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世界は運命を変えるほど俺たちを嫌う  作者: 池田ヒロ
第三章 罪人たちによる奪還戦
52/96

所有

 計画とは何か、と彼は問う。


 彼は知っている。計画とはあること行うがために、あらかじめその方法・手段などを考えることなのである。もちろんそれを誰もが知っているはずだ。


 その問いに彼の友人は――。


「行き当たり、ばったりにならないようにするためさ」


 友人の答えに「ほう」と彼は声を上げた。


「そうだよな? エレノア様からいただいた資金もきちんと計画管理するべきだよな?」


「でも、欲しい物は欲しいよね? 団長だってそうじゃないか」


 笑う一人の眼鏡少年。


「お前だよっ! 一番無駄遣いしているのは!!」


 宿屋の一室のテーブルを叩く彼――団長ことケイ。そこにあるのはどれも新品のカメラである。購入資金は作戦資金から削った物なのだ。そのせいで、現在二人のグループはエレノアから預かっていた奪還作戦資金が底を尽きようとしていた。


「どうするんだよ、これは」


「どうも、こうも。お金を作らなくちゃね」


 なんて気楽に考えるヴィンは新しく買ったカメラの手入れをしていた。もっともなことをたまには言うなぁ。そう感心したケイはテーブルに並べられたそれらを手に取り、袋の中へと詰め込んでいく。


「な、何してんの!?」


「金を作るんだろ? 売るんだよ。しかも、まだ未使用物ばかりじゃないか。結構高く売れるはずだろ」


「嘘でしょ!? それ、こっちの国に来ないと売っていないレア物なのに!?」


「安心しろ、俺が持っている余計な物も売るから」


 何もヴィンだけでは不公平だとでも思っているらしい。自身の鞄の中を探ると、緑色の細長い箱を発見した。それを有無とも言わずして袋の中へと突っ込もうとすると、歌い出してきた。慌ててケイはヴィンに投げつける。



おお、我が子どもたちよ、

泣かないでおくれ。泣かないでおくれ。

あなたたちには罪はないの。

母親である私に罪があるから、

共にいることができないのを

許しておくれ。許しておくれ。

もうすぐ、日が沈む。

さあ、さあ、お眠りなさい。ぐっすりと。

夜明けに私はいなくなるけれども

泣かないでおくれ。泣かないでおくれ。



「うひゃあっ!?」


 箱の中から聞こえてくる笛の歌に未だ慣れないヴィンは、空けていた窓からそれを投げ捨ててしまった。流石にそれはとケイが咎める。


「外にいる人に迷惑をかけるなよ」


「だって、だって! 団長が投げてくるから!」


「いいから、投げた本人が取りに行け」


 そう言われ、納得がいかないらしい。口を尖らせて窓の下の方へと下りていった。その隙にケイはヴィンが買った新品のカメラを袋に詰めていく。もちろん、自分が買ってしまった余計な物も詰めて。そしてそれらを骨董品屋にでも売りに行こうと行動を移し始めるのだった。


     ◆


「ちぇっ、なんだよ。団長ったら」


 ヴィンはぶつくさと、下へ落とした緑の箱を回収に来た。よくもまあ、中身が出ることもなく、綺麗に地面にあるな。なんて思いつつも、それを拾おうとしたら別の誰かに拾われた。同い年ぐらいの少年か。物珍しそうに箱を眺めている。


「あっ、それわ――俺の……」


 ヴィンが少年に向かってそう言うと、素直に返してくれた。そして、その彼は箱を指差す。


「ねえ、それ何が入っているの?」


「これ?」


 拾ってくれたことだし、中身を教えてあげるものいいかな、と箱の蓋を開けた。白い横笛が姿を現すが、歌は歌わない。いや、気味が悪いだなんて言われずに済むからそれはそれでいいだろう。ヴィン自身、その歌う笛は未だに慣れない。ありえない話、おかしな話、噂話、幽霊話、おとぎ話と言ったものはなんでもござれな彼。嫌いではないが、実際に遭遇すると弱いのである。


「へぇ、きみって楽器でも演奏できるの?」


「いや、できないさ。自慢じゃないけど、演奏したことすらもない」


「なのに、それを持っているの?」


「どうせ、売りに行こうと思っていた物だから」


 そもそも、なぜにケイとヴィンの二人がその笛を持っているのかと言うと、ヨイチの家から出るときにかなりの強引さで持たされたからである。それで、こんな不気味な笛を持っていてもしょうがないからどこかに売りさばこうとしたいところだった。だが、この笛は独りでに歌う笛である。それはすなわち――鑑定中の店員の手の中でも歌うものだから――。


