第二十話:二対一のトランプ対決
「さて、ユウがミーナちゃんを私達に預けていったんだけど……何をしようか?」
窓際で外を見ているミーナを見ながら、シルクは困ったような表情を作っていた。
その時、カイは何か思いついたのか右手を平たくしてポンッと叩く。
「そうだ、ネプチューンの荷物に面白そうな物がある気が………」
カイはそう言いながら、ネプチューンの荷物を探り始めた。
するとややあって、彼は何かを見つけたのか表情が変わった。
「……おぉ! いい物見つけたぜ! トランプだ、トランプ! コレで遊ぼうぜ」
そう言ってカイが取り出した物は、翼を抱き寄せるように縮めた天使が描かれた箱だ。
彼は早速、箱を開けて中の物を取り出す。
中から出てきた物は、色々な幻獣や神々と、隅に数字と模様が描かれたカードで、一番下にあったジョーカーには白と黒の背景が中心を境に対照的になっていて、その間に人間が描かれている物だった。
まるで人の心を写しているように。
「………なんかタロットカードみたいだね」
「言われて見れば………まぁ、数字があるからトランプだろ、たぶん」
カイは苦笑しながら、カードをシャッフルし始める。
そして彼は、その手を休めずにシルクに問う。
「………で、何をするんだ?」
問いに、シルクは顎に手を当てて考える。
その後、そうだ!、と言って窓際にいるミーナを指でさした。
「ミーナちゃん! ズバリ、トランプで何かしたい事ある?」
その問いにミーナは、首を傾げつつも答える。
「ん〜………ババ抜き!」
「よし、決まりだな――って、あぁ!!」
「ちょ、ちょっと、何思いっきりトランプをばら撒いているんだよぉ!」
「ごめん、手が滑って……と、とりあえず、自分の近くに落ちたカードを手当たり次第拾って。そのまま始めよう」
「む、無理矢理だね……まぁ、別にいいけど。いい具合に数字が被っているからね〜、ふふふ……」
シルクは余裕そうに笑いながら同じ数字のカードを捨てているのに対し、彼女の隣りにいるミーナは、手持ちのカードと睨めっこしながら慎重にカードを捨てていた。
「……よし、終わった。お前らは終わったか?」
「うん、私達も終わったよ――って、何でカイのカードはそんなにも多いんだよぉ!?」
「は、ははは……扇子みたいだろ………?」
思わず苦笑いしているカイのカードは十枚ほどで、カイが言った通り、扇状になるほどだった。
「ま、まぁ、じゃんけんでもして順番を決めようよ。それじゃいくよ、最初は――」
「ぐー………って、お前らなんでパー出してんだよ!」
「やったね、シルク!」
「あはは、その通りだね!」
シルクとミーナは、そう言いながら右手を上げてハイタッチし、室内に快音を響かせる。
「あ、あれ? これって卑怯なんじゃ――」
「それじゃあ順番は、私がミーナのを、ミーナがカイのを、そしてカイが私のを取るっていうのでいいね?」
そう言ってシルクは、ミーナの手元で小さな扇状に展開されたカードから一枚引く。
「やった、揃ったぁ」
シルクはその揃ったカードを捨てた。
それに続いてミーナも、カイのカードを一枚引いた。
「あ、私も揃った」
シルクに続き、ミーナまでもがカードを捨てる。
そして、次はカイがシルクのカードを引く番だ。
すると彼女の扇状のカードから、一枚のカードが頭を出した。
もちろん、カイの方からは裏面しか見えない為、それが何かわからない。
だが彼は、反射的にそのカードを引く。
その瞬間、シルクは口元に笑みを作った。
それもそのはず、彼が引いたカードはジョーカーだったからだ。
彼はそのジョーカーを見て苦笑し、すぐに後ろを向いてシャッフルし始める。
ミーナはその行動に、引いたカードが何なのかを悟ったのかシルクに近寄り、小声で話し始めた。
「………カイって単純だね」
「その通りだよ、昔っからあぁなんだ。扱いやすくて仕方がないくらい」
言いながらシルクは、クスクスッと笑う。
そしてその後、何かを思いついたかのように、あっと言ってミーナの耳に手を添えて小声で何かを提案し始めた。
「――っていうのでいい?」
