第3話
民衆の反乱。父や兄達は、皆説得と鎮圧の為に奔放している。私には何も権限が無いために、自室待機を命じられていた。しかし、あの映像を見て、この世界に飛び出る勇気を持てる者はそう多くないだろう。その勇気を持って飛び出た者達も、結局は戻ってくることになった。私達の惑星、母星を離れ250年。他の船団の人々はどこに居るのかわからない。知識で人類発祥という惑星と、他の船団があると言う事を知っている程度だ。船の航行速度より遅い通信網と言うのは何の役に立つのだろう。船内でしか使うことが出来ない程度の通信速度だが、それでも万が一他の船団に届くかもしれないと考え、少なくとも同じ乙女座方面団には届くと考え、四方八方に居住可能惑星、ウィルスやバクテリアにも問題ない惑星を発見したと伝聞を送る。
父や他の科学者達の見解では、200年前に故障した重力制御装置、この影響で、半分の重力になってしまい、必要筋肉が足りなくなってしまったのだと言っていた。しかし、人間はホモ・サピエンスとなって文明を作り上げ、初めての文明が作られてから約一万年以上過ごしている。たかだか200年程度の環境の変化で昔の記憶を無くすはずがない。だから、1Gという重力下で生活していればいずれ慣れるはずだと。
男性の平均身長は低重力になったおかげで、190cmになっている。だが、食糧事情と、体重を必要としない環境のおかげで、平均体重が50kg程になってしまっている。数値として知っているが、映像でしか見たことがないため、190cm85kgと言う辺りが平均だった時期をイメージ出来ない。立体映像で見ることは出来ても、やはり本物を見て、感じることは違うと思っている。
その様な筋肉量が足りないため、今の私達ではこの惑星で行きていくことが出来ないと、民衆たちは考えているのだ。
他の星に移ろう。他の星を探しに行こう。そう言う会話が多く出ている。しかし、資料にあるように、中型衛星が一つ、それによる潮の満ち引きがあり、部分的には四季がある。その様な好条件の惑星が他にあるのだろうか。250年探してようやく一つなのだから、ここで決めなければならないと父や科学者達は考えている。
私もそう思わなくもない。だが、あの潰された虫の様になってしまう人々を見てしまうと、私も怖くて仕方がない。強制的に放出しようとした父に反発して反乱を起こしてしまうのも、納得できてしまう。
そんな時、従者のアニヤの進めで、衛星軌道上に残している船に転移することになった。科学者のサーラの指示に従い、転送システム、日常的には使われてないが、昔は日常的に使っていたとされているシステムを利用して衛星軌道上にある父の所有船に移ることになった時、それは起こった。
球体の中に居る時に、アニヤとサーラが何か慌てているのは見えた。しかし、昔から使われていたシステムがそう簡単に故障する事は無いだろうと安心して身を任せた。だけど、球体の真ん中から左右に割れ、見えた光景は私を混乱させた。
立体映像でしか見たことがない、筋肉質の男性が目の前に立っていたのだ。
緊張した表情であったため、思わず微笑んで緊張をほぐして貰おうと顔が動く。
しかし、そこまでしてようやく理解する。
ここは父の船では無いと。
嗅いだこともない様々な香り、農業プラントで嗅いだ香りも混ざっているが、それ以上に様々な匂い。そして、顔に当たる柔らかな風。それらが一気に情報となって頭を駆け巡る。
何が起きたのか慌てて周りを確認しようとするが、転移システムの球体が消え、重力制御が解け、一気に体に不可がかかる。
「ここは何処……重い……」
私の意識はそこで一旦途絶えてしまった。
次に目を覚ました時は、何か柔らかいものに寝かされていた。体が重く、呼吸さえも簡単には出来ない。腕や頭も殆ど動かすことが出来ない。何が起きたのかわからなかった時、男性から声がかかる。
「**、***」
何語だろうか。少なくとも今自分が知っている言葉とは思えなかった。何か手を動かしているが、何を表現しているのかわからなかった。手を口元に持っていく。何の意味を持っているのか。色々と考えていると、彼は何処かに行ってしまった。
知らない茶色の天井を眺め、何が起きているのかさっぱりわからないので、色々と試す。
