表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/84

第二十二話:不吉の存在

 カイ達一行がアクアトレインを降りて駅から出た時には、すでに辺りは暗くなっており、月が真上に、そして時刻は深夜の一時を回っていた。

 だが、駅の近くのやや大きな建物は、未だに煌々と明かりを灯していた。

 そして一行は、その建物に向かって歩き出す。

 その建物とは、アクアトレイン利用者が無料で宿泊する事ができる――とは言っても、乗車券の料金に含まれているのだが――観光客向けのホテルだ。

 看板には"リラックスリゾート"と書かれており、入口近くにはヤシの木が一本だけ立てられていた。

 シルクはその建物を見て、両手を挙げて感激していた。

 その彼女の片手には、白色の賢石が握られている。

 これは、アクアトレインの武器商店に行った際、ユウが全員に旅の安全を願って購入した、愛の意味を持つ賢石"イシュタル"だ。

 ユウはこれを、アクアトレインを降りた時に全員に配っていたのだ。

 ちなみに、同時に購入した金色の髪留めは、渡す相手であるミーナの髪についており、光を僅かに反射させている。

 その賢石"イシュタル"を、ネプチューンは上に投げて遊びながら笑みを浮かべていた。


「それにしても、わっちらは運がよかったぜよ」

「うん、確かに! これはカイの手柄だもんね! ………って、どうしたの?カイ」


 シルクが問いかけた先にいるカイは、暗闇の空を見上げたまま動かなかった。

 彼の視線の先には、誰もが見える半透明の巨大な羅針盤が見えている。

 その後ややあってから、彼はゆっくりと口を開いた。


「………近い……光が、近いよ………!」


 その言葉に、シヴァとシルク、ユウは驚いた。


「光って、もしかして羅針盤の光か!?」


 ユウの問いに、カイは頷き、

「ネプチューン、この町の近くに昔からある遺跡か何かない?」


「遺跡? 確かにあったぜ……でもその前に、あの羅針盤とカイとの関係と、その光とやらを教えてほしいっちょ」


 その頼みをシヴァが、わかったと答える。


「どうせなら、この旅の理由も教える。そのために、そろそろ宿に入ろう」


 呼びかけに、その場にいた全員が同意し、一行は宿に入る事にした。








 一行が入った宿"リラックスリゾート"は名前通りではなく、内部は至ってシンプルであり、廊下の電灯は時々消えており、客室内も二段ベッドが四個ほどしきつめられていて、小さい窓が入口と対象的な位置に一つだけあるという、まるで寮のような場所だった。

 唯一便利なのは、風を起こして室内の温度を調節できる賢石"エンリル"が設置されており、全ての室内が、夏の暑さに負けないほどの涼しさを保っている事だ。

 だが、三〇五号室のエンリルにはヒビが入っていて、風の調節が弱いらしい。

 その客室を引き当ててしまった運の悪い者が、カイ達だった。


「うわぁ〜部屋が生温いぃ〜二段ベッドのせいで跳ねられない〜」


 シルクは窓側にある二段ベッドの下段で、文句を言いながら転げまわっていた。

 そんなシルクに、カイは苦笑しながら近づく。


「おいおい、少しは女の子らしくしてよ………って、あぁほら、スカートがはだけるって」

「だって暑いんだもぉんっ!」

「え? それじゃあエンリル使えばいいじゃないか」


 そう言ってカイは、自分のポケットから何かを取り出す。


「ほら、今後の事を考えてアクアトレインから一個取ってきたんだ」

「わぁ! さっすがカイ! 頼りになるーっ」


 言ってシルクは喜びながら、再度転げまわった。

 そんな二人の会話を聞いていたユウは、心の中で、盗って来たの間違いだろ………っと呟きながら、入口側にあるベッドの下段でミーナに膝枕をしてあげているシヴァの隣に座った。

 そして、小声で、

「……あいつらって、バカップルなのか?」

「な、何だ、バカップルとは……!? ……馬鹿なカップルという意味か?」


 聞き慣れない言葉を聞いたシヴァは少し戸惑いながらも、見事に正解を当てた。


「昔からあんな感じだ。確かに周りからは馬鹿なカップルだと認識されているが、当の本人達は、幼馴染みだからと言い切っているんだ。……全く、お互い自分の気持ちに素直になればいいものを……」