 いくらになろうが、引き取ってくれるところはどこもない。故に今日まで二人は持っていた。


「売っちゃうの? もったいないなぁ」


 少しだけ心惜しそうな少年はその笛を羨ましそうに見た。今、歌っていないことだし、あげちゃおうか? そんな思いがヴィンの中にあった。


「よかったらいる? 別にお金に換金しなくてもいいし」


 何より早く手元から放したいのが本音である。


「えっ、いいの?」


「もちろんさ。それよりも、演奏したりするのかい? 笛が欲しいってことは」


「うん。僕、音楽家になりたくて。今は楽器とかの勉強中かな。きみはカメラマンか何かなの?」


 少年はヴィンが首から紐で提げているカメラに注目した。笛を渡しながら「そうさ」と眼鏡の奥の目を光らせる。


「俺は戦場カメラマンになるのが夢さ。そうだ、一枚写真を撮らせてよ。未来の音楽家を撮りたい」


「僕を?」


「そう。箱から笛を取り出してさ。こう、演奏するふりをしてみてくれないか?」


 ヴィンは少年に頼み込み、一枚の写真を撮らせてもらった。写真に写る被写体はとてもいい笑顔である。それを見て彼は満足そうにした。


「うん、いい写真が撮れたよ。ありがとう」


「僕こそ、ありがとう。あ、ねえ、僕はパウラっていうんだ。名前、教えてくれる?」


「俺かい? 俺はヴィンだよ」


「ねえ、ヴィン。これくれたお礼に演奏を聞いてもらいたいんだ。だ、ダメかな?」


 なんとも嬉しいことが起きそうだ、とヴィンはそのまま承諾した。こういう風にして、誰かの演奏を聞くことは滅多にないのだから。


「ここら辺じゃ、怒られちゃうから河川の方に行こうか」


     ◆


「ふぅーむ……。これら、ほとんどが新品同様だけどこっちが引き取ってもいいの?」


「はい、構いません」


 一方その頃、ケイは骨董品屋にいた。査定してもらう物のほとんどはカメラばかり。一応自分の物もあったりするのだが、自分よりもヴィンの私物が多過ぎるのだ。


「結構な金額になりそうだなぁ。うん、これくらいでどう?」


 店員が査定金額を見せてきた。予想より高くてほんの少しばかり驚いたが、値段を低くされるよりかは断然いい。ケイは「それでお願いします」と頼んだ。


「はい、毎度あり。しかし、カメラばかり売りに来るのも奇妙だね」


「……同居人がこうでもしなくなるまで買い続けた結果です」


「変わった同居人だね。はい、これお金ね」


「どうも」


 お金を受け取って、ケイが店を出ようとすると、店員に呼び止められた。何だろうかと彼の方を見る。


「どうされましたか?」


「お客さん、ちょっとこういう噂を聞いたことない?」


 噂と聞いて店員の方へと近付いた。この手の話は自分よりもヴィンの方が詳しいだろう。だが、何の噂なのかは気になる。


「呪いの骨っていう代物がどこかにあるらしいんだけど、聞いたことある?」


 なんとも不気味な商品名だな、と思うが、そのような物は知らなかった。聞いたこともない。


「聞いたことはないですね。それって、どんなのですか?」


「なんでも、自殺した女の未練が詰まった骨で、何かの小物になっているらしい。昔、どこかの誰かがそれを購入したって聞いたんだけど」


「恐ろしいですね、それ」


 そのようなことを知っておきながら、購入する勇気ある人物はすごいな、とケイは純粋に思う。持っているだけでも呪われそうな物なのに。


「そう、恐ろしいのよ。それを持った人は呪いをかけられちゃうんだって」


 事実とは恐ろしい。


「して、呪いとはどんなのですか?」


 ここまで聞いた以上は気になって仕方がない。どうも、ヴィンの性格か何かが影響してしまったか。店員は周りに誰もいないことを確認した後、耳を貸せと言ってきた。別に誰かに聞こえても問題ないのでは、と不審ながらもケイは耳を貸した。


「誰かを自分の所有にしようとする呪い」


 思わず背筋が凍る話である。それほどまでに呪いというのは強いものなのか――。


 そう言えばと思い返す。キリが所有するあの過去の歯車も一種の呪いなのではないのだろうか。というか、あんなのがある時点でこういう呪いのアイテムなど存在するのに疑いの余地もない。


 慣れとはある意味恐ろしい。なんて考えさせられる。


「その呪いって、女性の未練と何か関係があるのですか?」


 もちろん、と店員は頷いた。


「昔、一人の女が子どもをどこかに捨てたらしく、自分は自殺したらしいんだ。子どものことが忘れられなかったんだろうな。その怨念が小物に宿っているらしいよ」


「無念ですね」


「そりゃあね。なんせその当時、数年間も作物が育たなかったらしいんだから」


「作物が?」


「ここだけの話、お客さんって青の王国の人でしょ? この国がどういう国がよく知らないでしょ?」


 見透かされていたか、とケイは眉をひそめた。


「ここの国、青の王国を敵対視しているのって狂信者や一部の皇国軍人だけだから」


「えっ?」


「本当は国民誰もなんとも思っちゃいないよ。隣国にある国、ただそれだけ」


「そうなんですか?」


「そう。そりゃ、確かにキイ教関連での取りしまりを実施していることには腹が立ったかもしれないけど、実際は一部が騒いでいるだけでしょ? こっちが巻き込まれて勘弁して欲しいくらいだよ」


 だから、お客さんもそういう人たちだけには気をつけてね、と忠告してくる。それをしかと受け止めたケイはお礼を言うと、骨董品屋から出る。道を歩けば、こちらの方を見る人はいても、それが嫌悪感ある視線だとは思わなかった。ただの外国人が歩いている物珍しさとでも言うのか。


 骨董品屋の店員の言葉を聞いて、ケイはなんだかやるせない思いに浸る。全体的に捉えてはいけないんだな、と。


     ◆


 町の中央に流れている河川敷。そこでパウラによる歌う横笛のプチ演奏会が始まる。お客はヴィン一人だけであるが、彼にとってそれだけで十分なのだった。


「じゃあ、一曲目は『勇ましき運命』でも!」


 どうやら黒の皇国の国家らしい。そう演奏してくれるのは嬉しい限りだとヴィンは思うのだが、彼は黒の皇国の国歌を知らない。だからと言って、知らないというのはあまりにも失礼だし、近くを通る見回りの皇国軍にでもその発言が聞かれたらたまらないだろう。故に知ったかぶりして聞くしかない。


 笛の音色を聞いて、見回りの皇国軍が微笑ましそうに自分たちを見てくる。口弾みに、鼻歌や口笛も聞こえてきた。混ざってセッションでもする気か。


 演奏を終えてヴィン及び、皇国軍人たちが拍手を送った。パウラは恥ずかしそうに照れている。


「いいぞ、坊主!」


「なかなか巧いじゃないか!」


 なんて絶賛をしている最中悪いが、知らない曲の良し悪しなどわかりっこないヴィンは一人だけ無言で拍手を送っていた。しかし、パウラは感想を訊ねてくる。


「巧く演奏できたと思うんだけど」


「うん、すごかったよ」


 とりあえず、適当に褒める。具体的には褒めない。バレかねないから。しかしながら、そんな感想でもパウラは嬉しそうにしていた。余程嬉しかったのだろう。彼は「じゃあ」と今度は周りに集まった群衆に顔を向けた。


「次、二曲目は民族曲の『故郷へ帰る』をします」


――知らないなぁ。


 ヴィンはただ、わからずに聞くしかなかった。


     ◆


 パウラの演奏会が終わった頃にはその周りにヴィンや皇国軍人だけならず、その音色を聞きつけた町の住人たちも集まっていた。誰もがよかったぞ、と拍手を送っている。あまりにもそれが嬉しいのか、パウラは気恥ずかしそうに照れていた。


「ヴィン、ありがとう!」


「そんな、俺は何もしていないよ」


「いいや、これをくれたからじゃないか! すごいよ、これは。魔法の笛みたいだ! これと僕が持っている笛じゃあ全然音色が違うもの!」


――魔法の笛と言うか、呪いの笛みたいだよな、それ。


 思っていることがあっても、決して口に出そうとはしない。


「よかったよ」


 周りに合わせておくがいいだろう。そう思っていると、皇国軍人たちがヴィンのカメラに気付いた。


「おう、そっちの青の国の坊主はカメラを撮るのか?」


 そう訊いてくる皇国軍人たちはヴィンが青の王国人だということをわかっていたらしい。バレてしまったのか。だが、ここは誤魔化してもどうしようもない。彼は否定せずに肯定した。


「え、ええ。撮りますけど」


 そう言ったとしても、誰も嫌悪感ある表情を見せてこない。むしろ、好感ある感じだった。それに少しばかり驚く。青の王国と黒の皇国なんて互いが互いを嫌っていると思っていたのに。


「ということは、こいつと一緒に夢を目指しているのか?」


「はい、そうですね。もし、よければ、一枚写しましょうか?」


 なんて親切心で言ったつもりが、周りに集まった人々の写真を撮る羽目になってしまった。いや、これはこれで構わないのだが――。


 写真を撮り続けていると、ヴィンはあることに気付いた。そう言えば、黒の皇国に住む人たちを初めて被写体として写しているが、誰もがいい笑顔をしているなと。それが嬉しいなと思う。なんだか撮っているこちらが楽しいと思えた。


【見ただけじゃ人の記憶にはずっと留まらないから。証拠を残すんだ】


 この人たちの笑顔を自身の目に焼きつけるだけでは駄目だと思った。彼らの笑顔がすてきだったことを、裏のない純粋な笑顔だったことを。これらを青の王国の誰かに伝えたい。そう思う。


