第十八話:武器商店
所々に飾られたシャンデリアが少々揺れにより、一層綺麗な光を醸し出している車内の通路を、俺はシヴァの後ろについて歩いている。
先ほどまで一緒にいたミーナには、客室にいるカイ達に預けておいた。
あいつらならすぐに懐くだろう、と思っていると、急にシヴァが立ち止まった。
「……着いたぞ、ここだ」
気付くとそこには、今まで通って来た連結部分の扉とは少し違い"ここから先第二車両につき、関係者以外立ち入り禁止"という文字が大きく書かれていた。
「……お前、ここに書いてある文字が読めないのか?」
「早とちりするな、よく見ていろ」
そう言うとシヴァは、乗車券であるブロンズのカードをスーツのポケットから取り出し、扉の右側にある機械に通した。
するとその機械は、ピーッという音を立て、同時に扉が左にスライドした。
「は!? ……何で開いたんだ?」
「知りたければ自分のカードを見るんだな」
俺は言われた通りにカードを取り出す。
表には"アクアトレイン乗車用カード"という文字が彫られているが、裏を見ると"第二車両通行許可・武器商店使用許可"と彫られていた。
「……盲点だった……まさか裏にこんなものが………」
「何をぶつぶつ言っているのだ? 早く入るぞ」
そう言い残してシヴァは中に入って行った為、俺も急いで中に入る。
入った通路は、今まで通って来た通路と違い殺風景で、大人二人が隣り合わせでやっと通れるくらいだ。
カードには"武器商店使用許可"と書いてあったが、通路には武器どころかガラクタ一つすら置いてなく、ただただ真っ直ぐな通路を進んで行くだけだった。
そして、そろそろ第一車両の扉に到着しそうになった為、何もないじゃねぇかと言おうとしたその時、突然シヴァは左に曲がった。
不思議に思い、シヴァが曲がった場所まで行くと、そこには二階に繋がる小さな階段があった。
その階段を、俺は迷わずに上る。
その後、上りきった先で見た光景は、第二車両全域を敷き詰めるようにして置かれた、大量の武器だった。
目の前に広がる光景にユウは少し驚きながらも、内心は喜んでいた。
だが口元に出来そうな笑みを我慢して辺りを見渡すと、狭そうなカウンターにいる店主と思われる、白髪を無造作に伸ばした初老の男の姿と、その男と会話をしているシヴァの姿を見つけた。
「――つまりは、試しに持ってみたり装着してみてもよいという事だな?」
「えぇ、でないとお客様の信用を得られないのですよ。よって、代金は後払いとなっていますが………万引きは駄目ですよ?」
「もちろん、それはわかっている。なぁ、ユウ」
突然話を振られたユウは戸惑いながらも、あぁっと答えた。
「それもそうですね。ヒヒヒッ」
二人の言葉を聞いた店主は不気味な声で笑った。
ユウはその笑い声を不快に思いながらも、カウンター前まで歩み寄る。
その行動に店主は、やはり笑みをこぼす。
彼はその笑みを無視し、問いかけた。
「……一つ聞く。ここは買い取りもやっているのか?」
「よくぞ聞いてくれました、そしてその通りでございます。さすがに、この店にある分だけでは商品の種類が足りませんからね。こちらでは武器はもちろんの事、あらゆる部品やジャンク、宝石、賢石などを買い取りさせていただいております。ヒヒヒッ」
「そうか、それじゃこいつを買い取ってくれるか?」
ユウはそう言って、腰の鞘に納められていた剣を抜き出してカウンターに置く。
その剣は刃渡りこそ標準の物だが、刀身はありえないくらいに鋭く、純金のように輝いており、たくさんの宝石がちりばめられていた。
それを見た店主は、驚いて目を見開く。
「こ、これはすごいですな! 百万ラノンはくだらないですぞ!! ――ですが、金額が金額ですので……」
「わかっている。その金額分、ここで購入すればいいんだろ?」
それを聞いた店主は安心したのか、吐息を一つ。
「良いお察し、ありがとうございます。こちらとしては、二十万ラノンまでなら買い取り金額としてお渡しする事ができます」
「そうか………それじゃ」
