招待
キリは自分の教室の担当教官に一枚の用紙をもらった。何もそれは彼だけに限った話ではない。ガズトロキルスがそれを手にして近付いてきた。
「おうっ、キリ。どんな感じだった?」
「うん? 明後日からだけど」
「おお、俺と一緒じゃん。どうせなら、どこか遊びに行こうぜ」
二人が手にしているのは長期休暇の予定ローテーション表であった。彼ら学徒隊はもちろんのこと。王国軍の者もそうであるように、長期休暇が存在する。だが、一斉に全員が休んでいては急な任務が入ったときの対応ができないため、ローテーションで休みをもらうのである。それは任務に出ない一回生、二回生も同様の話であった。
「別にいいけど、俺は休みでも王都の方に行かなきゃ」
残念なことにキリたち三銃士軍団員は休みというのは、そうそうない話のようである。大半が王城内、外の見回り。メアリーたち王族の護衛。やることはいっぱいある。ただ、実際に三銃士軍団員としての予定があるのは休みの中盤だけであり、最初と最後の数日は休みがあるだけ。
こればかりは運を恨む他ない。妙な休暇期間のせいで、実家に帰ってもキツイだけだろうなと考えていた。
「俺、ガンと会ってみたかったんだけどな」
ガズトロキルスはヤグラの家に行けば、ガンに会いに行けるとキリから聞いていた。
「じゃあ、休み入って行こうか。王都は休み中盤から行けばいいんだし」
「おっ、そういうややこしい予定か。大変だな、キリは」
「そういうお前だって、ボールドウィンからお誘いがあるんじゃないのか?」
キリがそう言いながら予定表を鞄の中に入れた。だが、ガズトロキルスの反応はない。彼は神妙な面持ちで用紙を見つめていた。それを不思議に思い、声をかける。
「ガズ?」
「あ? え? ああ、ごめん。で、ルーデンドルフ教官の家に行くのはいいけど、他誰を誘う?」
「えっと、そうだ。ハルマチとハイネさんはどうかな?」
「ライアンは?」
「休み返上の公務があるらしい。誘ったんだけどな」
こればかりは仕方ないと肩を竦めるキリ。
「それに、ハイチさんは連絡が取れないしなぁ」
「そっか。それなら仕方ないな。じゃあ、その二人誘ってこようぜ」
「うん」
早速キリが連絡通信端末機を取り出した。ひとまずヤグラに休暇に遊びに来てもいいかの確認を取る。彼はすぐに返事を寄越してくれた。
『いいよ、準備しておくから詳細が決まったら教えてね』
許可をもらうと、キリはアイリとハイネに連絡を取るが――返信が来たのはハイネだけ。アイリからの連絡は一切ない。というよりも、ハイチと同様に連絡がつかなかった。
「ハルマチとはまだ連絡取れないの?」
「うん。ハイネさんは行くって返事が来たけど」
試しにガズトロキルスも自身の端末機で連絡を取ってみる。だが、それはキリと同様であった。
「電源でも切っているのか?」
「うーん、直接行ってみるか」
席を立ち上がる二人を遠くの席からケイが怪訝そうに眺めていた。
◆
アイリとメアリーが所属する教室へとやって来た二人。しかし、そこにいる知った顔はメアリーだけである。キリは彼女を呼んだ。
「どうしたの?」
「いや、ハルマチと連絡が取れなくてさ。教室にもいないみたいだし、今日は授業を取っていないのか?」
そうメアリーに訊ねるが、彼女は首を横に振った。
「ごめんね、私もよくわからないの。ここ二日くらい、部屋では見ても教室には来ていないみたいなの」
「え? サボりかな?」
「どうだろう? 部屋にいるときのアイリ、いつものアイリじゃないみたいで。かと思えば、どっか行っちゃうし。なんだか訊くに訊けなくて……」
「そっか、わかった。全く見かけないってわけじゃないんだな」
「うん。ごめんね、力になれなくて」
申し訳なさそうにするメアリー。
「いや、そんなことはないよ。情報、ありがとう」
キリはお礼を言うと、昼食を食べるためにガズトロキルスを連れてエントランスにあるカフェテリアへと赴いた。期日までに会えないことではない。そう思っていた。
◆
二日後の朝、キリはカーテンの隙間から漏れる朝日の光で目が覚めた。頭がぼうっとしていたが、段々と目が冴えてくる。サイドテーブルに置いている連絡通信端末機を手に取ってメールの確認をした。
