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世界は運命を変えるほど俺たちを嫌う  作者: 池田ヒロ
第三章 罪人たちによる奪還戦
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奪回 ②

 その男は白い手袋をしていて、強く拳を握っていた。その握り拳から連想されるのは憤怒の一言で片付けられないほどの凄まじいオーラが放たれているではないか。


 今日は一世一代の晴れ舞台なのに。輝かしい黒の皇国の未来が自分たちを待ち望んでいる日なのに――。


 ハインは仮面を着けたままでも怒りを抑えることはなかった。


「……許さない」


 今はこの場いない大臣の代わりでもある副大臣が焦りを見せている。首都内での大騒ぎの原因を伝えてしまったことがいけなかったのか――否、違う。言わなければ、自分の首が刎ねる可能性の方がある。それでも、ハインの手にある式の最中に受け取った軍刀は抜き身だ。殺傷能力は皇国の軍刀と変わりないから、それをこちらに向けられたら敵わない。


「おい、今すぐに兵を市中及び、近隣の町に送り込め」


「お、お言葉ですが、すでにほとんどの隊が賊どもを捕えるために向かっております。何より――」


 その報告にハインは軍刀の刃を向ける。これに副大臣は小さな悲鳴を上げた。


「人の兵ではない! 賊どもはもう青の王国の連中だとわかっているはずだぞ!」


「ひ、人の兵ではないとすると……」


「決まっているだろう、MAD兵だ」


 ハインの発言にその場にいた者たちは怪訝そうに見つめてきた。


「皇子……」


「僕はもう皇子ではない! この冠が見えないか! この軍刀が見えないか! この国の主導権はすべて僕にあるのだぞ!」


「こ、皇帝、MAD兵を市中に投下するなど、国の民たちにとっては危険ですぞ!」


 そうだ、MAD兵――異形生命体を町に放り込んだとしても、皇国民に紛れ込んでいる彼ら。必ず彼ら以外にも犠牲者が出るだろう。それはいくらなんでも危険過ぎる。副大臣含め、その場にいる皇国の重鎮たちがハインを宥めようとするのだが――。


「市民など知るものか!」


 黒の皇国の新しき皇帝は民を捨てることを決定付けた。


「何かをするために必要なのは犠牲だ」


「それは――」


 それでもなお、副大臣は止めようとした。ハインは仮面越しより、威圧感を仕向けている。


「その事実であることは間違いないのも、また事実よ」


 その軍刀でハインは副大臣の首を刎ねた。再びよみがえってくる惨劇。礼拝堂には血飛沫が飛び散る。


「副大臣、貴様はクビだ」


 礼拝堂にいる者たちを見渡した。表情が読み取れないからか、より一層恐怖感が増している。


「貴様らの中で僕に逆らう者はいるか?」


 ハインの問いかけには誰も肯定しない。その言う通り皇国内でのすべての主導権は彼にある。逆らえない。止めることができない。いや、どう止めろと言うのだ。


 この国の新たな王は完全な暴君と化する。


     ◆


 その礼拝堂内での様子を偶然にも逃げ出して、誰もいない城内広場のモニターで見ていたマティルダは目を丸くした。『すでに』、首都に異形生命体を送り込んでいることから――次は近隣の町にも被害が及ぶかもしれない。


 この市中にあのバケモノを送ったのは――。


【私の一言でたくさんのMADたちがあなたたちの眼前に現れるんですよ?】


 おそらくはあの仮面の男の仕業。


 ハイネとレナータに連絡を入れようと連絡通信端末機を取り出すも、使えない状況だった。電波が届かなくなってしまっている。爆弾を仕掛けた者たちが連絡を取れないようにしたのだろう。これにマティルダが歯噛みしていると――。


「マティ!」


 怪物から追いかけられていたセロたちが戻ってきた。よかった。二人とも怪我がなく、無事で。


「無事でしたのね!」


「なんとか! だけれども、どうする? こんな混乱以上の混乱を……」


「それですが、ヴェフェハルさんは隣町の方に行ってレナータたちに伝えてきてくださりませんか!? あ、あのバケモノが皇子の命令によって首都はもちろん、近隣の町まで――!」


「何っ!?」


「それに、ザイツさんが訳のわからない人と戦っているんですのっ!」


 訳のわからない人と聞いて、二人は片眉を上げた。それは誰のことなのか。


「どういうやつなんだ?」


「全身黒ずくめに笑っている仮面を被ったあやしい人なんです!」


「笑っている仮面?」


 怒った表情をした仮面をした男、イヴァンならわかる。しかしながら、その笑っている仮面の男――セロはどこかで聞き覚えがあった。だが、思い出せない。こんな切羽詰まった状況が、記憶のサルベージを阻害してくるから。


