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第十六話:戦争という名の惨劇

 アクアトレインが線路の上を走っている時に奏でられる、リズム感のある音が鮮明に聞こえるほど静まり返った客室で、シヴァは荷物から取り出した地図を開いた。

 その後、これを見てくれ、と言って右上にある長い大陸に人差し指を添える。


「ここは私達がいたミーン大陸。そしてここから南西、遠く離れたところにアッカドという大陸がある。そこには大昔から、一つの国があるのだ。それこそ、私達が皇国軍とよんでいる者達の故郷、バビロンを首都としたバビロニア皇国だ。対して南東にあるのが二十年前までバビロニアと対立関係にあったテクノス王国のあるカルディエールという大陸だ」


 ちなみに、と付け足してカルディエールを指で囲む。


「テクノスの兵士は、今やここで反皇国軍勢力"レジスタンス"として活動をしている。……テクノスは領地や兵力こそ多いものの、バビロニアの技術力には劣っていた為、二つの国は、条約によって中立状態となっていた。だがそれは、表向きであって実際は、いつ戦争が始まるかわからない、言わば冷戦状態となっていた。そんなある日、第百十三代目皇帝ギルガメシュ・ラヌ・ジ・バビロニアの娘であるシン・リグ・ジ・バビロニア姫が、テクノスとの友好を持つために執事であるシャマシュと数名の召使い、親衛隊を引き連れてカルディエール大陸のテクノスへと向かった」


 シヴァが一度、言葉を止めた時にユウが問いかけた。


「……そのシン姫ってのは、父親であるギルガメシュに命令されて行ったのか?」

「いや、シン姫は平和を望んでいて、自らの意思でテクノス王国に向かったっちゃ」


 問いに答えたのは、意外にもネプチューンだった。

 それを聞いたユウは、わかった、続けてくれ、と言った為にシヴァは頷き、話を再開する。


「その後、何事も無くテクノスの国王アーガイル・ジィ・グランドポールとの交渉を終え、友好条約の締結を済ませたシン姫は、アーガイル国王が用意した別宅で、二日ほど休む事となった。理由は、本当に友好関係を持つ事を望んでいるか確かめるためだ。そして二日後の最終日、惨劇が起きた。別宅への、突然の襲撃だ。シン姫の親衛隊は襲撃によって真っ先に殺され、残った者達も一人残さず殺され、全滅した」


 最後の一言に、ネプチューンを除く、全員が目を見開いて驚いた。


「ぜ、全滅って………やったのは誰なの!?」


 カイの問いに、シヴァは視線を彼に向け、告げる。

 テクノスだ、と。


「――ッ!? 友好条約とやらを結んだばかりだってのに、なんで自分から違反するような事をするんだよ!?」


「その意図は誰も知らんのだ。ともあれ、それがテクノスの仕業だとわかったギルガメシュは憤怒し、一気に世界を巻き込む戦争を起こした。言わば、開戦だな。対するテクノスは、開戦を待っていたかのように、蓄えていた武力と兵力をすべて投入した。だが、バビロニアの技術力と軍事力は圧倒的なものだったのだ。その為、わずか八ヶ月で、テクノスの敗北で終戦した。噂によると、早期終戦のきっかけの一つは、テクノスの軍で五本の指に入るほどの強さをもった戦士の一人が多数の兵士と共に、バビロニア側に寝返ったからなのだそうだ。………ここまでで、何か質問は?」


 呼びかけに、カイが、はい、と言って手を上げた。


「その寝返った戦士は、今はどうしているんだ?」

「うむ、カイは授業モードだな。関心、関心」


 シヴァはそう言いながら、数回頷いた後、問いに答える。


「………その者は戦死した。どこで、どのようになどの詳細は誰も知らないそうだ」


 そう言い終えたのと同時、今度はシルクが手を上げた。


「結局、アーガイル国王は何がしたかったんですか?」


「いい質問だ。――終戦後にわかった事なんだがな。実は、アーガイル国王は開戦前に死んでいたのだよ」


 その言葉に、再度全員が驚いた。


「ま、待て……それが本当なら、誰が軍を動かしていたんだ!?」


 ユウの問いに、シヴァは首を左右に振った。


「今となっては、誰もわからんのだ。テクノスの王族や軍の最高権力者など、国に関わった者達もまた、開戦前に死んでいたらしいからな」

「報復戦争は謎だらけなんだっちゃ………」


 ネプチューンの付け加えた言葉に、シヴァは、その通りだ、と同意して再度話を続ける。


「開戦が二十年前。終戦が十九年前だ。それからと言うもの、この世界はバビロニアが大半を領地として管理している」

「バビロニアは、アルグの時みたいに村を襲撃しているのか?」


 ユウが聞いた事は、カイが拾った時計を探していた皇国軍のような奴が、他にもいるのかという事だ。

 だがその問いに、シヴァは難しい表情を作った。


「……ギルガメシュは、娘と同じであまり戦いを好まない人らしいからな。

だが、いつの間にかギルガメシュは、そして世界は変わってしまったのかもしれないな………」


 深刻そうに言った言葉に、シルクは悲しそうな表情で言う。


「……やっぱり、娘さんが殺されてしまったからなのかな………――可哀想だよね、シン姫って。平和を愛していたから、戦争が起きないように条約を結びに行ったのに、その相手の国に殺されて、そのせいで戦いを好まなかったお父さんが変わってしまって………」


 その声は少し震えており、悲しみが込められていた。

 それを悟ったシヴァは、この子は本当に優しい子だなと、内心そう思った。

 すると、急にネプチューンが立ち上がった。


「すまん、ちょっと席を外すぜよ……」


 そう言い残し、ネプチューンは客室を出て行った。

 そして、この客室に残ったのは静寂だけだった………

バビロニア皇国

並びにギルガメシュなどの名前ですが

これはバビロニア神話を元に考えました

少し知っておけば、以外な何かがわかるかも、です


それでは次回もよろしくです

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