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第二十五話:大魔術師の魔術授業

 目の前に立っているシルクを見ながら、俺の脳内では彼女が放った言葉が理解できず、今起きている状況も処理できずにいた。

 そんな俺の代わりに、ティファが問う。


『……えと、私の弟子になりたいってのは、本気で言っているの?』


 その問いに対してシルクは、満面の笑みで頷く。

 それと同時に、ティファは大きくため息をついた。


『はぁ〜、一体どうなっているのよ………貴女、いつから私が見えて声が聞こえるようになっていたの?』

「え〜っと………カイが闘技場に出場した日の夕方、宿屋でだったかな。ベッドの上で大の字になってうとうとしていたら、聞いた事のない声が聞こえたの。それで、薄目を開けてその声の方を見たら、ユウのすぐ横に、金髪の美人が浮いていたのが見えたんだよ」


 ………正直驚いた。

 まさかこいつにティファが見えていたなんて……

 そういえば、その頃はまだティファが目覚めて間もなかったはずだ。

 俺は、ティファの姿が見えなかった。

 最近になって、残像としてやっと存在が確認できて――っ!?

 ティファのいる場所を見て驚いた。

 声に出さないのがやっとだが、驚いているのは表情に出た。

 そのためか、シルクは俺の顔を上目遣いで不思議そうに見ていた。

 俺が驚いた理由。それは、ティファの姿がハッキリと見えていたのだ。

 金髪の髪は腰の辺りまで伸びており、その髪が似合うほどのスレンダーな体系。

 そして、その体系に合わされたような肩の出た真っ黒な服装。

 組んだ両腕には、先ほどシルクが言っていた紋章が描き込まれており、されど左腕の紋章は、右腕より多く、細かく描き込まれている。

 俺がその紋章を見ているとティファは視線に気付いたのか、俺の方を向いた。


『どうしたの? ユウ。もしかして、私が見える?』


 問いの通りだ。

 俺はお前が見える………

 そう、ティファにしか聞こえない言葉で言う。

 言いながら俺は、ティファの顔を見た。

 その目は、右が飲み込まれるような黒色で左が透き通った白色だった。

 いわゆる、オッドアイだ。


「……何で、急に見えるようになったんだ……?」


 とりあえず、今声に出せる言葉はこれくらいだ……

 そう言うとティファは、顎に手を当てて考え事をし始めた。


『わからないわねぇ………まぁ、この事はまた今度考えましょう。それよりも』


 すぐに何かを思いついたのか、顎から手を離して俺の方を向く。


『ねぇ、ユウ。ちょっと知りたい事があるから、彼女に触れてもらえるかしら?』


 言われて俺は、仕方なくシルクの腕を掴んだ。

 するとティファは突然、驚いたような表情をする。


『うそぉっ! すごい量の魔力を蓄えているじゃない! こちらから私の弟子にスカウトしたいぐらいだわ!!』


 何か言い出したよ、コイツ……

 嫌な予感がする。


「やったー! それじゃ、早速何か教えてよ、ししょー!」


 俺の心配を他所に、大喜びするシルク。


『し、師匠……いい響き………うっとりするわ………』


 両手を合わせて目を輝かせるティファ。

 こんなアホが俺の中に……


『ん? どうしたのよ? 浮かない顔して』

「何でもない、気にするな」

『そう? まぁいいわ――それじゃ早速、外に出て魔術を一つ教えるわね。

今回は、旅に必要不可欠な治療術よ』

「治療術って、掠り傷とか火傷とかを治す"ヒール"?」


 それを聞いたティファは、微笑を浮かべながら人差し指を左右に振る。


『チッチッチッ、掠り傷なんて生温いわよ。私が伝授するのは、深い切り傷はもちろん、骨折や切断などの重傷をも治す事が出来る魔術"トゥル"よ』

「………え? す、すごいじゃん! それ!」


 禁術じゃないのか? それ、という言葉を喉の手前で止め、代わりの言葉を出す。


「………で、今回も入れ替わるのか?」

『当たり前じゃな〜い。そうじゃないと、シルクに魔術を教えられないでしょ?』

