トゥースブレイク(短編)
閲覧ありがとうございます。何らかの形で自分を表現したく投稿しました。
宜しくお願いします。
1869年 夏 ニューヨーク
何故こんな事になってしまったんだろう。
「歓迎しよう。ここはペネクラシオン。まあ所謂迷える者を救う為の場所だからね」
案内されたのは雑居ビルの間に立つオフィスビルだった。エレベータを上がり入った部屋の中は簡素であるが
きれいに整えられていた。近代的な設備を備えつつもアンティーク家具等などが置いてあり、落ち着いた雰囲気を放っていた。
「じゃあな」
「うん、また明日」
学校が終わり校門で友人と別れた僕は帰路についた。喧騒が漂う街の中、自然と足取りが早くなる。今日は駅前に出来た洋菓子店の新作スイーツが発売される日だった。何を隠そう僕は甘い物が好きだ。ただ周りには言ってない、以前バレンタインの日に周りの女子生徒が言っていたがお返しにくれる物として有名店のスイーツはないだろうと言っていたのを聞いて、男が甘い物好きだというのをひけらかすのは如何なものかと考える様になってしまった。
「いらっしゃいませ」
女性店員が綺麗な笑顔で挨拶をする。軽い会釈をしてから商品を物色し購入した僕は再び帰路についた。
早く帰って新作のフルーツタルトを食べるべく足早になる。
カタン
不意に聞えた音に意識が向く、路地の裏にその白いスーツを着た男がいた。
なんだろう、どことなく不思議な雰囲気を放つ男だった。特にその目に宿る意思のようなものに惹かれた。
足が動く、僕はその男を追っていた。
「どこにいくんだろう」
路地裏を進んでいく、だが不意に男が消えた。
「き、消えた。いったい何処に行ったんだろ」
目をそらさずにしっかり後ろから追っていたのに、不意に消えるなんてあるだろうか。5分近く辺りを探してみたが誰もいなかった。いたのはゴミを漁るカラスや猫だけだった。
「もう帰ろっかな」
諦めて帰ろうとした時、何かに躓いた。
「いったいなぁ、もう」
確認しようと後ろを振り返ると地面から空に向かって光が伸びていた。「な、なんだこれ」恐る恐る手を伸ばしてみる、すると肘から先が消えた!慌てて手を引き戻そうとするが駄目だ、轢きこまれる。
その瞬間、僕の体はこの世界から消えた。
「いたたっ、何だいったい」
周りを見わしてみると雑居ビルが立ち並ぶ都市の中だった。ヒュン、と風の音がした。その瞬間僕の頬に衝撃がはしった。グイと尻もちをついた僕の頭に足が押しつけられた。
「ごきげんよう俺の名前はジェット。ついに見つけたぞ悪党さんよ、覚悟しな」
見上げると褐色肌で白髪の男が不敵に笑っていた。
「な、誰なんですか」
「何とぼけてんだ。自分が追われる身分だって事は自分がよ~く分かってんだろう」
身に覚えがない。というよりここは何処で、こいつは誰だ。いやそんな事よりもこの場を切り抜けなくては。
「ちょっと、ちょっと待って下さい。ほんとに身に覚えがっ」
爆発が起きた。近くでガス爆発か分からないが、何かが燃えていた。
「おわっ」
チャンスだ今のうちに。
僕は必死に走った。あちこちの角に頭をぶつけ躓きながら必死にただ走った。何が何だか分からないが今はこの場を逃げないと。
「はぁはぁっ、後ろには来てない」
手を両膝に置き、息を整える。元の場所からだいぶ離れてしまったけど、此処何処だろう。それになんだったんだろうか今の人は。
「まあ、何にしても逃げ切れてよかった。あのままだとどうなっていたんだか」
「そうかそうか、そいつはよかったな」
「ええ、本当ですよ。よく知らない場所で誰だか分からない人に絡まれて」
「逃げ切れてよかったな」
「ええ。…はぁっ!?」
振り向くと先程の男が目と鼻の先にいる。笑いながらこちららを見ている。
「よう。また会ったな。そして…捕まえた」
僕は抵抗するのを止め大人しくついて行く事にした。人生諦めも肝心だし、なるようになるさ。
そして冒頭に戻る
「人違い!?」
先程の男が叫んでいる。よく分からないがどうやら間違えて連れて来られたらしい。
「ええ、あなたが追っていたロゥという男はさっき死んだわよ。ニュースで見たけど、爆発事故に巻き込まれたんだって。遺体もばっちりテレビに映ってたし」
ああ、さっきの爆発そうだったんだ。可哀そうに。
「だあ、無駄足かよ。てかお前も人違いなら人違いだって言えっての」
「言おうとしたのに、その前に襲ってきたんでしょうあんたが」
僕は憤りを覚えながら言い返そうとした。
「そこまでにしとけって」
黒を基調とし青いシャツを着た人が割り込んでくる。
「ジェットもそこまでにしとけって。なぁ少年、君は何であそこにいたんだ」
「あの、あなたは」
「ああ、俺の名前はフレイル。まあここで働いている者の一人だよ。ちなみにあっちにいる奴がブレア。仕事はきっちりする奴だがジェットとは馬が合わなくてな、会うと喧嘩ばかりしてる」
こっちの人はやさしそうだし、きっちりと自己紹介してくれるあたりいい人かもしれない。そうだ、そんなことよりも。
「あの!ここは何処なんですか教えて下さい」
「ん、ここはアヴェニュー5番街にある街だよ」
「じゃあニューヨークなんですね」
「ああ、だが君の服を見る限りこの街の人間じゃないね」