未だアイリからの連絡はない。何度か教室に赴いてはメアリーに訊ねてみるが、情報はなし。彼女自身も声かけはしてくれているみたいだ。それでも、生返事をするだけらしい。
「どっか行ったのか?」
ぼそりと呟くキリは、隣でいびきをかくガズトロキルスを起こして身支度をするしかなかった。
◆
「結局、アイリちゃんとは連絡つかなかったの?」
寮のラウンジでハイネは少し寂しそうにそう言った。それにキリは頷く。彼は一応ここまでアイリの返信を待っていたのだが、結局なかった。
「はい。ライアンはたまに部屋にいるときがあるとは言っていたんですけど、会わない日が多いらしくて」
「そっか、残念だね」
「そうですね。多分、しばらく待っても来なさそうですし、行きましょうか」
キリはそう言ってはいるものの、アイリを気にしていた。この服の下に隠している過去の歯車のことだ。
後ろめたさを感じつつも、校内にある公共機関のターミナルへと向かった。ヤグラから受け取ったメモ紙に書かれた住所を確認する。
「へぇ、ルーデンドルフ教官は東地域に住んでいるのか」
そのメモ紙を覗き込むガズトロキルスはそう言った。それにキリは頷く。
「えっと、東地域だから。あっちの便でいいのかな?」
「そうっぽいね。でも、二つ便があるから気をつけないと」
三人は慣れない場所へと行くようで、あたふたとしながらも東地域行きの便へと乗り込んだ。
「慣れないと、一気に疲れちゃうね」
「そうですね」
席に座り、買ったジュースを開けて一息をつく。ここから乗り継ぎもあり、ヤグラの家に着くまでは半日も要した。
◆
東地域住宅街についた三人は町の確認をした。間違いない。メモ紙に書かれている通りの町である。この町並み、いつも西地域にいるせいか、慣れない気分だ。西地域にある町や王都とは違って、店が少ないように思える。ほとんどが住宅であった。何より、家が密集し過ぎている。それに道路も狭く、車の出入りが混雑していた。
「なんか、ごちゃごちゃとしたところだな」
ガズトロキルスが周りを見ながらそう言った。
「というか、店自体があんまり見当らないけど」
「こんなにたくさんあると、教官の家を間違えそう」
キリは再び住所を確認する。住宅街のどこだろうか、とよくわからなかったため、ヤグラに連絡を入れた。彼はすぐに出てくれる。
《はい、どちら様ですか》
「あっ、俺――デベッガですけど、ルーデンドルフ教官ですか?」
《ああ、こっちの方に着いたのかな?》
「はい。そうなんですけど、家が多くて」
《一応僕の家はターミナルに近いけど、すぐに迎えに来るからそこにいて》
「はい」
ヤグラはキリに指示をすると、通話を切った。三人は彼が来るのを待つまでもなく、すぐにやって来る。通話を切って十秒も経たないのに。
「実は迎えにきていた?」
「いや、来る日だけ伝えたから知らないはず」
「じゃあ、めちゃくちゃ家が近いんじゃないの?」
「やあ、ご無沙汰だね、三人とも」
今のヤグラはいつも身にまとっている白衣ではなく、普通に私服姿だった。その服装が新鮮に感じる。
「お久しぶりです、教官」
「はは、キンバーさん。僕はもう除籍されているから教官じゃないよ」
「でも、教官って馴染んでいるから俺ら教官って呼んじゃいますよ」
なんてガズトロキルスが笑っていると、キリは妙な視線を感じた。なんだか、周りが自分たちを見ている気がする。それヤグラは「そろそろ行こうか」と察知してくれる。おそらく、サバイバル・シミュレーションの事件でのことだろうか。
三人はヤグラの家に招待された。彼の家は自分たちがいたすぐ目の前だった。本当にめちゃくちゃ近かった。
◆
ヤグラは彼らに部屋を案内した。その部屋はコンピュータが何台もあり、奥の方にはあの脳情報変換機のマシンが置かれている。
「お茶を淹れてくるから待ってて」
「あっ、はい」
ガズトロキルスは部屋に置かれているコンピュータを見て回る。そんな彼が下手に弄らないように注意を喚起するのはキリだ。
「お前、もう壊すなよ」
「失礼な。流石に人の物は壊さねぇよ」
彼らのそのやり取りを聞いて、ハイネは苦笑いする。そして、察した。ガズトロキルスは以前コンピュータ系の機械を壊したことがあるのか。
「学校の壊したの?」
実際に訊いてみると、ガズトロキルスは何も言わなくなる。代わりにキリが答えた。
