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茶色のランドセル

作者: ヤブ

 私には、十歳年下の弟がいる。

 親の再婚で新しく産まれた弟は、丸々としていて、目が大きくて、元気な男の子だ。

 私が中学生のときは、よく幼稚園まで送っていた。よくと言っても、それは部活を引退した九月からで、しかもいつもより早く家を出ないと間に合わない。ゆっくり寝ていたい私にとっては、面倒にしかならなかったが、弟と登校できるとなると、どうもその気持ちは薄れていった。

 弟の話を同級生にすると、ブラコンだと言われるようになった。それでも、私は弟の話をやめなかった。可愛い弟の話をして何が悪い。可愛いのだから仕方がない。

 私が高校二年生になったとき、弟は小学校に入学した。電車の時間と少し重なり、時々、弟を含む小学生の列を見つけることがあった。茶色のランドセルを背負っている弟を探すのは容易である。私が幼い頃は黒と赤が主流だったが、今では水色や薄紫など、様々な色のランドセルを目にする。黒と赤のランドセルしかなければ、私は弟を見つけることは出来ないだろう。


 ある日、すぐ前を歩く小学生の列に遭遇した。そこにはもちろん、弟もいる。私は駆け出すと、弟の名前を叫んで手を振った。声を聞いた子供たちは振り返り、その中に顔を歪ませた小学生がいる。それが、私の弟だ。

 弟は列をはみ出て走り出した。私はそれを追う。

「おねーちゃん、ついて来んといて!」

「なんでーやー、いいやんかー」

 T字路に出たとき、弟たちの列を待っている他の小学生の列に会った。

 この辺りは少子化の影響で、多かったはずの小学生が減少傾向にある。そのため、別地域でも時間を合わせてある場所に集合し、共に登校する。

 小学生は弟を見て、挨拶をし、それから、私に向かって挨拶をした。近所に住むおじさんおばさんに挨拶をするのは慣れているが、小学生に挨拶をされるのは慣れていない。私は、

「お、おん。……おはようございます」

と、年上であるにも関わらず、敬語になってしまった。

 その時、目に入ったのは、その小学生たちと元気に会話しているところだ。

 幼稚園児のときは、人見知りで、仲良くない人とはあまり話せず、打ち解けるのにも時間がかかった弟だった。きっとそれは、これから、いつまでも過去形になるのだ。まだ一ヶ月しか経っていないが、弟は、友達ができて、会話しているのである。

 どこか嬉しく、どこか寂しかった。

 私は、弟に何かを言うこともなく、手を振ることもなく、駅へと足を運んだ。

 小学校への通学路を外れた時、しばらくしたあと、私は振り返った。道を歩くのは、小学生たち。その中で一人、手を降る小学生がいた。茶色のランドセルであった。

 私は、一生懸命振った。大きく、強く、速く。その時私は、先程まで何を考えていたのか、すっぽりと忘れてしまった。

 あの笑顔で、あの行動で、私は、嫌なこと全てを捨てたのである。

 あのとき、弟は私を嫌がるように走った。だが、私に手を降ってくれた。それは、私にとって、弟の気持ちを知る、大切な手段であった。

あの笑顔は、私が生涯の生きる意味になったりしないだろうか。

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