 そうしていると、ガズトロキルスだ「うっし」と一足先に反応をした。


「じゃあ、俺が助太刀する。ヴェフェハルさん、連絡よろしくっス!」


 何かを思い出そうとするセロの考えを遮るようにして、ガズトロキルスが気合を入れ出すと、マティルダに「場所はどこだ?」と確認をする。


「私が指示を出していたところです」


「わかった。行ってくる。その前に、マティはヴェフェハルさんと一緒に行け。まだ向こうの町にはいないはずだろうだから」


 セロに頼んでもいいかと訊ねた。もちろん彼は承諾するが、マティルダは首を縦に振ろうとしない。


「いいえ、私もガズ様とお共を致します!」


 これにガズトロキルスはセロの方を見た。彼は頷く。マティルダの意志が固いと見通したのだろう。


「……なら、俺から離れないでくれよ?」


 共に行くならば、と二人は約束をした。


「ええ、絶対に離れたりしません!」


     ◆


 首都の隣町にて。ハイネとレナータがそれぞれ町の北と南に別れて脱出用の車でスタンバイをしている最中、遠くから爆発音が聞こえてきた。作戦が始まったのだ。どちらとも駐車している近くには地下水道路の入り口がある。キリたちが無事にメアリーを救出し、こちらへと戻ってこられたならば――。


 町の南入り口付近で待機するレナータは心を落ち着かせていた。やるべきことはただ一つ。メアリーを王国へと帰還させるだけ。


「大丈夫、大丈夫……」


 大きく深呼吸をしていると、車の窓がノックされた。それに肩を強張らせて音がする方を見ると、白髪頭の青年がいた。レナータは窓を開ける。


「こんにちは」


「どもっス。まさか、昨日が首都で今日がこの町でお会いするとは思いませんでした」


 頬を緩ませて笑顔を見せてくる。それにつられてレナータも小さく笑う。この人のその笑顔を見ていると、安心するのだろう。多少の緊張が解れてきた感じだ。


 レナータは手にしている物に気付いた。買い物袋だ。


「何か買われたんですか?」


「ええ。この町、蒸し菓子が評判いいらしくて。一個どうっスか?」


「蒸し菓子ですか?」


 そう言えば、奪還作戦において今日まで節約を要してちょっとした贅沢な物を買った記憶はない。袋から蒸し菓子を取り出して見せた。ほんのり甘くて美味しそうなにおいが漂ってくる。


「じゃあ、一つだけ……」


 レナータはその言葉に甘えるようにして、一つだけ受け取る。早速食べてみた。甘くて、モチモチしていて美味しい。決戦前の一時とでも言うべきか。温かさが体に沁み渡るようだ。


「美味しいですね」


「そうっスね」


 青年はどこか照れたような面持ちで頭を掻いていた。ややあって、彼は口を開く。


「あのっ、その……」


 この人に聞きたいことがあるのに、それが口に出せない。言いがたい。言いたいことが恥ずかしいと思ってしまう始末。おかしな話ではないはずなのに。


「どうされましたか?」


 それでもレナータは待ってあげた。本当はここで早く別れないといけない。もしも、キリたちが早く辿り着いた場合や皇国軍が追ってきた場合、巻き込むわけにはいかないから。


「えっと、お、お姉さんの……な、名前をお訊きしてもよろしいですか?」


 やっと言えた。苦節三年と半年。ずっと訊きたかったことだ。普段の自分ならば、誰彼構わず名前を訊くことなんて容易いのだが、この人だけ訊くに訊けなかった。誰か知っている人に訊けばいいのだが、それは自分の心が許せなかったから。己自身の口で名前を訊きたかったから。好きだと思う人であるならば、なおさら。


「ああ、そう言えば。お互いの名前、知らなかったですよね」


 なんて言うものだから、これにはハイチも顔を赤らめた。そうか、この人は自分の名前すらも知らなかったのか。残念のようで、嬉しいような――。


「私の名前はレナータ・ポータと申します」


「あっ、お、俺は――」


 ハイチが自身の名前を言おうとしたときだった。町の方から怒号と悲鳴の波が二人に押し寄せてくる。何事か、と思い彼は眉根をひそめて駆け出した。慌てて、レナータもその根源を見にいく。


 町の人たちの声の発信源は南通りの商店街だった。誰もがその場から逃げるようにしている。二人はその流れに逆らうようにして行こうとするが――。


 何があるのかわからない。レナータに危険な目に合わせたくない。そう考えたハイチは「あの人たちと一緒に逃げてください」と言った。


「みんなが慌てて逃げるのは何かあるに違いないから」


 ここはこの人の言葉に甘えるべきか。少しだけ迷いを見せたレナータではあるが、頷いて行こうとした。彼には悪いが、自分にはやるべきことがあるから。



「どこにいる、腕なしぃいいいい!!」



 自分を呼ぶ声が聞こえた。おぞましくも、低いその声は負の感情が募りに募ったものである。


 そうして、何かが二人の前に現れた。そこに立っていたのはぼさぼさの茶色かかった長い髪の女――いや、人とは言えそうにない。ハイチの腕と同様に真っ黒な皮膚の鎧を身にまとっているではないか。


