化物 後編
【改変者】
【クラッシャー先輩】
腕なしの言葉とアイリの言葉が重なる。
【手の平だけじゃない。手から肩にかけての両腕だよ】
すべてを見せてもらってはいない。隠された手袋を一つだけ外してもらっただけだ。
動揺しながらもキリは腕なしに初めて攻撃を当てることに成功した。肩から腹にかけての拝み打ち。その拍子に無表情の仮面が左半分割れた。
――なんでっ!?
そこから覗かせるのは見覚えのある顔。ただし、その目は果てしなく虚ろである。
「なんで!?」
知りたくもなかった事実がそこにあった。キリは声を張り上げるが、その声は届かない。
「どうして!?」
仮面と変わらぬ無表情でこちらに攻撃をしかけてくる腕なし。その攻撃を防ぐキリ。だが、それを利用して樹木に叩きつけられた。積もっていた雪が上に落ちてくる。それで姿が見えなくなってしまうが、腕なしはお構いなしに爪を立てようと近付こうとした。
黒い手の平に歯車の剣が突き刺さる。だとしても、それも構わない。キリを引き寄せるように雪の中から引きずり出して投げ飛ばした。それでも、と。なんとか受け身を取った彼は腕なしの方を見た。もうすでにこちらへと次の攻撃を仕掛け始めているではないか。
「がっ!?」
防御しようと剣を前に出す前に、腹をその爪で抉り開けられてしまった。
倒さなければならない相手だというのに、倒したくない。そんな念がキリの頭や心へと支配していく。どうしても倒さなければならないのだろうか――。
開けられた腹の穴はすぐに再生した。
「ハイチ、さん……」
名前を呼んであげているのに、相も変わらず無表情。それが一番怖い。彼は――腕なしは――ハイチは、自分のことをわかっているのだろうか。自分がしていることを理解しているのだろうか。今の姿がどうなっているのか知っているのだろうか。
ただ、その灰色の目はキリの姿を捉えており、黒い爪のある手で彼の頭をわし掴みすると、即座に握り潰した。周りに、腕なし――ハイチに白い背景に映えるような真っ赤な血がかかる。
それでも再生するのが過去の歯車の所有者の事実。不死者だから。死ねないから。それだから、キリはまだ動ける。
「ハイチさん! 俺です! デベッガです!」
気付いて欲しい。その思いで必死に呼びかけるが、ハイチは再び頭を掴もうとする。だが、それはできなかった。なぜか邪魔が入ったから。キリの後ろの方には型落ちした突撃銃を構えるワイアットとソフィアがいた。
「デベッガ!」
ケイの声にハイチの方を向き直り、迫りくる攻撃を防いだ。その拍子にキリは三銃士軍団員のもとへと飛ばされた。ワイアットがすぐに駆けつけてくる。
「な、なんでフォスレターたちが……!?」
「その話は後です! 目の前にいっ!?」
ハイチはワイアット目がけて黒い爪を立ててきた。目と目が合う。銃身で防ぐが飛ばされ、突撃銃は使い物にならなくなってしまうほどぐしゃぐしゃに壊れてしまった。
――お義兄さん!?
半分に欠けた仮面から覗かせる顔を見た一同は己の目を疑った。この眼前にいる人物は自分たちが知っている人物か、はたまたただのバケモノか。
「ど、どうして?」
ワイアットに至ってはハイチを見る目が変わっている気がした。いつもの『お義兄さん』と言えないような、そんな絶望あふれる表情をしていた。
「みんなっ、攻撃には注意しろ! ワイアットみたいに武器が壊されるぞ!」
ケイがそう叫ぶ。苦悶の顔を浮かべつつも散弾銃を構えた。色々訊きたいことがハイチにもキリにもあり過ぎるが、そんなものを今ここで気にしていたならば、本当に死ぬのかもしれないのである。
今の自分たちがすべきことはただ一つ。目の前にいる腕なし――ハイチを戦闘不能にさせることである。
「足を狙え、足を!」
もし、ハイチが地下博奕闘技場で見た腕なしであるならば、あの黒い腕は危険である。普通のナイフの刃の部分をいとも簡単に圧し折ってしまっていたのだから。あれに捕まってしまえば――。
ヴィンがハイチの攻撃から避けた。それは延長線上に描きつつも木の幹を圧し折った。これに周りは顔色なし状態で手に持つ武器を強く握りしめる。
噂は本当だったのだ。異形生命体が元人間だということは。もう人ではない。訓練をすればの話ではあるが、普通に人は素手で木の幹にぶつけて圧し折れるほど頑丈な生き物じゃないのだから。事実なのかもしれない。ケイの憶測は。
この半異形生命体はハイチのようだ。顔が半分しか見えていないが、顔立ちや雰囲気に佇まい。どれをとっても見覚えのある人物その物。だからこそ、その場にいる者は戦いにくい。もし、彼を戦闘不能に陥らせるのであれば――それができるのはキリしかいないに等しいだろう。
ケイは淡い光を帯びた歯車の霊剣を手にしているキリを見た。あれが幻でなければ、白昼夢でなければ――。
「ああああああああ!!」
やるせない表情でキリはハイチの残り半分の仮面へと向かって穿つ。薄青色の目と灰色の目がぶつかった。無表情の仮面はすべて割れてしまった。
