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世界は運命を変えるほど俺たちを嫌う  作者: 池田ヒロ
第二章 回天動地
35/96

予兆

 誰もいない早朝の通り。そこを一人歩くのは黒髪で外はね系のショートカットの少女。両手にはピンク色の分厚い本を抱きしめていた。


――何しているんだろう、あたし。


 気がつけば、ここにいたらしい。ただ、行く宛てもない場所をウロウロと歩いて行く。随分と歩いた。だが、どこで休めばいいのかわからない。彼女はずっと足を動かしていく。


 少女の目指す先は、彼女にも全くわからない。


     ◆


 三銃士軍団用制服に着替えるキリをよそに、ガズトロキルスはぼんやりと備えつけのテレビを眺めていた。


「キリ、今日も仕事か?」


「ああ。今日も明日もだ。ていうか、お前は家に帰らなくていいのかよ」


「うん」


 テレビに飽きたのか、連絡通信端末機を弄り出す。そんなガズトロキルスを見てキリは不審に思った。彼は家に帰らずしてそのまま学校に戻る気なのか、と。


「いや、うんって――」


「帰ったところでな」


――帰るのは止めた方がいいに決まっている。


【理由知りたければ、お友達として一緒にいれば? この先でガズ君が幸せだって思えるならね】



 嫌に頭に残るアイリの言葉。これからどうなるのかは全くわからないのだが、おそらくはあの異形生命体との関係性であるとはわかる。このまま一緒にいれば、ろくな目に合うとだけは断言できた。それでも、この目で確かめたい。これから起こること、これから体験することを。


 自分の幸せよりも、その好奇心が打ち勝ってしまっているようだ。これもまた自分なりの幸せとでも言うべきか。


「まあ、俺は咎めたりはしないけど。そんなにつまらないなら、先に俺の家のところに行ってくれないか?」


 身支度を終えたキリがそう言った。それにガズトロキルスはキョトンとする。


「え? お前の家?」


「うん。家に連絡入れておくよ。ガズが来るって。だから、ガズは俺が来るまで家の手伝いしていてくれないか? 確かそろそろ野菜の収穫時期だろうし」


「行く」


 野菜の収穫という言葉につられて、ガズトロキルスは勢いよく立ち上がった。今の時期の採れたての野菜は美味しいに違いない。そのままさっと土を落としての生噛り、山間の村特有の調味料を使用した料理の品数。考えただけでも涎が――本当に出てしまう彼を不審に思うキリ。


「……なんで笑ってんの?」


「キリ! 任せておけ! 俺はたらふく食べてくるから!」


「趣旨が違ってきているけどな」


 キリはそうツッコミを入れながら、メールで自身の実家の住所と地図を送った。その画面を見るガズトロキルスは「結構山の中なんだな」と呟く。


「俺の家もそんな感じだけどさ」


「ガズの家ってどこだっけ? 南地域?」


「そうそう」


 そうとなると、あの保護区の近くになるのか? 少し気になるキリは詳しく訊いてみた。


「南って、国指定の保護区があるよな。そこら辺?」


「いいや。北地域側寄りのところ」


「っていうと、王都の南部にある山辺り?」


「だな。それよりも、この地図通りに行けばいいんだな? じゃあ、俺行ってくるから」


 ガズトロキルスはそう言うと、荷物の整理をし始めた。キリはもっと話を訊きたかったのだが、片付けをされては訊くに訊けない。こればかりは仕方ないな、と彼は自身の家の方へと連絡にメールを送信した。


「それじゃあ、ガズ。後はよろしくな」


「おう、野菜は任せておけ」


 キリはそのまま端末機をポケットに仕舞いこもうとするが――。


『メールが送信されません』


 そんな表示が出た。もう一度、送ってみるも同じだった。キリは口を尖らせながら、後でメールを送ることにした。


 キリの村では連絡通信端末機の使用ができないこと多々あるらしい。それは黒の皇国、旧灰の帝国との国境沿いに位置する村であり、隣国が余計な電波を飛ばしているからとも言えるだろう。ずっと使用できないわけでもないため、キリはさして気にせず、宿を出てしまった。