「……なっ!?」


 目を疑うレナータ。巨大な体躯の異形生命体は見たことがあっても、こうした人型の実物を見るのは初めてだったから。眼前にいる女の異形生命体からは尋常ではないほどの憎悪がこちらに伝わってきていた。


 勝てない。そう思っているのはレナータだけではない。自分を守ろうとしてくれているこの人もそうであろう。ここは戦わずして二人逃げることが一番の賢い選択だろう。


「一緒に逃げましょう!」


 レナータはそうハイチに言った。彼女は自分のことを心配してくれているのだろう。一緒に逃げる。それはいけないことではないが、あの真っ黒な鎧の異形生命体は自分自身を探している連中の一人である。だからこそ、一緒に逃げられない。


「いいや、逃げてください。その間、俺が時間稼ぎしておきますんで」


 レナータに危害が及んで欲しくないからこそ、突き放す。どの道、この場でそれを仕留めておかなければ、この町も他の人も――標的であるハイチが見つかってしまえば、彼女にも被害は及ぶだろう。それは彼にとって許しがたいことである。


――何よりも……。


 戦闘中はあの異形なる者と近しい姿にならざるを得ないのだ。それだけは、レナータには見せたくない。嫌われたくないから。


「でも、あなたが……」


「俺は大丈夫です。皇国軍の応援が来るまでの辛抱なので」


 ハイチはそう言うと、店先に置かれていたイーゼルの看板を手に取り、黒い鎧の異形生命体に投げつけた。そして、すべての矛先を自身に向けるようにして挑発をする。


「俺が相手だ!」


「お前はっ!」


 髪から覗かせる目より、標的人物であるハイチの姿を捕えると彼のもとではなく、今がした逃げようとしたレナータの方へと移動した。


「こんにちはっ!」


 体をまとう鎧より、鋭い刃が形成されて――それはレナータの身体へと突き刺さった。その光景を見たハイチの頭は真っ白となる。


     ◆


 町の方が騒がしい。北側にいるハイネが気持ちを落ち着かせていると、前方に見知った誰かの姿を見つけた。外はね黒髪ショートカットの少女――アイリである。


 キリに殴られたアイリの頬は少しばかり、まだ腫れているようである。彼とは仲直りしたのだろうか、気になったハイネは車から降りて声をかけた。


「あぁ、ハイネ先輩。こんにちは」


「顔、大丈夫?」


「うーん。まぁ、痛いですけど、平気です」


「そう。キリ君とは仲直りできたかな?」


「はい、まぁ。それよりも、ハイネ先輩はこちらで何をされているんですか?」


「うん、ちょっとね」


 昨日はキリとハイネ二人に首都で会った。今日はこの町に来ているのだ。もしかして、ハイチでも捜しているのだろうかとも思った。下手に詮索はしない方がいいのかとも思う。なんてアイリが思っていると、妙な胸騒ぎを覚えた。


「…………」


 それがなんであるのか、と周りを見た。町を行き交う人たちの様子がおかしいと思える。誰もが何かに怯えているようだ。


「何があったんだろ?」


 それはハイネも気付いているようで、騒ぎの方向を見ていた。


「さぁ?」


 よくないことならば、ただの感で済ませたい。それでも、その感が当てはまりそうで不気味だ。確かめてみる他ないだろう。だとしても、ハイネは見に行けない。自分の持ち場があるから。もしも、様子を見に行っている間、キリたちが来てしまえば? 追手を連れてきてしまえば――。


「厄介事に巻き込まれたくはありませんからねぇ。人々に紛れ込んで逃げましょうか」


 アイリがハイネにそう提案した。この判断は賢明だとも言えるのであるが、行けない。


「……ごめん、行けないかな? 待っている人たちがいるから」


「ならば、俺が連れていってあげよう」


 ハイネの耳に聞き覚えのある声が聞こえた瞬間、アイリが動いた。彼女の背後の方に腕を伸ばす。金属音がうるさく聞こえた。


 一瞬の出来事。状況を把握すべく、ハイネが自身の真後ろの方へと振り返った。そこには茶色かかった髪に気味の悪い黒色の鎧を身にまとった男――イヴァンがいた。彼は腕を剣の姿へと変えて、アイリが仕向けた錆びた赤と黒の剣と競り合う。


「退けっ!」


 イヴァンはアイリの剣を払う。その拍子に彼女は力に負けて飛ばされてしまった。


「アイリちゃん!」


「他人の心配をしているヒマがあるか」


「その通りです」


 誰かの足下までアイリは地面を転がった。真上から殺気に感付く。反射的に、剣で何かしらの攻撃を受け止めた。それは自身が持つ剣と同じように赤と黒の剣である。その剣を持つのは全身黒ずくめに笑顔の仮面を被った男。


