第十九話:ソレは命を簡単に・・・
銃は卑怯だと、アイツは言った。
俺がいたジードという世界の、俺が住んでいた村で、毎日のように。
俺の世界では、銃が使われるようになる前まで、一般的に兵士は剣、弓などの近距離・中距離武器を使っていた。
剣や弓などは、訓練などの苦労を重ねて肉体と精神を鍛え上げ、その努力した分だけ力が発揮され、強さの源となる。
剣を振るうため、弓の弦を引くための筋力も求められる。
だが、銃はどうか。
引き金一つ引くだけで、簡単に命を奪ってしまう。指一本で一つの命が消える。
だが、俺はその銃をこれから使っていこうとしている。
もしアイツがそれを知ったら、何て言ってくるだろうな………
『まず殴られるわね。その後、永久に牢屋行き〜』
突然、ティファが明るい声で話しかけてきた。
感覚はないが、右の肩に手を添えて。
……ってかお前、言い方と内容が怖いくらいに違うぞ。
『過去の思い出に浸っているやつには、丁度いいのよ。――それで、どんな武器を買うつもりなの?』
それを今探してるんだ………ん?
不意に、一つの武器が目に留まる。
その武器を手に取り、刃を撫でる。
サイズは手の平よりも少し大きく、刃が弧を描くように曲がっており、フックのような形をしている。
そして、持ち手の部分の下には、分離したホルダーが付いており、ベルトに装着できるようになっている。
そして、そのホルダーを引くと持ち手の部分から、エターナルをしていると思われるチェーンが出て来た。
試しに刃を商品の棚に引っかけて、ホルダーを持ったまま後ろに下がり、長さを確かめてみる事にした。
するとチェーンは四、五メートルほど伸び、止まった。
『結構伸びるわね』
ティファの言葉に俺は、あぁと答える。
これは俺があっちの世界で使っていた武器とほとんど同じタイプだ。
『へぇ〜、こんなのをねぇ………』
俺の仕事には潜入もあったからな。
そういう時は結構役立った。
その言葉に対してティファは、あらそうと素っ気無く返事をする。
俺はコイツが会話を終わらせたと知り、武器探しを再開する。
「………いくらなんでもありすぎだろ………」
一車両分のスペースを丸ごと使った商品の棚の中間辺りでフック型の武器を見つけた後、結構歩いたと思ったが、まだ行き止まりが見えないでいた。
その途中、俺はエターナル仕様のナイフを十本と、太ももあたりに巻く事が出来るナイフが各四本まで収納可能なケースを二つ、ナイフを一本だけ仕込ませる事が出来る靴を一足、長剣を一本、カゴに入れていた。
そして今、目に留まった緑色の髪留めを一つ手に取る。
『……その髪留めは何に使うの?』
ん? これはミーナへのプレゼントだ。
こういう物は、持っていても損はしないからな。
『まぁ、それもそうなんだけど……こういう店には縁のなさそうな物なのに、商品として置いてあるのね』
同感だ………ん?
『どうしたの? さっきと同じパターン使って』
ほっとけ。
それよりも、俺の視界に入ったのは小さな輝きを持った白色の賢石だった。
俺はそれを一つ、手に取る。
手の平に納まったそれは、指に包まれてもなお、光が染み出している。
『その石って、ジードにあった、思い出の意味を持った記憶石に似てるわね?』
「あぁ、こっちではどんな意味を持っているんだろうな………とりあえず、同じ意味である気がする」
そう呟きながら、同じ賢石を六個手に取り、合計七個をカゴに入れる。
『あれ? 七個って事は………私の分も入っているの!?』
当たり前だ。
お前も………仲間の一人だからな。
『んもう、カッコつけちゃって〜かっわいいんだからぁ〜』
うるせぇな、顔を指で突くな。
感覚はなくても何か嫌だ。
……とりあえず、そろそろ店主のところに戻るぞ。
そう心の中で呟き、カゴを持って来た道を引き返す事にした。
行き止まりはまだ見えていなかった。
奥から戻って来たユウを待っていた店主は、彼が持っているカゴを見て微笑した。
それと同時に、カウンター下から電卓を取り出して会計準備をする。
「コレだけ頼む………いくらになりそうだ?」
「ほうほう、私目にとっては嬉しい量ですね……それでは会計を始めます」
そう言いつつ、指はすでに電卓を叩き始めていた。
「………ほう、これはこれは。お目が高いですな、賢石"イシュタル"をご購入とは………」
店主は嬉しそうな笑みを浮かべながら、ユウを見る。
それを見たユウは苦笑。
「あ、あぁ………意味があれだからな、えと……」
「意味は愛。そしてその名は愛の女神から取ったらしいです。所持者に限りない愛を与えると言われています」
「……少し違ったな………――いや、別物じゃないだろ、少し似てる」