ユウは言葉を途中で止め、あらかじめ部屋から持って来ていたカバンをカウンターに置く。
そして中に手を入れ、黒い塊を取り出した。
ゴトッという重みのある音と共に置かれたそれを見て、店主は問う。
「それは……なんですか?」
「知りたいか?」
その言葉に、店主は数回頷く。
「これは拳銃"ガバメント"という物だ。先日、俺達のいた村を襲撃したやつらが持っていてな。まだ世に出回っていず、俺がたまたま知っていた物で、魔力によって構成されや弾丸を高速で打ち出す武器なんだ」
そう言った後、再度袋に手を入れる。
次に取り出したのは長細くて黒い塊と、それよりも少しばかり大きい、四つほどのボタンがついた長方形の箱だ。
ユウはまず、長細くて黒い塊を持ち上げて説明を始める。
「これは弾倉と呼ばれる、銃弾を入れておく物だ。これをガバメントに入れる事によって、銃弾を撃てる」
そして、と言って次に持ち上げたのは長方形の箱。
「これは"チャージャー"と言って、これに弾倉を差し込む事で、銃弾を補充できる。だが、銃弾を構成するための魔力は装着者の魔力を使う為、連続使用は魔術師の素質があるやつだけだ」
ユウは説明を終えた後、三つを店主の目の前にまとめて置く。
「これらを入れるためのホルスターを作ってほしい。ベルトに装着できるようなやつを――」
「ちょっと待って下さい」
また別の物の説明を始めたユウを店主は一度止め、カウンターの下から、紙とペンを取り出した。
「お手数ですが、こちらに設計図を描いていただけませんか?」
問いにユウは頷き、ペンを取って描き始める。
その途中、彼の絵を見たシヴァは右手を顎に添えて呟く。
「なかなか上手いな。それに比べてカイの描く絵ときたら……」
ユウを見習って欲しいものだ、と言いながらため息をつく。
「………できたぞ」
シヴァが呟いている間に、ユウは設計図を描き終え、店主に渡す。
それを見た店主は興味深い表情をし、思わず笑みをこぼした。
「………これはこれは、確かにこういう形だと綺麗に納まりますな……ふむ、久々に腕がなりますよ。ヒヒヒッ」
「それとだな、ここで売っている物の値はどれくらいだ?」
「ええっとですね………ここの武器の多くは五年前、私の友人と共に極秘で発見した新素材"エターナル"によって永遠の命を与えられております。よって、銅や鉄で出来た物よりも軽くて使いやすく、折れる以外で武器が死ぬ事はありません。錆びる事なんてもってのほかです。その為、信頼を得られるような物にするためにお金を失いますので、売値はナイフ一本でも大体一万、短剣サイズで二、三万、長剣サイズで五万、大剣サイズで六万ラノンほどです」
そして店主は最後に、もちろん他店では取り扱っていない素材ですと付け加えた。
それを聞いたユウは満足そうな表情で頷く。
「なら、これのホルスターを五十万で最高の物に仕上げてくれ」
「五十万………ですか? ………わかりました、任せて下さい。きっと貴方様が満足できるような物に仕上げて差し上げますよ。ヒヒヒッ」
「あぁ、頼んだ」
ユウはそう言い残して、武器を見に行こうと後ろに向こうとすると、不意に店主が彼を呼び止めた。
「それとですね、この武器の話は当然、他言は――」
「無用だ。というよりダメだ。………こんな武器は、世の中に出回ってはいけない。せめて、この世界には………」
最後の一言に、店主は首を傾げながらも、わかりましたと頷いて、ガバメントの寸法を取り始めた。
その反応に対してユウは安堵の吐息をし、再度後ろに向き、奥へと向かおうとする。
すると、先ほどまでカウンター近くの棚を見ていたシヴァが彼の横に並んだ。
「………あの剣は、どこで手に入れたのだ?」
その問いに、ユウはしばらく間を空けて答えた。
「………アルグの村で、キリーって人に渡された。金に困った時にこれを売って足しにしな、って言ってな」
その答えに、シヴァは納得したのか、私の考えが外れてよかったと呟き、先ほど見ていた棚に戻って行った。
その後ユウは、彼女の方を振り向く事なく、近くに重ねてあったカゴを一つ手に取り、奥へと進んで行った。
薄暗い闇の中に。