剣先を突きつけられた腕なしは雪の上に力なく座り込む。徐々に意識を取り戻すようにして、目の色が変わっていった。ハイチは何事かとでも言わんばかりに、自分たちを見ているようだ。
「あ、えっ?」
戦う意思は見られない。だが、三銃士軍団員及び、キリは武器の構えを止めなかった。
「ちょっ、お前ら。それ下ろせよ。危ないだろ?」
ハイチはそんな彼らを見て表情を引きつらせた。なぜに彼らは自分に武器を向けているのか。いや、それ以前にここはどこなのか。なぜにこんな雪山にいるのか。
「危ないのはあなたですよ」
ワイアットが信じたくないと言わんばかりに、型落ちの銃砲を手にしてハイチにそう言う。それに眉根をしかめた。
「いやいや。そういう物を丸腰の人に向けるんじゃ――」
ようやく、自分の腕に気付いた。周りを見た。彼らの目は明らかに自分を軽蔑している。なんなのだ、これは――。
「な、何これ……? ど、ドッキリ?」
焦っている。これが本当にドッキリであるならば、夢であるならば――。
「そうであるならば、普通、人間は腕を振り回したくらいで木の幹や金属製の武器を圧し折ったりしない。怪我もしていなければ、なおさらだ」
そうケイが言い放った。
「は?」
ハイチは困惑から脱出できないでいるようだった。
「な、何か俺のことをバケモノ扱いしてねぇか? じょ、冗談キツイ――」
「冗談キツイのはこちらですよ」
誰もが自分の味方ではない。ハイチはすがる思いでキリに近付いた。
「な、なあ、デベッガ。お前は――」
「…………」
キリは何も言わず、視線だけを逸らした。その無言がハイチにとって怖い。
「黙らないでくれよっ! なんで……なんで!?」
再び、周りを見る。もう彼らは自分を人間として見てくれていない。ハイチ・キンバーとして見てくれていない。その視線から、目の色から窺えるのは――『バケモノ』だけ。
「わ、訳がわからねぇよ! 俺、こんなんじゃ――」
「では、どうして、僕たちに攻撃を仕掛けてきたんですか?」
ワイアットを見た。
――攻撃?
「どうして、僕たちに殺意を向けてきたんですか?」
――殺意?
本当の本当に冗談キツイ。自分が何をしたのか。何がどうなって、こんなバケモノじみた腕になっているのか。いつもの火傷痕の手じゃない。人の手じゃない。
ハイチは頭を抱えた。
「……ンな、殺すつもりとか……」
「それならば、どうしてデベッガさんには出血の跡があるんですか?」
その一言でハイチはキリを見た。怯えた様子でこちらを見ている。前夜祭で見た綺麗な剣。地面には割れた仮面の跡がある。
――え。
一気に頭の中に情報があふれ出てくる。あまりにも多過ぎるものだから、激しい頭痛に襲われた。吐き気がする。脳みそをぐちゃぐちゃに掻き混ぜられている気分だ。とてもいい気分とはほど遠い、最悪不快感が、嫌な汗がにじみ出てくる。
――どうして、俺はここにいるんだ?
その問いかけがいけなかったのかもしれない。思い出してはいけないような、覚えてはいけないような記憶が頭の中を急激に駆け巡り出したのだ。
――あ。
今にもパンクしそうな頭の中。ごちゃ混ぜになった記憶は頭がおかしくなりそうほど。止まることなく、あふれ出てくる。
運命覚悟はできている好きな人を愛しなさい寄り添ってあげなさい無宗教スツールもはや人の優しさにはそれ以上の優しさで返してあげなさい家に帰る気なんてないかろうじてだけどね現実偵察五回生休み時間でよくね予備もなかったからそれならハイチは絶対負けるよ泣かせたハルマチの本の中身を探る王様が見える場所腹の中がわからない兄スラック突然変異エントランス世界中に拡散してあげますよエゴイスト残火アドイン体力スカート男でもないし女でもない存在セロの友達かい上膊災難よろしくねキリ君何も考えていないです服トイレットペーパーエトランゼ葉片細胞スキッドめちゃくちゃでかいバグ・スパイダー学徒隊員二名と合流君のその腕は自分で解決おれセロっていうんだ靴オブリクスの顔コレクション構築試運転なしクラッシャー先輩って図書館のお姉さんに恋をしていますよねそんな目玉を持って平気な面をしていられるな休日の町王国軍基地ライアンならハルマチと上に行く途中で会いましたけど雑輩緑色の目それやっていいことじゃないのではモップ他人のふりをしろレストラン腐ったにおい嫌がらせ通信回路温かいご飯妙な運友達音痴絶対任務を成功させましょう貴族の坊ちゃん喜びサーバー頭を抱えません今の今まで忘れていたって花束を添えてサボりおいフォスレター山間の村おんなのこみたいだねムカつく悪臭リスター副隊長反政府軍団お義兄さんすごく美味しいですよ明後日サインと写真をください大怪我シエノ港町そういうときこそこうしよう訓練用制服キリ君最年長はあなたでしょう雄原細胞そっくりさんケイ言い出しっぺ噂いつか帰ってくるから光る岩ライアン傷情報を売ったいたたゲーム完全じゃない状態でキンバーさんの記憶を持ちたくないんです頭シニカル目撃証言だけじゃ捜査しようもないだろ武器死なない存在水てめぇらの存在ブレンダン大量の本構わねぇよ無神経貴族