 キリが出ていくと、ガズトロキルスは盛大にため息をついた。あまり詮索されないでよかったと安堵する。彼自身、当分は家に帰るつもりなど毛頭ないのだから。


「よいせっと」


 ガズトロキルスは粗方荷物をまとめ終えると、その宿を後にした。


「えっと」


 キリから送られてきた住所を歩きながら確認した。彼の実家はここ北地域にあるらしい。


『行き方はターミナルに行って、労働者の町行きの便に乗れ。そこから村行きの便が出ているはずだから。朝と夕方の二つの便しかないからすぐにわかると思う』


 メール画面を見て、内容を確認しているだけなのに変な笑いが出てしまうのはなぜだろうか。流石にガズトロキルスは「これはないだろ」と言う。


「俺のところでも、一応一時間に一便のペースだぞ」


 なんて呟いていると、誰かと肩がぶつかってしまった。そのぶつかった相手は何も言わず、ただそこに俯き加減で立ち尽くして彼に一礼をして行こうとするが――。


「ハルマチ?」


 ガズトロキルスはそのぶつかった相手の名前を言った。その人物――アイリはその場に立ち止まる。何も言わず、ただそこでじっとしている。彼女は大事そうに本を抱えていた。


「こんなところで何をしているんだ? 連絡もなくてよ」


「そう」


 消え入るような小さな声で反応を見せると、どこかへと行こうとした。ガズトロキルスは慌てて呼び止める。


「いや、ちょっと待てって! みんな、心配しているんだぞ? キリもライアンもハイネさんも俺だって――」


 こちらの方へと振り向かせると――アイリは目に涙を溜めたまま、じっとガズトロキルスを見つめていた。その表情に動揺を隠せない。ずっと、泣いていたせいか目が赤いのか。そして、やつれた様子でいる。


「お前、大丈夫なのか?」


 アイリは小さく頷くと、手を振り解いてどこかへと行こうとする。だが、その場に崩れるようにして倒れてしまった。


「ハルマチ!?」


     ◆


 よく自分が住んでいる町は油くさいと言われることがある。それは丘の上に工場団地があって、油を使っているから。そのにおいが下にある商店街まで来ているんだろうとしか思えなかった。


 ここは工業の町。この町は北地域にある労働者の町と同様にグリーングループの系列の工場で成り立っているところだ。こちらは部品製造を。向こうは部品の組み立てを。分かれているからこそ、町は生計を立てていける。だが、地元へと戻ってきたセロの家はそうではなかった。彼の家は町の酒場であるのだから。


 町中を歩いていると、仕事が休みである顔見知りの者たちに声をかけられた。


「よう、久しぶりだな。ははっ、前はこんなに小さかったのによ」


 あいさつを交わす彼らからはタバコの独特なにおいが鼻についてくる。いや、このにおいが嫌いではない。家に帰ってきたという懐かしい気分に浸れるのだ。


「相変わらずだよね、おじさんたちって」


「おうよ、こっちは王都と違って何も心配はないな。でも最近は物騒だな? というか、この前のテレビで目の当たりにしちまったよぉ。飯食っている最中なのにな」


「今、皇国との厳戒態勢に入っているからね」


「知ってるよ。その後に軍の連中が来て。ほれ」


 一人の中年男性が壁をタバコで差した。そこには落書きされた壁の上に『皇国との国交厳戒態勢』という張り紙がされている。それはありとあらゆる壁や地面、街灯に至るまでだ。


