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未来からの帰宅  作者: 圧縮
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第2話

 倒れた銀髪の女性を担ぎ上げ、来客用のエアコンの付いている部屋につれていく。そこで、フローリングなのを思い出し、抱きかかえたまま、隣の部屋から足の指で挟み込み、座布団をいくつか投げる。投げた先で座布団を並べ、一旦ここに女性を仰向けに寝かせる。

 陽向(ひなた)蒼衣(あおい)さんに以前言われたこと、寝る時、女性の髪の毛は背中に置かない。それを忠実に守り、座布団から外れてしまうが、上に広げるように流す。

 一度座布団に寝かせる理由は、来客用の布団は、台所の隣にある部屋に入れてあるので、抱えていくことが出来ない為だ。

 敷布団、薄い毛布、掛け布団と枕を重ねて持ってくる。

 普段から使っているので、埃臭いことはない。それに、週1くらいで部屋に軽く干している。風に当てる程度でしか無いが、かなり変わるだろう。

 敷布団にシーツをかけ、枕を用意してから彼女を抱き上げるために見る。

 どうやら倒れた拍子で怪我したような所もなく、服も撥水素材の様な物で、倒れた辺りの土も付いていなかった。


 しかし、改めて見ると、とても綺麗な女性だ。

 髪の毛は長く腰まで伸び、銀色をしている。パット見、傷んでいる所も見えない。モデルのような体型で、しっかりと凹凸がある。だが、気になる点があった。

 それは、頬がこけていた。服の上から見えて想像できる体型と、顔の表情を作る頬のあたりが、一般的なイメージとかけ離れていたのだ。

 それに、抱き上げた時にも思ったが、随分と軽い。身長は目算175くらいはあるだろう。晃の身長と同じくらいだ。オランダからの留学生の女性と比べたら低いかもしれないが、一般女性で考えれば十分高い方だ。しかし、175cmあれば、女性でも少なくとも60kg台には達しているだろう。しかし、彼女は160cmの陽向より遥かに軽かったのだ。

 突然現れ、突然倒れ、そして意識を失っている女性。色々と詮索するわけにも行かず、薄い毛布と掛け布団を重ね、寝かせた。


 いつ目が覚めるかわからないため、普段の事を実行していく。

 まずは着替えを持ち、洗濯物を洗濯機に放り込んでいく。そのまま、隣にある風呂場に入り、湯船ではなく、シャワーで汗を流す。

 汗を流し終え、ハーフパンツとTシャツに着替えると、朝食の準備にかかる。


 朝から魚が食べたい気分だったが、具合の悪そうな人の近くで焼く訳にも行かず、仕方がないので冷凍食品の解凍する物で諦める。

 麦茶等を作るようなガラスの容器に一枚昆布を入れ、冷蔵庫に保管してある昆布水を取り出し、一人前、約100CCを取り出し、火にかける。鰹節1パックを温まった辺りで投げ込み、軽くひと煮立ちさせる。

 その間に、昨夜残った豆腐をさいの目に切っておく。

 本来であれば、鰹節はこし器等で取り除くのだが、自分だけが食べるものだから、気にせずそのまま豆腐を入れる。豆腐に火が通った辺りで味噌を入れ、煮立つ前に火から降ろす。

 昨夜多めに炊いた電気釜のご飯をお茶碗に盛り、電子レンジで温めた魚を取り出し、味噌汁をお椀に入れ、リビングに持っていく。


 一般的には信じられないと言われるが、毎食牛乳は欠かさない。どうしても苦手な組み合わせと言うのはあるが、基本的に問題なく飲めるし、食べられる。おかげで身長が伸びたのかと思われるが、陽向も同じように飲める人だ。しかし、160cmで止まってしまっている。何が要因で伸びたのかさっぱりわからない。

 タッパーに入れておいた漬物を忘れ、冷蔵庫から取り出し、つまみながらリビングに戻る。


 7時30分。普段より遥かに遅い朝食となったが、食べないと動けなくなる体なので、しっかりと食べる。少し大きめのお茶碗に3杯。5分でぺろりと平らげ、台所に洗いに行く。

 洗い終え、ふと彼女の事が気になり、見に行く。

 すると、呼吸が荒い。暑いのかと思い、手をおでこに乗せるが、さほど体温が上がってるようには思えなかった。暫く考え、掛け布団を取ってみると、少し呼吸の荒いのが落ち着いた。

 あり得ないと思ってやった行動だが、見事に正解を導き出したようだ。

 彼女は肉体的に虚弱であり、重い物をかけると呼吸が困難になってしまうのだろう。

 少し暑くなるかもしれないが、陽向が置いていった、羽布団を持ってきて、彼女にかける。

 後で怒られるかもしれないが、勘弁してもらおう。

 歯を磨いた後、暫く彼女の様子を陽向から借りた本を読みながら観察する。

 呼吸はまだ荒いが、重い掛け布団だったときに比べて、かなり落ち着いていた。体温も手で測るが、さほど高いと思えなかった為、これで正解だったと判断し、本を読むことにする。