「どうも」


「あんたは……!?」


 男が手に持っているのは自分と同じ剣で間違いないのだが、何故それを彼が持っているのだろうか。アイリがこの寝転がった体勢からどう打破しようと模索していると、男はイヴァンの方を見た。


「ダメですよ、イヴァンさん。彼女を殺しては」


「…………」


「彼女は我々にとって必要なんですからね」


 なぜかその言葉を自分に向けられた。その意味とは――。


「あんたら、コインスト?」


「ははっ、さあ? どうでしょうね、『名なし』さん」


 アイリに対して言ったその名前。片眉を僅かながら動かす。それに気付く。彼女は男の脛に自身の踵を叩きつけた。その一瞬の怯みをアイリは逃さない。そのまま、足の甲へと踵落としをする。


 完全な怯みを見せた男からアイリは離れ、立ち上がって彼を睨んだ。


「……痛い、ですねぇ。イヴァンさん、彼女を例の場所まで『生かして』連れていってくださいよ」


 男の言葉にイヴァンはあまり気乗りしないような様子でハイネを見る。彼女は、自分は捕まらないという面持ちで見据えていた。


 ハイネに手持ちは何もない。丸腰の状態でどう逃げるか、アイリを助けに行くかと考えを巡らせた。可能だろうか。目の前にいるイヴァンは人の姿を成しているとは言いがたいのである。言わば、異形生命体――。


 マックスが自分を庇ってくれたときを思い出す。彼はあばら骨が折れ、内臓も危機的状況であった。その攻撃に今度は誰も助けてくれないだろう。自身でどうにかせねばならないのだから。


 イヴァンは多少の傷さえつけても問題ないと思っているようだ。腕の剣はそのままの状態。


 まず、ハイネがするべきことはただ一つ。イヴァンに捕まらないようにすることだ。


     ◆


 避ける、避けないのに今はどうだっていい。防げばいいから、とアイリは思っていた。現在、彼女と男は赤と黒の剣同士での攻防戦が繰り広げられていた。


 剣術なんてあまり得意ではないアイリには苦戦を強いられている。一方で男には剣の心得でもあるのか呼吸の乱れすらも見せていなかった。ここまでに彼女が躍起になっているのには理由があった。それはこの男が自分のことを『名なし』だと言い放ったから。腹が立つという思いもあるが、今はなぜにそれを知っているのかという疑問が頭の中を支配していく。それだからこそ――。


「粗い技ですねぇ」


 ばかにされた。アイリの剣撃を男は受け止めた。


「うるさいっ!」


 そのようなことを言われたのがきっかけで、アイリの怒りが再び湧き上がってくる。その感情が隙だとでも言わんばかりに、足払いをされた。彼女は慌てて間合いを取る。


「そんなにぷりぷり怒っていらっしゃるのは『事実』を言われたからでしょうか?」


 またしても挑発を向こうはしてくる。男のその言葉を聞こえないふりしたり、聞き流せないのか。アイリは男に拝み打ちをする。当然、見え透いた剣筋でいとも簡単に受け止められた。金属の競り合う音が煩わしい。



「……なんであんたが『名なし』のことを知ってんの!」



 それを知っているのは、自分と同じ――男が持つ剣と何か関わりがあっているのか。誰なんだ、こいつは。ハイチの手駒か? こいつに関する記憶なんてないぞ?


「それを知ることができたならば、あなたは何千何万――何億とも苦労することはなかったでしょうに」


 やっぱり、この男は何かを知っている。それを突き止めなければ、それを知らなければ!


 男の隙を窺った。いつ、どこで溜めが出るか。


――見せろ、出ろ、さらけ出せぇ!


 狙うは仮面。その顔隠しを引っぺがして、自分にやられたときの苦痛の表情を拝んでやる。さあ、ご尊顔といこうではないか!


 アイリは男がしている仮面に向かって一振りをかまそうとする。だが、後ろからの小さな悲鳴に思わず手が止まってしまった。


「それが、隙というものですよ」


 目の前に立っていたはずの男の姿が消えた。どこに行ったのかと後ろの方を振り返る。


「名なしさんは以外にも集中力に欠けやすいタイプでしょうか」


 男の姿を視界に捉えたときはもう遅かった。これもとっさで防御に入るが、力関係でまた飛ばされた。今度は受け身を取ったため、地面に転がることはないだろう。


 再び男の方を見ると、ハイネは傷だらけでイヴァンに捕まってぐったりとしていた。彼はアイリに剣先を向ける。


「さて、ここで名なしさんに選択肢を与えましょう。彼女を助けて死ぬか、彼女を助けずに死ぬか」


「はぁ!?」


 アイリに与えられた選択肢に戸惑いを隠せない。どちらの選択を選んでも自ら死ぬというのは、男は自身に対して本気で殺しにかかってきているのか。


「さあ、どうしますか?」


――そんなもの……。


 結論は決まっている。アイリは動いた。もしも、キリと仲直りができていなければ、彼女はハイネを見捨てていたのかもしれない。


【私はあなたがきちんとアイリちゃんだってわかっているから!】


 いや、そうでなくとも見捨てたりはしない。したくない。


――ハイネ先輩はあたしのことを――『アイリ・ハルマチという学徒隊員』のあたしを見てくれていたから!