「何でも、こっちは武器製造をしているんだから気をつけろっていう注意書きなんだとよ」


「じゃあ、あれだよな。その部品を組み立てている労働者の町もこぉんな状況ってか」


「邪魔くせぇったらありゃしねぇよ。地面まで張り出すのは面倒だぞ。おかげで適当なところでタバコも吸えなくなるしな」


「あれ、ウチの家内伝で町長が言っていたらしいけどよ、夜の外タバコを禁止にするらしいぜ」


「まあ、こんだけ張り紙があるんならな。それに大人しく家にいて、子どもと女房を守れってことじゃねぇのか?」


「違いねぇ」


 豪快に笑う男たちをよそに、憂いた表情を浮かべるセロを見て一人の男性はポケット灰皿でタバコの火を消した。


「……その面じゃ、あの悪童を連れてこられなかったか?」


 セロは小さく頷いた。


「嫌だって言っていた」


「ははっ、図体だけはでかそうなくせにして、言うことはあいつもまだまだ子どもだな」


 男性はちらりと壁一面に張られた張り紙の下に覗かせている落書きを見た。


「ハイネのところに行ってくる」


 セロは眉間にしわを寄せて、その場を立ち去って行ってしまった。この空気を察知したのか、男たちの笑い声は消える。彼らはみな、顔を合わせるしかなかった。


     ◆


 町の坂道を走ってみた。地面には靴跡が残る張り紙が。昔はよくここを駆け回って転んだりしたものだ。


【うわぁあああああ!】


 必ず三人の内、一人が転んで大泣きしていた。


 見覚えのある落書きをした壁を通り過ぎる。今は張り紙がそれを邪魔してよく見えない。昔は町の至るところにハイチと落書きをしまくって怒られたりしたことを覚えている。


【またお前らかっ!】


【もう、勘弁してよ。きみたち】


 その罰として町の掃除やイベントの手伝いをさせられていたことは今でも忘れていない。


 ふと、気がつけばセロの足はとある塀の前へと止まった。どこよりもたくさんに張り巡らされた張り紙。懐かしくも聞こえてくる、声――。


【まってよぉ! ハイチぃ!】


「セロ?」


 いつの間にか隣にハイネが立っていた。いつもの白と黒のワンピースを着ている。手には買い物袋があった。彼女は今も昔も変わらない姿でいる。


「ハイネか」


「お疲れ様。ようやくセロも休暇ってところかな?」


「うん」


「お茶、淹れるけど――」


 おそらくハイネは気にしているはずだ。少しばかりどこかそわそわとしている。


 セロはお言葉に甘えて、ハイネの実家でもある託児所へと足を踏み入れた。外からも聞こえていた小さな子どもたちの声が騒がしくも楽しそうである。


「ハイネねえちゃん、おかえりぃ!」


 ハイネの帰りに気付いた子どもたちはバタバタと彼女にすがりつく。ハイネは小さな子どもたちに人気なのだ。


「セロにいちゃんも、セロにいちゃんも! ねえ、かたぐるましてぇ!」


 一方でセロは六歳から十歳くらいの男の子たちに人気があった。ここにいるときは、いつもダイナミックな遊び相手をしてくれるからである。


「いいぞ」


 セロは肩にかけていた鞄を邪魔にならないところへと置くと、十歳くらいの男の子に肩車をしてあげた。元々が高身長な彼よりも、さらに高い目線へとなった男の子は楽しそうにはしゃいだ。


「ご、ごめんねぇ、セロ」


 ハイネが詫びを入れていると、一人の女の子が「おねえちゃん!」と呼ぶ。


「みーちゃんがおもらししたぁ」


「えっ!? ちょっと、待って! あっ、荷物!」


 荷物に小さな子どもたち。てんわやんわなハイネにセロは買い物袋を取った。


「冷蔵庫に入れたらいいんだな?」


「あっ、ありがとう。ああっ! みーちゃん、そのまま走り回らないで!!」


 ドタバタと忙しそうにする最中をセロは通り抜け、台所へと向かい――冷蔵庫の中にハイネが買った食材を入れていく。肩車をしたままの男の子は「にいちゃん」と声をかけてきた。


「ハイチにいちゃんは?」


 その言葉に手が止まる。どう言えばいいのだろうか。


【俺自身がどうなろうと、お前には知ったこっちゃない話なだけだ】



「かえってくるって言って、ずっと時間がたっているよね?」



 小さい子どもを甘く見ていた。もう数年前の話になるというのにそのことを覚えているとは。


「……覚えているんだな」


「にいちゃんがこの町から出て行ったとき、おれ、約束したんだ。かえってくるよね、また遊んでくれるよねって」


「…………」


「そしたら、うん、かえってきたときに遊んでやるって言ったんだよ」


 何も言葉が出ない。目頭が熱くなってきている気がした。いや、気のせいなものか。


「もう、にいちゃんのことを知らない子が多くなってくるし。知ってる? ここでハイチにいちゃんのこと知っているのはおれだけなんだよ」


「……だろうな」


「遊ぼうって約束したおもちゃも、もうつまんなくなって、遊ばなくなったんだよ」


 そう言って男の子が指差している方向にはボールのおもちゃがあった。随分と年季が入っており、黒ずんでいる。懐かしい。あのボール、小さい頃はハイチたちと遊んだことがある。


「ねえ、ハイチにいちゃんはどこにいるの?」


 男の子が問い質したいことは何一つとして答えれない。セロが食材を入れ終えて扉を閉めたとき、ハイネが男の子を呼ぶ声が聞こえた。


「お母さんがお迎えにきているよ」


「本当?」


 男の子は下ろして、とセロを急かした。彼はゆっくりと下ろしてあげる。途端に出入り口へと向かって走って行ってしまった。入り口のホールで母親らしき人物に抱きつく。彼らは幸せそうにしながら、こちらに手を振って帰ってしまった。


「元気だな」


「うん。あっ、食材ありがとう。今、お茶淹れるから待っていてね」


「別に急がないから平気だぞ」


 セロは小さく笑いながら適当に椅子を引っ張り出して座る。すると、奥の部屋の方から一人の壮年男性――ヒノがやって来た。


「おお。何やら騒がしいと思えば、セロか。久しぶりだな」


「ああ、先生。久しぶり」


 ヒノの姿を見て、セロはどこか安心した様子で見ていた。


「うん? でも、まだあのときのうるささよりかは少し静かだが、ハイチは今回もか?」


 その言葉にセロが頷くと、ハイネは大きく落胆をした。それにより、彼女たちに伝えねばならないことがある。それが言い出しにくい。だが、言わずはいけない。事実を教えてやらねばならない。


「……それと、ハイネ。言いにくいけど、もう一つ言うことがある」


「何?」


 嫌な予感しかしないとハイネは眉根を寄せた。それはヒノも同様である。


「ハイチの学徒隊脱退願が受理された」


 その場にお湯が沸いている音が聞こえた。ハイネは大きな目を更に大きく見開いて、冷蔵庫の一角を見ている。ヒノは下唇を噛み、怪訝そうな面持ちでいた。


「……して、あいつは脱退してどこへ行くと?」


「教えてくれなかった」


 ハイネは急いで連絡通信端末機を取り出してハイチに電話をかけた。出てくれない。何度もかけ直すが、やはり出てくれない。終いには電源を切られてしまった。


「なんでよ! なんでまたっ……!」


 今にも泣きそうなハイネの背中を優しく擦ってあげるヒノは鼻で大きなため息をついた。


「キイ様、どうか……あの子をお探しくださいませ」


     ◆


 ぼんやりと知らない天井を目の当たりにして、アイリは視線を動かした。テレビの音が聞こえてくる。


――あっ!


