいて構いません。私は元よりアレクセイ様が了承していただいた場合は婚約したいとの申し出をしただけですので」


 レイリーナ嬢が泣きそうな顔をして言った。どうやら考えているうちに時間を使い過ぎてしまったようだ。レイリーナ嬢は婚約が嫌だから黙ってしまったのだと誤解してしまったらしい。これはまずい! ええい、ままよ!


「私は、いや俺はリーナのことが好きだ。どうか俺と結婚してほしい。どうだろうか?」


「?! はい! 喜んで!」


 レイリーナ嬢、いやリーナは泣き笑いの表情を浮かべながら言った。その顔を見て惚れ直したことは完全な余談である。


 この婚約から二年と半年後。俺とリーナは結婚式を挙げた。そして、それと並行して行われた式典にて、俺は国王の直轄領から、それなりの大きさの領地をもらい、ダーウェン公爵家を新たに興した。


 領地経営においては、今まで温めていた兼ねてからの計画——現代日本の知識を取り入れた様々な政策と事業を起こして、領内の経済を盛り立てることに成功した。しかし、それら様々な成功はリーナの支えがあってこそだ。リーナには感謝しかない。


 領地経営が軌道に乗り始めた今、そろそろ子供が欲しいと思うのだが、もし、そうなったら気をつけなければならないことがある。それは、


「子供ができたら第二のリーナを生み出さないように、時には厳しく接していかないとな、リーナ」


 リーナを見ながら、ニヤリと笑って言ってみる。


「?! 忘れてください! あれは私の黒歴史ですから!」


「ははは。我が儘で傲慢だったあの時のリーナも、今思えば可愛らしかったけどな」


 俺がニヤニヤしながら言うと、「アレク様の馬鹿ーッ!」と顔を真っ赤にしながら痛くない攻撃を繰り出してくるリーナを見て、幸せだなと思う今日この頃である。



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