その問いにミーナが小さく頷くと、シルクは再度口元に笑みを作る。
と、丁度その時、カイはシャッフルを終えたのか、彼女達の方に向き直した。
「よし、これで――って、何お前らニヤニヤしてるんだ?」
「別に何でもないよぉ? ねぇ〜?」
「うん、何でもないよ」
「な、何かお前ら怖いぞ………まぁいいか。そえじゃ、再開だ!」
カイは苦笑しながらも、再開の合図を出し、シルクはミーナのカードを引いた。
するとその時、ミーナはふと入口の方を向いた。
彼女は小さな物音を聞いたのだ。
だが、そこには何もなく、聞こえたのは彼女だけだった。
その事に首を傾げつつも、彼女はカイのカードに手を伸ばす。
数分後、列車の汽笛と共にカイ達のいる客室内で歓喜の声が響いた。
「あっがりぃー、いっちばーん!」
言いながらシルクは、最後のカードを捨てた。
残ったのは、一枚のカードを持ったミーナと、二枚のカードを持ったカイだけだ。
そして、次はミーナがカイのカードを引く番だ。
つまりは、彼女がジョーカー以外を引く事によって、カイの負けは決定する。
そのため彼は、念入りに二枚をシャッフルしていた。
その後、微笑を浮かべながらミーナにカードを向ける。
すると彼女は、迷わずにカイから向かって右側のカードを掴んだ。
その瞬間、カイの表情は見る見る内に変わり、焦りの表情になった。
「ほ、本当にそれでい――」
「うん、これでいいよ」
「………ミ、ミーナ、見逃してくれない?」
「え? ……別にいいよ?」
「ほ、本当か!? ありがとう! キミは俺のてん――」
「えいっ! あがりー」
「ノォォォォォォッッ!!」
「………作戦通りぃ………」
シルクの作戦(?)にまんまとはめられてしまった事に気付かず、カイは頭を抱えながら部屋の中を転げまわった。
そんな彼を、シルクは哀れみの目で見ながらほくそ笑んでいた。
そして、そのカイを実際に騙したミーナは、腹を抱えて笑っていた。
その後シルクは、立ち上がってカイい向かって人差し指を向ける。
「さて、敗者であるカイは、私とミーナちゃんに何か買って来てねー」
「えぇ!? 聞いてねぇぞそんな――」
「あ、私はアイスクリームね」
「おい、ちょ――」
「私もアイスクリーム! トリプルで、イチゴとチョコレートとメロン!」
カイに喋る隙を与える間もなくシルクとミーナが注文をした為、彼は唖然としつつ、ため息をついて立ち上がった。
その表情には、諦めが見える。
「………わかったよ、行ってくる………」
「さっすがカイ! それじゃ、行ってらっしゃーい!」
それを聞いたカイは、再度ため息をつきながら部屋の入口へと向かう。
入口のドアはスライド式で、向かって右側のスイッチを押す事によって開く仕組みになっている。
ちなみに入る場合は、通路側から向かって左側についている装置に乗車券を添える事によって開く。
これは、もちろん他の者の侵入するのを防ぐための物である。
その為、部屋ごとに乗車券が異なっているのだ。
だが、そのシステムを知らず、部屋に入れないと嘆く人が多いらしい。
カイもその一人だった。そのカイは通路に出た後、左右を交互に見て首を傾げる。
「………どっちに行けばいいんだ?」
頭上にクエスチョンマークが付くくらいに考えていると不意に、左に人が立っている事に気付く。
その人は黒いローブを着込んでおり、顔を見るからには男のようだ。
そして、不機嫌そうに紅い目でカイを睨んでいるようだった。
それもそのはず、カイは通路のど真ん中に立っていたからだ。
彼はその事に気付かず、男に問いかける。
「あ、あのー、ショップはどちらに行けばあるかわかりますか?」
問いに、男はしばらく無言のままでいたが、右手を垂直に上げて、カイから見て左の通路を人差し指でさした。
「………あっちだ」
その声には少し怒りが込められていたが、同時に仕方なさも感じ取れた。
「あ、ありがとうございます」
カイはその声に怒りを感じたのか、少し戸惑いながらも礼を言って、早足で男がさした方向へと向かった。
その時、男は去っていくカイを見ながら舌打ちをし、カイが向かった場所方とは逆の方向に歩き始めた。