「いや、分解・組み立て用の模擬エンジンがあるじゃないですか。それをガズが壊しちゃって――」
「それは言うな!」
――もう遅いよ……。
「で、でも、一応学校のだから保険もあるし、ね」
ハイネはフォローを入れているつもりなのだろう。そんな彼らの話が聞こえていたのか、ヤグラが三人分のお茶を持ってきながら苦笑いをする。
「これ、保険が下りない自作のコンピュータもあるから気をつけてね」
どこかで見覚えのあるやり取りだな、とキリは思いながらもコップを受け取った。一口飲む彼にヤグラはそう言えば、と訊ねてきた。
「ハルマチさんは来ないのかな?」
「それが、ハルマチとは連絡が取れなくて」
「そうなの? 休暇で浮かれて勝手に遊びにでも行っているのかな?」
「いや、寮では見かけるみたいですよ?」
「ちょっと、彼女は心配だね。単位が危ない感じだから」
それはもっともだな、とキリは思った。ここ数日授業に出ていないとなると、元々が単位が足りていないアイリは休み返上の補習がなっているはずだ。流石に任務名目の補習はできないだろうから。
しばらく三人がお茶を飲んでのんびりとしていれば、ヤグラは脳情報変換機のマシンの電源を入れて調節し始めていた。
「あっ、教官。そう言えば、ガンはどこに引っ越ししたんですか? このアドレスを見てもよくわからなくて」
「ガンは私のコンピュータの一角にいるよ。それに、前と違って色んな場所へ行けるようになっているから楽しそうにしているみたい」
「そうなんですね」
「準備できたけど、どうかな?」
ヤグラにそう言われた彼らはいつでもいいと言わんばかりに、彼のもとへとやって来る。三人にマシンに座るように促した。
「一人だけ即席の椅子になるけど、いいかな?」
「ああ、じゃあ俺が座ります」
ハイネとガズトロキルスは本来の椅子へ、キリは即席で作られた椅子に座った。座ったところで思い出すサバイバル・シミュレーション。そう言えば、あのときは電撃とか来なかったなと今更ながら思う。
――あっ、そのこと二人知らない……。
そう思ったときはすでに遅かった。なぜなら、電気が彼らの全身を襲っていたのだから。
▼
一応は慣れているんだけれどもな、とキリは相も変わらず無機質な世界へとやって来たことを実感する。彼の傍らにはハイネとガズトロキルスが倒れている。二人を起こした。
先にガズトロキルスが起きた。起きたならば、安心だ。まだ目を覚まさないハイネに呼びかけをしようとするキリであるが――。
「なんかビリって来たんだけどっ!?」
切羽詰まった言い方で、キリに詰め寄ってきた。
「あれ、島のときはそうじゃなかったじゃん! 気がついたらヴァーチャルの世界だったじゃん! なぜに!?」
肩に手を置き、キリを揺らす。説明をしようにもこれでは言えそうにない。そう騒いでいると、大声にハイネが起き上がった。喚くガズトロキルスとたじろぐキリを見て困惑した表情を見せているようだ。
「えっと……?」
「ああっ! ハイネさん、さっきめっちゃビリって来ませんでした!? 来ましたよね!? こんなの、聞いていませんもんね!?」
ハイネが起きて、ガズトロキルスはキリの肩から手を離す。それに伴い、彼女に同意を求めてきた。その場に倒れたようにしてキリはガズトロキルスを恨めしいと見ていた。こんなカオス的状況の最中、一人の人物が三人のもとへと近寄ってくる。
「えっと、きみたちは? 見たところ、ケア・プログラムみたいだけど?」
ガンだった。彼はどこか戸惑った様子で二人を見た。どうやら、倒れているキリに気付いていない様子。彼は起き上がると、声をかけた。
「ガン、俺」
小さく手を振ると、ようやくガンが気付いてくれた。
「ああ、キリ、久しぶり! ということは、この二人はきみの友達かい?」
「そう、ガンに会いたいって言ってた俺の友達」
サバイバル・シミュレーションでのガイドのガンは知っていても、この元王国軍システム警備隊隊長のガンは知らないだろう。ガイドの彼は、自分は人格をコピーして作られたと言っていたから。
「そっか、そっか! 初めまして、私はガンだ。よかったら、二人の名前を教えてくれるかい?」
「あっ、俺はガズトロキルス。長いからガズって呼んで、くだ、さい?」
「わ、私はハイネです。よろしくお願いします」
