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結局タイプGは千葉県を横断し、九十九里浜まで来てようやく止まった。
平日の朝であること。さらに前夜は激しい雨だったこともあり、地元サーファーなどもほとんどおらず、九十九里浜の海岸は閑散としていた。
だだっ広い海岸にタイプGが降下すると、抱えていた少女を海岸に降ろした。
少女は恐怖で震えており、歯をガチガチと鳴らしてへたり込んだ。
腰を抜かしたようだ。
さらに小便が勢いよく流れだす。少女の周囲の砂が濡れて固まった。
タイプGは少女のすぐ隣に座った。
巨体を小さく丸めて、体育座りのような姿勢になる。
まるで少女と二人きりで海を見ているかのようだ。
だが少女のほうはしゃくり上げ、過呼吸気味になりながら涙を流している。
もはやパニック寸前だ。
少女はぎりぎりのところで踏み止まっているが、いつ感情が爆発してもおかしくはなかった。いま大きく騒ぎ立てるのは危険だ。
悪性変異体は理性をもたない。
ちょっとした刺激で暴走をはじめてしまう。
もしも少女が大声で泣きわめきだしたら、小児性愛者が誘拐した子供に騒がれ、殺してしまうような展開になる可能性が考えられる。
少女の命は、細い糸に繋がっているような状態だった。
◇◇◇
海岸近くの駐車場に車が止まると、冬子と銀子はすぐに降り立った。
二人は車のトランクの開けて、装備をとりだし、装着していく。
一見すると、黒いラバースーツはサーフィン用のウェットスーツに見えるため、サーファーの女二人が準備しているように見えるが、二人がトランクから取り出す物は物騒なものばかりだ。
日本刀、対物ライフル、スナイパーライフル、各種弾丸。各種防具。
「冬子さん、スナイパーライフルは必要でしょうか?」
「対物だけでいい。タイプGのボディは剛体だ。メタルボディなどと呼ばれることがあるぐらい硬い。スナイパーライフルじゃ翼すら撃ち抜けないかもしれない」
「分かりました。対物の弾はどうします?」
「APCR弾を使いたいところだが、二発目は、さすがに野々宮が許してくれなそうだ……」
「恵美さん、凄く怒ってましたもんね」
冬子は煙草が吸いたくて仕方がない気分になったが、ここはさすがに我慢する。
「NATO弾だけにしよう。まあ私の日本刀で何とかなる」
「では私はバックアッパーに回ります」
「ああ、頼む。銀子がいてくれて本当に助かる」
今回がデビュー戦だった銀子だが、すでに冬子と阿吽の呼吸をとれている。
場の空気にのまれることもなく、本日の射撃成功率は一○○%だ。
『伯爵』戦からの復帰以降、近藤とばかり組んできたせいか、銀子の存在を、冬子は本当に頼もしくかんじた。
近藤が酷すぎただけかもしれないが……
◇◇◇
タイプGは海を見つづけている。
なぜ海を見ているのか、もはやその理由すら分からないが、人外化してしまい理性すらない頭の中に、時折変な声が響くのだ。
(大事ナヒトト、ボクハ ウミニ イキタカッタ)
大事な人とは誰のことなのだろう。
この小柄で綺麗な少女のような気もするが、そうではない気もする。
ただこの少女を見つけたときに、感情が抑えきれなくなってしまったのは確かだった。
羨望。
感謝。
畏怖。
好意。
劣情。
それらの感情がぐちゃぐちゃに混じりあった。
いまでもそれらが、タイプGの中を駆け巡っている。
特に、劣情という感情が……
海を見ていたはずなのに、いつの間にか少女を見つめつづけていた。
息が荒くなっていく。
タイプGはのそりと立ち上がると、少女を見下ろした。股間にぶら下がっていた巨大なソレが、ガチガチに勃起していた。
それに気付いた少女の感情が遂に決壊した。
「いやああああああ」
かなぎり声を上げ、泣きわめいた。
◇◇◇
『ブラボー、タイプGが立ちあがった。今だ、やれ』
『イエス。マイ、アルファ』
ニ百メートルほど離れた場所。――砂漠仕様の迷彩シートの隙間から、二脚にたてられた対物ライフルの銃身が覗いている。
銀子がトリガーを引くと、その衝撃で、迷彩シートが大きな風を受けたように波打った。
それが収まらないうちに、もう一射。
再び大きな銃撃音が響いた。
この程度の距離であれば、絶対に外さない自信がある。ある程度の連射も可能だ。
タイプGの両翼に大きな穴が空く。
これで飛行を封じた。
『アルファ、命中しました』
『よくやった。後はこちらで処理する』
『はい。ご武運を』
冬子は、銀子と同じように砂漠仕様の迷彩シートを被り、匍匐前進でタイプGの近くまで来ていた。
それをばさりと投げ捨てる。
海風に吹かれて迷彩シートがはばたいた。
泣きわめく少女。
痛みと怒りで咆哮をあげるタイプG。
いっさい隙は与えない。
迅速に処理をする。
被害者はできるかぎり出さない。
そのために、命をかけて左腕を手にいれ、キメラ体になったのだ。
いつか再び『伯爵』と戦うために。
一陣の風となり、冬子は駆けた。
理性をなくし、両翼の傷に狂乱するタイプGは、最後まで冬子に気付かなかった。
抜刀。一閃。
タイプGの首がとんだ。
少しして、海風に吹かれた首と体が、灰となってさらさらと消えていった。




