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世界は運命を変えるほど俺たちを嫌う  作者: 池田ヒロ
第三章 罪人たちによる奪還戦
48/96

博奕

 流れ者どもが集う場所は必ずと言っていいほど辛気臭く、明るくない。そうキリは思いながらも、この掃き溜めた町中を歩く。生憎、天気は小雨。パーカーのフードでその雨を防ぐ。時折姿を見せる住人はじろじろとこちらの方を見てくる。その目付きは関わらないが吉だとでも感が言ってくるようだった。


 白の公国と黒の皇国の国境に位置する町、破落戸(ごろつき)の町。もうすぐ黒の皇国へと入国できるのではあるが、いかんせんこの町は治安が悪過ぎるようである。そのため、マティルダとレナータには宿屋の方へと待ってもらって、ガズトロキルスと町中へと出てきたのだが――。


「…………」


 現在キリは一人で歩いている。すれ違う住人たちのあやしい目が鋭く突き刺さっているようだった。反政府軍団員たちとは違って、無宗教派の者たちが多い分はマシと言える――わけない。超怖ぇ。


――なんでこっちずっと見てくるの!? 怖ぇよ!


 破落戸の住人はこちらを見て何の反応も見せない。にやにやとすることも、睨みを利かせず、ただひたすらにこちらを見るだけ。それが一番怖いとキリは思っていた。全く予想がつかないからだ。


――つーか、ガズのやつはどこに行きやがった!? こんな町中、屋台なんてあるわけねぇのに!


 屋台らしき粗大ごみなら先ほど見かけた。営業しているところはないようだ。


 キリにとって、この町はどことなく信者の町を彷彿させるらしい。彼らは武装こそはしていないものの、目付きだけは反政府軍団そのものだったから。


 歩いていて、男たちが陰でこそこそと何かをやり取りしている。僅かに見えたのは紙幣と違法薬物の交換である。更にもう三歩歩けば、男が女を無理やり誘っている。その奥では一対五のリンチだ。見るに堪えない。ガズトロキルスと連絡を取りたいのであるが、こんな治安の悪い場所で自身の連絡通信端末機を取り出してみろ。ポケットに入れてみろ。それこそスられてしまうぞ。


 こういうときだけ、嫌に王都外れの町でのヴィンの言葉が頭に染みついていた。いや、これが一番の妥当だろう。だからこそ、二人はマティルダたちに宿の部屋にいてもらうようにした。彼女たちも理解してくれて受け取ってくれた。お金も必要以上の物を持ち歩かないようにした。


 早いところガズトロキルスと合流して、さっさと買い出しを終えて帰ろう。そう思っていたキリの前に三人の若者たちが立ち塞がってきた。


「よう、ヒマだろ。どうせ」


 三人の腕や頭と言ったところには黒いバンダナをしていた。カラーギャングか。それとも、キイ教過激派か。いや、過激派であるならば、彼らの雰囲気は少し違う。これはただのならず者(ギャング)か。厄介な宗教団体ご一行ではないと推測するキリはとても嫌な予感しかないとしか思えなかった。ここは話を聞かずして、退却せねば。


「今、忙しいから」


 ギャングどもの横を通り過ぎようとするが、肩を掴まれた。誰が逃がすかというような、雰囲気がそこかしこに漂う。


「俺らからして、お前が忙しそうに見えないんだよね」


「人を見た目で判断するな。放してくれ」


 煩わしいと思った。だが、そう思うだけで口には出さない。あまり関わり合いたくない。それがこの町に滞在する中で一番無難な選択肢なのだから。しかし、そのお願いを言ったところで「はい、そうですか」と引き下がれるほど、甘くないだろう。掴んだ肩に力を入れ、白い粉が入った袋をちらつかせてくる。もう一人が指を三本立てていた。


「じゃあ、忙しいお前にこれをこの金額だけでやるよ。疲れなんて、一気に吹っ飛ぶぞ」


「そんな物、頼る気なんてないね」


 強引に肩に置かれた手を振り払い、さっさとこの場から立ち去ろうとするも――。


 危険でも察知したかのように、その場から真横にある建物の壁の方へと避けた。そこへ金属の棒が地面とぶつかって音を立てる。


「へぇ、反射神経が鈍そうなのにな」


「…………」


 ギャングども手にはどこに隠し持っていたのか定かではない、鉄パイプや金属の棒、廃材などを手にしていた。間違いない。恐喝だ。走って逃げるが得策だと、ゆっくりと後退していると――。


 直後、キリの後頭部に強い衝撃が走り、そのまま意識が遠退いてしまった。


     ◆


 人の声が聞こえるな、とキリは気がついた。ぼんやりと目を開けると、見覚えがあるような場所が見えるではないか。ここ、どこだっけ。


「おぉい、キリ」


 ガズトロキルスの声が近くで聞こえた。完全に意識を取り戻すと、今の自分が置かれている状況を確認する。ここは商業の町の地下にある博奕闘技場に近しい場所ではあるが、観客はいないようだ。手には後ろに回されて縛られている。自分の後ろの方を見れば、見慣れた赤い髪がいた。