「よろしく。ガズ、ハイネ。別に畏まらなくてもいいよ。もう友達だからね!」
そうガンは二人に爽やかな笑顔を見せて言うと、急にどこか残念そうにキリの方を振り返った。
「今回もアイリはいないのかい?」
そう、以前にキリは今度アイリも連れてくるからと言っていたからだ。結局連絡つかずで会わせることができなかったのだが――。
「なんか最近アイリが冷たい気がするんだ。一応、メールアドレスも変わったからってメールを送っても、返信がないし」
「うん。それは俺らも一緒なんだ。今日、ガンのところに行くけどって誘ったけれども……」
キリもほんの少し残念そうにしていた。こればかりは仕方ないと割りきるしかないのか。
「キリもか。ところで、今日もデータ・スクラップ・エリアかい?」
「データ?」
ガズトロキルスには説明していなかったな、とキリはハイネの方を見た。彼女は頷く。
「えっとな、ガズには言っていなかったんだけど……そのデータ・スクラップ・エリアに俺のハイネさんの記憶があるんだ。で、いつもそこに行って、探したりしているんだ」
それは知らなかった、と目を丸くした。ガズトロキルスはハイネの方を見る。
「ハイネさんは知っていたんスか?」
「この前ね」
キリは何も言わなかったから、とガズトロキルスは全くわからなかったようだ。いつも普通に接しているからなおさらだ、と言う。
「えっ、記憶がないって?」
「訳あって、コンピュータの世界で、な。半分は取り戻せているけど、残りはまだだよ。それで、思い出したけど……ガン。サバイバル・シミュレーションのとき、俺に何か送ったってルーデンドルフ教官から聞いたんだけど」
「うん。キリが探していたハイネの記憶だよ」
だから、半分もハイネの記憶が取り戻せたのか。しかし、ガンはどうして彼女の記憶を自分に送ったのか。その真意が知りたかった。だからこそ、キリは問う。その答えはすぐに返ってきた。
「前にキリが記憶を失くしていたから」
その答えに思考が停止した。自分が記憶を失くしていたからと、どう関係性があるのか。そう思っていると、ガンは話を続ける。
「ヤグラから聞いたんだ。バグ・スパイダーに侵入されて、どうしようもないって。どういう状況であるか確認していたら、キリがいたから。また前みたいにして記憶を失くしていないか、心配だったんだ」
「それで、送ったのか?」
「言わば、元気付けってやつだね。ガズもハイネもキリが元気なかったら、元気付けたりするだろう? 私はそれをありとあらゆる情報の中で知ったんだ」
「……ありがとうな、ガン」
「どういたしまして」
▼
四人はデータ・スクラップ・エリアへとやって来た。ここもいつもと変わらない顔なしのユーザーが要らないデータを捨てに来ている。初めて顔なしのユーザーを見た二人は驚いていた。
「顔がないって怖いな。えっ、俺の顔、ある?」
「あるよ。ちゃんとガズの顔だよ」
「それで思い出したけど、アイリちゃんって髪の毛が長かったよね? あれはなんで?」
「ああ、俺もよくわからないんですよ。ただ、こっち来るときは長くなるらしくて。前は伸ばしていたって言っていたような……?」
ハイネのその疑問にガンは驚いたように声を上げた。無理もないだろう。彼は髪が長かったアイリの姿しか知らないのだから。
「えっ? アイリ、髪を切った? え?」
「違う。いや、あながち間違っていないか。えっとな、現実じゃハルマチは髪は短いんだ。何だろう、こう――」
「外はね系ショートカットだよね。くせ毛がある感じ。でも長いと、くせ毛は目立たなかったよね」
自分が言いたいことをハイネが言ってくれた。よかった、とキリは思う。自分ではファッションのことは疎いし、どう言えばいいのかわからなかったからだ。
「へぇ、現実のアイリも見てみたいね。じゃあ、こっち来て。そっちには行かないようにね」
ガンの案内で、情報の大海の海岸へとつながる階段を下りて行く。その景色を見て二人はまた更に驚いた。ここに来てからずっと彼らは驚きっぱなしだ。いや、最初に来た自分も同じようなものだったか。
「キリ君、ここでいつも私の記憶を見つけていたの?」
「はい」
光景を眺めるハイネの目の表情はどこか寂しそうであった。彼女も自分と同様に、この場所が悲しい、寂しい場所だとでも思っているのだろうか。
