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第七話:日没までに

「すみませんが、もう部屋は空いていませんので、他を当たってください」


 宿屋の主人が申し訳なさそうに頭を下げた。


「そんなぁ、どうにかして空いてい――」

「いえいえ、そんな頭を下げるほどではありませんよ。私達が遅かっただけなんで。それでは他を当たってみます」


 シルクは片手を左右に振り

 文句を言おうとしたカイの服を掴んで宿屋を出た。

 二人が断られたのはこれで三回目だった。


「まったく……あの人に文句言ってどうするの。大体、遅くなったのはカイが悪いんじゃない。一度は泊まってみたいんだよ、って言って高級ホテルに向かっちゃうし。それに予約制だったらしいから、結局無駄足。そしてそれで時間を無駄にしたせいで、他の宿屋は空いてないって事になっちゃったんだからね!」


 彼女は怒りのこもった表情と声をカイにぶつける。

 珍しく彼女は不機嫌な為、カイはただ黙っているしかなかった。

 ちなみにこの町にある宿屋は、現地の人に聞いた所、全部で四軒。

 つまりは、次に行く宿屋が最後だった。

 しばらく二人は会話をせずに次の宿屋を探しに向けて歩き出していた。


「………えと、ごめん」

「え!? う、うん、別にいいよ」


 突然のカイの謝罪にシルクは少し戸惑うが、一応許す事にする。

 そのまま、ずっと歩いていると、目の前に大きな建物が立ちふさがった。


「ん? 行き止まり?」

「そのようだね………」


 シルクは少々苦笑い。

 すると、その大きな建物から突然、わぁっ!っという大きな歓声のような声が聞こえてきた。


「ひゃあ! 何々!?」

「ここは……"闘技場"って書いてあるぞ」


 闘技場。

 そこは戦う者と、その戦いを見て金を賭け楽しむ者が集まる場所。

 その闘技場が町の端にあったのだ。


「なんか空気が悪いよぉ、早く次の宿に行こう?」


 シルクはそう言いながらカイの手を引っ張って、次の宿屋へと向かった。

 シルクに引っ張られている途中、カイは内心で呟く。

 ここなら今の自分の実力を確かめる事が出来るかもしれない、と。











 夕刻になっても、まだにぎわっている市場。

 そんな中、一つの店の前では激しい値切りあいが繰り広げられていた。


「もう少しだ! もう少しでもいいから負けてくれ!」

「いやぁーさすがにこれだけあって、もう少しってのはなぁ………」


 ユウは、値切りについて店主と話している真っ最中だった。


「頼む、金の少ない旅人に対しての情けだと思って、な?」


 ユウの止めの言葉に、店主は少し困った顔をした後、

「わかったわかった、アンタだけ特別だよ」


 そう言って普通の値段よりも負けて売ってくれた。


「ありがとな!――なんで俺がこんな事………」


 店から少し離れた後、ユウは愚痴を呟いた。

 だが、まだやる事がある為、次の店に向かって歩き出す。

 ユウとミーナは食材などを買い集めるために、町一番の大きな市場へと来ていた。

 そこには色々な店が並んでおり、客寄せのための活気ある声が響き渡っている。

 そして、その声につられてやってくるのか、所々の店で人だかりが出来ている。

 二人はその人だかりの中を掻い潜って、なんとか目的の物を買い集める事ができた。

 その後、人だかりから少しはなれた所まで行き、しばらく休憩する事にした。


「久々に疲れた……」


 そう言ってユウは壁に寄りかかって一息つく。


「お前も疲れたろ? 座らなくても――って、どうした?」


 ユウはミーナに問いかけるが、彼女は人だかりの中の一点を見つめたまま動かなかった。

 その一点、つまりは視線の先、そこには肩車をしながら、楽しそうに笑う親子の姿があった。

 親子か、っと彼は呟く。

 そのまましばらくその親子の楽しそうな様子を眺めていると、ミーナがくるっと回ってユウの方を向く。


「ねぇ、あれは何をやっているの?」


 そう言いながら親子を指す。


「ん? あぁ、あれは肩車をしているんだ」