野郎この前嬉しそうに話していましたもんねメアリー講堂くせ毛警備前夜祭薄い青色の目バックアップも万全王国のために尽くすハイネ先輩肉叢ラトウィッジあなたには関係のない話だ先生ハイチさんデベッガたちは出会わなかったお子様危険寝ていたところを起こされた買い物行って来てくれるかい大嫌いだよ三回生辛い物シルヴェスターは意外に怖い発信器スタンリー失脚こなクソがっ自分のことが嫌いだろ未来を生きるための人間悪魔の化身だ路地裏エイケン教官エリア機械学軍人育成学校に行ったらいい訓練場嘘じゃありません怒り前っやり過ぎはお前が捕まるんだぞハルマチありがとうございますいつもごめんなさい歴史学どんなお話をします始末書もう二時間ほど待っていただけますかあんたみたいなやつなんて助けたりしない隣町手そういうことねありがとう勝てば二度とその条件のことを口にも出さない窓ガラス俺たちの村を襲ったんだ最上階忘れ物靴下お兄さんちょっといいばかアドレス手袋ディースは俺の物手独り善がり残夢デベッガ君怪物ケーキの代金エドワード俺ができることならセロの好きな人演壇二人ハイネの気持ちを知っているのかよアプリ王都楽しい旅どちらが勝つんですかねぇ綺麗な剣優等生年上好み三銃士軍団の証十二パーセント背負い荷物戦力外巡回会社サイバーキイ教石畳嫌だ嫌だコンピュータ町の情報屋とやらアパート怯むなっ嫌先輩似ている気がする直接レファレンス競争しようぜ高原学徒隊員ワイアットハイネの安全ネットワーク他のお客様のご迷惑になるので歯車こんばんはいつだって本気だ義弟後輩裏通りキリ君は私のことが好きですかマックス訓練学校いくらなんでも失礼嘘キス全部それが原因アイリ広場今回の為に倉庫からくすねてきた剣その言い方はひどいわ夜中まで騒ぐ仮面バトルスタイル焼き菓子けんかしないでよぉおおお今日ストラテージボードカムラとハルマチだーれもいなかったんですよ入団鉄鎖執念と運のよさからからくる錯覚ですよ撃針工場セロあなたと私のことですよカムラ教うわぁああああやしいやつお前のアイデンティティはそのサングラスじゃねーから北の国境沿いにある村通りポケットブック耳ハイネに結婚の申し込み王国軍髪の長い悪趣味船裏切ったわけじゃないんだからね信者の町おはようございます邪険人間じゃない茶色い目光掃除を適当にしやがってザイツアイリに似た偽者名演技ハイネと関わらないでくれヤナ庶民と貴族ご名答笑顔の仮面木シソーラス先生貴族野郎がマッドと遭遇しているソマクローナル変異おんなじゃないもん通報電子学世界の中心でバカヤローと叫ぶ似たような木どうです電子天秤ドライブに行かないかキンバーさんの記憶がなくなってしまったんです実況デベッガさん僕はどうやらここまでのようです腐臭ヴェフェハル前夜祭に来なければ意味ないでしょう盗聴変態俺が取ってあげるハイネを泣かせた俺は正常ですからね商業の町ハルマチに邪魔をされた友達ハイネさん黒い目条件避難俺だけ来た刃物では絶対切れないロープ君慚愧ハンマー三十六敗いい加減大人になりなよ車の鍵アルゴリズム却下致します下級生新人が腕を挟まれた税金の無駄遣いガスマスクこの前の任務で内面残念デベッガの好きな人二重螺旋モデル最良の選択肢を選ぶ会いに来る指あいつにかかればくそ貴族野郎は爆破する四回生サイバー犯罪ワイルドカード燃料高圧管オペレーション実は残念系の上級生僕と結婚してください山補習のお知らせ缶詰俺はキリ・デベッガだ拳銃アクセス・ポイントオブリクス君リコイルスタータ嫌がらせ屋だから病院パーティネタ怒り顔指示書汚い字ケーキは後回し私殺されていく罠先生俺さ労働者の町に行こうと思っているんだ射座ターネラ記憶を返せ語るなら端末機口遊ぶなデータ・スクラップ・エリアに捨てた青いリボン軍事学プロトコル金お前はいつも人の話を聞かないからだ優しさ電話本物のハルマチは変人でディースというこいつそっくりなやつは変態だ無菌操作ナンバー23銃弾総長座学用制服うっせ自分の力量は理解しているはずもしかして花壇の花の水やり放してくれませんか雑誌サバイバル・シュミレーション鍋いっしょに連絡通信端末機お前の存在意義はなんだ口論キーアサイン培養容器家に帰ったところで心配されるだけじゃないディレクトリよかったら俺しますよ専用ソフト甘い物シルヴェスターえへへターミナル対決教典青年元気出せよ住所大問題綺麗な人操作商品青の国俺とデベッガが対決だってマシン銃床あーうー材木うるさいっ腐れ縁なんかあやしいおっさんを見たんですけど結果データが存在しませんよくおわかりで残念だけどねバーベリけんか暗記が得意なだけの人間アジテーション隊長これなに生物学侵攻戦マティ労働者の町ころされるまえにいこ待ってよハイチー図書館の人証明謝らなきゃバーカバーカ合成あいつは処刑で囮君は二年も意識を失っていたんだ人権泣くなよそうなんですねぶち壊せよ勝手に出歩かれては困るお前の煽りの一言だからシステム首非細胞生命体意外に精神年齢は一緒だった年上第一に野菜勝手に増やせ僕デベッガの偽者おかあさん植物無駄にカッコつけんなハルマチのスカートを捲ったことが原因でしょうが助かりますジェシカ昨日海地図カムラに愛されている賛同水質浄化ここにいてちょうだい精肉お前みたいなクソ女や戦力外のお守りだなんて土コインストバトルクランク軸えぇ画面ガバナー北エネルギー謙遜ロッカアーム常識書斎ヴィン遅いぞバグ・スパイダーの事件のときですだからこうして隠しているんだよ雪あなたはお兄ちゃんなんだから経験年上の威厳どちらかが死ぬことどう思うかなんてガズ君連絡入れるから訓練場ふざけるなよ黒髪の人体細胞クローンバレル正体不明の親玉まだまだ終わってねぇよガン行く準備が万全女心めちゃくちゃ怖い貿易ビルの屋上空笑いメールアホ毛がなければカッコいいのに文書作成ハッキング火器ガスケット気付かないデータ世界消音機タッパ形性転換植物ーまた俺の負けかよ道路うるさいな運がいいねきみは軍これテーブルに記憶を失くした公園爆発笑顔少しは反省しろ聞いてください鼎談同室血生臭い場所きみのお兄さん人がコンピュータの中に入れる代物今時の女子武器も持ちません近接演算子スコープ兵士も持ちません失ってもまたよみがえるに決まっているみんな何も期待していねぇよ気付いてもらいたい気持ち接ぎ木接種へぇよろしくなハイチ病院ハイネさんのドレスを見たい野垂れ死ぬ次席に戦いを挑んだんだ出身地三銃士軍団員滅菌フィルター本貴族野郎ハイネにフラれた首席悲しみお前がした所業は忘れたわけじゃないからなエレクトンガンやっぱお前ばかだなつまらねぇ紅武闘勲章にー石今日は肉屋のじじいのところで落書きしに行かね意志三回生の子が爆破させたって飲食街気にしない法律俺はこいつを買っている念押しずるい精鋭部隊隊長落葉妹そういう問題ではなぁあいぃいエライザ法イヴァン見せたくない俺ずっと言いたかったことを言います空き教室ラウンジ現実に戻れない点火プラグ主義クランツ教官トランケーションセロとハイネがばか赤いドレスお菓子タイム崖キリ君は優しい人なのセロを叩いた歯車記章手抜き後ろ黙秘権そういう日ボールドウィンから距離を置こうと思いましてね高圧蒸気滅菌器ダメですよ返事はしないとそんなことはないですよアクロバテリウムお行儀が悪い勘違い考え事問題ないほうき急な任務図書館こっちに長距離ダメ皇妃面倒くせぇイケメンなのに許せない申し訳ないこいつは南地域エリート黒い手袋分厚い本うるさいばか一緒にどうですリズム感オートクレーブヴァーチャルの世界から出られなくなったカメラ分裂組織ライアンの手作り状況を考えろ大量の虫私の息子がね静置培養二回生しらけたカムラあいつしか考えられません黒の皇国キンバー君はサロン連絡通信端末機おもちゃ面倒事マティルダ絶対王者ヤグラ浜辺白髪のじーさん早く退いてくれお前行ってこい笑い顔メッセージどうしてこんな面倒事をあたしに押しつけたんでしょー火後ででいいよ私の味方作戦会議君の登場をほぼ事実だろ大丈夫かきみたち超音波洗浄機ディース気がつきませんか寂しさ宝物にしているのか東地域デベッガ不便張り合えるくらい強くなるんでマッド滑剤ジャック最悪連絡先おれのかあちゃん赤の人だからさ悔しさバグ・スパイダー俺はお前に勝てない本当滅多なことを言うなよ火傷お母さんってどんな人だったの書き変えてやる棄権なんで寮だから俺何もしてねぇしまつ毛長くね見た目に反して子どもだもの助けた言ったんだがな聞き捨てならない言葉ガイド悪い虫誰かが設置してくれる保証があるならば明日デベッガ君自身が倒しました目好きな物ここは試験に出るからな他の人たちあいつは平気なのか最新型ウィルス豪華賞品あれで満足しねぇのかよ幽霊ボール本拠地感想軍人になる気ないくせにしてエラー燃焼室ハイチ使えねぇやつ十六かぁお菓子銅像彼氏は三十五年早い訳わからない手を取る不穏な空気クリーンベンチお前の客ナイフ作戦軍のシステムデータこらぁお前たち壁三週間ですよ三週間いくつなんだ爆弾一回生妹に色目年長者今年でいくつわくわくナイスタイミング小さい子どもみたいよおおじさぁん長時間ここに座るのつらいんだよ精神的にケーキ連絡がつかないなにもしていない胃袋キイマジでふざけるんじゃねぇぞぼかぁ美味しいジュースを寮ルーデンドルフ教官細胞融合あたし結婚年齢全生物食堂出禁坊ちゃんはインテリアお前なんて知らねぇすまなかった異形生命体ボールドウィン有機成分もう終わりだなカムラ女虫真面目に授業を聞けよ染色体倍加きみは私たちが必要としているんだからカルス形成食べ物の恨み俺もハイネさんもお前らなんかに負けたりしない銃眼おかあさんはもはやその腕は帰りの金皇子大至急だばか野郎メカトロニクス改造建国記念式典向こうのシステムに入ろうとしているんだよ足これが気になるんだっけかオブリクス爪工業の町みなさんもどうぞオイルシグナル論より証拠逆にグルメ観光母細胞エレクトンボム環境保護区野郎ではありませんここにいてちょうだい楽しさあんなひょろひょろでよ本音それはいくらなんでも失礼だろうが認めないケーキは東通りのケーキ屋の方が美味しい血大丈夫かあんたごめんね神様看板俺が気にしているのはその状態でいてくださいね坂道突撃銃あの本この世の物ではありません次席島みんなのことを思えば乗り物酔い基本培地シリンダ体のデータキンバーさん宗教脳情報変換機定期検診を受けに来てね青いドレスどうでもよくない情報お前は何もするな教官無事で何よりあんまり無理するなよビル街パンプス遺伝子煙草お礼ムカつくったらありゃしない散弾銃ガズ朗報うるさいブザー酒場デコンプレバー海鮮料理実態顕微鏡行く宛てがないならここに住まないかなんならおぶられましょうかハッキングイチャイチャそういうお前も大概だろ何か後ろめたいことでもボクお前は反軍の人間か国王ごめんなさい座学は苦手だわキリ王族の姫君あの病室の気分が悪いなあんか本当ごめん勝てるかっ反応ヴァーチャル・ブレイヴ・ストーリー俺たちの部屋にいましたよ胴体グリーングループ工業用油臭俺は応援している妹思いのお兄さん頑張ってね勲章はなせよ首切り女子の誰かに紙を持って来てもらうガズ様腹立つな下膊それならばあなたがキンバーさんの幸せを願えばいい西地域神のために悪神の魂を捧げよう泣き顔なんで手袋をしているんですか灰色の目あーあもしも世界中で禁忌的存在に当たる異形生命体になったらどうなるんだろうねハイネ白と黒のワンピースを着た幸せになりますように家に帰ってやれよきみの名前はハイチだお兄ちゃんクラッシャー腕なしバケモノ人でなしハイネとここにいてちょうだい――。
「あっ、がっ……!」
ハイチは一人、四つん這いになって頭を抱え込んだ。頭を冷やそうと、雪の上に押しつける。痛い、頭が割れるほどに。
「な、なんだ?」
今はキリたちの方を見ている場合ではない。それどころではないから。
一方でハイチを見る一同は見る目が着実に人として向けていなかった。黒いその腕。ハイチの肩が疼き始める。呼吸が整わない。急にハイチの頭が、黒色の髪の毛から雪と同じような真っ白へと変わっていっているのだから。
――落ち着け、落ち着け。頭が痛いだけだ。そうだ、きっとこれは盛大なドッキリに決まっているんだ。誰か、ばかがドッキリ大成功とか変なことを言うに違いないんだ。きっとそうだ。だって、勝手に辞めたからその報復をしようとセロ辺りが計画でも立てたんだろう。
目玉が押し潰されそうなほどに頭が疼く。体が熱い。頭が痛いから何も考えたくないのに、ずっと記憶が回り続けていた。もう堪えられない。嫌だ。大声を上げないと、頭がどうにかなりそうだった。
ハイチは雪雲に向かって大声で叫んだ。これにキリたちは一層緊張感が高まる。
「痛い、痛いよ! 痛いよ! 頭も肩も――助けてぇ! 誰か! 先生ぇ、お母さん、嫌だよ、痛いよ!! 帰りたいよぉ! 家に帰りたいよ! もう、こんな思いするくらいなら死にたいっ! 楽して死ねるようになりたい! 生きるの嫌だ! なんでいつも俺ばっかり! 俺に期待しないでよ! なんで俺があんなバケモノと戦わなくちゃならないの!? 俺が何をした!? 誰か教えて!?」
雪がある地面へと頭を叩きつける。その直後、疼いていた肩より、真っ黒な羽が生えた。首やこめかみに青筋がたくさん浮き出ている。今にも血管が千切れそうなほど、苦しそうにしていた。
「何、あれ」
マティルダが小さく言った。今、自分たちが見ているハイチは、彼――腕なしは出会ってきたどの異形生命体よりもおぞましい。
その白くなった髪から覗かせるはいつもの灰色の目。だが、その目はぎらぎらと血走っていた。
「……痛いんだ……助けてくれ……。もう、こんな思いは――」
先ほどよりは頭痛が引いてきているのか、ふらふらながらも立ち上がった。誰でもいい。助けを求める。
「デベッガ」
キリにすがった。もう黙らせない。口を割らせてやる。自分のことをどう思っているかなんて考える余地がないから。ただ、楽になりたい。この頭痛が引くのであれば、何だってしてやる。死んだっていい。だから――。
「俺を殺してくれよ」
悲痛の懇願をキリにぶつけた。
今の自分がどんな姿なのか、想像はついている。明らかな人ではない姿。もう人として交われない。勝手に離れていって、近付いていたのは――結局は一人は、嫌だったから。
【ハイチ!】
【――――】
ハイネとセロの姿が思い浮かべた。あの人を思った。今なら間に合う。こんな姿を彼らに見せたくもない。死ねば、もう苦しみから解放される。それでいい、それがいいんだ。
キリの方を見ると、彼はとても複雑そうな表情を浮かべていた。その目には迷いが見られる。どうしてだろうか。こんな恐ろしい姿をしているのに。殺すべき対象であると自覚しているのに。
「俺を殺してくれないのか?」
ハイチが歯車の剣先を握ってきた。そこからは人と同じような赤い血が流れ、地面へと落ちる。
「…………」
何も言えないし、行動ができないキリは下唇を噛んだ。
目の前にいる者を殺さなければならないことは重々承知している。それがアイリのお願いだったからだ。そして、ハイチからの依頼も――。
最初の腕なしの雰囲気がハイチに似ていたから、そうでないことでも願っていた?