「………………?」
店主は、ユウの呟きが誰かと会話をしているように聞こえ、不思議そうな顔で首を傾げるが、すぐに笑みに変えてヒヒヒッと笑った。
「数からして、お仲間さん達へのプレゼントですね?」
「え? あぁ、旅の安全を祈ってな」
「そうですか……では、少々お安くさせて頂きます。ヒヒヒッ」
再度不気味な笑い声を出した店主に、ユウは苦笑しながらも、ありがとう、っと告げる。
そして、会計が長引くと思い、近くにいるシヴァの元へと向かった。
すると彼女は、ユウが来るのを待っていたかのように問いながら振り向く。
「なぁ、ユウ。カイが持っている力の事、どう思う? ………正直に答えてくれ」
カイの力とは、異形をした左手で触れたものの時間を変える事ができる、時を超越する力であり、この旅が始まったきっかけだ。
その問いにユウは、少し考えてから口を開く。
「………時を司る、神の力………ともいえるな。正直に、と言われても返答に困る。だが、あれほどの力だ。この旅の支障をきたす事態は必ず起きるな。あいつを殺そうとする者、あいつの力を奪おうとする者、全てだ。………まぁ、時を司るほどの力だ。その内、時空をも司る事ができるかもしれない。その為にも、あいつを守ってやる。自分の世界に帰る為、それにあいつ自身少々気に入っているしな」
最後の言葉は微笑で、シヴァの顔を見て言った。
それに対してシヴァは、ありがとう、っと言って目を伏せる。
そんな彼女に、今度はユウが質問した。
「お前はどう思っているんだ?」
問いに、シヴァは苦笑。
「あいつは私の教え子だ。信じてやれなくてどうする? ……あいつとシルクには親がいないのだ。だから昔は私が世話をしていたから、自分の子供のように思える」
「そう……なのか。………そうだな。なら、戦える俺達が少しでも守ってやらないとな」
「はははは、カイは別にいいぞ? あいつは私が鍛えたのだから、そう簡単には死なない。それよりも守るべきやつらは、シルクとミーナだ」
その言葉にユウは、それもそうだなと言い、同時に二人は微笑した。
っとその時、店主は会計を終えて電卓をユウに向けて置く。
「………ではこちら、先ほどのご依頼された商品を含めまして、合計八十万六千ラノンとなりましたので、買い取り金、百万ラノンからこれを引きまして………私がお出しする金額は十九万四千ラノンとなりますが、よろしかったですか?」
「あぁ、それで充分だ。………それと、ガバメントのホルスターは完成したか?」
「えぇ、もちろんですとも。設計図と、ほとんど瓜二つですよ。ヒヒヒッ」
店主は不気味な笑い声を出しながら、奥の部屋から箱を持って来た。
彼はそれをカウンターの上に置き、箱を開ける。
すると中には、縦に長い形で、大きい穴とやや小さい穴の二つがあり、大きな穴には拳銃"ガバメント"が、やや小さな穴にはチャージャーが入る仕様となっていた。
そして大きな穴の方には、ガバメントが落ちないようにストッパーがついている。
ユウはそれを手に取って裏を見ると、そこにはベルトに通すための隙間が出来ていた。
彼はそれを見て頷き、さっそくベルトに装着し始める。
「――素材は、これまたエターナルを使用している為、軽くて頑丈という、最高の作品となっております。必ずや、良き装備品の一つとなるでしょう」
ユウは店主の説明を聞きながら、装着したホルスターを後ろに回し、ストッパーを外してガバメントを入れる。
その後、小さい方の穴にチャージャーを装着してマガジンをセットする。
彼はそれが気に入ったのか、小さく頷いて店主の方を向く。
「ありがとう、いい出来だ」
「気に入って頂いて何よりですよ。ヒヒヒッ」
その後店主は表情を変えて、それとですねと言って話を続ける。
「あの弧を描いた武器"三日月"を選んだのは何故ですか?」
「三日月、というのか。………ああいう形の武器を昔、よく使っていたからだ。俺にとって、使い慣れた武器なんだよ」
「そうだったのですか………では最後に――貴方のお名前を教えて頂けませんか?」
その言葉にユウは少し考えた後、答える。
「………ユウ・ウラハスだ」
「ありがとうございます。では………私はブルザット・ローエンです。それでは、またどこかで出会える事のを楽しみにしておりますよ」
そう言いながらブルザットは、ユウが購入した商品の入ったケースをカウンターの上に置く。
それはユウは手に取り、会えたらなと言い残して
シヴァと共に階段を降りて行った。
そして、残ったブルザットは口元に笑みを作った。
「会えますよ………この私と、そして三日月と出会ってしまった以上ね。ヒヒヒッ」
他に誰一人といない薄暗い中、不気味な笑い声が響き渡る。