「ガズ?」


「ヤな町に来てしまったみたいだよな。お前もだろ? 近くのレストランのフリーチケットあげるからおいでって」


「つーか、お前はホイホイと釣られやすいタイプだな、おい」


 ワイアットと初めて会ったとき然り、この現状然り。食べ物関係はガズトロキルスにとって悪い意味でのいい餌である。このくせはなんとかならないものだろうか。


「そう。そこのレストラン、海鮮が有名らしいんだよね。俺としては白で伝統的な肉料理を食べたいんだけどな。まだ食べていないし」


「いや、ガズは魚じゃない……というか、待って。今のこの状況でボケているヒマなんてないんだけど」


 よくもまあ、自分が置かれている現状に動揺もせずしていられるものだ、と逆に感心する。いや、自分も丁寧なツッコミをしている場合ではないのだけれども。


「ていうか、ここは?」


「何? 俺ら調理されるの?」


「嫌なこと言うなよ。本当にそう思っちゃうだろ」


「あーあ、どうせなら白の公国の伝統的料理を食べて料理になりたかった」


「えっ、俺たち見知らぬ人たちに食べられる前提なの?」


「ねえ、そろそろいいかな?」


 彼らのやり取りに痺れでも切らしたのか、二人の後ろの方にいた一人の中年男性がそう声をかけてくる。彼はスーツ姿をしていた。そして、彼の隣には――。


「おう、マッドの坊ちゃんにオブリクス。半年振りか?」


 森厳平野にて逮捕したはずのガヴァンがいた。これで何度目の脱獄だろうか。二人は特にガヴァンを睨みつけるように見た。ということは、ここは反政府軍団、すなわちキイ教過激派の施設であるには間違いないのだ。


「俺たちをこうしてまで、何がしたいっ!?」


「今、僕たちは資金集めに夢中なんだ。だから、ほら――」


 男は観客席の方に指差す。そちらにつられて見ると、観客席が埋まり始めているではないか。あの博奕闘技場とは違って彼らは仮面をしていないようだ。


 一体、何が始まるのだろうか。


「知っているか? 資金集めに手っ取り早いのは法律を無視することなんだよ」


《ただ今より、4(ダイス・フォー)を開催致します! 果たして生き残れるのはコインストチームか、それともチャレンジャーか!》


 その場にアナウンスが響き渡る。いや、それよりも今なんと言った? コインスト?


 キリは男を見た。ガヴァンを反政府軍団員として見たとしても、この男に何の見覚えもなかった。それは地下博奕闘技場にいた係員であったとしても。


 一際他の誰もよりもオーラが違っている。それだからどこかで会っていたならば、思い出せそうなはずなのだが、歓声が邪魔をしてきて何も思い出せない。すぐに消えてしまう。 


《それでは、コインストチームが賭ける物はなんでしょうか? 発表をお願いします》


 アナウンスに答えるようにして、男は懐から何かを取り出した。会場の照明に当たって、青く光っているようだ。あれはなんだ? 石?


「青の王国のメアリー王女が持っていたイヤリングを」


 これに二人は驚愕する。そして、キリはそのイヤリングに当然見覚えがあった。そう、彼がメアリーの誕生日パーティーの際に送った物である。なぜそれを持っているのか。彼らは彼女の所在を知っているとでも? コインストと反政府軍団は手を組んでいたのか!?


 男は上から降りてきた台にそれを置く。キリが何か言おうとするも、アナウンスが邪魔をした。


《さて、今回チャレンジャーが賭ける物はなんなのでしょうか! 発表をお願いします!》


「ふざけるなっ! 俺たちはそんなこと一切――」


 声を荒げるキリのもとに男が素早く近付いてきて、黙るように言う。にこにこと洒落にならないようなあやしい笑みを浮かべていた。


「途中から放り出すのかな? いいのかな? これを放棄することになるんだけど?」


 男の手元には錆びた過去の歯車があった。それに下唇を噛む。


「返せ!」


「それじゃあ、受け入れて参加するしかないよね。これに」


 そう言われると、何も言えなくなってしまう。そんなキリを心配そうにガズトロキルスは見ていた。


     ◆


「二人とも、どこまで行っているのかしら?」


 窓の外を不安そうに見るマティルダ。彼女には落ち着きがないように見えた。それを見かねたレナータが「心配し過ぎですよ」と宥める。


「きっと、ぼったくりのお店が多いから悩んでいるのではないでしょうか?」


「そうなのかしら? 時間的にもうお戻りになってもおかしくないのに」


 レナータの言葉に対してもまだマティルダに落ち着かない。むしろ、少し悪化している気がした。余程、あの二人のことが心配なんだなと思う。


「ねえ、レナータ。やっぱり二人とも何かあったんだわ! 連絡機置いて行っているから遅くはならないはずなのに! それに、お金もそんなに持っていっていないからどこかで食べてくるなんてありえないし!」


