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第十話:蘇る記憶

 二階の観客席から外へ出ると、そこにはバルコニーがあった。

 俺はバルコニーの柵にもたれかかり、吹き付ける風にあたる事にした。

 そしてゆっくりと深呼吸する。

 だが、痛みは治まるどころか、激しくなる一方だ。


「ぐっ!!」


 突然襲いかかってきた、今までに無い痛み。

 それと同時に、頭の中でさきほどの歓声に似た叫び声が聞こえる。

 だがその声は昨日今日聞いた声ではなく、もっと前に、この世界に来た時よりも前に聞いたような気がする。

 そしてその叫び声とは別に、低音の太い声が聞こえる……いや、思い出してる。


『やっと』


 この声は俺ではない。


『やっと見つけたぞ』


 この声を聞いた場所は……


『彼女の器となれる物を!』


俺が逃げてきた施設だ。


『これで全てを取り戻せる、いや始められるのだ!』


 そして俺は、ここへ来る前の、あの施設での事を全て思い出した……











 鮮明に思い出された記憶。

 それはまるで、頭の中で再生されるような感覚。

 俺宛てに来た一つの依頼。

 それは、指定された施設に侵入し、内部で行われている事を探るというもの。

 その時の俺にはいつも通り、簡単な仕事だと思っていた。

 だがその予想は軽々と外れてしまう。

 内部に侵入し、しばらく進むと突然、警報音が鳴り響いた。

 それと同時に数え切れないほどの戦闘員のような奴らが現れ、俺はすぐに捕まってしまった。

 その後、目が覚めると、実験室のような場所で何かの上に両手両足を縛りつけられていた。


「……はい、全てが順調なのでそろそろ"彼女"の準備を」

「あぁ、頼む。慎重にな………」


 近くでは二人分の男の会話が聞こえる。

 "彼女"とは何の事だろうか?

 だが、意識がもうろうとしている為、声がかすれる。

 すると突然、身体中に激痛が走った。

 その痛みで意識がハッキリとし、同時に俺の叫び声が響き渡る。

 その時、俺の中に何かが入ってくるような感覚があった。

 暖かく、だが悲しいような感情と共に。

 その後、意識が遠くなっていった………









『やっと思い出したようね』


 突然聞こえた声。

 辺りを見渡すが、誰も居ない。


「誰かいるのか?」

『見えるわけないじゃない』


 また聞こえる。

 どうやらその声は頭の中に、直接話しかけているようだ。

 テレパシーか?


『そんなわけないじゃない。私は貴方の中にいるのよ。精神の中に、ね』

「……は?」


 意味が解らない……

 もしそれが本当だとしても、信じられない。

 だが言い切れる事でもない。

 現に俺が声に出していない考えに対して、普通に会話をしているからだ。


『その通りよ、信じる事が出来た?』

「いや、まだだ……そもそもお前はいつ、どうやって俺の中に入った?」

『さっき思い出したとか言っておいてそれは解らないのね………何かが入ってくる感覚がしたでしょ? その時に入れられたのよ』

「驚いた………そんな事が出来るとは」

『そんな事の前に、私と話している時は声に出さない方がいいんじゃないの?』


 そう言われて、やっと気付いた。

 第三者から見ると、俺は独り言を言っているようにしか見えないからな……

 とりあえず、お前の名前を教えてくれないか?


『いいわよ。私はティファ・ローズ。一応、昔は名の知れた大魔導師だったのよ……ジードでね』

「何!?」


 最後の一言に驚いた。

 ジードは俺の住んでいた世界の名。

 って事はお前も俺と同じジードの人間か?


『そういう事になるわね。でも、ジードで私の肉体が存在していたのは三十年ぐらい前だけど』


 どういう意味だ?


『そのままの意味よ。私は肉体を失った後、精神体を捕らえられた。そしてその三十年後に貴方の精神内に同化、というより取り付けられた』


 何故、俺なんだ?


『それは、貴方と私の魔力形式がほとんど同じだからよ』


 魔力形式といえば、魔術を使う為に使われる魔力が溜められている部分の種類の事だ。

 だがそれは人によって異なる形式をしている。

 DNAとほぼ同じようなものだ。

 でも、それはありえないんじゃないのか?


『その通りよ。魔力の形式が同じ、と言う事は双子でなければありえない』


 だが、あいにく俺に双子はいない。

 それにティファが三十年前に死んだと言うのなら、尚更ありえないだろう。

 歳の差がありすぎる。

 なら何故、魔力形式が同じなんだろうか?

 わからない事ばかりだ。

 それよりも先に、知っておきたい事がある。


『何を?』


 俺とお前、入れ替わる事は出来てしまうのか?

 もし出来るのなら、先日の森での一件に納得がいく。


『……出来るわ。でも、その為には両者の魔力を一時的に開放、簡単に言えば私と貴方が、互いに入れ替わる事を許可する必要がある。だけど、片方が気絶している時も出来るわ。もちろん、入れ替わるのは精神だけね、身体はそのままよ』


 それはありがたいのかどうか、わからないな……

 じゃあ最後に、お前は生前、何をやっていたんだ?


『注文が多いわね………それはね、せ――』

「ユウ、カイの試合が終わったよ」


 ティファが言おうとした瞬間、背後から声が聞こえた。

 その声に驚きながらも振り向くと、入口にミーナが立っていた。


「わかった、すぐに行く」


 すまんが、また後で話そう。


『わかったわ』


 ティファは軽く答える。

 その返事を聞いた後、俺はミーナが伸ばす手を仕方なく掴み、闘技場内へと向かった。


「そういえばミーナ、さっき始めてカイの名を口に出したな」

「え? うん、少しは慣れたって事かな。でも、まだあの人達とは普通に会話は出来ないよ……」


 そう言いながら、ミーナは俯く。

 何か言ってあげたほうがいいな。


「気にするな、これから慣れればいいんだから」


 その一言に、ミーナは小さく頷いた。













「まだ、だめよ? そこまで教えたら……まだ彼は知ってはいけないのだから」

『え? ……そう、そういう訳ね。この世界にもいたのね、預言者が』


 そしてティファは最後に、会えて嬉しいわ、と言った。

 聞こえるはずがないとわかっていても……

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