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第二十一話:新たな大陸を目前に

 太陽は沈み、世界は暗闇に包まれながらも、月の放つわずかな光が世界を薄く照らしている。

 その月を鏡のように映し出した海上を走る光の列、アクアトレインは二度目の汽笛を鳴らした。

 この汽笛は、ミーン大陸とカナン大陸の間を三分の二まで走ったという合図だ。

 その音を聞きながら、自分達の客室がある第六車両への歩みを続けていたユウとシヴァは現在、第四車両の中間あたりにいた。


「……なぁ、ユウ」


 途中、シヴァがユウを呼んだ。

 すると彼は、ペースを弱めて彼女の横に並ぶ。


「すまない、一つ聞きたいのだが……あの拳銃とかいう武器、あれはお前の世界の武器か?」

「………あぁ、そうだ」

「そう、か……――思ったのだが、あの武器は便利と言っていい物なのだろうか」


 シヴァは腕を組み、話を続ける。


「戦いに関しては強いだろう。あれを使えば、簡単に相手を殺す事が出来る。……だが、私は正直、あんな武器は許せないのだ。私達戦士は、訓練と経験で強くなれる。だが、銃は何だ?あんな物、引き金さえ引く事が出来れば、誰だって撃てるではないか……!」

「わかっている。だから俺は、いくら殺しの仕事であっても銃だけは使わなかった」


 ユウは、だが………と呟きながら腰のホルスターに手を添える。


「正直、コレを使わなければ、この旅を生きて終わらす事が出来ない気がするんだ。………次の大陸から、何かとんでもない事が起きる気がするからな………」


 それを聞いたシヴァはため息を一つし、組んでいた腕を崩して方を竦めた。


「何暗い話をしているんだろうな、私は。ここらで話を変えようか。――ミーナ異常なまでの可愛さについてなんだが」

「変わりすぎだっ。それに、もう少しで会えるんだから我慢しろよ」


 そう言ってユウは、いつの間にか第六車両の入口に到着していた事に驚きながらもスライド式のドアを手動で開けて、客室へと向かった。








「ん〜ッ冷たくて美味しぃ〜、やっぱり夏はこれだね!」


 シルクは、カイが買ってきてくれたアイスクリームを舐めながら歓声を上げていた。

 そんな彼女を見て、カイは苦笑する。


「いくら夏だと言っても、車内はエンリルの賢石が設置されているおかげで寒いくらいなんだぜ? なのに、よくそんな冷たい物を食えるな」


 それを聞いたシルクは、アイスクリームを持っていない左手の人差し指を立てて左右に振った。


「チッチッチッ、甘いよカイ君。夏だからという実感を心の中で持ちながら

冷たくてあまーいアイスクリームを食べる。これほどまでに嬉しい事はないんだよ? この世の女の子は、みんなそう思っているって。ねー、ミーナちゃーん?」


 問われたミーナは、アイスクリームを食べるのに必死なのか、声に出さずに、ただ頷いていた。


「そんなもんか? それはシルク達だけだと思うんだけど……――イタタタタタッ! ………何で!?」


「そーんなデリカシーのない人には、私の指で十六連打だぁ! まいったか、このやろうっ」


 そう言ってシルクは、勝ち誇ったような笑みを浮かべながら、再度アイスクリームを食べ始める。

 そんな二人を見て、カイは額をさすりながら苦笑していた。

 するとその時、入口のドアが、何の前触れもなく開いた。



「――なんだ? また食ってるのか、ミーナ」

「ははは、よいではないか。可愛ければ全て良し、だ」


 そんな会話をしながら入って来たのは、ユウとシヴァだった。


「あ、シヴァちゃんとユウユウだ! おかえりー」

「ユ、ユウユウって………」

「ユウユウ〜」

「ミーナまで………」


 その光景に皆が笑う中、ユウは苦笑し、同時にため息をついた。