「しかし、デベッガさんはこの町は危険だから自分たちで行ってくると仰っていましたが……」


「そうよ、危険なの! ほら、窓の外にはいかにもガラの悪そうな人たちが歩いているわ! ガズ様も心配だけど、細身のデベッガさんが一番絡まれやすいに違いないわ!」


 様子を見に行ってくる、と聞かないマティルダは外へと行こうとする。だが、それをレナータは阻止しようとした。こんな町だとわかりきっているからこそ、単独行動は危ないのだから。


「それならば、私も一緒に行きますから」


「……わかったわ」


 二人は道が濡れた町へと足を踏み入れるのだった。


     ◆


 4(ダイス・フォー)、古くはこの掃き溜めの町より生まれたお遊びである。さいころを四回振り、一回目はその出た数を。二回目には一回目に出た数との差を。三回目には二回目に出た数との和を。四回目には三回目に出た数との差を。そうして、四回目の数で『4』になった方が勝ちとなる。だが、どちらも『4』になっている、もしくはならなくとも勝負は持ち越しとなるのだ。


 そして、ここまでが通常の4(ダイス・フォー)である。ここから先はこの場所においての特殊追加ルールとなる。


・必ずペアでの参加であること。一人は人質役、もう一人は采投げ役。

・四回目にてどちらとも『4』にならなければ、『4』から数の遠い方の人質役がペナルティを課せられる。

・ペナルティは二種類のさいころを振る。

 (ナイフ、剣、斧、銃、ハンマー、杭) (首、上膊、下膊、上、下腿、胴体)

・『4』が出なかった方は采投げ役が人質役を殺害し、自害すること。


 ルールを聞いている内にキリとガズトロキルスは不快感を覚える。このゲーム、完璧に運頼りのものだ。そして、人の命など微塵も思っていない。このようなことが平気で行われている町だ。警備隊も含めて軍もきちんと起動していないのがおかしい。だが、それを指摘して解放されるとは思っていない。ここにいる者たち、二人を除いて彼らは自分たちの死を望んでいるに違いない。特にあの二人――過去の歯車を賭けに勝手に出してきたが、こちらが所有権を放棄しなければ、意味がないとわかっているのだろうか。


 じっとキリがガヴァンたちの方を見ていると、男が「何か気になるかい?」と訊いてきた。


「所有権の放棄のことかな? ああ、安心するがいいさ。別にきみでなくとも、『代わり』はいる」


 代わり――それはマッドのことだろうか。またディースは三度目の自分を作ったとでも?


「キリ……」


 ガズトロキルスが心配そうに声をかけてきた。それにキリは心配ないと言う。


「さいころはガズが投げてくれ。俺が人質役になる」


「う、うん」


「別に頭とか使うわけじゃないし、これは運ゲームだ。自分たちが勝つことだけを願おう」


 もうそう考えるしか他はないのだ。腹を括るしかない。自分たちがこのようなゲームに参加する羽目になったのも、己の落ち度のようなものだから。


 二人は拘束を一時的に解かれるが、キリとガヴァンたちの組の人質役である男は磔に固定された。これには気分がよいものではないな、と采投げ役の二人を見て思う。


 ガズトロキルスとガヴァンの間にはテーブルがあり、そこにさいころが一つ入った皿が置かれていた。そして、もっとも重要なのは過去の歯車の所在。それはキリと男の目線の高さに吊り下げられた台の上に、メアリーのイヤリングと置かれていたのだ。


 両者とも睨み合うようにして、アナウンスが鳴る。


《それではゲームの始まりです! 一回戦目ではまず、コインスト側からさいころを振ってください》


 アナウンス通りにガヴァンは皿の中に入っているさいころを手にして、放り投げた。出た目は「2」である。まずまずの出だしというところか。


 この会場にある電子掲示板にその数字が大きく刻まれる。


 続けてガズトロキルスがさいころを振る。出た目は「4」だ。同時に電子掲示板に数字が張り出された。


「なんだオブリクス。ただの無言じゃつまらんから話でもするか?」


「あんたとは一切話さない」


 ガズトロキルスはガヴァンを睨みつけている。どうもこの二人は互いに見知ったような顔である。そうキリは見ていると、男の視線に気付いた。ずっとこちらを見てにこにことしている。何がそんなにおかしいのか。なんて思っていると大きな歓声が上がった。電子掲示板の方を見ると、ガヴァンは「1」を出したようで、その差は『1』のようである。


 その後にさいころを皿の中へと投げ入れる。出た目は「6」である。その差は『-2』だ。会場中の歓声を耳にガズトロキルスは眉根をしかめる。


「ガズ、まだ勝負は始まったばっかりだぞ」


 焦ってでもいるのだろうか。キリはそう声かけをする。彼のその声にガズトロキルスは「おう」と無理やりな笑顔を見せてきた。


 そうだ、勝負はまだ始まったばかりである。


――毎度、毎度足したり引いたりしていても、そうそう『4』にはならないだろ……。


 そう思いつつ、投げるガヴァンを見た。出た目は「6」で、今度はそれを加算するから――『7』となった。まだ油断はできない。落ち着けと高鳴る鼓動をよそにガズトロキルスもさいころを振る。カラカラと小さくも高い音がなり、出したのは「1」だった。その和は『-1』、ということは四回目のさいころは振れなくなってしまった。数が足りないから。


 二人がさいころを手にするガヴァンを見る。ガヴァンが出す目が「1」であれば差が『3』となるため、もう一度チャンスは巡ってくるのだ。


――「1」が出ろっ!