――そうだ、団長にでも……。


 宿に戻ったらケイにでもこの写真を見せよう。彼ならわかってくれるかもしれないから。


     ◆


 宿屋の方へと戻ってきたヴィン。部屋の中ではケイが連絡通信端末機を弄っていた。誰かとメールをしているようである。


「誰とメールしているの?」


「ああ、エレノア様だ。もうすぐ首都に近いからな。そのことについての報告と今後の作戦を訊ねているんだ」


「この町から結構首都は近いもんね。それに移動距離も他と比べて短いし」


「そうだな。それと、他のみんなはまだ離れた場所にいるらしい」


 車での移動組――白の公国と赤の共和国から経由するならば、特に赤の共和国は一番の移動距離となるだろう。ならば、しばらくはこの町に留まっておいた方があやしまれずに済むか。


「ザイツ。三週間経ったらこの町を去るぞ。それまでに準備をしておけよ」


「三週間?」


 ここでヴィンの端末機にメールが入る。ケイからである。どうして至近距離にいるというのにメールだなんて――。


『一ヵ月後、首都にて皇子の戴冠式と結婚式の公開式典があるらしい』


 なるほど、だからメールを。


「しかし、これはどこから情報を? 私はこれでも毎日ここの新聞を読み漁っているけど、こんな物は……」


「国民の端末機にしか知らせないとかじゃないのか? 全世界に伝えるべきだろうが、その相手まで伝えることはしなくてもいいのかもしれない」


「そういうこともあるのか。で、そのときに、と……」


「そうだ。詳しいことはみんなが……な」


「ああ」


 ヴィンが端末機をポケットに仕舞い込みつつ、笛のことを思い出した。そうだった、パウラにあげたんだ。一応そのことを伝えないと。


「団長。あの笛だけど、あげちゃったから」


「あげた? 売ったんじゃなくてか?」


 怪訝そうにケイは端末機から顔を上げてヴィンを見た。


「そうそう。将来音楽家になりたいって言う子がいたからその子に」


「あの、気味の悪い笛をか?」


「見せたときも、持たせたときも歌わなかったよ。だから、あっ、これはいけるって思って」


「お前なぁ……」


 いや、持っているだけでワーワーと喚いてしまうような代物を手放しただけでもありがたいことか、とケイは前向きに考えることにした。そして、売る、売らないでこちらも思い出した。


「ああ、ザイツ。あの新品のカメラな、結構な額で売れたから」


「おお、それはよかった」


 なんてヴィンは手の平を見せた。一体何をしたいのか。


「なんだその手は」


「何って、私の私物からお金に換金したのだろう? それならば、その利益の七割ほどもらったっていいじゃないかい?」


「お前に金を渡した時点で、それはまたカメラに変わるだろうが」


 ヴィンは肩を竦めた。何もわかっちゃいないな、とでも言うようである。その仕草にケイは口を尖らせた。


「いいか? 三週間も滞在となると、費用も莫大になるんだよ。ザイツがもらおうとするその七割は宿泊代と食費だ。残りの三割は合流時の滞在費に宛てるつもりだ」


「ええぇ!? それじゃあ、欲しい物があったときはどうすればいいんだよ!? 私が持っている財布にはあんまりお金がないんだぞ!」


「いや、我慢しろよお前は!」


 ケイに叱責されて今度はヴィンが口を尖らせた。それを見て、小さくため息をつく。


「どうせこの町に長期間滞在するなら、噂話があるらしいからそれを調べていろよ」


「噂話!?」


 唐突に食いついてきた。本当に噂話が好きなんだなと思った。あまりにも食いつき過ぎて、前のめりになっているではないか。顔が近過ぎる。ケイは鬱陶しそうな表情を見せていた。


「近い、話してやるから離れろ」


 大人しくベッドの上に座った。わくわく顔のヴィンはさながら子どものようである。


「で? で? その噂話とは? この町の七不思議的な?」


「いいや、この町に限った話ではないらしいんだが、呪いのアイテムというのが存在するらしい」


「おお! なんだい、その面白そうなのは! 呪い!?」


――歌う笛見てビビっていたくせに。


 噂話だったら好きらしい。現物のホラー要素の物は苦手らしい。それがヴィン・ザイツという矛盾した男。


「なんでも、子どもを捨てた女の未練が詰まった骨の小物があるらしいぞ。それを所有すると誰かを自分の所有にしたくなるという怖い呪いだ」


「ほっほっ! 何それ、何それ! 楽しそう! その噂、ガンさんに訊いてみよう!」


 眼鏡を輝かせて連絡通信端末機を弄り始める。どうやらガンにメールでもしているのか。いや、彼ならば世界中にある噂などネットワークを通じて知っているかもしれない。


「あっ、返信来たよ! 何々……『黒の皇国では有名な話らしい』だってさ! うおお! 面白そうだな! 早速明日は町の図書館に行ってみよう! 団長もどうせ、ヒマだよね!? 行かないかい!?」


 テンションが段々と高くなっていくヴィン。だが、ケイはそちらの方に構っていられないのである。こうして彼と話している内にもフェリシアとエレノアからメールはどんどんと入ってくるのだから。奪還作戦においての相談を訊いてきているのだ。


 ケイは届いたメールを眺めながら「悪い」と断る。


「俺は作戦のことを考えなければならないんだ」


「えぇ。つまらないなぁ」


 ヴィンが端末機の画面を見ると、一件のメールが届いていた。相手はパウラ。そうだった、連絡先を交換していたんだった。ならば、彼からきてもおかしくはない。


『明日、もしヒマならば会わないか?』


「…………」


 ケイは作戦の思案に忙しい。片や、自分は滞在中は準備期間だとしてもすでに準備は整えている状況だ。要は暇なのである。ならば、パウラも誘おう。


『いいよ! 町の図書館の方に朝集合ね。面白い話を聞かせてあげるよ』


『面白い話? 楽しそうだね。じゃあ、また明日』


 これで明日は充実した一日になりそうだ。楽しみにするヴィンであるが、腹が鳴った。お腹空いたな、と買ってきた惣菜でも食べようとしたとき、あることを思い出した。


 撮った写真をケイに見せるんだった。


 ケイを見た。彼はメモ紙に何かを書いたり、端末機を弄ったりしていた。なかなか、どうして忙しそうにしているようだ。エレノアたちと作戦を考えている最中だ。流石に邪魔をするのは悪いかな、とヴィンはその写真を見せるのを先延ばしにすることにした。


――どうせ、今はそれどころではないって怒られちゃ敵わないもんなぁ。


 ヴィンは惣菜を食べながら、端末機にあるガン自作のゲームアプリで遊んでいることにするのだった。


     ◆


 翌日の町の図書館にて。ヴィンは朝刊を見ていた。相も変わらず結婚式については全く記載されていない。ネットワーク上のニュースページを見ていても何もなかった。


 もしかしすると、皇族側は『メアリー』と結婚することを恐れている? 王国からの報復に恐れている?


 エレノアたちがどこでその情報を手に入れたのかは定かではないが、自分が見つけた情報にはハインが婚約することと、それに伴った国際結婚の可能性があることだけだ。信憑性はゼロではないにしろ、そう考えておいた方がいいのかもしれない。何より、その情報が載っていたのは黒の皇国の首都圏内で発行されている新聞だった。この結婚というのにもネットワークのニュースページにはなかった。


「なんと言うか。祝ってもらおうって気はないのかなぁ?」


 この国の皇子が戴冠式と結婚式を同時で行う上に、公開式典を開催するという情報が入ったのだ。しかも、言うほど遠くない話。なのに国民は騒がない。騒ごうとしない。彼らも知らないというのか?