「かたぐるま………楽しそう………」


 ミーナはそう呟き、目を輝かせる。

 まるでユウに肩車をして欲しいかのように。

 ユウは少し考えた後、意を決したかのように立ち上がる。


「わかったよ、肩車だな?」


 そう言ってミーナを持ち上げて、肩の上に乗せた。


「うわぁ……高い………」


 ミーナは先ほど以上に目を輝かせながら辺りを見回す。


「よし、このまま集合場所に向かうか」


 ユウはミーナを肩に乗せたまま、集合場所へと歩き出した。

重い荷物も持たなくてはいけない為、歩くのが大変だったのは言うまでも無い。









 多くの観光客や商人が集まる場所である駅に、シヴァとネプチューンは明日の列車の時刻を確認するために来ていた。


「人が多いな………おいネプチューン、はぐれないように――って何をやっておるのだ、アイツは」


 見るとネプチューンは、観光客の女性に話しかけて口説いていた。

 簡単に言えばナンパをしているのだ。


「――ってなわけで、わっちと一緒に少しの時間だけでもいいのでお茶でもしやせんか?」

「ごめんなさい、襤褸(ぼろ)切れを着ている人とはちょっと………」


 ネプチューン、あっけなく撃沈。

 がっくりと地面に崩れるが、すぐにシヴァに無理矢理立たされる。


「残念だったな。だが自業自得だと思え。これを基に、やるべき事をやると言う気持ちを持つのだな」

「き、厳しいっちゃ………はぁ」


 ネプチューンは深いため息を着いた後、いつの間にか遠のいているシヴァの元へと向かった。

 丁度その時、シヴァは駅員を見つけ、話しかけるところだった。


「すまんが、明日の時刻表を見せてもらってもいいか?」


 そう頼むと、駅員はすぐに了承し、時刻の書かれた手帳を見せてくれた。

 少しの間、手帳を見ていると、駅員が申し訳なさそうに問いかけてくる。


「あの、もしかして初めての方でいらっしゃいますか?」


 その問いにシヴァが、あぁそうだ、と答えると、駅員は少し困った表情をした。


「実は最近、色々なところで反皇国軍勢力によるテロなどが多発しているため、海上列車"アクアトレイン"は、その対策のやめに切符の値段をあげたのです」


 シヴァにとって、いや、二人にとって初耳の情報だった。

 値段を上げたと言う事は、内部からの占領という可能性を考えての事なんだろう。


「それで、値段は?」

「お一人様、十万ラノンになります」


 二人とも唖然とする。

 ちなみにラノンとは、この世界のお金の単位。

 それが十万も必要だと言うのだ。

 あいにく所持金は村長に貰った分から今日、皆に買い物用として渡した金額を引いて、五万ラノン。

 つまり、一人も乗れないと言う事だ。


「そうか、有力な情報をありがとう」


 シヴァは礼を言って、駅を後にした。


「……まずい事になったぜよ、合計四十万ラノン必要とはねぇ」


 その言葉に、シヴァは疑問を持つ。


「計算を間違えてないか? 合計は五十万ラノンだぞ?」

「んん〜? わっちは商人ぜよ? 切符ぐらい、自分の分は持っとるっちょ」


 そう言いながらネプチューンは、ズボンのポケットから切符を取り出してヒラヒラさせる。

 すると突然強い風が吹き、切符がネプチューンの手から簡単に離れて海の方へと飛んでいった。


「あぁぁぁぁ!!!! 待つちゃぁぁぁ!!!」


 ネプチューンは必死に追いかけるが、その頑張りも虚しく、切符は手の届かないところまで行ってしまった……

 その後、また地面に崩れ落ちる。

 その哀れさに、シヴァは無理矢理起こさないようにする。

 しばらくすると、ネプチューンは自分の意思で立ち上がり、シヴァの元へとゆっくりと近づき、立ち止まる。


「すんません、やっぱり五十万でお願いしやす……」

「哀れだな」


 シヴァは、先ほど思った事をそのまま言葉にした。


「しかたない、皆と話し合って今後の事を決めるとするか」


 そう言って、二人は集合場所へと向かう事にした。

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