 二人は心の中で強く願う。特にキリはそのことを胸に抱きつつ、脱出方法を考えていた。事実の書き変えは一時的なものである。それを継続させるためには代償を支払わなくてはならない。その代償をどうするか。それとも、どの事実を書き変えるべきか。


 そのようなことを考えていると、采の目は出た。「4」だった。そうなると――その差は『3』になる。


 キリたちの体中に嫌な汗があふれ出てくる。『4』にならなかったにしろ、数字はコインスト側が一番近いのだから。


 キリのペナルティが決定されてしまった。


 会場に二つの白い皿が乗った台が真上より下りてくる。


《それではペナルティの采を振ってください》


 アナウンスの指示に従って、ガヴァンは二つのさいころを振った。ゲーム中のさいころの音と違って、こちらの方が大きな音が出ている。


『斧』 『下腿』


 目が出た瞬間電子掲示板へと大々的に告知される。その二つの皿が置かれた台は上へと回収され、代わりに斧が乗った台が下りてきた。


《コインスト側の采投げ役の方が実行してください》


 アナウンスのその言葉にガヴァンは悪い笑みを浮かべた。にやにやとして、磔されたキリに近付く。口から笑い声が漏れていた。


「マッドの坊ちゃん。俺のことをほんのちょっぴりと教えてやろうか」


「…………」


「俺ってさ、これでも結構根に持つタイプなんだよな。言いたいこと、わかるか?」


「……知るか」


 その答えに、ガヴァンは「そうかい」の一言で、斧の刃をキリの脛に勢いよくぶつけた。骨がグシャリ、と潰れたような音が聞こえる。声にならないほどの叫び声を上げる。すぐに一刀両断などできずに、切断しかけた脛からは小さく血が噴き出していた。血は下の方へと滴り落ちていく。


「はははっ、無様だな!? 前に俺の脛を銃身で叩いたことがあるだろうがっ!」


 高笑いしつつ、ガヴァンは再びキリの脛に刃を入れていく。是が非でも切断させたいらしい。斧の刃には血が塗られている。その飛沫はガヴァンに、ガズトロキルスに、さいころの皿に、自身にかかっていた。


     ◆


 ようやく切断し終え、ガヴァンは満足そうにしていた。斧で叩きつけられるようにされたキリの脛は悲惨とも言えるような状況へとなっている。あまりの痛みに動けない彼は叫ぶことしかできず、疲れきっていた。肩で息をし、涎が垂れかかっている。


 ガズトロキルスがキリに声をかけようとしたとき、上の方に置かれていた過去の歯車が光り出した。その淡い光はキリのもとへと届き、切断された下腿を修復していく。これには会場中がざわめき出す。


《な、なんとっ! チャレンジャーの人質役はとんでもない魔法(マジック)を持っていたぁ! これは面白くなってきたぞ! それはどこまで通用するのか!?》


 アナウンスで叫んでいる者は興奮しているのか、スピーカーから鼻息が聞こえてきていた。


《さあ、さあ! そろそろ第二回戦と参りましょうか! 斧はこちらの方にお返しください!》


 ガヴァンは指示通りに血のこびりついた斧を台の上へと乗せた。台は上の方へと行ってしまう。


《さて、二回戦目はチャレンジャーが先攻となります。さいころを振ってください》


 声をかけたい。だが、今のキリは返事をまともに返せないようだった。ガズトロキルスは不安ながらも一回目のさいころを振った。出た目は「1」である。幸先が不安になって仕方がない。


 足の痛みの疲労からようやく落ち着きを取り戻したキリは電子掲示板の方を見た。ここからガズトロキルスが巻き返してくれることを切実に願う。意識が飛ばないような、先ほどは気が狂いそうなほど痛みが襲ってきていた。綺麗に切断ができないから、その分の痛覚がまだ刺激してくる。しかし、この役は自分がしないといけない。彼自身は過去の歯車があるから切断されたり、刺されたりした箇所の傷を修復できるのであるが、ガズトロキルスの場合はそうはいかない。普通の人間だからだ。下腿切断なんてすれば、メアリー奪還作戦どころではなくなってしまう。


 自分が耐えなければと奥歯を強く噛む。そのようなことをしていると、ガヴァンがさいころを投げた。出た目は一回戦目の自分たちと同じ「4」であった。


「やっぱり、所有者はそこでくたばらないのか」


 他人事のような、傍観者のような物言いで男が言ってくる。この人物、余裕の構えだが、あんたが先ほどみたいな状況にならないとは限らないのだぞ。これは運に左右されるゲームなのだから。