 今日は特に予定もない。一日中本を読んでいたって構わないが、買い物はしなくては行けないなと思い、時間を見ると、10時になっていた。

 彼女は未だに目を覚まさず、4時間飲まず食わずだ。

 まだ本格的な暑さは程遠いタイミングだったとしても、この荒い呼吸で何も飲まないのはまずいと思い、彼女を起こそうとする。

 軽く叩いても、優しく揺すっても、声をかけても、一向に起きる気配がない。

 単純に寝ているだけではなく、何かに苦しんでいるのかもしれないと考え、今まで対応しなかった事に不安を覚える。


 しかし、救急車を呼ぼうにも、保険証があるかわからない。それに、あからさまに日本人とは違う見栄え。外国人観光客としても、あの様な出現の仕方はあり得ない。

 警察に全て任せてしまうという事も考えたが、初めて目のあった時の彼女の微笑みが頭から離れず、実行できなかった。

 それに、たまたま今読んでいた陽向から借りたライトノベルが、異世界転移物だった。ひょっとしたらこれは逆転移なのかもしれないと考え、万が一そうであれば、大問題になる。

 国や研究機関に何かされるという事は考えすぎかもしれないが、今ののどかな日常は全て失われてしまうだろう。犯罪者でも無いのに、TVや新聞、週刊誌の記者達に追われて過ごす事は想像もしたくなかった。

 どんなことがあっても、立華家と、神坂家は信じてくれるだろう。そして、力になってくれるだろう。だが、国や研究機関、そして、報道機関を相手にするには、個人の力は無力だ。正しいことをしていても捻じ曲げられる事がある。

 そう考え、結局は消極的な事、彼女の自然回復を願うことしか出来なかった。


 彼女の様態を考えると、現状何をするべきなのかを考える。

 点滴。資格がない為に却下。何かで水を飲ませる。溺死しかねないので却下。胃にまで細いホースを通して流し入れる。そんな専門のホースもないし、技術や知識もないので却下。

 ふと思いついたのは三つだけ。結局、少しでも意識が回復してからしか出来ないと理解し、起きるのを待つしか無かった。

 安定しているとははっきりと言えないが、今のうちなら買い物に行っても大丈夫だろうと、判断し、彼女が必要と思えそうな物と、必要な食料を買いに行く。


 歩いて10分しないところにある商店街で全てまかなえると言うのはとてもありがたいことで、舟はいつもここでお世話になっている。

 昼、夕食の食材、そして彼女に飲ませる、食べさせる物、それと、万が一、彼女が食べる事が出来なかった時の為に、ゼリー飲料、そして、ゼリー飲料でさえ受け付けなかった場合を考え、飲む点滴と呼ばれたスポーツドリンクを数本買っておく。必要なくとも自分でも消費出来る物だから、もったいないと言うことも無い為、遠慮せずに買える所はありがたい。

 それと、口腔ケアの為の歯ブラシ、後はマウスウォッシュ液。ノンアルコールタイプの物を選ぶ。虚弱体質だとしたら、アルコールの刺激もきついかも知れない為だ。

 それ以外にも、肌触りの良いタオル等を数枚。これに関しては陽向から教えてもらった商品を選ぶ。

 現状、思いつく所はこのくらいだろうというのと、これ以上は手に持ちきれない事を考え、帰宅する。


 帰宅すると、もう12時を回っていた。

 慌てて彼女の様態を確認すると、まだ目を覚ました様子は無く、ほんの少しだけ呼吸が安定してきたようにも見えた。

 昼食はそうめんにする。めんつゆは出来合いのものを。しかし、それに豚肉、生姜、ネギ、ごまを入れ、つけ汁を工夫する。商店街で買ってきた天ぷらと、昨夜の残りの五目煮を温める。

 そうめんは3束。以前陽向に気持ち悪いと言われたが、そうめんを何も付けないで食べるのも意外と好きだ。そうめんを作る時にしっかりと練り込んだ塩が結構味を引き立てる様に思える為だ。流水を使ってしっかりともみ洗いをし、ぬめりを取る。その合間につるっとつまむのが好きなのだ。氷水を作り、しっかりと冷やし、小分けにして一口で食べやすいようにする。なんでそんなにめんどくさい事するのと晃から聞かれたことがあるが、こちらの方が量を調節しやすいからなのと、万が一残って冷蔵庫等に入れておいても、そのままで簡単に剥がれて食べやすいからである。


 すべての準備を終え、リビングに持っていく。彼女の寝てる部屋は、リビングの隣であったため、ふすまを開け放ち、彼女の様子も見えるようにしておく。

 ズッとそうめんを作っためんつゆにつけてすする。何も中に入れないほうが好きな晃と陽向が居る時には出来ないめんつゆな為、一人で楽しむ時しか食べられない。しっかりと出汁から取ったほうが美味しく出来るが、この適度な出来合いな物でも満足できる味になっていた。