――わからないなぁ……。


 難しい顔をヴィンがしているときだった。


「何をそんなに悩んでいるの?」


 パウラが後ろから連絡通信端末機の画面を覗きに来た。これにびっくりして肩を強張らせてしまうヴィン。いつの間に背後にいたのだ。


 ああ、この画面が黒の皇国のネットワークニュースのページでよかった。もしも、ケイたちからの作戦指示メールなどと見られてしまえば一発でアウトだ。いくら、友人としてもパウラは自分にとって異国人であり、敵対する国の民なのであるから。


「えっと、ニュースを見ているんだよ。俺、こういう情報を集めるのが趣味でね」


「へぇ、ヴィンって戦場カメラマン目指しているって言っていたのに、やることは新聞記者みたいだね」


 そりゃ、軍人育成学校時代では新聞部に所属していたし。任務もほとんど諜報系だったし。色んな情報集めまくっていたら、三銃士軍団に入団しちゃったし。なんてことは言えそうにもない。


「そうかい?」


「うん、僕はそう思う。ところで、今日は何をするの? 今回は町中で演奏して、稼いでみるかい?」


 そう言うパウラは昨日あげた白い横笛を見せてきた。普通に手に取って、持っているということからあれから家に帰っても歌わなかったということになる。どうしてなのかさっぱりだ。


「いや、昨夜面白い話を聞いてね。なんでも子どもを捨てた女の未練詰まった骨の小物がどこかに存在するらしい。しかも、それは呪いつきらしくてね。どう? 面白そうだし、そのことについて調べてみないかい?」


「なんだか怖い話だけど、面白そうだね。だから、図書館に来てくれだなんてメールを寄越したんだ。いいよ、探してみよう」


 パウラのその言葉にヴィンは立ち上がり、朝刊を元の場所へと戻した。


「図書館、ってことは民話系の本に載っているのかな?」


 パウラが文学コーナーの方へと行ってしまったため、ヴィンは一度トイレの個室の方へと赴いた。今までのメールとこれから送られてくるケイたちの奪還作戦に関するメールと言ったメッセージの物だけをロック式のフォルダへ入れるため、それをガンに頼み込む。彼は快く引き受けてくれて、すぐにしてくれた。


『敵に見つかりそうなのかい?』


 ガンは心配そうにそのようなメールを送ってきた。


『ううん、大丈夫です。後ろからネットワークのページを覗かれただけなので、念のため』


『そうかい。それは気をつけてね』


『ありがとうございます』


「……よしっ」


 これで安心だ。個室を出ると、その眼前にパウラが立っていた。あまりの出来事に端末機を落としそうになる。落とさなくてよかった。壊れたら、連絡の取りようがないもの。


「ぱ、パウラ?」


「いや、ヴィンがどこか行こうとしていたから、その後を着けていただけさ」


「お、おう。お腹の中をスッキリしたくて来ただけだから……」


「なら、いいけどね。じゃあ、行こうか」


 ほんの一瞬だけどこへ連れていくつもりなのかと思ったが、自分たちは噂の話を調べに来たのだ。そのことで時間を使い、暇潰しをするためなのだ。


「えっと、パウラは文学コーナーの方を調べていてよ。俺はその置き去り事件みたいなのが新聞に載っていないか調べてもらうからさ」


「えっ? ヴィンもこっちで調べないの?」


「そりゃ、おとぎ話っぽい話だから文学を調べて出てくるかもしれないけどさ、もしかしたら本当にあった話かもしれないだろ? だから、わ――俺はこっちの方を探すよ。大丈夫、図書館内に入るからさ」


「うん……」


 どこか腑に落ちなさそうなパウラと別れて、ヴィンはレファレンス・サービスのカウンターへと向かった。そこで書庫に入っていて閲覧が可能な昔の新聞かつ、ヴィンが条件とする新聞に該当する物を探してもらった。


 その新聞の束を閲覧室へと運び込み、自分たちが探し求めている子ども置き去り事件についての記事を探していく。ちょうど、同じ頃にパウラも数冊の民話の本を持ってきた。


「それ、全部調べるの?」


 テーブルに置かれた新聞の量を見てパウラは目を疑った。まるで、一日中図書館で過ごすと言わんばかりに――。


「当然さ。見てみなよ、五十年前の新聞なんてある種の宝じゃないか」


「まあ、僕たち生まれていないだろうし」


「ネットワークを使ってでも調べてみたんだよ。でも、それって本当に信用できる物かわからないからさ、こっちの書物の方も調べる。これ、実は俺のモットーみたいなものなんだ」


「そうなの?」


「うん。確かにネットワークは便利だけどさ、誰もがそこに書き込みとかできるじゃない? でも、それが本当だとは限らない。だから、ちゃんとした本とか新聞とかで最終確認をするんだ」


「ヴィンってさ、結構しっかりしているね」


「えっ、そお?」


 そう言われ、ヴィンは照れたように嬉しそうな表情を見せた。


「そんなこと言われたの初めて……。友達にも言われたことないし」


――団長には真逆のことを言われたけど。


「その人、きっとヴィンを見る目がないんだよ」


「いや、どうだろう? 彼は普通に人に対する観察力はある方だと思うけどなぁ」


「実際はヴィンがそう思っているだけかもよ?」


「え? それはどういう――」


 パウラにその発言について訊ねようとするが、彼は調べに集中し始めたため、訊くことを中断した。先ほどのパウラの物言いは引っかかる要素があったような気がする。


 しかしながら、ヴィンもまた調べ始めると、その疑問をすっかり忘れてしまうのだった。


     ◆


 気がつくと、図書館員の人に呼びかけられた。我に戻る二人組。どうやら閉館の時間らしい。それならば仕方あるまい。そうヴィンたちは新聞及び、本を元の場所へと戻して外へと出た。辺りは真っ暗であり、お腹も空いている。早く宿の方へと戻ろう。


「真っ暗だけど、パウラは大丈夫? 親とか」


「ああ、僕は平気。同居人がいるくらいだからさ。向こうもさほど気にしていないと思う」


 そう言いながらもパウラは自身の連絡通信端末機を取り出して何かを確認し出す。たまたまその端末機の画面を見てしまったヴィン。とあるメッセージに気付いた。


『ハイン皇子の結婚式について』


 黒の皇国の民へのその情報の公開は国民の端末機に発信することだった? ケイの予想は当たっていた。


【国民の端末機にしか知らせないとかじゃないのか?】


 一つの仮説が思い浮かんだ。そうでなければ、話の辻褄が合わないから。国民の連絡先の情報に関しては、それの情報のシステムを管理する国営会社がそれぞれの国で管理しているはずだろう。世界共通というわけではないのだから。