確かにここにいる人達は僕がいた街の住人と比べてちょっと、いやなんか別の雰囲気を感じる。だが、どういう事だ。ここはニューヨークで、僕の住んでいた街の…はずだ。
「ふむ、詳しい話を聞こうじゃないか」
30分後
「つまり。どういうこった」
ジェットという人物が大仰に言った。
「あなたね、この子の話し聞いてなかったの。本当に身を入れて聴いてたわけ」
腕を組み、呆れながら溜め息をついた。
「まあこの少年の話をまとめると、時間を超えての旅行って感じだね」
そんな気楽な感じにつぶやくフレイルさんを尻目に話しを続けた。
「そんな。じゃあ元の場所には帰れないんですか」
僕は不安な気持ちを抑えつつも話しを先に進めるべく聞いた。
「いや、この街じゃたまにあることだし。その人物にも心当たりがある」
「ほんとですか」
僕は勢いよく立ちあがりつつ迫った。
「ただし、その前に君の怪我を治さないとね」
人差し指を立てながら僕の体に目を向ける。言われて気づく。確かにあちこち痛いし、歯も何本か折れてる感じがする。
「どっかの誰かが確認もせずボコボコにするからよ。大丈夫キミ、ちょっと待ってて今キューレ様呼んでくるから」
「うるせぇーての」
ブレアさんが小走りに部屋を出ていく。僕は目で姿を追いながらもキューレという人物の事を考える。
「あの、キューレさんって誰なんですか」
「あ?ああ…まぁ、そのなんだ。会えば分かるさ」
あんなにはっきりした物言いをしてたなのに急に言い淀むなんて、そんなに恐ろしい人物なのだろうか。
「そんなに怖がることないさ。別に捕って食われやしないから」
僕をなだめつつも、含みのある言い方でほくそ笑んでいる。いったい誰なんだ、いやそんなに恐ろしい人物じゃないとは言っているけどまさか。
ガチャ ぺたぺたぺた
そんな足音が似合う少女が尊大に歩いて来る。その少女は金髪で可愛らしい人形の様であったが、僕は開口一番こういってしまった。
「君も迷子なの?小さい、いや僕と同じくらいの年齢かもだけど大変だね。ところでフレイルさん、さっきブレアさんが連れて来るっていってたキュレーさんはまだなんですか」
ブチ
何かが切れる音がした。そして、僕に再び不幸が舞い降りた。
「あ~、まあそのなんだ。お互いに不幸な認識のズレがあったというか」
「だから先に行かないで下さいって言ったじゃないですか」
「こいつが私の事を小さいって!幼女だって言ったんだもん」
「誰もそんな事言ってないつーか。間違われる様な体系してる姉御が悪いんだろ」
「ああ!?」
うーん、騒がしいな。誰だろう?クラスの子が騒いでいるのだろうか。もう少し寝ていたいんだけどな。
「おや、目を覚ましたかな」
「というかいい加減起きろ!」
ガタン
「あたっ」
何かから滑り落ちた。尻持ちをついた僕は衝撃で目を覚ます。
「ここは」
「おう。気がついたか」
「あれ?あなたは確か夢で出会った」
いや、違う。そうじゃない辺りを見わしてみればそこは学校のクラスルームじゃないし。知り合いも誰1人としていない。
「ふん、ようやくお目覚めか。傷は治してやった、感謝するがいい」
「あれ、君は確か迷子の」
ガッ
目の前に星が見える。
ああ、そうだ僕は目の前の少女に小さいだのなんだと言って意識を失ったんだ。
「おい少年大丈夫か」
「もういやだ!私は部屋に戻るからな」
「なっ、お待ちください。キューレ様」
ブレアさんが部屋を出ていく少女を追う。部屋を閉じる音が聞えた後、何とか僕は体を起こす。
「しらねーってのは、恐ろしいな」
「そんな人ごとみたいに言ってないで起こすのを手伝ってやりなよ」
フレイルさんがジェットさんに対して頭を掻きつつも言う。そういえば僕はなんでここにいるんだっけ。確か…。
「少年も人を見た目で判断するものじゃないぞ。君の傷を治したのは彼女だし、体の傷だけでなく歯のほうだってしっかりと治ってるだろ」
たしなめつつも正論を言う彼に頭が上がらなくなった。
「それに君。けっこう虫歯も多かったみたいだしちゃんと歯を磨いているのかい」
言われて恥ずかしくなった。確かに甘い物が好きでよく食べるし、疲れて帰った時は磨かずに寝る事も多い。ただ、今自分は子供であり菌に抵抗する力があまり強くないんだ。うん、そういう事にしておこう。僕は悪くない。
「まあ、とりあえず。君の怪我は治り事情も聞いた訳だ。それで、どうしたい?」
フレイルさんが尋ね。後ろではそっぽを向きつつもこちらを気にかけているジェットがいる。
「僕は…僕は元の世界に帰りたいです。お願いします!助けて下さい」
下を向いていた僕は顔を上げ、見据える様に己の希望を伝える。
「よし。分かった。まあこちらの不手際もあり、困っている少年を見捨てる事も忍びない。君が自分の意思を持って実行するとういなら協力しよう。ジェット、君も協力するんだよ」
「はぁ、しゃーねぇな」
「ありがとう、ございます」
僕は唇を噛み締めつつ言葉にする。
その日から、この人達と暮らす事になった。分からない事は多いけれど、この街で、この場所で、元の世界に帰る為に僕は頑張るんだ。
こうして僕は必然という運命に導かれ冒険をしていく事になる。
いつか、元の世界に帰るその日まで。
閲覧ありがとうございました。