――ああ、そうか。
願っていたんだ。きっと。事実を変えようとしていたんだ。ハイチが腕なしでありませんようにって。あのとき。最初から疑っていたわけじゃない。証拠もない確信を抱いて、勝手に願っていたんだ。あのとき。それだから、あのときだけ事実の改変が行われていたんだ。火傷の痕というのは真っ赤な嘘。自分が作り上げた嘘。本当は真っ黒なその腕を隠していた。人でない手を隠していた。そのはず。
――でも、どうしてハルマチは彼を殺したがる?
キリはハイチを見た。じっと彼は生気のない目でこちらを見ていた。早く殺してくれと言わんばかりである。
そっと歯車の剣先から手が離れた。
――俺がやらなきゃ……。
剣の刃先をハイチの胸へと向けた。それに伴うようにして彼は両手を広げる。死の覚悟はできているようで優しい笑みを浮かべていた――。
「ありがとう、デベッガ……」
「――なんて言うと思ったかっ!?」
ハイチに歯車の剣を突き立てる前に、キリの腹が黒い手によって貫かれてしまった。その場で大笑い声が響く。それに三銃士軍団員たちは何も言葉が思いつかず、呆然と目を見開いていた。
キリの手から剣が滑り落ちる。彼らの目には絶望しか映っていない。
「あーあ、さっさと殺せばよかったのになぁ。さっさと殺せばよかったのになぁ。お前は大ばか者だな。正直見て、死ぬ人間……いや、死ねないか。死ねない、死ねない! 死ねばいいのにっ!」
ハイチが何を言っているのかわからなかったが、ケイはその手を離せと言わんばかりに、落とした歯車の剣で貫いている方の腕を斬り落とした。それにより、地面へと落下する。急いでヴィンとワイアットがキリを安全な場所へと連れていった。
「次席!」
「やるねぇ」
ケイを感心したようにして、腕が再生していく。その姿もまた恐れ抱きそうなほどのおぞましさ。しかし、ここで逃げてしまってはいけない。何より彼は――。
「あなたはキンバーさんを幸せにしたいのではなかったのかっ!?」
睨みつけるケイの言葉に対して、ハイチは鼻で一蹴した。
「で?」
あの幸せそうな兄妹は偽りだったというのか? 今の今まで。もう人の心を失っている。バケモノの心にまで成り下がった。人を殺したから。キリはもう戦える状況じゃないから。
――俺が……!
これで勝てるかはわからない。まだ銃弾の傷口が痛む。ケイは歯車の剣を構えた。ハイチは彼の姿を捕えている。
一呼吸後、二人は駆け出す。狙いは――。
――どうしよう?
一瞬の迷いが生じてしまい、隙をつかれてしまう。剣を弾かれ、銃弾が当たった箇所に黒い爪を突き立てられてしまった。
「ぐっ、ああああああああああああああああああああああああああああああ!!?」
貫通こそはしていないものの、ハイチはそれを遊ぶようにして傷口を抉るようにした。ケイの叫び声がこの場一帯にこだまする。腹だけじゃない。そこからつながるようにして、全身に痺れるような痛みが襲いかかってくるのだ。黙っていられない。できるのは叫ぶことだけ。為されるがままなだけ。
「ケイ様!」
もう見ていられない、とソフィアとフェリシアが型落ちをした散弾銃でハイチを狙って撃った。だが、その銃弾は真っ黒な手によって止められてしまう。銃弾すらも通さない堅い皮膚。まるで鎧だ。
「そんなっ!?」
何を考えたのか。ソフィアはケイが落とした歯車の剣のもとへと走ろうとするが、受け止められた銃弾を投げて足へとぶつけた。それにより、彼女は倒れてしまう。
「ソフィア!?」
気を取られていたフェリシアにもハイチは銃弾を足にお見舞いした。これにより二人は上手く立てなくなってしまう。散弾銃を杖代わりにしてしか立ち上がれそうにもなかった。
「早くしないと、坊ちゃんは死ぬぜ?」
ハイチが下卑たにやけ顔を見せていると――。
「ケイさんから離れろっ!」
ワイアットが歯車の剣を拾って、真っ黒な腕を切断した。彼は崩れ落ちそうなケイを抱き抱え、後退するようにして剣先を向ける。
この状況の最中でもハイチは一人笑っていた。何も面白くないのに。彼らを見てずっとにやにやしていたが、ワイアットの姿を見ただけで逆上し始めた。
「いつも、お前は目障りだ。目障り、目障り! あいつに付きまといやがって……!」
「その言葉! 今のあなたがハイネさんに言えますか!?」
ワイアットは臆ともせず、果敢に人の姿を失ったハイチと戦おうとしていた。しかし、不安は拭えない。この異形生命体の皮膚を斬れる剣だとしても、元々の彼の身体能力にプラスされたバケモノの力に勝てるのかなのである。
「てめぇがあいつの名前を口出ししてんじゃねぇよっ!!」
再生された爪をワイアットに突き立てようとする。それを彼はかろうじて剣で防ぐが、片手で防いでいたために飛ばされてしまった。歯車の剣も後ろの方に行ってしまう。
「貴族は気に入らねぇ。全くもって気に入らねぇ。人を見下しているくせに。俺たちを見下しやがって」
お前だけは絶対に殺してやる。そんな目付きで彼のもとへと近付くハイチ。手近ではないところに飛ばされた剣を取りに行けなかった。行ったとしても、後ろ姿を見せてしまうのだから。それこそ、命取りである。
「死ねっ!!」
――あ。
「ワイアット!?」
鋭い金切り音がその場に響いた。
ワイアットの前には腹を貫かれたはずのキリが。彼は肩で息をし、ハイチを睨みつけている。その姿を見て誰もが疑った。
――傷が塞がっている!?