「…………」


 キリは黙ったまま、男を見た。


「羨ましいけどね? ほら、きみってキイ様に愛されていないじゃない? だから怖いよ。正直言って」


「……俺はあんたらの方が怖いよ。人を異形生命体にしているんだろ? 命なんてなんとも思っていないんだろ? それだから、なんも思っていないお前らが怖い」


 そう言うと、男の表情は笑顔から一変して真顔へと変貌する。こちらを見てくる視線が冷たかった。すぐにその表情は消えてしまう。またにこにこと笑みを振り撒くのだ。


「『あの子』がきみを気にかける理由がわかったよ。きみは面白いね」


 男の言葉が合図とでも言うように、ガズトロキルスはさいころを振った。音を立てながら出た目は「5」であり、その差は『-4』だ。絶望的状況に追い込まれてしまう。もう振れない。普段の飄然たるガズトロキルスの姿はどこにもなかった。


 まさしくすべてにおいて、恐怖を抱いているような目をしている。磔のキリに対しても、采を投げた自分に対しても。だが、ガズトロキルスを責める気なんてなれない。これは自分たち二人の運がそうであるからだ。


 それにまだ諦めてはいけない。ガヴァンだ。彼が二回目以降でどの目を出すかによって勝敗が決まるからだ。もしも、逆転の可能性があるならば、彼が二回目で「1」を出し、三回目で「6」を、四回目で「1」を出すしかない。


 ガヴァンがさいころを皿の中へと投げ入れる。


「1」


 この数字にガズトロキルスはガッツポーズをする。キリも同様に心の中でそうした。ガヴァンはあまり好ましくない表情を見せているようだ。


 差は『3』である。


 アナウンスがガヴァンにさいころを振るように指示をする。


「6」


 目が出て、二人は動揺を隠せない。ここまでで一番安心したことは今までにないだろう。電子掲示板に和である『9』が出る。


 さあ、後はガヴァンが「1」を出してくれたならば。彼らは強く願う。もう痛い思いは嫌だ。もう、あんな物を見るのは嫌だ。


「2」


 皿の中に入れ込まれ、出た目を見て二人は硬直する。コインスト側の差は『7』である。


《チャレンジャー、ペナルティとなります! さあ、次はどこになるかな!?》


 勢いよくガズトロキルスとガヴァンの間から台が下りてくる。二つのさいころだ。ガヴァンはそれを手にしてガズトロキルスを見て、にやにやと笑みを浮かべていた。


「オブリクス、俺が最後に「1」を出すように強く願っていただろ?」


「なっ……!?」


「言っておくが、俺はお前らの思い通りにはならないぜ? えっ? なぜかって? そりゃ、年の功とかじゃねぇけどよ――」


 ガヴァンは二つのさいころを手にして、遊びながら彼らを見た。


「俺がどういうやつかわかるなら……このゲームでルール違反にならないような細工をしているのも当然、知っているよな?」


「イカサマだと!?」


 睨んでくるキリにガヴァンは肩を竦めた。何を言う、冗談キツイぜ。


「おいおい、そんな言い方はないんじゃないの? 確かに細工はしている。が、それはルール上合法だってことだよ」


 二つのさいころを皿の上へと投げ入れた。音が鳴る中、目が出る。


「誰だって、ルールの抜け道くらい探すだろ?」


『ナイフ』 『首』


     ◆


「女の子みたいなやつと赤い髪のやつ?」


 雨が降りしきるろくでもない町の路肩で、マティルダとレナータはキリとガズトロキルスを捜していた。誰かと待ち合わせをしている素振りの中年男性に彼らのことを訊ねてみるも――。


「見かけてはいないな。いつの頃の話かは知らんが」


「二、三時間くらい前です」


「ああ、それなら俺は知らないよ。こんな雨の中、ずっと外にいても寒いだけだし」


「そうですか」


 何の情報も得ることができない。マティルダたちは男性に頭を下げて他をあたりに向かう。雨足がより一層ひどくなってくる。これ以上、雨に打たれてしまうと風邪を引きかねない。レナータは宿の方に戻ろうと促した。


「もしかしすると、お二人ともお戻りになっているかもしれませんし」


 その言葉にマティルダは首を横に振った。まだ捜すつもりらしい。


「すごく嫌な予感がするのよ」


 この町に入ってからとでも言うべきか。そんな胸騒ぎがしていた。感というよりも勘とでも言うべきか。とにかく、直感だ。とてもよくないことが起こっている気がする。だが、それがなんであるかはわからないのだ。


「レナータ。もし、あなたがお疲れなら、先に戻っていてもいいのよ。私は気が済むまで捜すから」


 マティルダが先へ行こうとすると、レナータが手を取った。雨粒が二人の体中に当たっていく。


「私もお手伝い致しますとも」


「ありがとう」


「捜索範囲を広めましょう。表通りで見かけないのであれば、裏通りや路地の方にいるのかもしれません」


「ええ」


 二人が早速、裏通りの方へと向かおうとすると、その間道の入り口付近で数名の若者の声が耳に入ってきた。それに彼女たちは足を止める。彼らに気付かれないように、物陰に隠れて声だけの様子を窺う。


「おう、そっちはどうだったよ?」


「楽だな。これで誘ったら釣れたよ」


 釣れた? 二人はそっと、そちらを覗いた。その数名の若者たちの内、一人が一枚の紙をひらひらと見せびらかしている。彼らは腕や頭などに黒いバンダナをしていた。カラーギャングか?


