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第二十三話:力を狙う者達

 月が傾き始め、月明かりが斜めに射し込み始めた深夜三時頃。

 ホテル"リラックス・リゾート"の裏手にある空き地には、芝生の上に置かれた一つの小さな光を灯した賢石と、その光が微妙に反射して二人分の人影があった。

 一人はその場で正座をしており、もう一人は素早い動きで足音を立てず、長髪を靡かせながら走り回っていた。

 っとその時、突然長髪の人影が正座をしている人影に向かって突進し出した。

 すると、正座をしていた人影はすんでのことろで素早く立ち上がり、バックステップでかわし、同時に金属音が響く。

 片方は長い槍のような物を、もう片方は長剣のような物をそれぞれ持っており、それが何度もぶつかり合って、金属音が鳴り続ける。


「――ふむ、これくらいだろうな」


 長髪の人影はそう言いながらバックステップで離れ、光のある方へと向かう。

 そして、光の源である賢石に手を触れる。

 すると光はみるみるうちに広がり、二人分の人影を照らし出した。

 その後、賢石を再び地面に置いた女性、シヴァは、長剣を鞘に納めた後、ピンク色の長髪を束ねてポケットから取り出したゴムでポニーテールを作った。


 そんな彼女を見たもう一人の人影、長い槍のような武器、諸刃の剣を三本分に分けた後、銀髪をかきながら不思議そうな表情をしている少年、カイは首を傾げて問う。


「………あれ? シヴァってポニーテールだったっけ?」


 そう言いながら脚をさすっているカイに、シヴァは微笑しながら答える。


「あぁ、シルクに勧められてな。こういうのも悪くないな、と思ったのだが……変か?」

「………ちょっと違和感があるけど……似合ってるぜ!」


 そう言ってカイは、笑顔と共に親指をグッと立てる。

 それを見たシヴァは、再度微笑した。


「そうか、ならこれからはこれにしてみ――ッ!?」


 瞬間、シヴァは何かの気配を感じ取ったのか表情が警戒に変わり、背後へと振り向く。

 カイもその異変に気付き、彼女が見ている方向に身構える。

 彼女はカイの行動に頷きながらも、足元にある賢石に手を触れ、光をより強くした。

 すると、シヴァとカイの視線の先には、フリルが付いた白と黒だけの侍女服を着た侍女が立っていた。

 彼女はスカートの(すそ)を両手でそっと持ち上げ、軽く会釈して口を開く。


「………こんばんは、神の力を持つ者」


 その一言に、二人は目を見開く。


「貴様、カイの力を知っているのか!?」

「用があるのは神の力を持つ者だけです。貴女には黙って頂きたい」


 侍女の言葉にシヴァは舌打ちをした。

 一方カイは、身構えるのをやめて冷静な表情になり侍女に問いかける。


「………それで、俺に何の用なんだよ?」


「今回はご挨拶に来ました。この先、旅を続けるのならば、我がマスターが貴方を殺すと言っておられましたので」


「え!? ………でも、俺は旅を止めない。これは契約……じゃなくて、約束だからだ」


 短いが、決意が感じられるその言葉。

 それを聞いた侍女は、目を伏せて小さく頷く。


「………了解しました。マスターにはそう伝えておきます。――それでは、またいつかお会いしましょう」


 侍女はそう言うと、再度両手でスカートの裾をそっと持ち上げ軽く会釈。

 それと同時に、彼女の周りに黄色の光が現れて渦を巻き、そして突然、フラッシュが起きた。

 その光に、カイとシヴァは反射的に目を閉じる。

 その後、目を開けた時にはもう侍女の姿は無くなっていた。


「な、なんだったのだ? 今のは………」

「お、俺、狙われているのかぁ………」


 賢石が放つ強い光に照らされたままの二人は、今起きた事を整理するために

ただ、立ち尽くしているだけだった。











 暗闇に満ちた森の中で、突如火花が散る。

 それは、金属音と共に現れて何度も続いた。

 その火花を起こしているのは、大剣"クレイモア"を振るうレイヴンと、両手の甲に装着された長い鉤爪のような刃を振るうクレアだ。

 クレアは、押してくるレイヴンのクレイモアを弾きながら、後方へと下がって避け続けていた。

 そんな彼女を見たレイヴンは、口元に笑みを作る。


「どうした! お前の覚悟ってやつはそんなもんか? もしそうなら、よく獣人族のためだとほざけるなぁ!」


 言ってクレイモアを横に振る。

 それをクレアは左足を前へ、右足を後ろに出し、身体を素早く落してしゃがみ込む。

 瞬間、彼女の頭上に生えているウサギの耳をクレイモアが掠った。


「うるさい! 私は、獣人族のためなら命だって懸けられる!」