ハイネは情報の塊が粒化とした砂を触れた。細かく砕かれた色とりどりの情報の塊は打ち上げられて真っ黒な砂へと変貌している。
「ずっと、こうして小さくなった私の記憶を探していたの?」
「小さくと言うか、ある程度の塊ぐらいしか見つけられていないんです」
「あっちの海の方は?」
視界に映る情報の大海。上からはユーザーが要らなくなった情報を捨てているのがわかる。
「ガンが言うには、行ったら情報の大海に押し寄せられて、戻れなくなるそうです」
「そっか。それは――」
残念だね、とでも言いたかったのか、ハイネはキリの方の向こう側を見ていた。言葉が途中で止まるのは何かしらあるのだ。キリも何だろうと思って振り返る。そこには小さな子どもが波打ち際の近くで遊んでいた。
その姿を見て青ざめるキリ。子どもは今にも海の方へと行こうとする。興味津々の様子で情報の水へと触れようとした直前に彼は大慌てで子どもを引き上げた。ハイネも駆けつけてくる。
「危ない!」
どうしてこのようなところに小さな子どもが? いや、子どもにしてはどこか違う気がした。自分たちのようなケア・プログラムの容姿をしていなければ、顔なしユーザーのように単調的ではない。なんと言うべきか――あれだ。ゲーム画面などに出てくるような絵面の顔みたいだ。
「き、きみ……」
キリが子どもに声をかけたときだった。その子は彼の手からすり抜けるようにして空中へと浮かんだ。これには二人して開いた口が塞がらない状態である。
「参加者さん、いらっしゃーいっ!」
「はあ?」
「おめでとうございます。あなたはゲームの参加資格を得ることができました」
突然、そのようなことをしゃべり出したかと思えば、子どもがエレクトンガンに似た拳銃を渡してきた。
「参加者は最大で四名まで参加できます。お友達を呼びますか?」
今度は勝手にキリが持つ連絡通信端末機が飛び出てきて、それを操作すると、空中に連絡網が張り巡らされた。彼が登録している人たちの連絡先が現れる。
「えっ、ちょっ!? いきなり、何!?」
もしかして、新手のコンピュータウィルスかと思ってしまう。見た限りだと、ただの迷惑の誘いのメールなのだろうか。
困惑状態のキリは助けを求めるようにしてハイネを見た。そうだとしても、彼女もどうすればいいのかわからない状態である。
「あやしいし、参加しない方がいいんじゃないの、かな……?」
ハイネの言うことはもっともである。そう考えたキリはその子どもに向かって「参加しない」とはっきり告げた。
「これ、返すから俺の端末機返してくれ」
キリがそうエレクトンガン系の拳銃を差し出すも――。
「参加者は最大で四名まで参加できます。お友達を呼びますか?」
聞く耳を持たない。ああ、これは間違いなくコンピュータウィルス系だ。そのゲームとやらに参加しなくては連絡通信端末機を返してくれなさそうだし――。
「わかったよ、参加すればいいんだろ」
諦める他なかった。これにハイネは「キリ君」と眉根を寄せている。
「参加者って……」
「いや、俺一人でやるから大丈夫ですよ。他のみんなには迷惑をかけられないし」
「いや、私たちも参加しよう」
いつの間に話を聞いていたのか、ガンとガズトロキルスがこちらに来ていた。
「が、ガン」
「いいんだ。キリは私の友達だ。困っているならば、助けるのが友達の使命だからな」
――そこまで、気負いしなくても……。
「俺も。キリが困っているからな」
――ガズの場合はゲームと聞いて、やりたいだけだろうな……。
ちらりとキリはハイネを見た。彼女には迷いが見えているようだ。
「ハイネさんは無理しなくてもいいですよ? なんならば、教官に現実の世界に戻すよう伝えますし」
そう言うのだが、ハイネは拒否をした。
「ううん。だったら、私も行く」
「えっ。で、でも……」
何が起こるのか、わからないゲームなのだ。ハイネを危険にさらさせたくないのに。そう言っても、おそらく彼女は聞かないだろう。
「大丈夫、私もゲームは好きだから」
「じゃ、じゃあ、お願いします」
こうして、四人は突然の謎ゲームに参加することとなった。
▼
キリは目の前にいる、連絡網を展開している子どもに話しかけた。
「なあ、参加者が他に三人ここにいるけど、いいか?」
