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第二十四話:見えていた彼女

 殺られるっ!

 クレアはそう思って目を閉じたが、しばらく経っても痛みなど感じなかった。

 彼女は疑問に思い、目を開ける。

 すると、クレイモアの刃が目の前で止まっていた。

 "死んでいない"

 その事に彼女は安堵するが、すぐにその感情に対して後悔する。

 同時、鋭い目でレイヴンを睨みつける。

 そして、奥歯をかみ締めながら、怒りのこもった声をぶつけた。


「………どうして……どうして殺さなかった! 私は覚悟が出来ていたのに!! なのに何故っ!!」


 それを聞いたレイヴンは、フンッと鼻で笑い、微笑した。


「覚悟だと? 目を開けた時、ホッとしていた奴がよく言う」

「――ッ!!!」


 その言葉に、クレアは頬を赤らめながら、苦虫を噛み潰したような表情をした。

 それを見ていた、いつの間にかレイヴンの顔の横を飛んでいたライトは、クスクスッと笑った。


「――さて、突然だがお前に利用価値が出来た。もちろん拒否権はない。………ライト、始めてくれ」


 レイヴンがそう言うと、ライトは渋々とクレアの目前まで飛んでいった。

 そして、クレアの目をジッと見る。


「……少しの間、私の玩具になってもらうよ………」


 言った瞬間、ライトの背に生えている四枚の羽が光を放った。

 それを見ていたクレアは、目が少しずつ虚ろになっていき、最後には気絶したかのように、その場で倒れ込んだ。


「………これでよかったんだよね?」

「当たり前だ。どうせ、もう終わっていた命を俺が貰ったんだ。つまり、こいつをどうしようが俺の勝手という事だ」

「それでこの子を使って、力とかいうのを持っている人の実力を見るって事なんだね。………襲わないの? ――イタッ!」


 笑いながら問いかけたライトの額に、レイヴンは呆れた表情でデコピンをかました。


「阿呆、こんな餓鬼相手にそんな馬鹿げた事なんかやるかっての」

「そうかな? ホラ、育つとこ育って――イヤァァッ!! もう、もう言わないから、私の羽からその手を放して〜!」


 レイヴンの指から離れようと、大声を上げながらもがくライトを見て彼は吐息を一つして、手を放した。

 すると彼女は、レイヴンから少し離れたところまで行き、身体を翻して頬を膨らませながらレイヴンにビシッと人差し指を向ける。


「もうっ! 妖精の羽は繊細で敏感なんだよ!! 気安く触らないでよね!」

「わかった、わかった。繊細なんだな。敏感なんだな。――そんな事より、早く戻るぞ。お前の視界をリンクするには、時間と魔力が必要なんだから」

「むむっ! 軽く流されている気が………まぁいいけど。――ところで何が魔力だってぇ? レイヴンは魔力なんて、常人並みしか持って無いじゃ〜ん?」


 ライトは、先ほどまでの表情とは打って変わって笑顔で、うっしっしっと笑い出した。

 そんな彼女に向かってレイヴンは、舌打ちをしてから、ノアに繋がる道を歩き出した。

 だが、ライトは懲りずに彼の周りを笑いながら飛び回る。

 その後、この森の中に再度ライトの大声が響き渡った。











 真っ暗な暗闇。何も無い世界。

 俺はその世界で、まるで水の中にいるかのように浮いていた。

 やる事がない。

 唯一あるのは、考える事、昔を思い出す事。

 俺の、仕事の理由。



 人という存在は、大半が卑怯なやつらで占められている。

 そして、後に残っているのは、そんな卑怯なやつらに支配・奴隷・玩具という名の鎖に縛られているやつら。

 だが一握りのやつらは、何にも縛られる事がなく平和に暮らしているのだ。

 この三つが、人という存在だ。

 少なくとも俺のいた世界、ジードではそうだった。

 だから俺は、この基礎を壊すために殺し屋になった。

 そしてその職業に就いたのと同時に、卑怯なやつらの本心を知った。

 自分より下の者達の命は、まるで蟻を殺すかのように、簡単に切り捨てていたのにも関わらず、俺が武器を向けた瞬間、必死に命乞いをしてくる。

 "助けてくれ"

 "死にたくない"

 "やめろ、俺は悪くない"

 "俺なんか殺しても何の意味もないぞ"

 "金ならいくらでもやる、だから家族だけは"


 その言葉の数々、俺にとっては全てが耳障りだった。

 ………全てが?

 時々ある、迷い。

 それを振りほどくかのように、俺は殺してきた。

 卑怯なやつらを。世界の、人という存在を表す基礎を無くす為に。



 ……でもそれは、コウジツニシカスイナイ。

 ダッテキミハ、ソノヒキョウナヤツラノカゾクヤ、カンケイシャヲモコロシタジャナイカ。

 ツミナキモノヲコロシテ、セカイノヒーローキドリカイ?