「なんだそれ」


「俺が作ったレストランのフリーチケット」


「そんな物で釣れたのかよ!」


「ああ。そっちだって、最終兵器だって言って持っていっただろ? あれで釣れないやつっているか?」


「まさしく、あの茶髪がそうだった。要らないって言うもんよ。じゃあ、連れていくにはどうするか? どうしたと思う?」


「力ずく以外にどんな回答があるって言うんだよ」


「言えているなぁ!」


 覗き見していたレナータは「茶髪とはデベッガさんのことでしょうか?」と疑問をぶつけた。


 その可能性は高い、とマティルダは推測する。偽物でもレストランのフリーチケットに飛びつくのもガズトロキルスでありえなくもないからであった。


 あの二人がギャングどもによって、どこかへと連れていかれた可能性は生まれた。だが、まだ確信はない。故に出ていくのも厳しい。もう少しだけ様子を見ようとレナータに伝えた。いざというときに備えて、ごみ箱から手に入れた金属の棒と廃材を手にする。


「そういや、茶髪の方って何か金目の物を持っていたか? こっちは収穫ゼロ。あの赤い髪のやつ、金もほぼ持たずして町を歩いているんだからよ」


「こっちも同じだよ。金なんてない、端末機も持ち歩いちゃいない。挙句の果てに売れそうにもない歯車をネックレスにしていたよ」


「じゃあ、あれか? 結局俺たちあの人たちからの報酬のみっていうこと!?」


「だろうよ。なぁにが、青の王国の連中だから、金目の物は持ち合わせているだ。あいつらがどこの宿屋に泊まっているのかも知らねぇのにどうやって、金を稼ぐよ?」


「冗談じゃねぇよ。これ売るにしても場所が限られているのによ」


「ここら一帯にはすでに売人がいるからなぁ。どこっ!?」


 話し合っていたギャングどもの内、二人が苦痛の表情を浮かべた。後頭部に衝撃が走る。一同がその方向を見てくる。そこにいたのは二人の女。一人は金髪碧眼に、そのきつめの目で彼らを睨んでおり、彼らの一人に金属の棒を突きつけた。


「あなたたちのそのアルバイトに対する責任者を教えてくださらない?」


「誰だ、お前らっ!」


 けんかならば上等とでも言うように、ギャングどももその場にあった廃材などを手にして立ち向かう。しかし、金髪碧眼の女――マティルダを前にして、若者たちは敵わないようだった。それはもう一人の女――レナータも同様である。


「答えなさい! ブローカーは誰!?」


 再度、棒を向けられ、地面に転がるギャングどもは顔を見合わせる。言うべきか、言わないべきか。


 なかなか口を割らないならば、マティルダは持っていた金属の棒を地面に叩きつけた。鋭い金音が周りに響いて、ギャングどもは怯えた様子で二人を見る。


「もう一度、訊くわ。あなた方に報酬を渡した人は誰?」


「こ、コインストという会社の人」


「コインスト?」


 聞いたことはある。商業の町にて地下博奕闘技場を作り、軍にバレて関係者全員が逮捕されていたはず。まさか、残党がいるとでも!?


「な、なあ、もういいだろ? 俺たちはそれだけしか聞いていないんだ」


「報酬譲渡人の名前すらも聞いていないの?」


「ああ」


 ギャングどもはこの場から逃げ出したいとでも言うように、二人から逃げようとした。だが、当然逃すなんて真似はしない。まだ訊くべきことはあるのだから。


「ならば、二人をどの場所へとそのコインストに渡したの?」


「ま、町の五番街だよ」


 これ以上、訊くことはあるまい。訊かれることはあるまい。逃げるようにしてその場を走り去って行ってしまう。ギャングどもがいなくなり、レナータの方を見る。彼女は頷いた。


     ◆


 キリの首元には乾いていない血が。口にも同じような血がついている。目を大きく見開き、荒い呼吸をしていた。そんな彼を見てガズトロキルスからは嫌な汗が垂れる。見ているこちらも同じように息が荒くなってきそうだ。