「…………」


 じっと見てくるヴィンにパウラは片眉を上げてきた。何をそんなにこちらを見てくるのだろうか、と。


「どうしたの、ヴィン」


「何でもないさ。それよりも、明日もヒマならここに来てくれないかい?」


「もちろんだとも。なんて言ったって、きみは僕の友達だ。それじゃあ、また明日」


 パウラは手を振り、その場を後にするのだった。ヴィンは早速その旨をケイに伝えるべく帰路に着く。


     ◆


「……それは本当なのか?」


 部屋に戻るや否や、ヴィンはパウラの連絡通信端末機にそのメッセージが来ていたことを伝えた。だが、ケイはにわかに信じがたいと疑っているようである。


「本当だってば。パウラが端末機を弄っていたとき、見えたんだもの」


「とか言いつつ、皇国軍の罠かもしれないんだぞ? 聞けば、ワイアットやデベッガたちは反政府軍団員たちに遭遇しているとか言うらしいし」


「もしかして、私たちの行動が筒抜けなのかもしれないってこと?」


「だろ? あの二グループが遭遇して、俺たちが遭遇していないのは何かしらあるってことだ。ザイツはその昨日今日会った子には気をつけろよ。どうせ、明日も会うんだろ?」


「あら、どうしてわかったの?」


 ケイに見透かされ、ヴィンはそれを仄めかすようなことを言っただろうかと思い出そうとしていた。が、実際にそのようなことは言っていないし、発言をしたのはパウラと図書館で調べ物した帰りに結婚式についてのメッセージを見たということだけだ。


「長年の付き合いではないが、ザイツが考えることは大体わかるようになったからじゃないのか?」


「流石、三銃士軍団シルヴェスター団長」


「その肩書き、作戦成功してもないけどな」


「でも、私はその肩書きで団長と会っているんだからさ。今さら別の呼び方をしろと言われても困惑しちゃうなぁ」


「そうか」


 と、ここでケイはヴィンに対して一冊の本を渡してきた。それはキイ教教典である。なぜにそれをと眉をしかめる。


「俺はまだやることがある。その間、ザイツは図書館で呪いのやつのことを調べたり、それでも読んで過去の歯車についての何かを調べていろ。ゲーム音、昨日はイライラしたから」


「ああ、ごめんね。それならば、言ってくれたならばいいのに」


「嫌だ、ということをしてのけるのが、ザイツじゃないのか」


「失礼な。いくらなんでも昨日の状況は邪魔をしなかったさ。いや、するべきではないと思っているしね」


「ほお、珍しい。明日は雨か?」


 そんなことはない、と頬を膨らまかせながらヴィンはテレビをつけた。ちょうど天気予報が行われており、気象予報士曰く「曇天」らしい。


「いつも通りの曇りです、団長」


 してやったりの顔でケイに敬礼をする。だが、それくらいでケイは動じない。それがケイ・アーノルド・シルヴェスター――というわけではない。ただ言ってみただけ。


「そうか。じゃあ、テレビを消してくれ。気が散るから」


「はいはい」


 ヴィンはテレビを消し、教典を読み始めようとする前にとある考えていることを発言した。


「そうそう、団長。三週間以内にパウラのあのメッセージを手に入れてみせるから」


「ああ、できるならばでいい。よろしく頼む」


 いくら、自分が見たからと言ってもそれが証拠にはならない。それぐらいはヴィンもわかっていた。口にするのはただの証言であるから。ならば、証拠も揃えよう。論だけでなく証拠も必要だ。きっと、ケイには信用してもらえても他の者には信憑性の高いものかと疑心に陥るのが見えて仕方ないだろう。それに、それが偽のメッセージだった場合の期待外れも大きいだろうから。


 有言実行だ!


――よっしゃ! 頑張る……。


 早速序章の一ページ目を目に入れた瞬間、ヴィンのやる気は一気に削われてしまった。文字がびっしりし過ぎて見るだけでも億劫なのである。この文章の塊、ペナルティで書かされた反省文の五ミリよりも一回り小さい。よく、キイ教信者たちはこんな小さな字を見ることができるなと逆に感心してしまう。


 いいや、待てよ。もしかしすると、ケイはこの小さな字を見たくがないために自分に押しつけ――そんなことは流石にないか。彼はとても真剣な眼差しで端末機及び、首都の地図を見ているのだから。


 気力失くしながらも、ダラダラとヴィンはキイ教の教典を読んでいくのだった。


     ◆


 さて、パウラからどのようにして国からのメッセージを入手しようかと考えに考えて数日が経ってしまった。依然と変わらず図書館で古新聞アンド民話や郷土資料探しをしている。それを調べるにしてもここの図書館にある蔵書はほとんど調べ尽くしていた。


 まだ何も有力な情報を得ることができていない。子どもを捨てたり、置き去りにしたという非道な事件や民話等を見たとしても、それが呪いのアイテムにつながるとは限らないからだ。


「ヴィン、どうする?」


 これ以上の資料は出てきそうにないぞ、とパウラは怪訝そうにしてきた。二人は現在図書館内にあるカフェテリアにいる。


「ここまでないとすると、大きな図書館とかにはあるのかなぁ?」


 なんて手を組んで考えていると、ヴィンの連絡通信端末機より一通のメールが入った。ロック式のフォルダへと送られていないということは普通のメールだ。しかもケイから。


『今、図書館か?』


『その通りだよ。何かあった?』


 ケイに返信をしていると、パウラがじっとこちらを見てきた。無表情だから少し怖いなと思う。


「……何?」


「いや、誰――ヴィンの連絡機ってさ、変わっているよなって思って」


 そりゃ、外国製ですから。とは言いにくい。いや、言ってもいいけど。既製品ではないです、とだけは言えそうにない。


「ねえ、それ見せてくれる? 代わりに僕のも見せるから」


「えっ?」


 あまりの唐突さにヴィンはびっくりした。いや、悪いことではないだろう。これであのメッセージを見れるのだから。そして、できることならば、そのメッセージを自分の端末機に送り込みたい。


 だが、リスクもある。パウラが敵側である可能性。確信はまだない、断言もできない。ケイはありえると言っていた。ここは慎重にしなければ――。


 確か見られては危険なメール等はすべてロック式のフォルダへと移されているから、何も問題はないはずだ。たとえ、他の人たちの連絡先も消されたとしても、ケイの連絡先のメモ紙だけはポケットに入れている。これはどのグループもやっていることだ。もしもに備えて、グループ内の全員の連絡先をメモ紙に書いて所持しておくということ。


――余程のことがない限り、大丈夫だろう……。


「いいよ」


 早速、彼らは端末機を交換する。パウラの端末機は自分たちのよりも重量感はあった。だが、画面は大きい。画質もいい方である。


「ヴィンのって外国製?」


「うん、まあね。パウラのは国内製だよな。なんかデザインがカッコいい」


「そう。それ、人気のあるデザインだよ」


「へぇ、いいなぁ」


 なんて楽しく会話をしながら結婚式についてのメッセージを探った。メッセージはすぐに見つかった。





緊急通達【重要:警告】:ハイン皇子の戴冠式、及び結婚式の式典について。


 ハイン皇子の戴冠式、及び結婚式の式典について重要なお知らせです。某日に首都城内広場にて公開式典を行います。

 お祝いにおいての 「すべては首都で」 行ってください。なお、詳細は首都内城門前の看板と黒の皇国国民ネットワークサービスの重要事項に記載しております。

 規定を守らなければ、処罰致します。みなさまのご理解とご協力をよろしくお願い致します。





 この文面。それならば、誰も結婚式など地方の町で祝うことはないだろう。公共の電波で、テレビのニュースなどしないだろう。だからこそ、自分たちは知らない。それはもちろん、別の国を経由して入国してくるキリたちだって。


――すべては首都で……?