「あなたは、この世に存在してはいけない……!」
本当は言いたくない言葉。
【そのときはきちんと殺さないとねぇ。きみが世界を滅ぼしたことになるから】
アイリが言っていた言葉。これが事実になるのであるならば、今ここで実行しなければならない。彼を、腕なしを――ハイチを殺さなくてはならない。
「世界のためにっ!」
やりたくはなかった。殺したくはなかった。大切、大事だと思える人だったから。だが、これしか方法はない。ハイチを苦しめないためにも殺さなくてはならないのだ。
ハイチの黒い爪を払ったキリはその首を一閃した。
首と胴体が離れると共にその場に倒れ込んだ。周りの地面は赤く染まり上がる。首は転がり、顔は見えない状態にあった。
「お、終わった?」
呆然と首のないハイチを見る一同。どうやら終わりらしい。キリが手にしていた歯車の剣は普通の歯車の大きさへと戻ったのだから。
誰もがキリを見た。ワイアットが声をかけようとするが――。
「……存在したらダメなのか?」
地面に転がっていた首がしゃべり出した。ころんと顔を見せた。目は見開いており、ぎろりとこちらを見ているではないか。ややあって、突如として首なし胴体が起き上がり、キリを地面に叩きつけた。
「はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」
大笑いするハイチ。いや、笑い声を上げているのは体の方だ。声もいつものハイチの声ではない。胴体は首を拾上げ、元に戻すとワイアットの方に目を向けた。
「ねえ、誰?」
それにワイアットは恐怖心が大きくあり、答えられなかった。それでもハイチは質問を投げてくる。
「ねえ、誰?」
「…………」
「俺、誰?」
その言葉にハイチは頭を抱え出す。
「俺は誰だっけ? 何者なんだっけ? お前は誰だ! お前も誰だ! ああ、忘れちまったよ! ぐしゃぐしゃのドロドロの記憶なんてクソくらえ! 俺もお前らもクソくらえっ!」
なんて大声を上げながら再び笑い出した。気が狂ったか。誰も何も言えない状況の最中、キリがゆっくりと起き上がる。もう驚く余地などない。
「あなたは『ハイチ』さんでしょう?」
歯車の剣を展開して、ハイチを見据えた。
「そうだ、俺はハイチという名前なんだ! ハイチ、ハイチ……」
自身の名前を思い出すと、急に無表情になった。
「……じゃあ、あの白と黒のワンピースを着た人は? 黒くて長い髪の人は? あの場所はどこ? 食べる物もない、水もないあの場所は? 俺たちは? 違う、俺はハイチじゃない。俺はハイチじゃないんだ。俺は――」
頭を抱えてぶつぶつと呟き始めた。これ以上、見ていられなかった。
ハイチは歯車の剣を見ると、今度は怯え出した。その途端、彼の黒いバケモノの手と羽は体内に収納するかのようになくなる。今のハイチの姿は黒い人の形の腕を持った者である。その様子に不審を抱いていたのはキリだけではない。一同が眉根をしかめた。一体どうしたのか。
「ハイチさん?」
「来るなっ!」
今度はハイチがキリをバケモノかのような目で見る番である。いや、違う。彼が見ているのは歯車の霊剣――?
「来るな、来るな、来るな、来るなぁ! こっちに来るんじゃねぇ!! 俺は何も悪くない! 俺は何もしていない! 全部、あいつが悪いんだ!」
――あいつ?
ハイチの記憶は一体どうなっているのだ? 怯えているのは自分自身か、それとも歯車の剣か。キリは試しに剣を地面に突き刺して、単体で近付いてみた。
「ハイチさん?」
「お前っ、『名なし』の手先だろ。俺を殺すように!」
――名なし……?