 急いで起き上がった。その拍子に眩暈がする。アイリが起きて、テレビを見ていたガズトロキルスは「おはよう」と声をかけた。


「ここは俺とキリが泊まっていたところだよ。変なところじゃない」


「そうじゃなくて、本はっ! あった!」


 ベッドの近くにあるサイドテーブルに置かれた本を見つけて一安心するアイリ。ガズトロキルスにとってそれがなんなのかはさっぱりわからないが、大事な物であることには変わりないのだろう。


「はぁ……。もしかして、ガズ君が運んでくれたの?」


「そう、目の前で急に倒れるから。びっくりした」


「あ、ありがと。ところで、二人で泊まっているって言っていたよね? デベッガ君は?」


 ガズトロキルスはキリもこの部屋に泊まっていると言っていた。そのキリ自身の姿が見えないようであるが。いや、見えなくてもいいと思っていた。今、自分にとって一番会いたくない人物だったから。買い物に出ているのであれば、今の内に退散でもしよう。そう思っていた。


「三銃士軍団の任務だよ。お前、何あそこで一人歩いていたんだ?」


 ガズトロキルスの質問にアイリは黙る。何も言いたくない様子で、視線を逸らした。


「ほら」


 別に答えないならいい、とどうでもよさげにガズトロキルスはカップを差し出した。中身は温かいお茶。それを一口飲むと、張り詰めていた自分が溶けていきそうな感覚になる。


「ありがと」


「もし、体調悪いなら病院行くか? ここ王都だし、嫌と言うほど病院はあるぞ」


「無理、お金ないし。それにもう平気」


 そうは言うものの、アイリのお腹から大きな音が鳴った。あまりにも恥ずかしかったのか、顔を真っ赤に染める。


「聞かなかったことにして」


「いや、もう聞いたし」


 二人が苦笑いをしていると、部屋にノックがかかった。返事をすると、この宿屋の主人が温かそうなスープを二人分持ってきてくれたようだった。


「あっ、起きたようだね。これ、一応二人分の。軽い物しか作れないけど」


「いえ、ありがとうございます」


 アイリは頭を下げるだけ。


 主人はその器をテーブルの上に置くと、部屋を出て行った。アイリにこちらに来て食べるように促す。彼女は素直に従うと、椅子に座ってスープを口に含んだ。


「あったかい」


「うん、温まるな」


     ◆


 食べ終えたアイリは「何から何までありがとう」とガズトロキルスにお礼を言うと、自身のピンク色の本を手に持って部屋を出ようとする。だが、そこは彼に止められた。


「ハルマチに訊きたいことがある。椅子に座れ」


「訊いたって、何にも出ないよ」


「得るものはあるかもしれない。だから、座れ」


 逃げ出そうにも、扉の前にはガズトロキルスが立ち塞がっていた。更に窓から覗く外は高いところのようで――アイリは観念する他なかった。大人しく、指定された椅子に座る。その途端に彼に手を後ろに縛られてしまい、完璧に逃げる手段を失ってしまった状態へとなった。


「な、何するの、変態!」


「これはハルマチが逃げないように、だ。別にやましいことなんて考えちゃいない」


「いや、どこからどう見ても、そうにしか見えないけど」


「残念だが、俺は女子の胸はあった方がいいと思っている」


「……きみってさ、たまにドン引きさせるようなこと言うよね。って、失礼な」


 アイリは自身の胸を見て大きくため息をつくと、開き直ったのか「訊きたいことは?」と訊ねてきた。意外にも素直だなと少しばかりの疑心はあったものの、ガズトロキルスは口を開く。