 そんな中、シヴァは一つの疑問を持った。


「………そういえば、ネプチューンはどこに行ったのだ?」


 その問いに、皆もネプチューンがいない事に気付く。


「どこに行ったんだ? あいつ」

「こういう時は、名前を呼んでみればいいんだよ」


 言ってシルクは、両手を筒状にして口元に添えた。


「ネプチューンっ!!」

「呼んだっちゃ?」

「ひゃあぁぁぁっ!!」


 シルクが名前を呼んだ瞬間、突然入口近くの天井が開いてネプチューンが顔を出した。

 それに驚いた彼女は、反射的にカイにしがみつく。


「呼んだ本人が一番驚くなよ……」

「だ、だって、突然天井が開いたんだもんっ!」

「………少なくとも、驚いているのはお前だけじゃないぞ」


 ユウの言葉に、皆が彼の方を向くと、涙目を浮かべながら、彼の脚にしがみついているミーナの姿があった。


「あ、あれ? わっちのせい?」


 ネプチューンの問いに、誰も答える事なく、シヴァはミーナの近くに歩み寄ってしゃがみ込み、両手を広げた。


「さぁミーナ、私の胸に飛び込んで来い! そんな硬い脚に掴まっているより、私のこの恵まれた胸に!」


 シヴァの行動に、ミーナは少し戸惑いながらも、結局飛び込んだ。

 シヴァは、飛び込んで来たミーナを両手で抱き寄せ、頭を撫でる。


「か、可愛い………」

「……アホだな……」 「……アホだっちゃ……」


 同じコメントをしたユウとネプチューンは、互いに顔を見合わせ、同時にため息をした。

 それを見たシルクとカイは、思わず口元を引きつらせて苦笑。

 とその時、カイは何かを思い出したかのようにネプチューンを呼んだ。


「………なぁ、そういえばお前、何で天井に入ってたんだ?」

「おぉ! よくぞ聞いてくれたぜよ! 急に眠くなってきた時に、丁度全ての客室に二階が付いている事を思い出したんっちょ。だから、ここで寝ていたわけぜよ」


 その言葉に、カイとシルクは疑問を持った。


「………あれ? いつの間に入って来たの?」

「それは、おたくらがトランプで遊んでいた時ぜよ。すごい集中力だったっちゃ」


 そう、笑いながら言うネプチューンとは違い、その言葉を聞いていたシヴァは、怒りのこもった表情でカイを睨んだ。


「………カイ、お前は私の基礎訓練を受けて合格したのにも拘らず、こんな男の気配を察知する事も出来なかったのか?」

「こ、こんなって………」


 シヴァはネプチューンの呟きを無視し、話を続ける。


「どうやら、再教育が必要のようだな………カナン大陸に着いたら、完璧になるまで特訓だ!」

「そ、そんなぁ〜」


 カイはそう嘆きながら、崩れるように倒れた。

 そんな彼を見て、その場にいた全員が大笑いした。

 その時、アクアトレイン内に汽笛の音が響き渡る。

 これは、カナン大陸に到着する合図だ。

 その合図を聞いた皆は、降りる準備を始めた。


「……そういえば、カナン大陸ってどんなところなんだ?」


 カイの問いに、ネプチューンが進んで答える。


「カナン大陸は技術と商業に発展した町や都市が多いっちゃ。特に、このアクアトレインが向かっているカナン大陸の首都であるノアは、世界の賢石生産率を半分以上占めていて、産業が非常に盛んなたんめ、わっちら商人にとって始まりの町なんだぜよ」

「へぇ………面白そうな町だな!」


 そう言ってカイは、荷物を持ち始める。


「呑気なやつだな、カイは」

「それがカイの良い所じゃんっ! 私達も呑気に行こうよっ」


 そうシルクに言われながらも、ユウはため息一つして仕方ないような表情で立ち上がる。

 そして一行は、アクアトレインがノアに到着するのを待つのであった。

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