 ただ、疑問はあるが、そういうことか。町全体を上げてのお祝いはもちろん。お祝いのメッセージも、報道もすべては首都でしかやってはいけないということだ。ローカルですると、どこかで誰が聞いているかわからないから。ニュースでも首都に住まう人にしか向けることができないし、ワールド・ネットワークだと全世界へ網羅してしまう。発信するならば、黒の皇国の独自ネットワークでなければ。


――なんと言うか、このことについて世界中にバラしたくないというような……。


 とにかく、このメッセージを入手した証拠をメールを自分の端末機に。ヴィンは慣れない連絡通信端末機に戸惑いながらも自分宛てのメールを作成した。ロック式のフォルダへとすぐに送れるように、フォルダの方へと転送されそうなキーワードを入れていく。


 一方でパウラは物珍しそうにヴィンの端末機を弄っていた。見たことのないゲームがあったり、知らない、彼の友人たちの連絡先があったり。


「…………」


 何を考えているのか、パウラは受信ボックスへとやって来た。そこには先ほどのケイとのやり取りがある。


「ねえ、ヴィン。団長って誰?」


「あ、ああ、友達だよ。あだ名が団長って言うんだ」


 しまった、とヴィンは心の中で舌打ちをした。連絡先登録するにあたって、ケイだけ『団長』という名前で登録していたからだ。


「ふぅん」


「あっ、もしかしてメールでも来た? 来たやつ、気にしなくてもいいよ」


「うん」


『ちょっと戻ってこい』


 ケイからメールは届いている。それにパウラは勝手に返信をし始めた。


『友達と遊んでいるから忙しい』


 送ると、すぐさま返信が届いた。だが、それはロック式フォルダの方へと勝手に転送してしまって肝心の中身が見ることができない状態になってしまう。


「ねえ、ヴィン。なんか、ロック式のフォルダでもあるの?」


「そうだけど?」


 やはり食いついてきたか、とヴィンは苦虫を潰した表情をする。彼はつい先ほど、あのメッセージを送り込んだからである。


「誰から送られてきたんだろうね? 気になるんだけど」


「……秘密。俺もパウラも人に見られたくない物とかあるだろ? それと同じだ」


「ないよ。友達同士だし。きみは僕の友達だ。だから、そうしてヴィンに端末機を見せているじゃないか」


「悪いけど、ダメ」


「ちぇ」


 一応、食い下がってくれたとでも言えるか。特に訊いてくることはなくなったようだ。


『おい、お前いいから戻ってこいって』


『嫌だよ。戻りたくない』


『子どもかよ、早く戻れよ』


『ヤダ』


『わがままもいい加減にしろよ!』


『鬱陶しいんだけど』


『何が鬱陶しいだ。

お前だって鬱陶しいほど俺にカメラを向けてくるくせに』


「…………」


『死ね』


 端末機の画面を見て茫然とするパウラに、ヴィンは声をかけてきた。


「どうかしたか? 具合でも悪いか?」


「……いいや。それよりも、ヴィン。僕の家に来ないか?」


「えっ? 急に何?」


 もしかして、メッセージを自分のメールに送ってしまったことがバレてしまったのかと気構えしてしまう。それに対して、特に気にすることもなく、パウラはケイとのやり取りすべてを削除して電源を切って返した。それと同時にヴィンも端末機を返す。


 なぜに電源を切った? ヴィンは訝しげに再び電源を入れ直して、受信ボックスの方に確認しにいく。ケイから一通のメールと自身が送ったメールが届いていた。早速彼からのメールの内容を確認する。


『お前、なんなの本当。呆れた』


 図書館にいることを伝えただけだなのに。別に行ってもいいと言っていたのに。ケイは連日作戦を考えていることに苛立っているのか?


『何? イライラでもしているの?』


 そう返信を送るが、その返事は全くなかった。なんだかムカついてくる。ヴィンが眉間にしわを寄せていると、パウラは心配そうに顔を覗かせてきた。


「どうかしたの?」


「いや、何でも。それより、パウラの家に行くんだっけ? いいよ、行こう」


 ほとぼりが冷めるまでケイと話さない方がいいのかもしれない。


     ◆


 パウラの家は町外れの小さなアパートだった。実際に建物の中へと入ると、いの一番にリビングがあり、その奥にはキッチンがあった。更にその奥には二階へと続く階段がある。どうやら、一階の壁や何やらをくり抜いて二階をプライベートルームに仕立て上げたシェアハウスのようであった。


 他の者たちは外出なのか、はたまた自室にいるのか。一階には誰もいなかった。


「共同生活でもしているんだっけ?」


「そうだよ。すごく楽しいよ、こういうの」


 パウラはにこにこと、嬉しそうに自室へと案内していく。キッチンを抜け、階段を上っていくと――。


 階段近くの部屋のドアが開かれていた。中には誰もいない。不用心な部屋である。


「誰もいないみたいだけど?」


「いるよ。きちんと」


 しかし、その部屋はもぬけの殻である。別の部屋にでもいるのか。その隣の部屋はきちんと閉めきっており、部屋の中がわからなかった。だが、そこに誰かがいるという気配はあった。もしかしすると、階段近くの部屋の住人は隣の部屋に遊びに行っているのかもしれない。


 そのまた隣の部屋は閉めきっているし、またまたその隣もだ。パウラの部屋は一番奥の部屋だった。中へと入ると、色んな楽器やら楽譜の本があった。もちろん、あの白い横笛も机の上に飾ってある。どうもそれを一番大切にしてくれているみたいで、少しばかり嬉しかった。


「パウラって笛だけじゃなかったんだね、演奏するの」


「うん、色々するよ。弦楽器や金管楽器とか。でも、あんまり部屋ではしないかな。この前みたいに河川敷とかで練習をしているよ。周りに怒られちゃうからね」


「まあ、共同生活をしていたらそうだろうね」


「あっ、それで思い出したんだけど。今日の夕食、ここで食べて行かないかい?」


「えっ、いいの?」


 正直、出費なしで食事につけるのはありがたいと思った。一瞬だけ、ケイの顔が浮かび上がるがすぐに忘れるようにする。いつもなら冷たいような言い方をしてくるが、今回はあんなひどいことを言ってきたのだ。


 ケイが寝た頃に帰ろう。それがいい。


「もちろん。なんたって、ヴィンは僕の友達だからね」


 パウラのその発言にヴィンは硬直した。何か違和感があった気がするのは気のせいか。


「う、うん、そうだね?」


――何、この違和感……?


 パウラに言われたのが嫌ではない。かと言って、苛立ちでもない。なんだ、この妙な気持ちは。なんだ、この妙な感覚は。どう表現すればいいのやら。ああ、そうだ。何かの記憶の中にすっぽり入り込んできた感覚とでも言うべきか。


――記憶?