「………入れ替わる……?」

『まぁ、その疑問は後にして、早く外に出ましょ』


 その言葉を合図に、俺達は出口のあるロビーへと向かった。








 無用心に鍵が開いていた扉を開けて外に出ると、夏の朝にしては珍しく、肌寒い空気が身体を伝って走り抜けていった。


「……何か出そうな空気だねぇ〜」

「確かに出そうね……でも、その時は私が成仏させてあげるから大丈夫よ」

『何が大丈夫よ、だ! 姿を変えろ、姿を!』


 そう言いながら自分の身体……というよりティファの身体を指でさす。

 精神はちゃんと入れ替わっているんだが、その他は俺、ユウのままという中途半端な状態になっていた。


「えぇ〜、面倒なのよぉ〜」

『だからって、俺の姿でクネクネするな! 早く変えろ!!』

「あはははっ! ユウが二人いて、片方がクネクネしてるよぉー! あははははははっ!!」


 シルクは俺……もとい、ティファを指でさしながら、腹を抱えて大笑いしていた。

 こんな屈辱、初めてだ……


『とりあえず、変えろ! 今すぐに!!』

「わかったわかった、わかったわよ。そう焦らないで」


 充分焦るぞ………

 そう思った瞬間、少しの間身体が光に包まれ、光が消えると俺の身体はティファの姿になった。

 ティファは、金色の長髪を手で掻き揚げ、フフンッと笑った。

 不気味だぞ……

 一方、ティファの姿が変わる瞬間をみていたシルクは、驚くのと同時に歓声を上げた。


「すっごーい! 姿が変わった!! ………私より大きい………」


 シルクは自分の胸に手を当てながら、ティファの胸を細目でジッと見始める。

 いつまでも……ジッと……

 ………………長いっ!


『いいから早く始めろっ! 時間が無くなるぞ』

「それもそうね。それじゃシルク、始めましょうか………って、いつまで見てるのよ」


 ティファの声が聞こえて、シルクは我に返ったのか、ほぇ?、といいながら顔を上げた。

 そして、すぐに頬を赤らめる。


「え!? いや、あの、別にヤマシイ事を考えていたわけじゃないよ? ただ、私よりも大きくていいなぁって思って――って、何言ってんだろ、私!!」


 ………まだ旅を始めたばかりだが、コイツがここまで取り乱したところは初めて見た……

 などと思いながら、溜息をついておく。

 すると、丁度ティファも溜息をついていた。


「よくないわよ、こんな物。邪魔だし、肩凝るし……っと、こんな話をしている場合じゃないわね。それじゃ、まずはトゥルから教えるわね」

「はい、ししょー! よろしくお願いします!」


 その返事に関心したのか、ティファは数回頷いて微笑した。


「いい返事ねぇ〜、………それじゃまず、魔術と契約よ。それと同時に、ちょっと高度なショートカットも教えるわね」

「け、契約? ショートカット??」


 どうやらシルクには聞きなれない単語だったようで、彼女は首を傾げていた。


『………って、俺も聞いた事ないぞ?』

「貴方に魔術はむ・え・ん・よ。――契約っていうのは、簡単に言えば詠唱と魔力の流れを覚える事。それと魔力干渉具、通称"魔具"を(とら)える事ね。そしてショートカットは、一度詠唱すればしばらくの間、詠唱無しで魔術を発動出来るのよ」


 そう言った瞬間、ティファの表情が曇り始めた。


「………もしかして貴方達、詠唱と魔力に干渉するって意味もわかってないの……?」

「し、知らない……」 『知らんな』


 俺とシルクの返答を聞いた途端ティファは、やっぱりねという表情で大きくため息をついた。


「はぁ〜……っていう事は、私が教えなくちゃいけないわけね……」


 言ってティファは、吐息を一つしてから、仕方なさそうな表情をシルクに向ける。


「……まぁ、簡単に言うとね、詠唱っていうのは体内の属性魔力と大気中の自然魔力を混ぜ合わせて、特定の術を生み出すための合言葉ね。そして、その魔力同士の混ぜ合わせを補助するのが魔力干渉具。通称"魔具"ね。一般的には杖や指輪、ペンダントを使っている人が多いわね。……確か、マフラーを使っている人もいたわ。まぁ、とりあえずここまではわかった?」