「お前とキリの関係性について」


「……訊いちゃうの?」


 ガズトロキルスの発言にアイリの表情は一変した。妙に冷たい視線を感じる。そうだ、これは前夜祭のときに向けられた目と同じだ。


「訊くよ。じゃなきゃ、ハルマチを拘束した意味がない」


「それこそ、きみの幸せはパーになっちゃうけどいいの?」


「構わない。前にハルマチから言われたからこそ、自分のこの目で確かめたい。だから、マティや家族から離れることにしたんだよ」


 その言葉にアイリはまた表情を変えた。今度は怒り気味のように見える。眉間にしわを寄せて、じっと自分を見てくる。


「それでいいと思ってんの?」


「話を逸らすな。俺に迷いなんてないから」


「いや、そうじゃなくて……あんた本当にばかなの?」


 ばか、と言われ頭にくるガズトロキルスはアイリを睨みつけた。そのお返しに彼女も睨む。


「たかが、それだけのことを訊くために家族までの縁も切るとかないよ」


「ハルマチには関係のない話だ。いいから話せ」


「嫌ぁ」


 絶対に話さないと言わんばかりに顔を背ける。ガズトロキルスは「言えよ」と苛立ち気味で催促してきた。それでもアイリは拒否し続ける。


「嫌だってば。人との記憶を大事にしない人もそうだけど、家族を蔑ろにする人の方があたしはもっと大っ嫌い」


「嫌いで結構」


「…………」


「自分が最低人間だとは最初からわかりきっているさ。最初からな」


――もう、最悪じゃん、これ……。


 アイリは苦虫を潰したような表情を見せると、ガズトロキルスの方を見た。


「きみさぁ、やっぱりデベッガ君に近付かない方がいいよ。幸せ云々話じゃなくて」


「は?」


「ははっ。あぁ、もうしょうがないなぁ。ガズ君ってもしかして、頭堅い? あぁ、大丈夫よぅ、あたしも堅いし。堅苦しいのは嫌いだけど。みんな頭堅いんじゃないかなぁ? ばかは。ほら、政治家とか。ベラベラ小難しいことをしゃべるだけでお金がもらえるんだよねぇ。あぁ、羨まし過ぎる。知っておけばよかった。勉強すればよかった、政界のこと。政治のこと。あっ……やっぱり無理だ。無理だ無理ぃ。一から勉強しないとダメなくらい何も知らないんだよねぇ。本当。それ以外でもあたし自身、この世界の情勢のことをよく知らないからわからなかったけど、何かおかしいと思っていたんだよねぇ。いや、知っておかなきゃヤバいんだけどねぇ。政治家になってお金をもらうには。はぁ、もう知らないのは知らないで、そこはまあ、知ったかぶりしておいて、調べればいい話じゃん? そうじゃん? 今時ネットワークが常時接続されているようなものだからねぇ。でもさぁ、それって常に誰かがそのネットワークにいるってことになるのかなぁ? うわ、こわぁい。でも、つながらなくなるのも、もっとこわぁい。どれぐらい怖いかっていうと、本当夜の道とか怖いからねっ。一人立ち止まったり、座ったりするの怖いからねっ。まだ、歩いていた方がマシだからねっ。でも夜の道もだけど、真っ暗闇に閉じ込められるのも怖くない? あたし、めちゃくちゃ大騒ぎするのは確実だねぇ。ギャーギャー喚いてさぁ。ああ、精神的崩壊っ! 頭がオカシくなりそう。軽くテンパる感じ? あと、怖いっていうと、端末機にくる謎のメールとか、なんとかんとか。怖過ぎぃ。これ怖過ぎぃ。だから、そのオカシさのせいですべてが上手く進みそうにないとか本気で勘弁だしぃ。どれくらいオカシイかっていうと、まさにこの状況。この状況だよ、きみ。わからないかなぁ? オカシな話だと思わないかい? だって、あたし、目の前に男の人がいるのに、手を後ろに縛られての状況ぉ。ああ、いつ犯されてもおかしくないねぇ。いつ、明日のニュースで猥褻事件だって取り上げられるかわからないねぇ。あたしが通報すれば一発でガズ君は終わりっ! うわ、これもこわぁい。ある意味での怖い話にうってつけだよねぇ。あっ、でもあたし端末機を海に捨てちゃったからどうしようもねぇ。通報できねぇ。本当そういう状況に苛まされていますってか。くだらねぇ。まぁ、ありえないとは思っていたんだけどねぇ。何がってこの状況にだよぅ。予想つかなかったよっ。ガズ君にこんな趣味があるってこと。