 男に対して刃を向けようとするが、彼は急に屈み込んでハイネを――その攻撃は受け止めると同時に――。


「ハイネから離れろ!!」


 イヴァンの背後から脱出用の車を運転するセロが彼を撥ねるべく、体当たりした。しかし、フロントがぐしゃぐしゃにへこんでしまった。


 予想以上の出来事にハンドルを握るセロは苦虫を潰した表情を見せる。だが、アイリに攻撃を仕掛けている男の姿を捉えてそちらの方にハンドルを切った。車による体当たりに気付いた男は避けた。いや、逃走し出す。彼女が追いかけようとするが、地面に黒い爪のような物が突き抜け出てきてしまい、阻んできた。


 アイリはイヴァンを睨みつける。彼はハイネに手をかけようとしているではないか。


「バーベリ」


 セロも車から降りてきて、睨む。彼から沸き上がっているのは闘志である。復讐がためにハイネを殺すことを目的とした男は人の道を外れ、異形なる者として生きることを選んだ。それがイヴァンの末路とも言えよう。恐ろしいほどまでに人が持たないような黒い皮膚の鎧。それは絶対に人の心の奥底まで侵食していそうだった。


「ヴェフェハル先輩」


 セロにそう声をかけるアイリは赤と黒の剣を差し出した。妙な見た目のその剣はどこかで見たことのあるような淡い光を帯びているではないか。これでイヴァンを倒せとでも?


「言っておきますが、『あげる』のではありませんよ。『貸す』だけです」


 どうやらアイリはセロに可能性を賭けているようである。いや、正直な話、車は拉げてしまったし、丸腰で勝てる相手だとは思っていない。その剣がどこまで異形なる者に対抗できるかわからないが、この上にない救いとでも言えようか。


「わかった」


 セロは剣を受け取ると、構え――すぐに動いた。早速、一閃を払おうとするが、イヴァンがハイネを盾にしてきていて、思うように攻撃を与えることができなかった。手が止まってしまう。だからこそ、その隙をつかれて真っ黒な腕の剣を防御する他ないはずだ。


 しかしながら、この剣の刀身の強度は硬かった。あの剣撃は普通の剣や銃身であったとしても、折れていたことだろう。それほどまでにへこみも歪みもない。その代わり、手が痺れる。


「くっ!」


 武器の問題は解消できた。だが、まだハイネが捕まっている。それに彼女は気絶でもしているのか、ぐったりとしている。どうにかして、助け出さないと攻撃の仕掛けようがない。


 ここでセロはアイリにハイネを助けてもらおうと声をかけようと見た。だが、その姿はなかった。もしかして、ここは自分に任せてあのあやしい男を追っているのか。だとするならば、完全なる人任せ。いや、もうこうなれば、一人で助けるしかない。


 セロがもう一度、構えると、黒い剣は動き始めた。双方の刃が交わる。力はイヴァンの方が上だ。更に彼にとっては異形生命体と武器を手にして直接対峙するのは今回が初めてなのである。ここまでに力が強いとは思ってもいなかったらしい。あっさりと力負けして地面に転げた。それでもなお、セロは負けん気として体勢をすぐさま整えるのである。何か手立てはないものか。ハイチならば、どうしていたか。苦痛の表情を浮かべる。代わりにイヴァンはにやけている。


「首席ともあろう者がな。結局はただの人間だな」


「そういうお前は人を捨てているじゃねぇか」


「捨てちゃあ、いないさ。ヤナの仇を取るまではなっ!」


 イヴァンはセロに攻撃をぶつけてくる。それを受け止める。今度は飛ばされないように、力負けしないように。しっかりと足を地面に踏み込んで。


「ヤナが死んだのも、俺がこうなったのも、全部こいつの兄貴のせいだっ! あいつが脱走などとしなければ! 俺たちは、俺たちはっ!!」


 その剣を圧し折ってやるという気で、剣に追撃を叩き込んでくる。その多撃あってか、地べたに足が減り込みそうなほどの勢いだ。


 このまま、また力負けしてしまえば、自分はおろか、ハイネも殺されてしまう。周りに気を張れ、力を決して抜くな。


【道は拓けると!】


 ふと、この状況において、ソフィアの言葉を思い出した。そうだ、まだ負けてはいない。この状況から脱出できる方法は必ずある。どんな、些細な案でも構わない。この剣と同じように!