 テンポの速い説明に少々混乱気味だが、頷いておく。

 俺と同じ間隔で頷いていたシルクはこの意味がわかっているんだろうか?

 とりあえず、ティファの説明の続きを聞く事にした。


「……そして、ショートカットは一度詠唱した時に残留した魔力を、一時的に魔具が記憶するの。これによって、軽い合図や意志で同じ魔術を使えるようになるのよ。ちなみに、属性魔力っていうのは、人それぞれの生命を支えている魔力の種類を指しているの。ユウは雷、私はほぼ全て、シルクは闇ね。……これで全部よ、理解できた?」


 ティファは口元に少し笑みを作り、首を傾げて問いかけてきた。


『………なぁ、お前の、ジードの魔術はこっちでも適応してるのか?』

「あ、この世界の魔力でもジードの魔術は使えるのかって事ね?」


 シルクに分かりやすいように言い直したのか。


「それが面白い事に、魔力が全く同じなのよねぇ〜。だから、あっちの魔術も使い放題よ」


 ティファはそう言いながら、誇らしげな表情をし、空中に円を描くようにして人差し指を揺らした。

 そして、その指をビシッとシルクに向ける。


「それじゃ、シルク。さっそく事を始めるわよ? まず最初は、貴女の魔具を決めないとね。……何がいい?」


 問いに、シルクは少し考えた後、あっ!、と声を上げた。

 その後に自分の左腕に付いている腕輪をティファに向ける。

 その腕輪は赤色に輝いており、表面には波状の線が二本、交互に彫られており、開いた隙間には見た事のない文字が彫られていた。

 何だ? コレは?

 それを見たティファは、俺と同じ事を思っていたのか、首を傾げて問う。


「………何? コレ」

「この腕輪は昔、カイが私の誕生日プレゼントとしてくれたの。これなら、大事に付けているから魔具としては最適かと思って」

「いいわねぇ〜、ロマンチックだわ」


 気色悪い事を言うなって………


「それじゃ、その腕輪を外して両手でしっかりと握り締めてね」


 シルクはティファの指示通りに腕輪を両手で握る。

 するとティファは、右手の人差し指と中指を使って指を鳴らし、腕輪を握っているシルクの手の周りに円を描くように人差し指を動かし、彼女の手に自分の手を重ねた。


「"生命と理を司りし魔の根源、我が触れし魔の器に汝の源を分け与え、創造せし力を与えたまえ。さすれば汝に眠りし魔の源を、無限の創造へと変える事を約束せん。故に、その効力を解き放て……"」


 ティファが詠唱を終えた瞬間、シルクの腕輪が紫色に輝き出し、俺はその眩しさに一瞬、目を閉じた。

 そして目を開けた時、いつの間にか腕輪は彼女の左腕に戻っていた。

 いつ、付け直したんだ?

 ………ん?


「さて、これで魔具は準備完了ね。次は本題である魔術を――と、言いたいところだけど、それはまた次回ね。どうやら、お客さんが来たみたいだし」

「え? どう――っ!?」


 声を出そうとしたシルクの口を、ティファは人差し指で止め、辺りを見渡す。

 そこには、黒いローブを羽織った者、まるでアサシンのような者達が五人ほど、どこからともなく降りてきた。

 それを見た俺は、微笑を浮かべる。


『………いけそうか?』

「当たり前じゃない。私を誰だと思っているのよ」


 ティファはそう言いながら笑みを作り、右手の指を鳴らした。

 それと同時、アサシン達は勢いをつけて走り出す。

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