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第十四話:別れと出発

 夏の朝、小鳥のさえずりが街中に響く。

 そんな中、寝ていたシルクは暑苦しさで目を覚ました。

 まだ眠気のある目をこすりながら立ち上がり、窓にかかったカーテンを思い切り開ける。

 すると朝日の光が差し込み、シルクの顔を照らした。


「うぉ!? 眩しっ!」


 その眩しさに耐えながら窓を開けると、潮の匂いが混じった、涼しい風が入り込んでくる。

 彼女の上半身はTシャツ一枚だった為、冷たい風が露出している肌に直接当たり、とても気持ちがいい。

 そのまま、んー!、と唸りながら両手を上げて、力いっぱい背伸びをする。

 その両手を上げたまま、深呼吸を一回。

 二回目はさきほどよりも大きく吸い込み、そのまま反転、カイ達が寝ている方へと向く。

 そして、両手を筒状にして口元に構える。


「起きろぉぉ!! 朝だよぉぉ!!」


 彼女の大声は部屋中に響き渡り、眠っていた者は皆、勢いよく起き上がった。


「……え? もう朝ですか?」


 カイは少し寝ぼけながら問い掛けると、シルクは大きく頷く。


「嫌な目覚めだな……」


 ユウは目を薄めたまま、彼女に対して文句を言った。


「はいそこ! 文句言わない! ……それともユウ、寝坊して置いて行かれたいの?」

「俺は寝坊な――……何でもない」


 今の彼女の言葉には、さすがのユウも歯向かえない……というか、言葉を返すのが面倒臭いようだった。

 その後、カイが部屋を見渡すと、ある異変に気付く。


「――あれ? シヴァは何処に行った?」


 っと、丁度その時、扉が思い切り開いた。

 そして、そこにはパンの入ったカゴを持ったシヴァの姿があった。


「お前ら、喜べ! 朝食を持ってきてやったぞ! 投げるから上手く受け取れよ」


 そう言って、パンを一つずつ投げる。

 その全てがそれぞれの手元にうまく渡った。


「商人の目の前で食べ物を粗末にする教師ってのもどうかと思うっちゃ……」

「ふん、なら食うな。自分で買ってくるんだな」


 シヴァはそう言いながら自分の分のパンを手に取り、持っていたカゴを床に置く。

 ネプチューンは、それはそれで困るぜよ、と言ってパンを食べ始める。


「……シルクとシヴァは似た者同士だな……」


 ユウは誰にも聞こえぬように、小さく呟いた。











 太陽が真上に昇り、夏の強い日差しが街中に降り注ぐ。

 時刻は丁度、十二時。

 この時間は、一行がレミィと駅で会う約束をした時間だ。

 しばらくするとカイが、遠くから走って来るレミィの姿を見つけた。


「やっと本人が来た!」


 レミィは一行の前で止まると、手を合わせて謝罪の意を示す。


「待たせてごめんねー! 手続きは無事に終わったよ。後は、このカードを駅員に見せるだけで乗れるから」


 そう言ってレミィは、全員にブロンズのカードを配った。

 そのカードは手のひらサイズの為、用意にポケットに入る。


「わざわざ手続きをしてもらい、感謝する。皆の代表として礼を言わせてもらうぞ」


 シヴァは軽く頭を下げ、感謝の意を表した。

 対するレミィは、気にしなくていいよぉ、と言って広げた手を左右に振る。


「――それじゃ、最後まで見送ろうかな。ささ、ホームまで行こう」


 そう言ってレミィは先頭を歩きだし、他のみんなはその後ろをついていく形で、ホームへと向かった。






 ホーム内。

 そこには、長くて巨大な列車が入口を開けて停まっていた。


「で、でっけぇな……」


 カイは口を開けて、列車"アクアトレイン"を見上げている。


「中はもっとすごいよ! 乗客一グループごとに一部屋用意されていて、他にも娯楽施設、食堂、小型商店などの設備が整っているの」

「すごすぎだろ……」


 レミィの説明を聞き、ユウは吐息を一つ。

 丁度その時、出発の合図である汽笛がなる。


「ほらほら、早く乗らないと置いていかれちゃうよ」


 そう言いながら、レミィは一歩下がり、手を振った。

 一行は、それぞれ感謝と別れの言葉を言って列車に乗り込む。

 最後尾、カイも言い終えて乗り込もうとすると、レミィが呼び止めた。


「カイ君、また勝負してよね?」


 その問いに、カイは親指をグッと出す。


「もちろんだ! その時は、勝ってやるぜ!」

「望むところだよ!」


 最後にカイは、それじゃ、と言って車内に入り込む。

 それと同時に扉が閉まり、列車が動き出した。

 その後、カイは振り向く事なく客室へと向かった。











 ホーム内に列車が走る音が響く。

 レミィは列車が見えなくなるまで手を振り、その後、本部へと帰ろうとした。

 すると目の前に突然、白衣を着た白髪の男と、その両サイドに並んだ、ボディーガードと思われるガッチリとした体型の男二人が、通る道をさえぎるようにして現れた。

 白衣の男の顔は酷くやせ細っており、目元には(くま)が出来ている。


「あっれぇやー、遅かったねぇ」


 白衣の男はボディーガードの二人に、君たちのせいだよ、と言いながら脇腹を突いた。

 それに対し、ボディーガードは無表情。

 その後、白衣の男はレミィの方に向き直し、不気味な笑みを浮かべる。


「まぁいいや、さて質問だよ? レミィ・エルマン。……ユウ・ウラハスという名を知ってるかぃ?」


 レミィはその言葉を聞いた瞬間、一歩後ろに下がり、身構える。


「おんやぁ? ボクにそういう行動をするという事は、どうやら知っているようだね? ……うん、それじゃ関係者として拘束できる、ねぇ」


 いかにも不気味な言動。

 そして、言い終えると同時に指をパチンッと鳴らした。

 すると、ボディーガードの二人がレミィに近づく。


「待ってよ! 私はこの町のバビロニア皇国軍隊ちょ――」

「そんな事、関係ないね。ウラハスを知っているやつは皆、拘束して情報を聞き出す。相手がどんなお偉いさんでも関係ないんだ。ここはボクの世界じゃないし」


 レミィの言葉をさえぎって言った白衣の男の言葉は、彼女には全く理解できなかった。


「自分の世界じゃないってどういう――」


 瞬間、ボディーガードの一人が、体型に似合わないような素早さで真横に着く。

 その動きにレミィは対応できず、首筋を手刀で打たれて気絶してしまった。

 そして、ゆっくりと倒れるレミィを、もう一人のボディーガードが担ぐ。


「はい、よくできました〜。さぁ、帰ろうね〜」


 白衣の男の上機嫌で不気味な声がホーム内に響く。

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