「……セロ……」


 話を聞いていたのか、イヴァンに捕まっていたハイネが呟くように涙を流していた。


【ハイチ、帰ってくるかなぁ?】


【帰ってくるよ、その内】


 連絡先もほぼ知らない。知っていたのはハイチが労働者の町へと働きに行ったことだけ。三年も音信不通で――偶然にも彼らの親代わりだったヒノが噂を聞きつけた。軍人育成学校へ入学手続きをしたという話を。たかが噂。そう、ただの噂でしかないその情報を不確かな希望にすがりつき――入隊式で再会した。


【よう、今まで何していたんだよ】


【あぁ? 何だっていいだろ】


 それと同じだ。アイリが持っていたこの剣は最初に見たとき、『赤と黒の剣』だった。それが今、『黒色だけの剣』になっている。


「今だ、ハルマチ!」


「合点承知ぃ!!」


 セロの合図にイヴァンの背後から近付いてアイリは『赤色だけの剣』を黒い鎧に突き立てた。その拍子にハイネは解放された。すぐに剣を引き貫くと、彼女を守るようにして剣先をイヴァンに向ける。


「てめぇっ!」


 その隙を狙って、セロはイヴァンの腹に斬り込みを入れた。イヴァンの体にまとっていた黒い鎧の腹の部分だけが砕け散る。手応えはあった。アイリが作った隙のおかげで倒せたのだ。彼を見た。イヴァンは地面に膝を着いて、項垂れている。


 一方でアイリは剣先を下に下ろした。だが、まだ油断はできないとでも言うように、ハイネの守りを止めようとしない。


 イヴァンに声をかけた。セロもまた剣は下ろさない。警戒は怠ることはできなかった。


「ハイチが脱走というのはどういうことだ? そして、お前の姉を殺したというのはどういう意味なんだ?」


 セロは訊きたいことを訊ねた。イヴァンは前にも言っていたから、嫌でも覚えていたことである。


【コインストから逃げたハイチ・キンバーを再び引き込むんだよ】


【ヤナはお前の兄貴に殺されたんだ】


 自分たちにとって、訳のわからないことが起こっている。ハイチもキリも――。


 質問にイヴァンは答えない。ただ、黙って呼吸をしているだけ。その代わりにアイリが口を開いた。


「その人の言う通り、クラッシャー先輩はコインストで半異形生命体に改造されて、腕なしとして生きていたんですよ」


 アイリの解答にセロとハイネは彼女を見た。


「ハルマチも知っていたのか?」


「あたしはただ、そう彼に聞いただけです。理由は知りません」


【ハイチ・キンバーが半異形生命体であったということは知っていたか?】


 ハイネはラトウィッジの問いかけを思い出した。


「けど、その人のお姉さんを殺したというのはあたしも知らないのですが」


「ちょっと待て、お前。ハイチに聞いたと言っていたが……」


 アイリのその言い方に引っかかりがあるようだった。


「それはいつ聞いた?」


「半年くらい前でしょうか?」


「アイリちゃん、ハイチの居場所を知っているの?」


 横目でハイネを見ると、アイリは「はい」と返してあげた。


 早速、ハイチの居場所を聞こうと二人が口を開こうとするのだが、イヴァンの方から軋む音が聞こえてきた。一同はそちらの方を振り向く。音の原因は彼の体から。黒い鎧は鈍い音を立てながら変形していく。背中からは二本の黒い巨腕が生え出した。その姿を見て彷彿させるのは前夜祭に現れた謎の仮面の異形生命体。イヴァンは苦しそうに呻き声を上げる。地面から突き立てていた黒い爪の壁も蠢き出した。


 やったはずが、まだやられていなかった。再び二人は二つの剣を構える。


「恐ろしいものですねぇ」


 イヴァンばかりに注視していると、真上からあの笑顔の仮面を被った男の声が聞こえてきた。誰もが上を見上げる。近くのビルの屋上に彼はいた。


「復讐は人の心をバケモノに変える。それはその内に自らの身体でさえも醜く、人外の姿に」


「お前っ!」


「ははっ、ここまでの成長を見せるとは恐れ入りました。どうやら私はディースさんと同じような才能があったらしい。これで私が手を汚さずとも、名なしさんを殺せますね」


 男の言葉にキレたのか、アイリが彼の方に立ち向かおうとする。だが、迫りくる地面から生えた黒い爪に邪魔をされた。どうしても、あの男の正体を知りたいのに。捕まえてやりたいのに。彼女はイヴァンを睨みつけた。


 イヴァンは焦点が合っていない様子だった。黒い鎧はまだ体だけだったものを、今度は顔すらも支配していこうとしている。口、鼻、耳――そして目。至る頭の穴へと黒い物は侵入していく。それは彼を完全に乗っ取ろうとしているのだ。その黒い物が支配して、自分の物にしようとしているた。アイリはそれがなんであるのかを知っている。