全くもう。ん? 全くもうで思い出したけどさ、あたしがデベッガ君にあの歯車の所有権渡したのは間違いじゃないと思っていたわけよ。これ重要、重要って。実はめちゃくちゃ困るような使い手だし。あたしが渡したのが間違いでしたとか、本当人生やり直したいよぉ。人生、人生。これもまた全くもうっ! なんとかならないかなって毎日願っていたりもするんだけれどもねぇ。あぁ、もう無理か。人生やり直しって利かないもんねぇ。どうしようもないもんねぇ。はぁ、それは誰にでもある話ってわけよ。もちろん、きみにもね。人間、人生はやり直しが利かないっ! これ、これ名言。誰の名言だよってね。言いたいねぇ。ははっ、本当に誰だ。人生やり直しがきかせっ……うわっ、噛んじゃったよ。噛んじゃった。恥ずかしいっ! 超恥ずかしい! どれくらい恥ずかしいかって言うと、えっ、しつこい? 悪いねぇ、こういう扱いには慣れていなくてねぇ。本当、彼、あんまり扱いが慣れない方だなって思っていたら、実はめちゃくちゃ使いこなしているし。って、使いこなせていないよってキメ顔で言ったあたしのシーン返せってね。でも、彼のキメ顔もカッコいいんだよねぇ。ていうか、もう好きって感じ? あぁ、言っちゃった! 言っちゃったよ、言っちゃった。好きって言っちゃった! いや、もう告白紛いなことはしたんだけどねぇ。返事もらえていなぁいって。悲しいよもう。ね。こっちに返事なくて、妙な関係性になっちゃうし。でも、ハイネ先輩の記憶なんてまた見つければいいとでも思っているのかねぇ。また、あの人のことを好きなっちゃったのかねぇ。変わっちゃった? 嘘、嫌だぁ、もう。ああ、もう、変わったよぉ、変更だよぉ。改変だよぉ。これだから世界改変もいいところだよぉ。世界観台なしだよ、こんちくしょう。マジ最悪ぅ。恥ずかしくて最悪だよ。最低だよ、この野郎。何が最悪って、なんがクソ野郎ってデベッガ君、この前にザイツ君みたいな丸わかりな改変をしちゃったんだよねぇ。この前ハイネ先輩の記憶を失くしたばかりのくせに。とんだ人だよ。彼はもう。記憶があったという事実の書き変えじゃなくて、彼自身の過去の書き変えってところだよねぇ。本当最悪っ。本当タチの悪い人。なんであたしあの人を好きなっちゃったんだろっ! あたし、これでも趣味は悪くない方なんだけどなぁ。あぁ、大失敗? そうでもないか? いや、そうだねぇ。失敗だ。でも、人を好きになるのは悪くないと坊ちゃんが言っていたからなぁ。あたし、本当どうしちゃったんだろう。別にタチの悪い人間を好きになる体質でもないのにねぇ。ちなみにどれぐらいタチの悪いかっていうと、反政府軍団員が信者の町でフルーツタルトをこれ見よがしに見せつけながら攻撃してくることかなぁ。あたし、あそこのフルーツタルトが大好きでさぁ。多分、ガズ君も気に入ると思うよ。とっても美味しいんだ。あっ、買い占めはダメだよ、あたしの分も取っておいてね。ああ、反軍の連中は羨ましいなぁ。あぁ、信者の町が信者のいない町だったらなぁ。もっと近い場所ならなぁ。毎日と言っていいほど買いに行けたのに。ていうか、ディースったら絶対買い占めていそう。この前、デベッガ君に言われたんだよね。ディースがあたしと思考が似ているってさぁ。あれ、嗜好だっけ? いや、どっちでもいい? いや、よくない。結果、一緒なもんでしょう。思考も嗜好も。クソっ、それもそれで最悪っ。あぁ、本当に最悪な日だ。この前からずっと今日も。もうダメだよぉ。これじゃあダメだよぉ。これじゃあ、いつになってもあたしのお願いを聞いてもらえないし。聞く気もないでしょって。向こうのお願いは聞いてあげたのにね。死にかけのところを助けてやったというのに、なんという仇。なんという無念。あぁ、これじゃあ、いつになってもあたしは死ねないぞぉ。いつになったら死ねるんだい、いつになったら死ねるんだい。五億九千八十八回目にして……いや、九回目だったっけ? あぁ、もうなにも覚えていないのがつらい。あたし、物覚えが悪いのは仕方ないと思っているんだよねぇ。あぁ、ちくしょう。こんちくしょう。死ぬがために所有権を渡したのにぃ。もう、やりたくないからあいつを騙してやったというのにぃ。あぁ、もう最悪過ぎて――お腹空いた」