 クレアは、クレイモアを振り切って隙が出来たレイヴンに向かって鉤爪を構えて飛び込む。

 だが彼は、クレイモアを振った時の遠心力を利用して一回転し、右脚を浮かせてクレアの脇腹に回し蹴りを一撃入れる。


「命を懸けられるだぁ!? 勝手に一人で死んでろ! 巻き込まれる俺は迷惑だ!」


 空中にいる間に蹴りを入れられたクレアは、レイヴンが蹴った方向に、大きく飛ばされた。

 そして木に激突し、同時にバキッという妙な音が彼女の耳元に届いた。

 彼女は一瞬、骨が折れたのかと思ったが、それに匹敵する痛みがなかったため、木の枝が折れたのだと判断し、レイヴンのいる方向を睨みつける。

 その後、飛び上がって木の上に乗り、木から木へと飛び移って、一気にレイヴンに向かって飛び出す。

 クレアの眼中にあるレイヴンは、彼女に背を向けていた。

 彼女はそれを好機とし、両手の甲の鉤爪を構える。

 対するレイヴンは、クレアの気配を察知し、振り向く前に地面を蹴って前方へと飛ぶ。


「しつこい! そんなにも力ってやつが欲しいのか!?」


 クレアは不意を打ったつもりが、避けられた事に驚きながらも、着地と同時に両足をバネのようにして、レイヴンを追撃する。


「たった一度、たった一度会って力を奪う事さえできれば、私達の運命を思うがままに出来るから!!」


 その言葉を聞いた瞬間、レイヴンの表情が変わった。

 怒りから笑みへと。

 瞬間、レイヴンは身体を(ひるがえ)し、クレイモアを胸の辺りで構える。

 すると、飛び込んできたクレアの鉤爪と交わった。

 それと同時にレイヴンは、クレイモアを力一杯振って彼女の鉤爪を弾き、再度彼女を吹き飛ばす。

 その時の表情は、満面の笑み。


「気が変わった、その力とやらを持ったやつを一目見たくなった!」


 レイヴンの笑みは、口元を頬の辺りまで吊り上げるほどだった。

 そして彼の目は、不気味に紅く光っていた………








 レイヴンとクレアが火花を散らしながら戦っている中、少し離れた場所、光を灯した賢石の近くでライト・ウィッチは羽を羽ばたかせながら膝を上げ、顎を手のひらに乗せて暇そうにしていた。


「まったくレイヴンったら、もうちょっとレディーに優しくしなきゃいけないのにさっきから暴言ばっかり………それにしてもすごいなぁ、暗闇の中でお互いの居場所がわかるなんて」


 そう言いながらライトは、火花が散っている場所をジッと見ていた。


「………レイヴン、目が紅く光ってるよ………コワいコワい〜っと」


 言ってライトは、ニシシッと笑っていたが、突然笑いのを止めて、耳を澄まし始めた。


「………レイヴンが呼んでる………」


 ライトはそう呟くと、突然彼女の身体が光り出し、一瞬の閃光と共に姿を消した。

 その後、その場に残ったのは煌々と光り続ける賢石だけだった。








 レイヴンはクレイモアを振りながら、笑顔で攻め続けていた。

 対するクレアは防御が精一杯で、とても反撃できる状況ではなかった。

 その時、彼女の中に生まれた感情は、焦り。

 だがその焦りは、集中力を鈍らせる事となってしまった。

 レイヴンは振り下ろしたクレイモアを軸にし、飛び蹴りを繰り出す。

 それに対してクレアは判断を鈍らせ、バランスの悪い体勢のまま、その蹴りを防ぐ事に全力を注いでしまった。

 結果、勢いが強い蹴りを防ぎきれず、鉤爪が弾かれる。

 そのせいで両腕は右に、そして胴体を大きく晒す事となった。

 レイヴンは、それを狙っていたのか、飛び蹴りの勢いを利用して、クレイモアを振り下ろす。

 常人では出来ないような動きに、彼女は対応しきれず、彼女の右腕にクレイモアが振り下ろされた。


「あぁぁっ!! ――くっ!」


 痛みで上がった悲鳴を途中で無理矢理堪え、体勢を整えて上手く両足を地面につける。

 それと同時に右腕を見て、まだ繋がっている事を確認。

 だが、まだいける! というクレアの考えとは裏腹に、右腕の傷口からは、予想以上の血が噴き出した。


「――ッ!? 肉を半分も持っていかれたの!?」


 そういいつつも、身体を前へと出そうとする……が、気付くと右脚の太股をも斬られており、バランスを大きく崩した。

 レイヴンはその隙を逃さずに飛び掛り、右手で彼女の頭を掴んで地面に身体ごと叩きつける。

 そして右手を離し、瞬時にクレイモアを振り上げる。


「チェックメイトだ」


 レイヴンのその表情には、まるで殺しを楽しむような笑みが、それを見たクレアの表情は、死を目前とした恐怖があった。

 そして、クレイモアは振り下ろされる………

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