 何かを思い出そうとするヴィンであったが、パウラは「雑誌でも見るかい?」と本棚にあった雑誌を数冊取ってきた。どれも世界的に有名な音楽家のインタビューにある物ばかりである。


 音楽に興味はなかったが、写真のアングルに気を取られた。うむ、下から撮って、被写体に大物感を出すのも悪くはないな。


「……へぇ」


「うん? ヴィンも音楽に興味がある?」


 どこか嬉しそうに語ってくるパウラではあるが、ヴィンはは音楽自体に興味はないときっちり言い放った。誤解されるのはいけないと思っていたから。音楽ではなく、雑誌にある写真のアングルが気になったと素直に答えた。すると――。


「そう」


 どこか残念そうな表情を見せた。悪気はないのだが、とても心が痛んだ気がする。いや、自分は何も悪くはない。本音を言って何が悪いんだと自分の考えを持とうとした。そして、どちらとも興味のありそうな共通の話題を振ることにした。そちらの方がまだ無難だからだ。


「そ、そう言えば、ご飯とかってここは誰が作っているの? みんなで協力して?」


「ううん、僕が作っているよ。僕、料理を作るのが好きだからね」


「へぇ、そうなんだ。じゃあ、今日のディナーもパウラが?」


「そうだよ。腕によりをかけるから、楽しみにしていてね!」


 その言葉にまたしても違和感が。いや、今度はメアリーの顔が思い浮かんでしまった。彼女の料理はひどかったと思い出していると、すごく嫌な予感しかしない。どうしてパウラの言葉を聞いてあの胃腸デストロイヤー食を作り上げる少女の顔を思い出さねばならないのだ。別のときに思い出したいものなのだが。


 あれだろうか、虫の知らせというやつか。早く戻らなければならないという暗示か。いいや、戻るに戻りづらい。ケイからはあんな風に突然と言われてしまったのだ。気まずいのは避けたい。


「そっか、それは楽しみだ」


――パウラがキッチン爆弾を作り上げる人でありませんように。


     ◆


『何? イライラでもしているの?』


 自身の連絡通信端末機の画面を眺めてケイは苛立っていた。ヴィンは一体何をしたいのだ? 突然子どもみたいなわがままを言ってきては人に対して『死ね』と。挙句の果てにこのおとぼけ。冗談じゃない。


 自分がここまでイライラしているのも自覚していた。


「いきなりなんなんだよ、あいつは」


 珍しい気がするが、ここまで言われたとするならば、とてもムカつく。そして、なぜか心が虚しいと感じていた。


「ああ、もう」


 送り返していないのに、端末機の画面を確認してしまう。受信ボックスの確認をしてしまう。なんだ、このやるせない気持ちは。むしゃくしゃする気持ちは。そのせいで、作戦思案に支障がきている。何も考えられないからだ。どこかの誰かさんのせいで。どこかの誰かさんが気にするようなことをしてくるから。だったら、そんなことを考えなければいいのに。そう、頭の中で理解したとしていても無駄だった。その思いが別の思考を邪魔してくる。


 苛立ちは収まらず、ケイは頭を抱えて端末機だけを眺めた。すると、その画面が光り出す。ヴィンからのメールか? などという期待をしてしまう思いを払い除けて、送り主を確認した。ガンからだった。心の奥底でがっかりしている自分がいるが、どうしてがっかりせねばならないのだろうか。


「と、とにかくガンさんからのを……」


 一体自分に何の用だろうか。


『ヴィンの連絡器から、作戦メンバー以外の指紋が読み取れちゃったけど、本人は一緒にいるかい?』


 そのメール内容にケイは眉間にしわを寄せた。


     ◆


 そろそろ、日が暮れる頃だから夕食の準備をしてくるね、とパウラは部屋を退室してしまった。一人でその部屋にいる中、ヴィンは扉に向かって祈りをする。


――どうか、パウラの作る料理が爆発しませんように。


 流石にメアリーのような調理人が現れることは二度もいないだろう。そう変に期待を寄せる。


 さて、パウラが夕食の支度をしている間、自分は何をしていようかと部屋の周りを見た。様々な楽器がある中、一際目立つのはやはりあの白い横笛だろう。


「なんで歌わなくなったんだろうな」


 それが少しばかり気になる。いや、歌わなくなったのは喜ばしいことだ。気味悪さもないし、パウラからなんだこれはという風に返品されずに済む。ヴィンとケイはこの横笛がどのような代物であるか知っているから、逆に不気味で触りたくもない。しかしながらも、不気味さと同時に白の美しさが目立っている。ただの白い塗料を塗ったようには見えない。かと言って、木製でもない。


 なんだろうか、こうして人を魅せるような美しさは。


【子どもを捨てた女の未練が詰まった骨の小物があるらしいぞ】


【それを所有すると誰かを自分の所有にしたくなるという怖い呪いだ】


――うん?


 なぜかケイの言っていたことを思い出す。思わず、白い横笛に手が伸びた。



おお、我が子どもたちよ、

泣かないでおくれ。泣かないでおくれ。

あなたたちには罪はないの。

母親である私に罪があるから、

ともにいることができないのを

許しておくれ。許しておくれ。

もうすぐ、日が沈む。

さあ、さあ、お眠りなさい。ぐっすりと。

夜明けに私はいなくなるけれども

泣かないでおくれ。泣かないでおくれ。



 触れると勝手に歌い出す横笛。正直、もう慣れた。だが――。


 骨は白い。笛が歌う歌はきちんと歌詞を聞けば内容が子どもを捨てた母親の懺悔。そもそも、歌う笛など現実的に存在しないのに――。


「……これが、呪いのアイテム?」


【それを所有すると誰かを自分の所有にしたくなる】


――所有って……?


 ヴィンはポケットから未来のコンパスを取り出した。自分はこれの所有者ではない。いや、所有権をどうやって持つのかは知らなかった。


 誰かを自分の所有にしたくなる呪いがある歌う横笛。


 すべての未来を知ることができる未来のコンパス。


 事実の改変ができて、所有者は不死者として生きられるが、所有権を放棄すればこれまでの痛覚が死ぬまで襲ってくる過去の歯車――。


 まだ、パウラは所有権を得ていないはず。早急にこれを捨てなければならない。ヴィンが未来のコンパスをポケットに仕舞い込み、その笛をどこかに捨てに行こうと部屋を出ようとドアを開けると――。


「何しているの? ご飯はまだだよ」


 パウラが扉の眼前にいた。妙な気配にヴィンが後退した途端に、彼の手に持っている何かが光った。包丁――。


「そ、そっかぁ」


 刃先をこちらに向けてはいないものの、青ざめるヴィン。当然だ。包丁持って部屋の中に入ってこられたら怖いに決まっている。誰だって、ビビるに決まっている。それに逃げようとした。


「ねえ」


 パウラは怪訝そうにヴィンを見てくる。


「どうしてそんなことをするの?」


「そ、そんなこと? パウラが包丁を持っていて、刃がこちらに当たったら危ないから避けているだけじゃないか」


 ごくごく当たり前を言う。そう、『当然』だからこそ、『当たり前』だからこそ発言しただけなのに――。


「でも、食材は動かないんだよ?」


「音楽活動されている方、ごめんなさいっ!!」


 パウラのその発言に手近にあった大きめの弦楽器を手に取った。それを彼に叩きつけると、部屋から一目散に出る。ヴィンの手には歌う横笛。いいや、それに気を取られている場合ではない。今はパウラから逃げなければならないのだ。自分がいる建物は彼のテリトリー。


 急いで階段を下り、玄関の方へと走る。後ろからは――。


「逃がさないっ!」


 段差の一番上から飛び降りてきて、一気に差を縮めてきた。急げっ!!


 ヴィンが急いで玄関のドアを開けようとしていても開かなかった。鍵がかけられている!?