 急に一人ベラベラとしゃべり出したかと思えば、アイリのお腹から音が鳴った。どうやらあのスープだけでは足りなかったようである。


 一方でガズトロキルスは早口ではやし立てまくるアイリのせいで、頭がこんがらがっていた。


「いや、ちょっと早過ぎるって。結局何が言いたいの?」


「だぁから、お腹空いたんだってば」


「そうじゃねぇだろ。説明が下手なのか。それともわざとか」


 アイリは鼻でため息をつき――「どっちでもいいでしょ」そう皮肉る。


「とにかく、あたしがきみに言えることは忠告をするだけ。別に話してもいいけど、今のガズ君には話せないんだ。何より今のデベッガ君にも会いたくない」


 決意を固めたような視線を向けるアイリに圧されるガズトロキルス。


「じゃあ、いつになったら話せる?」


「ガズ君がデベッガ君から離れてくれるならば。それができないなら、一生お預け」


「それなら無理だな」


 ガズトロキルスもため息をつくと、アイリの後ろに回って縛っていた縄を解いた。そして、本を手渡す。


「最後に。答えたくなければ答えなくていいけど……」


「いいよ、聞くだけ聞いてあげる」


 本を抱えてアイリはドアに手をかけた。


「ハルマチが今、見据える未来を教えて欲しい」


 そのまま固まるアイリ。もしかしたら、何も答えないのかもしれない。そう思っていると、彼女は口を開いた。


「歯車が動き始めるだけ」


 それだけ言うと、部屋を出て行ってしまった。ガズトロキルスはベッドの上に座り込む。また何もわからず仕舞いである。


 小さくため息をつき、テーブルの上の器を片付け始めていると、ノック音がした。返事をする。ドアを少しだけ開け、顔を覗かせるのはアイリである。


「ごめん、ごめん。最後にガズ君に言い忘れていたことがあったよ」


「え?」


「もし、あたしの忠告を聞く気ないなら。家に帰ることをオススメするよ。最後くらい、家族にあいさつしてきたら?」


 それだけ言い残すと、本当に去って行った。急いでガズトロキルスは部屋の外へと出る。部屋の外には人一人もいない。アイリはどこへ行ってしまったのか。そもそも、すぐにいなくなること自体がおかしいのに。


 まだ近くにいるはずだ。そう思って、宿から出た。それでも、通りにアイリの姿はなかった。


【最後くらい、家族にあいさつしてきたら?】


 アイリのあの言葉は意味深い言葉であるだろう。そのことについて問い質したいが、本人はいない。あの言い草――どう考えても、家族との今生の別れを示唆するようなものだった。キリから離れずにいて、自分の身に降りかかるものって何だろうか? 嫌に寒気がした。いや、最近涼しくなってきたからだろうか。いいや、そんなのはどちらでもいい。


 ガズトロキルスが町中でアイリを探していると、ハイチと遭遇した。彼は割と大きな鞄を抱えているようだ。


「は、ハイチさん!」


「ああ、オブリクスか。今日も一人グルメ旅か?」


「ハルマチを見ていませんか!?」


「はあ?」


     ◆


 ハイチがターミナルへ行くというので、一緒に着いていきながら状況を説明した。町で一人歩いて倒れたアイリを泊まっている宿へ連れていったこと。彼女が自分に対して意味深なことを言ったりしたなど、包み隠さず言った。ハイチは神妙な顔付きで話を聞いてくれた。


「それで、あいつを見失ったのか?」


「はい。俺、もうどうしていいのかわからなくて」


「よく俺もわからねぇけどな。もし、ハルマチの話を信じるつもりなら家に帰ればいいんじゃねぇの?」


 頭を掻きながらガズトロキルスにそう促した。


「いや、でも、俺――」


「帰る、帰らないの自由はオブリクスにあるけれどもな」


「ハイチさんは、これから家に帰るんですか?」


「それに近いな」


 そう答えるハイチが向かう先は労働者の町行きの便の方である。これにガズトロキルスは首を傾げた。前に飲食街で働いていたから聞いたことがあったが、ハイネは工業の町出身だと言っていたのである。彼が行こうとしている町と、彼女の言う故郷は全くの正反対に位置する場所である。


「ハイチさんって、工業の町出身ですよね?」


 ガズトロキルスの言葉に動揺したのか、ハイチは眉間にしわを寄せ始めた。


「誰からその話を聞いたのかわからねぇけど、俺は……労働者の町出身だぞ?」


「ハイネさんとは兄妹でしょ? だったら、どっちが本当なんですか?」


「……お前には関係ねぇよ。ほら、ハルマチは金がないんだろ? だったら、町のどっかにいるはずだろ」


 追い払うようにしてハイチは行ってしまった。ガズトロキルスは連絡通信端末機の画面を見て眉根を寄せる。一体、自分はどうしたらいいのだろうかという迷いが生じていた。


 その画面には自身の母親の連絡先が表示されていた。消したと思っていたデータ。まだ残っている。指がどっちつかずで迷う。帰る帰らないは自由。アイリは最後のあいさつをすればいいと助言していた。誰かの言うことが真実だとは限らない。あれはただのからかいだと自分に言い聞かせる。