 デモ、ソレハチガウヨネ? コロシタイダケダヨネ?

 サァ、アノトキノヨウニボクヲツカッテコロシテミセテヨ。

 キミノタイセツナヒトタチヲ、ソノテデ………






 俺は目が覚めたのと同時に、勢いよく飛び起きた。


「――がっ!!」

「――うひゃあ!」


 だがその瞬間、額を何かに思いっきり強打してしまった。

 額をさすりながら状況確認をすると、俺が額をぶつけたのは、俺の寝ていた二段ベッドの下段の上、シルクが寝ているはずの上段のようだ。


「イツツッ………朝、なのか………?」


 そう言いながら俺は、まだ痛む額をさすっていると、突然、視野に影が映った。

 俺は驚きつつ、その影を見る。


「………何だ、シルクか………」


 上の段から逆さになって顔を出しているシルクは、その状態のまま、頬を膨らます。


「何だ、シルクか………じゃないよ! 私が起きていたからよかったものの、もし寝ていたら安眠妨害だよ!?」

「えと………すまん、怒らせるような事しちまって」


 そう言って俺は軽く頭を下げると、シルクは急に表情を変えて、にへらっと笑った。


「別に怒ったわけじゃないよ〜? でも、謝罪の気持ちがあるのはいい事だよ。

って事で、今から朝食奢ってっ」


 シルクはそう言いながら、上の段から降りてきた。

 彼女は寝起きで薄いTシャツ一枚と短パン姿の為、目のやり場に困ってしまった。

 その為、少し視線を逸らしながらもベッドから降りる。


「それじゃ、行くぞ」

「オッケー!」


 まだ他の皆が寝ている中、俺とシルクはそっと部屋を後にした。






 壁が微妙に剥がれ始めている廊下を歩いている途中、壁にかかっていた時計に目をやると、時刻は午前七時を指していた。

 ………早いな、本当。

 そう思っている最中に、気付くと俺の横を、シルクが軽快なステップで走り抜け、俺の前で止まった。

 その表情は、口元をニヤニヤとさせて笑っていた。

 何なんだ? 一体。

 とりあえず、ニヤニヤしている理由を聞こうとした時、向こうが先に口を開いた。


「………ねぇユウ、さっき私の胸元をエッチな目で見てたでしょ?」

「………はぁ!?」

『何ですって!?』


 何言い出すんだ、コイツは!?

 ………っというより、何でお前が叫んでいるんだ? ティファ。


『叫ばずにはいられないわよ! 貴方と私は一心同体、つまりは貴方が変態扱いされるという事は、私も変態扱いされているというのと同じなのよ! そんな状況を、私が見逃すわけないじゃないっ』


 へ、変態って……

 まぁ、訳のわからん説明をありがとう。


「だって、ユウったら私の胸元チラチラ見ていたんだもん。その後は、ずっと視線を逸らしているし」

『そんなわけ無いでしょ!? 確かに貴女の胸は少しは育っているかもしれないけど、ユウが見とれるほどの存在ではないわよっ』


 ………俺は何て言えばいいんだ………って、ん?


「フフフッ、わからないよ? もしかしたらユウは思春期かもしれないし」

『それはないわね、何だってユウはもう十九だか………あれ?』


 何かおかしいぞ?

 俺は、さっきから一度も喋っていないはず……!?


「ん? どうしたの? 鳩が豆鉄砲食らったような顔して」

『………もしかして貴女、私の声が聞こえるの………?』


 ティファが恐る恐る問うと、シルクは目を弓のようにして笑いながら答えた。


「あははっ、今さら何言ってるの? 今の今まで、ちゃんと会話してたじゃん」

「え………?」

『え………?』


 ……………


「ええええぇぇぇぇぇっっ!!!???」 『ええええぇぇぇぇぇっっ!!!???』

「あははっ、声が揃ったっ」


 シルクはそう言いながら笑い続けているが、俺は驚いて唖然としていた……

 ティファも黙っているという事は、俺と同じく唖然としているのだろう。

 そんな状態の俺達に、いや、正確に言えばティファにシルクは微笑しながら問いかけてきた。


「ねぇ、両手の紋章からして、もしかして魔術師だったりする?」


 言いながらシルクは、確かに、俺の視界で残像のようにかすかであるが見えるティファの手がある場所を指でさしていた。

 その問いにティファは、戸惑いながらも答える。


『え、えぇ、そうよ』

「よかったぁ………あの、私を弟子にして下さい!」

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