「そんなに驚いてどうした、オブリクス」


 ガヴァンが血のついたナイフを向けてきた。


「従わなければならない、ルールは従うべきだろう?」


「…………」


 いくら傷の再生があろうにも、キリには疲労が見えている。本当に運だけで勝てる相手なのだろうか。


【このゲームでルール違反にならないような細工をしている】


 ガズトロキルスは自他ともに地頭が良いとは思っていない。唯一、自慢ができるところはタフであることぐらいか。だが、それがこのギャンブルに勝てるような要素ではない。


《それでは三回戦目を開始いたしますので、ナイフをお戻しください。次の先攻はコインスト側から始めてください》


 アナウンス通りにガヴァンはさいころを投げた。一回目の出目は「6」。続けてガズトロキルスも投げる。「3」だった。次こそはと拳を握りしめる。


 先ほどとは違って、二人は黙々と振っていく。さいころを間に立つ彼らを少しばかり落ち着いたキリが見つめた。黙ってしてはいるが、ガズトロキルスは動揺しているようだったから。


「……ガズ」


 思わず、ガズトロキルスに声をかけた。彼はこちらの方に顔を向ける。こちらを見て、にっと歯を見せた。


「無理はしてねぇよ。大丈夫だって」


 そう笑顔は見せてはいるものの、どう見ても無理をして作っている。キリは口を一文字にして強く結んだ。膝が震えている。やせ我慢をしているのがわかる。彼は固定された手を強く握った。


 コインストチーム 『4』


 チャレンジャー 『5』


 皿の鳴る音が怖い。さいころを触るだけでも手が震える。だが、しなくてはここからの脱出もできない。キリは何かしらの脱出方法を考えているのだろうか。


 ガヴァンが三回目を投げる。「1」が出た。ということはその和は『5』である。


 深呼吸をし、ガズトロキルスも投じた。


「1」


 なんとか、四回目まで持ち越しすることができた。その分、負けるのが恐ろしいとは思う。


 ガズトロキルスはただ、じっとガヴァンを見る。何も考えられない。心拍音がうるさい。


「1」


 キリは、投げられ、出た数字を見て瞠目した。一気に大量の汗が出てくる。この場所は暑い場所とは思えなかったが、それでも汗が出てきていた。電子掲示板の方をガズトロキルスが見て、一足先遅れて驚愕した。


 その差は『4』。


 いや、落ち着け。まだ自分たちの番がある。自分たちが「2」を出せばいいだけの話。そうすれば『4』になる。まだ終わってはいない。大きな歓声が上がる中、アナウンスがガズトロキルスにさいころを投じるように指示をした。


――まだ、まだだ。


 自身の思いを込める。キリも思いを込める。そして、皿の中へと落とした。



「3」



 出た目の数字を見て誰もが硬直した。


《き、決まったぁああああ!!》


 ガズトロキルスはその場に座り込んでしまった。キリの方なんて見れない。自分のせいだから。こちらを見てくる二人は口元を歪めて笑っていた。


《ゲーム終了! チャレンジャー失敗ということで、コインストチームの勝ちだぁあ!!》


 このときの歓声が一番大きかった。キリは呆然と賭けられた過去の歯車と青色のイヤリングを見るだけ。体を固定しているから、手を伸ばしたくても伸ばせやしない。彼らの眼前に大量の武器が乗った台が下りてきた。どれでもいいから、それらを用いてキリと自分を殺せと言う。


 なかなか武器を手に取らないのか、見かねたガヴァンは適当に斧を手にして強引に渡してきた。いつの間にか解放された男は過去の歯車とイヤリングを手にして、キリを見てくる。


「勝負、あったよ」


「…………」


「ほら、きみが現実を受け入れないと。所有権を捨てないと、彼がきみを殺せないよ」


――どうすれば……。


 二人が顔を青ざめていると、観客席の方から歓声とは違った声が聞こえてきた。それは男やガヴァンにも聞こえていたようで、誰もが視線をそちらの方に向ける。何やら観客たちはてんわやんわと大騒ぎを起こしているようであるが――。


 騒ぐ観客席の方から、一台の車が乱入してきた。


 これに誰もが――絶望的状況のキリたちも、彼らが死ぬことを待ち望んでいた男たちも目玉が飛び出しそうな勢いで見開いていた。その車は一直線に四人のもとへと激しい轟音と共に突っ込んできた。


「ガズ様!」


 車からはマティルダが降りて出てくる。手にはメアリー奪還作戦時で使う予定の突撃銃が握られていた。


「なっ!? なんで!?」


「もちろん、お助けに参りましたのよ!!」


 その言葉にマティルダと車内の運転席にいるレナータはガヴァンたちを睨みつけた。


「あらら、大きくなっちゃって」


 しかし、睨まれてもなお、彼ら――特に男はにたにたと笑っていた。そんなの構うものか。その場から逃げ出そうとするも、手に持っていたはずである過去の歯車と青色のイヤリングがなくなっていることに気付いた。どこかに落としてしまったか!?


 ようやく焦りを見せる男の背後から「言っておくが」なんて、声が聞こえてきた。


「俺はまだ所有権を捨てるわけにはいかないんだよっ!」


 そこには歯車の霊剣を手にしたキリがいた。まさか、先ほどの騒動に紛れて!?