「うぇええ!?」


 パウラを見た。彼は包丁を手にして、こちらへと近付いてくる。そのドアは簡単に開けることができなさそうである。そんな確信でもあるのか、ゆっくりと歩み寄ってくる。


「えっ、ちょ、ちょっと? い、いきなりどうしたんだよ?」


「どうした? ヴィン、何をおかしなことを訊いているんだい? きみは僕の友達じゃないか」


「そうだよ! 友達なのに、こんな仕打ちあるかい!?」


「ヴィンは考えたことがないのかい?」


 真っ直ぐな目でこちらを見てくる。裏がない目に見えるから、それ以上に恐ろしく思えた。


「友達って、誰の所有になるのか」


 歌う横笛を持つ手が汗ばんでいた。


「そう、友達。きみは確かに『僕の』友達だ。つまり、きみは『僕の物』になる」


 パウラは綺麗に尖った包丁の刃を見せてきた。照明の光に照らされて不気味に光っている。


「だから、その証拠としてヴィンを食べてあげるんだよ。そうすれば……ほら、『僕の物』としてきちんと存在することができるんだよ。嬉しいと思わないかい?」


「い、嫌だ!」


 早く逃げようと、ドアノブをガチャガチャと回す。鍵がかかっているから開かないのも当然であることを理解しているのに。そこしか出入口がないとでも思っているのか。


「嫌だって言ってもね。『所有物』が『所有者』から逃げようとしているんじゃねぇぞっ!!」


 刃を突き立ててこようとするパウラ。絶体絶命だと目を瞑るヴィン。ああ、もう駄目だ。


――最後に、団長に謝りたかった。


 ケイはひどいことをメールしてきた。だが、自分も向こうが腹立ってくるようなメールを送ったのも事実だ。


 嫌に耳が塞ぎたくなる音が聞こえる。しかし、それには痛感がない。なぜだ?


 そっと、目を開いた。自身の眼前には見慣れた後ろ姿があった。薄い金色の髪、古い服を着用しているが、元より気品あふれる雰囲気のある人物――。


「変なメールを寄越してくると思ったら……!」


 その人物は、パウラが突き立てる包丁を散弾銃の銃身で防いでいた。玄関の横の窓は割れている。そこから入ってきたのか。


「だ、団長!?」


 ケイだった。正気のないパウラを睨みつける。彼もまた――いや、最初から気に食わない様子で睨んでいた。ケイがヴィンの言う団長という人物だとわかったのだろう。


「おいっ! お前が手に持っているその気持ち悪い笛を壊せ!」


「な、なんで!?」


「いいから! おそらく、こいつはあの呪いのアイテムの所有権を持っていやがる! こいつから所有権を奪う方法は俺も知らん! だから、今身動きができるザイツがその笛を壊してみろ!」


「そ、それは――」


「俺たちにはそうするしか選択肢はないんだよ! このまま逃げてみろ、追いかけてくるがオチだぞ!」


 それは困る。だが、壊すにもリスクはある。もし、壊したとしたらパウラはどうなってしまうのだろうか。ただ、所有権がなくなるだけなら構わないが――過去の歯車のような状況になってしまえば――。


――いや、そうするしかない……!


 誰にも頼れない。それしか方法がないのだから。ヴィンは壁に向かって歌う横笛を叩きつけて、破壊した。それは真っ二つに分かれる。


 さあ、どうなるのか。


 パウラの方を見ると、気を失ったように包丁を床に落としてケイの方に倒れ込んだ。不安ながらも彼の様子を見る。


「ぱ、パウラ?」


「……う、うぅん?」


 ヴィンの呼びかけに目を覚ました。なぜに自分はこんなところにいるのか。なぜに自分は見知らぬ人物の腕で気を失っていたのか。


「大丈夫か?」


 ケイが声をかける。それにパウラは戸惑いつつも、頷くようにして答えた。


「ヴィン? 僕は一体何を……?」


 記憶がないらしい。ということは、歌う横笛の呪いが解けたということになる。これにケイとヴィンは大きく胸をなで下ろした。


     ◆


 パウラには歌う横笛の呪いについての事情を説明し、壊してしまったから自分たちが引き取ると言った。その笛から歌声が聞こえると知った彼は青ざめた表情で「要らない」とお断りしていた。


「はぁ、なんとも奇妙な話だねぇ」


 真っ二つに割れた歌う横笛を手にするヴィン。すでに彼らは宿屋の方へと戻ろうとしている道中だ。


「そうだな。ザイツ、ガンさんにお礼を言っておけよ。端末機をお前以外の誰かが触っていて、あのメールを送ったらしいと俺に教えてくれたんだからよ」


「あのメール?」


 片眉を上げる彼にケイは自身の連絡通信端末機の受信ボックスを見せた。そこにはヴィンに身に覚えのないメールがあった。これは――。


「呪いでもかかっていたんだろうな。彼が俺の端末機に対して送ったんだろ」


「えっ、でもどうして私の所在地が?」


「それもガンさんに教えてもらった」


「そっか、ガンさんの連絡がなければ、私は死んでいたということか……恐ろしいな!」


 でも、とヴィンは話を続けた。


「団長が助けに来てくれたのは素直に嬉しかった。それに、メールの件、ごめんね。勝手言っちゃってさ」


「いや、いいさ。もう」


 行こうとするケイにヴィンは頭を下げた。それを見たケイはびっくりした表情をする。


「あ、頭上げてくれ」


「いや、これは私の失態でもある。本当にすまなかった」


「いいから、頭を上げてくれ。これはザイツの失態なんかじゃない。俺の責務でもある」


 言われるがまま、ヴィンは顔を上げた。すると、目の前にいるケイは手を差し伸べてきた。そんな彼の表情はどこか気恥ずかしそうである。


「……その、今回のことを通して俺は気付いたんだ。あのメールをもらって、すごく嫌な気持ちになった。いや、嫌な気持ちと言っても少し違う。なんと言うか、心が寂しいというべきかなって」


「うん、それは私もそうだった」


「あんな返信したとき、心が空いたような気持ちになった」


 ヴィンは頷く。


「ザイツが入団したときは、おじさんたちが決めたことだと思っていた。けど、これだけは言わせてくれ。能力関係なしに俺はお前自身を買いたい――じゃなくて……えっと、その――」


 その後の言葉を言いづらそうにする。いや、何が言いたいのかを理解できていた。それだから、ケイの言葉を静かに待つ。


「お、俺と友達になってくれるか……?」


「何を言っているんだい、団長は」


 ケイの言葉に対して、ヴィンは鼻で笑った。


「もう、私たちは友達じゃないか。『ケイ』」


「ザイ――いや、『ヴィン』」


 二人は手を取り合い、握手をするのだった。これが彼らにとって本当の友情なのかもしれない。

<作中に登場した言葉――レファレンス・サービスとは>


 情報を求めてくる利用者に対して、図書館員が図書館の資料と機能を活用して、必要としている資料の検索方法を教えたり、回答を提供したりする人的援助。資料の利用者に対する直接サービスの中心的業務で、19世紀後半に米国の図書館で発達し、近代図書館の主軸をなす機能となっている。


 ※図書館学基礎資料 第12版(2015) 今まど子編著 樹村房 より一部抜粋


 全国の公共図書館などにレファレンス・サービスはあります。図書館でお困りの際は是非ともご活用ください。

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