第九話:可憐なチャンピオン
試合が終わり、カイは皆のいる観客席へと向かっていた。
するとカイの目に、手を振りながら向かってくるシルクの姿が見えた。
それを確認したカイは返事の代わりに片手をあげる。
そしてシルクは、やったね!、と言ってハイタッチをした。
「驚いたよ! まさか二番目の人に勝っちゃうなんて!」
「俺も驚いたよ、まさか相手がそんなにすごい奴だったなんて……シヴァからは何も――っと、噂をすれば本人が来た」
丁度カイの視線、シルクの後ろにシヴァの姿が見える。
「おい、どういう事だよ? 相手が二位のやつだなんて聞いてないぞ?」
「だが勝ったではないか。私はお前の強さを知っているからこそ、お前の対戦相手にアイツを選んだのだ」
「俺が………強い?」
カイの問いにシヴァはゆっくりと頷き、そうだ、と答えた。
その返答にカイは訳もなく、頭を掻く。
そんなカイの肩を、ユウが一叩きした。
「上手く話を丸め込まれたな」
「えぇ!? それってどういう事だよ!?」
同時に皆が笑う。
その時、カイは不意に後ろから肩を軽く叩かれた。
「こんにちは、カイ君……でよかったかな?」
声を聞き、カイが振り向くと、そこには赤髪の女性が申し訳なさそうに立っていた。
彼女は身軽そうな服装を着ており、胸の辺りにはナイフが収められた革の鞘が、腰には剣が納められた鞘がある為、出場者だとわかる。
その姿を見たシヴァは一度首を傾げて、何かを思い出した。
「………貴女はもしや、チャンピオンではないか?」
そんな問いに、赤髪の女性はにこやかな笑顔を作る。
「その通り。私がチャンピオンのレミィ・エルマンだよ」
「えぇ!? キミがチャンピオン!?」
カイは大声を出して驚いた。
もちろん、他の皆も驚く。
「キミ、じゃないよ! 私はこれでも成人!」
その答えを聞いたカイは、今以上に驚いた。
そんなカイの脇腹を、隣にいたシルクが思い切り殴る。
「失礼でしょ! 謝りなさい」
「イツツ………えと、すみませんでした」
脇腹を押さえながら謝るカイに、レミィは同情するような表情をした。
「まぁいいんだけどね。っと、それより、さっきのカイ君の戦いを見ていて思ったんだけど、面白い動きをしてたからつい見とれちゃってね。よかったら私と一戦やってみない?」
「え!? よ、喜んでお受けいたします!!」
「カイが敬語を使った!? 天変地異の前触れ………」
レミィからの誘いに、心から喜んだカイに、シルクは少し呆れた表情をしてシヴァ達の方を向き、両手を肩の高さまで上げてお手上げだと知らせた。
それを見たシヴァは腕を組んで笑い、ユウとネプチューン、ミーナは苦笑いをする。
「あ、それと、カイ君は自分の得意とする武器を使ってね?」
その言葉を聞いたシヴァは、ほぅ、と呟いて前に出た。
「何故その質問をした?」
「私の目は誤魔化せないよ? カイ君の動きが明らかに普通の剣士とは違っていた。普通の剣ではしない動きを……どう? あってるでしょ?」
シヴァは少し考え込み、そして笑いながら答える。
「はっはっはっ、さすがはチャンピオンと言ったところか。カイ、お前じゃ敵わないかもしれないが全力でやる事だな」
「目が笑っていないぞ」
シヴァはユウの鋭い突っ込みを無視してカイの背中を数回叩き、気合を入れさせる。
カイは、わかってるよ、と言ってシヴァから武器を受け取り、レミィと共にエントリーへと向かった。
ちなみにカイの有する武器とは、上下に対となった刃がついている剣、いわゆる諸刃の剣となるものだ。
その剣をカイはチラッと見て、喜びの笑みを浮かべた。
そして、やっと訓練してきた自分の武器が使える、と内心で呟いた。
また歓声が聞こえる。
だがその歓声は、先ほどの試合よりも大きく、活気があった。
それもそのはず、今行われる試合は、突然現れて二位の選手を打ち破った者と、現・チャンピオンとの戦いだからだ。
『さぁて、観客の皆さんも驚いたと思います! 今回のマッチはなぁぁんと
現・チャンピオンのレミィエルマンヴァァサス!! カイエディフィス!!』
テンションの高い司会者による紹介を聞いた瞬間、観客達はより一層ヒートアップする。
その声を聞いた瞬間、頭が痛みだした。
「な、なんだ……?」
その痛みは少しずつ強くなっていく。
とりあえず外に出た方がいいのかもしれない………
「シヴァ、少し気分がわるいから外の空気を吸ってくる」
「そうか、あまり無茶はしない方がいいからな。そうした方がいい」
「すまない」
俺はそう呟き、出口へ向かおうとする。
すると、ミーナが俺の服を掴んで引き止めた。
「どこに行くの?」
「気分が悪いから外の空気を吸ってくるだけだ。心配するな、すぐに戻る」
そう言ってミーナの頭を撫で、再び出口へと向かった。
「やっと対面、ね」
ミーナの呟きは、誰も聞き取る事はなかった………