 黒い鎧として存在する物質の存在――『MAD細胞』。


 それにすべてを奪われたならば、それはもうイヴァンではない。人ではない。完全なる異形者。言うならば、復讐に支配された者とでも言うべきか。


「殺してやるっ。誰もかも、ヤナが殺されたようにして殺してやるっ!!」


     ◇


 幸せな家庭とは何だろうか。バーベリ姉弟はその幸せを知らずに育ってきた。


 生まれ育ったところは白の公国と黒の皇国の国境沿いにある町。けんかや窃盗、売春なんて常識。殺人なんて日常茶飯事の当たり前。そんな掃き溜めの町でもある破落戸の町でだ。


 親は知らない。生きているのかすらも、わからない。物心ついたときから二人きりだった。小さいから、幼いからどうすることもできない。ただ、捨てられたごみ山からその日の分の食べ物を見つける日々。誰にも見つからないように、人攫いに見つからないように、人気の多い時間帯でごみを貪り食べていた。


 五歳になったら窃盗も始めた。どちらかが店主の気を引いて、もう片方が盗むのである。八歳にもなれば金を持っていそうな人を騙して誘い込み、気絶させるまで殴って金品を奪った。


 自分たちは世間とは外れた生き方をしていると知ったときは店先のテレビで見た青の王国の町で暮らす人々だった。誰もが頭をお花畑にして、笑顔で過ごしている。家の中も綺麗だった。自分たちが暮らしている汚い倉庫とは大違い。


 何もかも、自分たちが持っていない物を彼らは持っている。それが羨ましくもあり、妬ましくもあった。ただ、青の王国の人たちのように暮らしている。それだけで町行く金持ちを恨んだ。特に珍しく破落戸の町にやって来た王国の者たちには身ぐるみはがす勢いで暴行、窃盗――殺害した。それほどまでにも彼らには恨みがあった。


 荒れくれた二人に転機が訪れたのは冷たい雨が降りしきる日のことである。いつものように日銭を稼ぐために通りが見える路地の方でターゲットを待っていた。


「準備いいか?」


「もちろん」


 イヴァンにそう言われたヤナはくすねたナイフを弄んでいた。


 しばらく待っていると、一人の黒髪の男性が二人のいる路地へとやって来たではないか。イヴァンはヤナに合図を出す。それに彼女が動き出した。


「んぉ?」


 突如として自身の目の前に現れたぼさぼさ頭の女の子。その彼女が手にしているナイフを突きつけられた。こちらに向けている目と同様の鋭さを見せていようである。


「怪我したくなけりゃ、金目の物出せ」


 男性の後ろにはイヴァンが立って、じっと見ていた。なるほど、二人で仕掛けてきたのか。


「面白いな、きみたちは」


 余裕の表情を見せる男に二人は片眉を上げた。ばかにでもしているのか。


「早く、金出せ」


「金ないのかい?」


 その物言いに二人は男を睨んだ。男の言い方に対して癪に触ったらしい。ヤナがナイフを持つ手に力が籠っているのがわかるほど。


「金があるならこんな生き方をしていない」


「もっともなことで」


 男はヤナに目の前を退くようにと視線で訴えた。だが、彼女は彼の言うことを利くはずもない。ずっとナイフを突きつけたままでいた。


「退いてくれない?」


「だったら、金を出せよ!」


 ヤナは勢いをつけて男に刃先を突き立てようとするが、腕を掴まれてしまう。そして、そのまま地面に伏せられた。冷たい地面の泥水が服の上から染み渡ってきているのがわかる。


「ヤナ!」


 イヴァンも隠し持っていたナイフで男を刺そうとするも奪ったので防いだ。


「怖い、怖い」


 二人は自身に鋭く尖った刃のような目を向けている。その視線は殺意であるが、男はそれでもなお、余裕の顔をしていた。


「退けよ」


「きみたち、ずっとここに住んでいるのかい?」


「だったら、どうする?」


 その問いに男はヤナから退くようにして、ナイフを下げた。それにイヴァンは構えたまま向けている。そして、男はナイフを地面に落とした。


「ずっとこうして生きるくらいなら、僕の用心棒として働かない?」


「……する必要なんてあるか?」


 この男にそのようなものなんて必要なのだろうかと思った。刃物を突きつけられてもなお、余裕の表情にあっさりと殺意あるヤナから奪い取ったのだから。


「いや、ただ単にきみらのことが気に入っただけ」


 差し伸べるのは悪意、敵意なしの手。初めて向けられた感情。


「イヴァン……」


「そう言って、俺らを捨てることは……」


「それはきみたちの働き次第。二人が使えないと思えるなら、こうして最初から誘わない。むしろ、こうしているよ」


 そう男が言うと、一斉に二人には見えないどこかからいくつもの銃口が向けられた。建物の窓から、屋上から、通りから、路地の奥から。凄まじい殺気が辺りを漂わせていた。


「俺たちを殺しているってか」


「どうする? この現状を受け入れて、僕と一緒に来るかい?」


 来るなら手を取れ、来ないならば今すぐに打ちのめして殺してやる。男からはそんなオーラが漂っていた。二人には選択肢などなかった、彼――エイキム・ソルヤノフに出会ったこと自体が大きな分岐点だったのだ。