その場で立ち止まる。そして、じっとハイチの出方を待った。
「だったら、俺は逃げてやる!! あいつもお前も来られないような場所に!!」
再びハイチが真っ黒な羽を生やして逃げ出そうとするが、彼に大砲弾が直撃した。キリはその爆風に後ろへと飛ばされてしまう。なんだ、と大砲弾がやってきた方向を見た。こちらの方へとやって来る装甲車、戦車が見えた。援軍なのか。
「私が呼びました」
そうマティルダが言う。彼女の手には無線機が握られていた。
砲弾が人に当たれば、当然致命傷を負うか死ぬしかないのだが、ハイチは傷一つも見せずにいる。近付いてくる援軍を見た。
「構え――撃て!」
装甲車、戦車の方より命令が下る。一斉集中砲撃が開始された。まるで保護区でのマッド討伐の際に草原で見たものと同じようだ。爆風が、粉塵混じりの雪が彼らを襲う。
爆音が鳴り響く。地響きが鳴る。揺れに揺れて、木の上に積もった雪が落ちてくる。
「ふざけんじゃねぇぞ!!」
ようやく止まった砲撃にハイチは黒いロープで縛られていた。それを引き千切ろうと力を込めようとしている。あの黒いバケモノのような腕に変えて、強引に脱出しようとしていた。
「この野郎!」
なかなか抜け出せないハイチのもとへ、誰もが恐れをなすような人物が戦車から降りてきた。その人物は森厳平野での作戦の総指揮監督をしているはずのラトウィッジだった。彼を見て憎悪感ある目を向ける。
「それはどんな力が加わろうが、千切れたり、切れたりはしない。グリーングループが開発した代物だ」
そうラトウィッジは言い放った。
「皮肉なものだな」
「てめぇ……!」
「似たような試作品をもらっていただろう、きみは」
ハイチは「こっち見るな」と睨みつけた。
「見せ物じゃねぇぞ」
「当たり前だ。誰に、いつ危害が加わるかわからないというのに。『処分』は普通の異形生命体と変わらない」
処分――キリは「待ってください!」と声を荒げた。ラトウィッジはこちらを見てくる。だが、彼はその一言を耳に傾けるほど甘い人間ではない。すぐにハイチの方へと向き直った。
「それを処分場へ連れていけ」
ラトウィッジの言葉に従うと、王国軍人たちは喚くハイチを乱雑に護送車へと詰め込み、下山していった。それを見送ると、雪の上に座り込んでいる彼らを一瞥する。
「彼らも連れていけ」
その一言で三銃士軍団員たちは両手を後ろにつながれてしまった。これにキリ――否、誰もが目を丸く見せる。なぜに自分たちがこのようなことに?
「ワイアット、ケイ、マティルダ」
ラトウィッジが三人に声をかけた。後ろに手を回された彼らは親類である彼を見る。
「このようなことを私は言いたくないのだが……」
そう言いつつ、懐から一枚の書類、令状にも見える。それを取り出した。
「三銃士軍団員、全員をメアリー王女護衛不全により、逮捕致す」
誰もが言葉を失った。
「ま、待ってください、叔父さん! 僕たちはまだ――」
「まだではない。『もう』だ。今がした、別ルートを行く者たちから情報が入った。姫様の奪還は失敗した。彼女は黒の皇国の方へと連れていかれてしまった。故に、国王様から直々の命令が下った。三銃士軍団員全員を逮捕しろ、と」
ラトウィッジの口から伝わる事実に彼らは唖然とした。その事実を受け入れるしかできなかったのだ。いや、受け入れる以外どうすることもできない。元はと言えば、誘拐されないためにきちんと護衛していなかったのがいけなかった。投獄されなければならないのに、それを引き伸ばしてくれたエレノアとの約束も守れなかった。
「ら、ライアンが?」
その一言にラトウィッジはそちらを見た。キリはその事実を知らなかったようである。当然だ。
「……そう言えば、きみも誘拐されていたな。だが、きみの帰還よりも姫様の方が誰もが望んでいる。守るべき人を守れなかった。ただ、それだけの不届き者だ」
「そんな――」
「故に」
ラトウィッジはキリのもとへと歩み寄った。そして、彼がジャケットにつけている三銃士軍団の証と紅武闘勲章を取り上げる。
「きみは国の裏切り者だ、バケモノめ」
三銃士軍団員たちは王都はずれにある特別収監所へと移送されることになった。いや、キリだけは別だった。彼だけは東地域にある、もう使われない承前の棟と呼ばれる地下牢へと投獄されてしまう。
◆
ただ、じっとしているのもどうか、とアイリは老人の私物である本の中身を眺めていた。読みはしない。読みたくないから。それだけ。ページすらも捲らない。どうでもよさそうに眺めていると、ウノが声をかけてきた。
「カムラ」
声だけかけると、ウノはアイリに号外新聞を渡してきた。
「あたし、活字好きじゃないんですけど」
「一面見て、最後の面を見てみろ」
言葉に流されるまま、アイリは新聞の一面を見た。二枚の写真があり、一枚はメアリーの顔写真。もう一枚は突っ込んできた車によってぐちゃぐちゃにされた店、その車の中へと強引に連れ込まれようとする彼女の姿があった。
見出しは『メアリー王女誘拐奪還ならず』。思わず、ウノの方を見る。最後の面を見ろとアイリに急かす。裏返しして見た。
『三銃士軍団員になりすました半異形生命体を捕える』
顔写真が載っていた。ハイチだった。捕縛された彼はインフェルノと呼ばれる場所に連行されたらしい。
「……ウノさん、やることができた」
「は?」
アイリは号外新聞と自身が持っていた分厚いピンクの本を手に情報屋の店を飛び出した。入り口で老人とすれ違う。驚いたようにして、ウノの方を見た。
「なんだ?」
「いや、俺も何がなんだかです」
二人が首を捻らせていると、店の裏側からエンジン音が聞こえてきた。それにウノは片眉を上げながら外に出て見る。それにつられて老人も見れば――。
「お前っ!?」
彼らが見た光景はウノの私有物である大型バイクのエンジンが回されているところだった。もちろん動かしているのはアイリである。
「それ、俺のだから!」
「それくらい知っています。いっぱいあるからいいですよね? 借りますよっ!」
「おいっ! ていうか、まだローン払い終わってないやつ!! 俺のお気に入りのやつ!!」
アイリは聞く耳を持たずして、走り去って行ってしまった。彼女が向かう先は――。
――冗談じゃない!