指の先や足の指先は少しだけど動く。だけど、膝を上げたり、腕を上げたりすることが出来ない。呼吸だけで体力を使い果たしてしまう様な感覚で疲れる。指先や足先が動くということは、体が不随になっているわけでも無さそうだと少し安心する。
安心した時に、彼が戻ってきた。透明の細長い器に水だろうか。それを入れて渡してくる。
しかし、手は動かないために、受け取ることが出来なかった。
喉が渇くと言う事は聞いたことがある。昔の映像資料からだ。今の船内では常に湿度は一定であり、それに、運動をする事は食糧事情により殆ど出来なくなっていた。そんなのどを乾くと言う初めての感覚に感動していたが、この喉がひりつく感じは苦痛まで行かないが、嫌な違和感を感じる。早く飲ませて欲しい。この嫌な感覚から逃れたい。そう思っていたが、暫く彼は戻ってこ無かった。
絶望感を感じ始めた辺りで、農業プラントの資料で見た、太古の器。じょうろと呼ばれた物に近い変わった形状の入れ物に水を入れて持ってきた。
もうどんな物でもかまわないから飲ませて欲しいと目で訴えようとしたが、既に彼は飲ませる気だったらしく、渡しを後ろから抱きかかえるようにして口元に少しずつ水を垂らしてくれる。
一気に飲み込みたかったが、体が重く、のどの辺りも上手く動かない。でも、彼はそれを理解しているかのように、ゆっくりと、ゆっくりと時間をかけて水を飲ませてくれた。
普段の食事の規定量を飲むと、私は満足する。彼はもう少し飲ませたかったみたいだが、これ以上は苦しくなっちゃうので、遠慮したかった。
一度彼が離れていき、もう一度戻ってくると、逆円錐形の変わった色の器に、白くてドロドロした物が入っていた。スプーンと呼ばれた昔の食器を手に持ち、私の口に入れようとする。なんでそんな気持ちの悪い物を口に入れさせようとするのか理解できなくて怖かった。しかし、彼はそれを理解したのか、もう一つのスプーンで自分の口に入れる。昔の映像で見た、食事という物かと思いだしたので、口を開けて受け入れることにした。
ドロドロした物が口の中に広がっていく。少し気持ちが悪い。だが、それ以上に美味しかった。こんな物があるのかと。食事というのは皆笑顔で食べてる映像があったが、こんなに美味しいのなら納得できてしまうと思い、どんどん食べていった。
しかし、彼が用意した5分の1位を食べると、もう苦しくなり、食べられなくなってしまった。もっと食べたかった。残念だったが、これで終わりになってしまった。
彼がその食事と言う物を終え、どこかに行く。だが、その時、お腹の方から気持ち悪い感触が湧き上がり、先程食べた白いものが一気に吐き出される。
体が動かないために、口の中にその白いものが溜まる。舌を使い、なんとか呼吸するルートは確保出来たが、このままでは長くは持たない。助けて欲しい!と願った辺りで、彼が慌てて戻ってきてくれた。
体を横にし、白いものを全て吐き出す。気持ち悪い。美味しかった物なのに、今はとても気持ちの悪いものになっていた。困惑し、理解ができなかったが、彼の背中をさする事によって、全て吐き出し、ようやく状況が落ち着いてきた。
彼は、嫌な顔をせず、柔らかい布地で汚れた顔や体を拭いてくれ、汚れた寝床を変えてくれる。
どうしてこんな体になってしまったの。どうして動かないの。どうして、どうして。色々な苦しい感情が湧き上がってきて、今の状況を呪ってしまう。美味しかった食事という物は食べられない。体は動かない。悲しい感情、苦しい感情。それらの負の感情が死を選んでしまうと聞いたこともある。私もそうなってしまうのだろうかと思った時、彼が戻り、また抱きかかえるようにして何かを飲ませようとしてきた。
また吐き戻す事になるのが怖かった私は、口を閉じ、目で飲みたくないと表現する。
「******」
笑顔で何かを言った。言葉の意味はわからなかったが、とても安心できる笑顔だった為、その彼の持ってきたものを飲んでみることにした。
甘い。でも、美味しい。少し錠剤に近い味だが、それに比べても全然美味しかった。
もっと飲みたい。もっと飲みたいと彼にお願いしたけど、いつもの水の量と同じくらいにしか飲ませてくれなかった。
満足感。満腹感? そのようなもので、私は落ち着き、彼が布団をかけてくれると共に、意識を手放した。




