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第十三話:罪により得たモノ

 露天風呂の湯気によって出来た雫がポチャンっという音を立てて、水面に落ちる。

 その音と共に、ティファはゆっくりと口を開く。

 それは、静寂の終わりだ。


「――全てを失った。弟も、家族も、一族も、故郷も、全て……私が未熟だったから、好奇心で禁術に手を出し、膨大すぎる魔力を制御しきれず、暴走したの」


 その声は、わずかに震えている。

 無理をして言わなくてもいい、そんな言葉が脳内で生まれたが、口に出す事は出来なかった。

 それはまるで、好奇心が俺の言葉を出そうという考えを邪魔しているようだ。

 そして、ティファは話を続ける。


「その暴走によって一体の魔神を蘇らせてしまった。その魔神が私から全てを奪った。……それが許せなかった。魔神に対してではなく、弱い自分に対して」


 傷跡のついた胸を撫で下ろす。


「だからこそ、私は強くあるために禁術を使って魔神を封印した。……この胸の傷は、その時に出来たものよ」

『そうだったのか………それで、その魔神とうやらはもう現れないのか?』

「現れないわ。魔神は私の中に取り込んだの。そのおかげで、私の魔力は無限に近い量となった」


 数多の犠牲と引き換えに手に入れる事になった力、か……


『………よく悲しみを乗り越えられたな。何故だ?』


 その問いに、ティファはクスッと笑った。


「それはヒ・ミ・ツ、よ」

『なんだよ、それ……ここまで話したんだから、いいだろ?』

「また今度、機会があったら――」


 刹那、入口の開く音がした。

 見るとそこには、タオルを片手に持った全裸のカイが立っていた。


『まずいな……』 「まずいわね……」


 あいつ、カイにとっては、男湯のつもりで入った風呂場に女性が入っていた、という事になる。

 人生の日常でこれほどまでに驚く出来事はまずないだろう、たぶん。


「えと、あの、その……」


 カイは戸惑いながらも、少しずつ後ろへと下がっていく。

 そして最後に、すみませんでした!、と叫び、風呂場を飛び出していった。


「逃げちゃったわね……そんなに私の身体がよかったのかしら?」

自惚(うぬぼ)れるなよ……そんな事より、早く入れ替わるぞ! カイや他の客が来る前に、だ』

「えぇ〜、まだ身体を洗ってな――」

『また今度、風呂に入る機会をやるから!』


 ティファは少し間を空けて、しぶしぶだが了承してくれた。


「それじゃ、また魔力を開放してみて」


 俺は言われるがままに、魔力を少し開放する。

 すると、また意識が遠のいていく感覚がする。

 そのまま、眠ったような感覚に落ちていく……











 カイはありえない状況に直面してしまった為、勢いよく扉を閉める。

 彼はとてつもなく混乱していた。

 だからこそ、声に出して自分に言い聞かせていた。

 ここは男湯のはずだここは男湯のはずだここは男湯のはずだここは男湯のはずだ、と。

 だが、そう言い聞かせている内に、一つの疑問が生まれる。

 それと同時に、脱衣所を見渡す。

 そして、見つけた。

 カイの見ている先、そこには脱ぎ捨てられたユウの服があった。


「……おかしいな? ここにはユウの服があるのに、たしか風呂場にはいなかった……」


 それを思い出した瞬間、カイは急いで風呂場へと引き返す。

 だが、先ほど女性がいた場所には……ユウがいた。


「あ、あれ? ユウ、いつから居たんだ?」


 その問いかけに、ユウは困った表情をした。


「いつからって……最初からいたぞ? お前が入ってくるなり、叫んで出て行った時も」

「え? ……え? マジ?」


 カイの頭の中では大混乱を起こしているのか、何度も聞き返す。


「――ってことは……ユウが女性に見えたって事か? ……疲れているのかな、俺」


 彼は、ユウに聞こえないようにそっと呟く。

 その後、ユウはカイと交代するかのように、湯船を出た。


「え? もう行くのか?」

「あぁ、これ以上いたらのぼせそうだからな」


 ユウは短めの返事をして、カイの横を通る。

 すれ違った時、カイの左腕を何気なく見た。

 その左腕は、力を使っていないのにも関わらず、紋章のようなものが薄っすらと浮かんでいた。


「………どうした? 悲しそうな顔をして?」


 ユウが呟いた言葉が、カイの耳に届いていた。

 そして、ユウの方へと振り向くが、彼はもう風呂場を出ていた為、カイは首を傾げる。


「……空耳かな」


 そう言って、貸切状態の湯船に飛び込んだ。

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