 後一息のところで指が動かずにいると、ガズトロキルスの端末機から着信がかかった。かけてきたのはまさかの自分の母親。驚いた衝撃で出てしまった。


「は、はい?」


《ガズ? 元気にしている?》


 端末機越しから聞こえる知った声。その声の問いに答えた。


《あんた、今は休暇中じゃない? もし、時間があるなら家に帰っておいで。ガズの好きな物作ってあげるから》


「う、うん」


《お父さんも楽しみにしているってよ》


「……そっか」


 帰る、帰らない。どちらの答えも言えないこの複雑な気持ち。決めたはずなのに、気持ちが揺らぐ。


《いつ頃、帰ってこれる?》


 喉までは出かかっているのに、それを自身が止めてしまっている。手汗を掻いているようで、耳に当てている連絡通信端末機が濡れてしまっているようだった。


《どうしたの?》


 何も答えないガズトロキルスを不審に思ったのか、母親は怪訝そうな声持ちでそう訊ねてきた。遠くから大型車両が通る音が聞こえている。


《ガズ、今どこにいるの? そっち、音が大きいみたいだけど》


「へ?」


《いや、音。車の音が聞こえるのよ》


 改めてそう言われて、周りの音に耳を研ぎ澄ませた。言われてみれば、ターミナル内のアナウンスを邪魔するくらいの音が轟いている。ここは王都であり、王国の中心地だ。大型車両は毎日のように通ることはあるし、こうもうるさいのは元からなのではないだろうか。


「いや。俺、王都のターミナルにいるからだと思う」


《王都のターミナル?》


 今度は通話の向こう側が少しだけ慌ただしくなってくる。妙な胸騒ぎがした。


「か、母ちゃん!? そっち、なんともない!?」


《ごめん! 後でまた連絡――》


 急に通話が途切れてしまった。慌てて画面を見直すと、電波が届かない状況に陥っているではないか。それは何もガズトロキルスだけではない。周りを行き交う人々が持つ連絡通信端末機の電波の受信が悪そうであった。たまたま電子掲示板が目に入る。いつもは便の時刻表が表示されているはずが何も映っていなかった。それどこか、施設内の照明が消え、周りは薄暗くなる。そのせいで、利用者たちは軽くパニック状態を起こしていた。ターミナルの職員も詳細な状況を把握できておらず、暴動寸前の利用客を抑えるのに必死の様子だった。


 この場にいても埒が明かない。そう思ったガズトロキルスはターミナルの施設を出て、宿の方へと走った。足を進めば進めるほど電波受信が悪くて混乱している町の人々を見かける。大型車両が駆け抜ける音が近くで聞こえる。やがて、上空を飛行する飛行機もうるさく響いていた。


 あの飛行機は――あのマークは王国軍の物!?


 何事かとガズトロキルス自身も混乱していると、突如として王都中――いや、王国中全体に地響きが起きるほどの暴音量のサイレンが鳴った。この大音量はサバイバル・シミュレーションの終了時におけるサイレンよりも匹敵するほどの大きさである。


――確か、この音は……!


《緊急事態です、緊急事態です。屋外に出ている人は屋内へと速やかに避難してください。緊急事態です、緊急事態です。屋外に出ている人は屋内へと速やかに避難してください》


 国民緊急サイレンだ。このサイレン同様に耳を突き抜けそうなアナウンス。何もかもが不安を煽ってくる。その何度も繰り返し警告をするアナウンスに従って、近くの電化製品店の中へと避難させてもらった。この店の中もターミナル同様に停電を起こしていたようだが、すぐに復旧する。他に避難してきた人々や店主も一時の安堵した表情を見せた。


「突然、何が起きたんでしょうかね?」


「さあ? 緊急サイレンが鳴るほどでしょう?」


「何やら軍隊が出動していましたね。それ見ましたよ」


 電気の復旧に伴い、周りの人たちと話を始める人々。ガズトロキルスは端末機の確認をした。電波の不具合も直ったようで、すぐにネットワークにつながるようになる。だが、完全ではないようだ。また電波の不具合が出てくるようになった。


「これも、なんでしょうかね?」


「わからないですねぇ。すみませんが、緊急速報ニュースをやっているはずだと思うので、テレビを見せてもらえますか?」


 避難してきた人々が店の店主にそうお願いする。店主は快くテレビをつけた。案の定、緊急速報ニュースをやっているようだった。誰もがその画面にくぎ付けとなる。


《先ほど、国民緊急サイレンがなりました。その原因はなんと、青の王国の姫君であるメアリー・ライアン・エレノア・ヒューイット王女が反政府軍団の手によって誘拐されてしまったということです。現在、王国軍が総員して追跡しているとの情報が入っております》


 画面に出ているキャスターの言葉に一同が動揺を隠せない。


《軍からの情報によりますと、反政府軍団は王都の北西へと向かっているそうです》


 ニュースを読み上げる最中、自分たちに見せつけられた映像はテレビの取材中のメアリーが突撃してきた反政府軍団員たちに連れ去られる場面。その奥には異形生命体に苦戦する王国軍隊や三銃士軍団員の姿が見える。その映像で、キリの姿も捉えられた。眼前にいる異形をなすバケモノを相手に戦っているのをガズトロキルスの目にもしっかりと映る。


《なお、この誘拐事件において、王都内に異形生命体が出現しているということです。みなさん、危険ですので解除放送が出るまでは絶対に屋外に出ないでください》


【歯車が動き始めるだけ】


 嫌にアイリの言葉がガズトロキルスの頭にこびりついてくるのだった。

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