 それを聞いたユウは、それは教師としてのセリフでいいのか? という言葉を喉の奥で止めて代わりに、そうだなと答えた。


「――あのぉ〜、羅針盤の話はまだかのぉ?」


 不意に、シヴァの前に立って問うてきたのはネプチューンだった。

 彼は頭を掻きながら、申し訳なさそうな表情で再度問う。


「そろそろ話してくれてもいいっちょ?」

「うむ、そうだな。それでは話すとしよう――」


 そしてシヴァは、未だに騒いでいるカイとシルクを尻目に、ユウと共に今までの事を話し始めた。

 アルグでの事、カイの左腕の事、ユウが別世界の人間である事、ミーナと出会った時の事、全てを………











 同時刻。

 カナン大陸首都、ノアの郊外にある森。

 暗闇に飲み込まれた森には、今や夜の住民達が活動している。

 コウモリ、狼、そしてモンスター。この暗闇こそ、彼らが自由に行動できるのだ。

 そして彼らが睨んでいる先には、暗闇の中で唯一光る明かりがあった。

 光は大きく、まるでその場所だけ昼のように感じられてしまうほどだ。

 その光の中心には一人分の人影がある。

 その人影は、漆黒のローブを羽織っており、鋭い目つきと真っ黒な短髪からして、どうやら男のようだ。

 身長は一八〇センチを軽く超えており、背中にはその身長と同じ位の大剣が背負われていた。

 彼は光を放っている賢石を片手に持ちながら、森の中を進んでいく。

 その途中、突然彼の横に、輝く光が現れた。

 その光は一瞬で収縮し、小さな人の形へと変わっていく。

 そして光がなくなった時、現れたのは、背中に四枚の半透明な羽が生えた、臍だしルックが似合うフェアリーの少女だった。

 彼女はニコニコしながら銀色の長髪を靡かせて、その場で一回転する。

 それと同時に、フリルが多数ついた服から光の粒子が散らばった。

 その粒子を見た男は、彼女をその紅色の目で睨みつける。


「………ライト、その粉はもうやめろと言っただろ」

「えぇ〜いいじゃない、妖精ライト・ウィッチちゃんの、こんな登場の仕方は魅力的でしょ?」


 ライト・ウィッチは、男の鋭い目を気にせずに、はらりと舞いながら彼の周りを飛び回る。


「そんなに堅苦しい態度なんかとってるとその内運が無くなって死んじゃうよ? レイヴン」


 レイヴン。不吉の鳥であるオオガラスの名を持つ男は、フンっと鼻で笑った。


「運など、俺には生まれた時から無尽蔵のようにある。だから、死ぬわけがないだろ」


 その言葉にライトは、臭いセリフだねと言おうとしたが、レイヴンの顔が言い切ったという表情になっていた為、彼女は何も言わないようにした。


「………何か来てるぞ………」


 突然の言葉にライトは、え?、と言って驚くが、言葉の意味に気付き、辺りを見渡す。

 だが、どこを見ても何も見えない。


「何がいるの?」


 そう問いかけるライトを尻目に、レイヴンは一点を睨みつけた。

 そして、口元に笑みが生まれる。


「………ヘア(のウサギ)だ」


 言った瞬間、レイヴンが睨みつけていた場所から、一人分の人影と賢石の光が反射して輝く刃が飛び出してきた。

 だが、レイヴンはその動きを読んでいたのか、背負っていた大剣の(つか)を握り、前へと振り下ろして刃を防ぐ。

 するとその人影は後ろに飛ばされた……が、宙返りで体勢を立て直し、上手く着地した。

 それと同時に彼は、その人影の近くに手元の賢石を投げる。

 投げられた賢石は、光を失わずに人影を照らし出す。

 照らし出されたのは、白い半袖のコートを羽織っており、同じく白い短パンを穿いている女性だった。

 だが普通の人間とは違い、頭に二本の長いウサギの耳が生えていた。

 そして、両手の甲には四本ずつ、計八本の長い鉤爪(かぎつめ)のような刃が装着されている。

 その刃を彼女は一度見、その刃をレイヴンに向けて身構えて問う。


「……どうしてわかったの?」

「なんだ、ヘアじゃなくてラビット(かいウサギ)か。通りで人間の匂いが混じってたんだな」

「レイヴン、人の問いにはちゃんと答えてあげなよ……」


 ライトは呆れ顔でため息を一つ。


「わ、私が飼われているって!? 馬鹿にしているの!」

「貴様こそ獣人ごときが人間に逆らおうっていうのか? お前ら獣人は報復戦争の時、人間に扱き使われていたそうだしな」


 その言葉を聞いた獣人族の女性は、苦虫を噛み潰したような表情になる。


「それは過去の話よ……! 今の私達は、自分達で集落を作り、自分達だけの力で生きている、誇り高き獣人族。だからこそ、人間と協力するつもりはないのよ」

「過去………か。くだらんな、いくらお前らが過去の話だと言っても、歴史には、記録には、そして記憶には、お前達の辱めは残るんだよ。しかもその上、ラビットじゃなくヘアだってか?」


 レイヴンは手に持っていた大剣を地面に突き刺し、

「それじゃあ、何で俺を狙った?」

「………時機に、ここの遺跡を目指して遣って来る者がいるの。その者の力は世界を、運命を変えられるほどの物だという言い伝えがある。だから私はその力を奪って、獣人族の歴史と運命を変えて――」

「くだらねぇし、長いんだよ。もっと短めに言え。獣人族のためにその力を持つ者が必要だとか何とかってな。………それで、俺にどんな関係が?」


 レイヴンの言葉に怒りを覚えつつも、獣人族の女性は彼に人差し指を向ける。


「貴方には、不吉の色が見える。だからこそ、貴方をこの先に行かせるわけにはいかないのよ!」


 その言葉を聞いたレイヴンは突然、声を高々と上げて笑い出した。


「ははははっ、不吉の色か、光栄だな! ――俺の名は不吉の意味を持つ、レイヴン。丁度いい、再調整したての大剣"クレイモア"の相手をしてもらうぞ!」


 言ってレイヴンは、地面に突き刺していたクレイモアを抜き、獣人族の女性に向ける。

 すると彼女は左足を前に、右足を後ろに下げ、両手の甲に装着されている鉤爪を胸の辺りに持っていき、再度身構える。


「戦士の心得はあるようね。――私の名はクレア・マルギス。獣人族の未来のために、貴方には死んでもらうわ!」

「何だよ心得って………まぁいいが。とりあえず、お前は半殺しにされた後

カジノで一生バニーとして働かせてやる。それがお前の未来ってやつだ」

「レイヴンって、戦いになると急にお喋りさんになるね」


 苦笑するライトを無視し、レイヴンは走り出す。

 それと同時にクレアも走り出し、その後、金属音が暗闇の森中に響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