 キリが二人に向かって、斬り込みに走ろうとするのだが――真上から四つん這いの異形生命体が何体も降ってきた。こちらへと襲いかかってくるバケモノに全力で防御するしかない。その隙に二人は逃げ出そうとする。


「待てっ!」


 異形生命体を振り払い、キリが追いかけようとするも、二人は上から下げられた台の上に乗って逃げられてしまったのだった。


「クソッ!」


 歯噛みするキリのもとへと、バケモノはお構いなしに牙を立ててくるではないか。それを霊剣で必死に防ぐ。


「デベッガさん! このままでは埒が明きませんわ! 逃げましょう!」


「わかった!」


 四つん這いの異形生命体がこちらに向かって襲ってこないという事実の書き変えをする。ただ、それはほんの一時だけではあるのだが、隙は作れる。その隙をついて、四人は会場から抜け出すことに成功した。


「もうこのままこの町に滞在するのは危険です! すぐに黒の皇国へと参りましょう!」


 レナータの提案に一同は賛成する。いや、そうするしかなかった。


     ◆


 急いで破落戸の町から逃げ、黒の皇国へと無事入国した四人は出入国管理棟のある町よりも少し離れた場所にあるパーキングエリアの方へとやって来た。外はもう暗い。


「ボールドウィンたち、ありがとう」


「全く、心配したんですのよっ! ……でも、お二人が無事で何よりです。何があったのか、詳しくお訊きしてもよろしいですか? デベッガさんのあの血についてもお訊きしたいわ」


 ようやく落ち着きを取り戻したマティルダたちは二人に詰め寄ってくる。それに彼らは黙っていてもしょうがないと思っているのか、包み隠さずすべてを話した。


 いきなり殴られて、強制的に4(ダイス・フォー)というギャンブルをさせられたこと。彼ら――反政府軍団とコインスト。そして、おそらくは黒の皇国が手を組んでいること。その証拠にキリはガヴァンたちから奪い取ったメアリーの青いイヤリングを見せる。


「これをあいつらが持っていたですって!?」


「うん、見間違いないよ。俺がライアンに渡したんだから」


「そ、それもそうですわね」


「ここにきて、すでに解体されたと思っていたコインストの連中が出てきたんだ。油断ならないよ」


 キリのその発言にレナータは「その通りです」と神妙な顔つきをした。


「マティルダ様はお父上様から聞かれたことがありますでしょうか。エイキム・ソルヤノフという男を」


「……いいえ」


「かつての三銃士軍団員であります」


 そう言うレナータにキリとガズトロキルスは首を捻った。かつての三銃士軍団員? 自分やハイチが入団する前にいた人物だということだろうか。


「ごめんなさい。私は何も――」


「そうとなれば、マティルダ様の配下となるデベッガさんも知らないということになりますね?」


 そう言われ、キリは頷いた。


「デベッガさんは、三銃士軍団の方々がどのような方々で編成しているのかご存知ですか?」


「えっ。そりゃあ、王族が認めた王国軍や学徒隊員の者で編成された王族私軍ですよね?」


 確か、自分が三銃士軍団のボールドウィン団への配下が決まったときだ。ハイチと共に団員規律とやらを教えてもらっているときに知った。三銃士軍団は原則貴族のみで構成される。それは青の王国の王族のための私軍であるから、と。


 キリの答えにレナータは「少し違います」と言う。


「間違いではないのですが、正確には王位継承第一位の者に仕える私軍団員たちが正しいです。それに団員を認めるのは国王及び、王国軍総長になります。故にメアリー様と同年代のマティルダ様たちが団長として、団員としているんです」


「じゃあ、今の王様の団員たちは?」


「メアリー様が生まれた瞬間から脱退という形になりますが、その後については保障されます。たとえば、ワイアット様の叔父にあたるラトウィッジ様がわかりやすいでしょうか。王国軍の何かしらの役職になれるのは確実なんです。もちろん、団員でなくても役員になれることはありますけど」


「ソルヤノフという人は昔、国王様に仕えていたとでも言うの?」


 レナータは頷いた。


「私も何度か話したことはあります。もう、二十年近く前になりますか」


「なら、どうしてその人は三銃士軍団を辞めたんですか? 王様に信頼されていたんでしょ?」


「わかりませんが、脱退前に何かしらのいざこざがあったようですよ」


「いざこざ……」


 そう聞いて、キリは真っ暗で何も見えない外を見た。今回のメアリー奪還作戦において、新たな勢力がわかったところで四人は胸の中にある不安の一抹を拭えずにその夜を明かすしかなかった。


     ◆


 暗闇の町中を一台の車が駆け抜けていく。その車を運転しているのはガヴァンである。助手席にはエイキムが腕を組んで、何も見えない町中を眺めていた。


「何か気になるか?」


「いやいや。もう関係のない話だから」


「そうか?」


「そう」


 自分たちがするべきことはただ一つ。『オリジン計画』を遂行するだけであるのだから。

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