 食事が半分くらい進んだ所、彼女の方から動きがあった。

 慌てて箸を置き、彼女の方に向かう。すると、目を薄く開いてこちらを見ていた。


「食事、食べる?」


 その声に反応するが、言葉を理解しているのか解らず、ジェスチャーを交えて伝える。だが、彼女にもよくわかっていないようだ。少なくとも水だけは飲んでもらったほうが良いと考え、コップに水を汲んでくる。念のために水道水ではなく、ミネラルウオーターで。

 だが、彼女は起き上がることが出来ず、そして、手を動かすことさえも出来なかった。

 口も薄く開く程度しか出来なかった為、途方にくれてしまう。

 ふと、祖父が数年前に買い集めた物を思い出し、倉庫で探し出す。


「俺が物が食えんようになったり、飲めんようになったらこれを使え」


 介護用の吸い飲み器である。どれだけ使うつもりだったのか、1ダース買っている所が祖父の計画性の無さが垣間見えた。

 それを煮沸消毒し、冷ました後で水を入れる。

 彼女を抱き起こし、口元にその吸いのみ器を持って行き、水をゆっくりと流し込む。

 のどのなる音はしなかったが、ゆっくりと彼女は水を飲む事に成功する。

 とりあえず、脱水症状は回避できたことに安堵する。


 しかし、外箱に、一日1リットル飲ませて欲しい等と書いてあり、どうやって飲ませたものかと頭を悩ませた。幸い、吸い飲み器いっぱいで200ccの為、これを5回に分けて飲ませれば良いと判断できた。

 しかし、今の彼女は100ccを飲むだけで精一杯の様子だ。状況を後でメモしておくべきと考え、頭に残しておく。


 それ以外に、食事も問題だ。今自分が食べているそうめん等、この様子では食べることが出来ないだろう。前もってその予想は立てていた為、電子レンジで作れるおかゆを買っておいた。

 温めたおかゆをお茶碗にあけ、小さめなスプーンで口元に持っていく。

 目が恐怖を訴えていた為、もう一つ予備で持ってきたスプーンを使い、そのおかゆを自分で食べてみる。そうすると、彼女はどういうものかを理解したようで、小さく口を開く。ゆっくりとした咀嚼の後、喉につかえながら飲み込む。飲み込む手助けをする為に、また水を口に含ませる。おかゆの5分の1を食べさせた所で、口を開かなくなり、食事を終了した。このままおかゆを残しておくのは勿体無いし、自分でもおかゆは作れるため、伸び始めたそうめんと一緒に腹に入れる。


 しかし、食べ終わり、台所を片付け終え、戻ってみると、彼女が食べた物を吐き出していた。窒息してはいけないと思い、慌てて仰向けに寝ていた彼女を横にする。咳と吐く動作が交互に着て、苦しんでいる。ゆっくりと背中を擦りながら、吐ききるのを待った。

 吐ききった後、ぬるま湯で絞った肌触りの良いタオルで汚れた顔を拭き、戻してなかった座布団に寝かせ、敷布団と汚れの付いた薄い毛布を変える。運良く陽向の羽毛の掛け布団は、彼女にかけて居なかった為、汚れることは無かった。


 しかし、胃に優しいはずのおかゆが受け付けないとなると、もう飲む点滴と呼ばれたスポーツドリンクしか無かった。晃の父である、明夫から聞いた話しだが、元々健康体の人ならば、あれのみで3日間は生きることが出来ると言っていた。海外旅行で水にあたって、帰国してからそれだけで3日過ごした本人だから本当のことを言っていると思う。健康に良いかは別としてだが。


 吸い飲み器をもう一つ煮沸消毒しておいて良かったと思いつつ、彼女を抱き起こしながらスポーツドリンクを飲ませる。

 目が恐怖を訴えている。先程あれだけ吐いたのだから、恐怖を感じるのは当たり前だろう。


「大丈夫だよ」


 自然と出た笑顔で、彼女にそう伝える。それを信じてくれたのか、恐る恐るだが、口を開いてくれた。

 今度は水を飲んだときより、勢い良く飲んでいく。だが、飲ませすぎは先程と同じようなことになるかもしれないため、100ccで止めておく。目がもっと飲ませて欲しいと訴えていたが、首を振ると諦めてくれたようだ。


 一応落ち着いた彼女を後に、汚れた毛布とシーツを洗うために洗濯機を覗く。すっかり忘れていた朝の洗濯物がしわだらけで出て来る。昨日の甚兵と、自分のパンツやシャツだけなので、そこまで問題なかったが。糊付けしてない甚兵は型崩れするが、家用であれば問題ないかと考え、そのまま干すことに。

 シーツを洗濯機に入れ、洗濯物を持ったまま彼女の元に戻る。


 今度は吐き出すことがなく、数日間の安静はこれで得られたように思える。

 掛け布団をかけると、彼女は疲れたのか直ぐに眠りについた。

 洗濯物を干し、午前中と同じように彼女の側で読書をすることにした。




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