 彼らは持っていたナイフを捨て、エイキムの手を取った。


     ◇


 身も心も復讐に染められたイヴァンは真っ黒な鎧に支配され、四つん這いになって三人を見ていた。黒い復讐から覗かせるその目の色は過激派キイ教の者たちが口を揃えて言う情なしの薄い目。どの民族が結ばれても持って生まれることのない――銀色の目だった。


「殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる」


 黒い爪が地面を抉る。


「何もかも、お前らから奪って殺してやるっ!!」


 イヴァンが飛びかかってきた。それにアイリとセロが赤と黒の剣で防ぐ。二人同時で防御態勢に入ったのに、先ほどよりも威力は倍増している。もしも、一瞬の気を許してしまえば、飛ばされて殺されていたのかもしれない。


 これは戦わずして、逃げる方がいい。セロは逃げ道を詮索するが、どこにもなかった。地面より突き出た黒い爪が壁となっているからだ。この空間はまさしく復讐を遂げるための庭である。これに囲まれたならば、どこにいても殺されてしまうだろう。


「ハルマチ! 気をつけろ!」


「わかってますよ、そんなことっ!」


 気をつけろと言っても、眼前にいる復讐者は危険因子だとわかりきっている。その攻撃を赤色の剣で防ぐ。ハイネにも気をかける。彼女は自分に危害が及ばないように身構えていた。


「うぎっ!?」


 セロの足がイヴァンの攻撃にやられてしまい、思わず膝を着いてしまった。


「セロ!?」


 こんな状況で諦めるものかとでも言うように、セロは黒の剣を杖代わりにして立ち上がった。そんな必死な彼らを見てイヴァンは壁に張りついて、ケタケタと笑う。その笑い声が爪の壁に反響し、不気味な音として三人の耳に入ってきていた。


 こんなところで長期戦などに持ち込めやしない。そう考えたアイリはセロから剣を返してもらい、赤と黒の剣へと展開させてイヴァンに立ち向かう。


――その意気、いいだろう。迎え殺してやる。


 イヴァンは殺意ある鋭い爪をアイリに向けた。だが、彼女にとってそれなんだと言うのだ。復讐がどうした、大切な人が殺された――。


――だから、それがどうした?


 その闇だけしか構成されていないような復讐心で勝てるとでも? そう思っているならば、とっても幸せなお花畑で、なんとも生温い話じゃないか。


 銀色の目と黒い目がぶつかり合う。その一瞬だけ、イヴァンの動きが止まった。アイリの目から見えたのは自分と同じ復讐の心。だが、その思念は自分よりもとても深く、深く――いや、底などない。その思いを知ってしまえば、そこから抜け出すことは不可能とでも言える黒。黒以上の黒。


――殺せるものなら、殺してみやがれ。


 爪と剣がぶつかり合おうとした瞬間――黒い爪の壁に轟音が響いた。その音にセロとハイネは見る。刃をぶつけ合う二人は見向きもしない。その大きな音が連続して鳴っているのに。いいや、見てはならないのだ。見てしまっては命取りだから。


 そう何度も連続した音が壁にぶつかり合うと、この場が揺れ始めてくる。そこで初めて二人は音に反応し始めた。


「な、何?」


 困惑するセロたち。そんな彼らを狙い始めるイヴァン。アイリを相手にするよりはこちらの方が一番手っ取り早いのだから。


「危ないっ!」


 セロがハイネを庇おうとする。その黒い爪が彼の背中に突き立て――る前に硬い黒い壁が突き破られた。突然の出来事にイヴァンは突き破られた方に視線を送る。


 壁の外にはずらりと並んだ大砲。


「総員、異形生命体に焦点を合わせよ!」


 野太いしっかりとした男性の声が響き渡り、壁の中に砲口が向けられていた。すべての目標はイヴァンにある。


 刹那――爆風が壁の中に包まれていく。それに巻き込まれた三人は地面に転がった。アイリは急いで体勢を整え直し、イヴァンの方を見た。彼の体中には穴が空き、黒いロープが貫いていた。地面には灰色の刃が刺さっている。それは砲台につながっていた。


「あ、あんたはっ!?」


「中にいるバケモノと罪人を捕えよ」


 壁の外に立っていた人物は金色の髪に口髭を蓄え、青色の目をした中年男性である。そんな彼は青の王国にいるはずのラトウィッジであった。

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