途端、その子は空中に描いていた連絡網を消して素直に連絡通信端末機を返した。ガンたちにはキリと同様のエレクトンガンに似た拳銃を渡す。
「参加、ありがとうございます。他の三人にも」
「すまないが、ゲームとやらはなんだい。そして、きみは一体誰なんだい?」
気になることをガンが訊ねた。一同がその子に注目すると、子どもは変なポーズを取り出す。
「僕はスター・トレジャーのガイド役、アンドロメダです! たまたまここに来て、ユーザーを見つけたから誘ったんですよ」
「誘ったという割には強引さが目立っていたけどな」
端末機をポケットに仕舞いこみながら、キリがツッコミを入れる。しかし、子ども――アンドロメダは気にもせずして話を続けた。
「それで、今からユーザーたちには……あれ、待って? ユーザー? きみたち絶対にユーザーじゃないよね?」
キリたちに気付いたのか、アンドロメダは首を傾げ始めた。そりゃそうだ、と彼は心の中で思う。ガンも含めて四人の彼らはコンピュータや連絡通信端末機を用いてネットワークを利用しているユーザー、すなわち電子機器の製造番号を所有している者ではない。彼らはただのケア・プログラムなのだから。
「ああ、私たちはケア・プログラムだが?」
「えっ、なんでこんなところに!?」
「そもそも、普通のユーザーはここに来ないけどね」
ガンの一言により、アンドロメダは大きく落胆した。もしかして、自分たちは普通にユーザーじゃないからゲームに参加できないのだろうか。そう思ったキリはエレクトンガン系の銃をそっと返そうとする。
「俺たちじゃ、参加できないなら仕方ないよな。諦めるしかないね」
「いや、勝手に諦めないでよ!」
どうやら、ケア・プログラムでも参加できるらしい。
「ケア・プログラムでもできないことはないけどさぁ。ていうか、きみっ! ユーザーじゃないのに、なんでユーザーの端末機持っているの!?」
「いや、俺とこの二人は元々ユーザーだから」
「元々ユーザーのくせにケア・プログラム!? 訳わからないよ!」
――こっちも未だとして、訳わからない状況が目の前で繰り広げられているけどな。
「ていうかよ」
ここでガズトロキルスが腕を組みながら、アンドロメダを見た。
「訳わからないのはこっちだよ。ユーザーとかケア・プログラムとか。もっとわかりやすい説明をしてくれない?」
「……わかったよ。今からゲームの内容を説明するよ」
アンドロメダのその言葉に一同はデータ・スクラップ・エリアから一瞬にして真っ暗闇へと移動した。いや、すべてが真っ暗ではない。周りだけが真っ暗なだけで、自分たちの姿ははっきりと見えるのだ。
「ここは、スター・トレジャーのスタート地点。今からきみたちはプレイヤーになってもらうんだけど……」
アンドロメダは何か言いたげである。
「……ねえ、一度ユーザーになってきてネットワークでここに来てくれない? 流石にケア・プログラムだとランキングに入れないんですけど」
「ランキング?」
「スター・トレジャー。ああ、聞いたことあるかも」
ハイネが何かを思い出したように声を上げた。
「知っているんですか?」
「うん。前に誘いのメールが来ていたけど、ヴァーチャル・ブレイヴストーリの方が熱中だったから」
そのゲームをやるんだ、とキリは苦笑いした。ちなみにであるが、キリはもうそのゲームはやっていない。理由は単純。ランキング戦とか、イベントの度にログインするのが面倒になったからである。いや、そうだとしてもそれどころじゃない。切羽詰まっていた状況でする気が起きなかったということが大きいのだが。
「それって、誰からのメールだった!?」
アンドロメダがハイネの発言に食いついてきた。誰だと言われて彼女は連絡通信端末機を取り出すと、メールの確認をする。
「……えっと、スター・トレジャーのカシオペア? って言うの」
今度は急に高笑いしてきた。なんだこいつ、と一同は引き気味である。
「ざまぁみろ、カシオペア! メールじゃ断られたことないとか言っていたくせに、断られてやんの!」
ついに本性でも現したかとでもいうくらいにアンドロメダは口が悪かった。
「あっ、でも……私、形だけ登録していたみたい」
その発言を受けて、今度は泣きついてきた。正直言って面倒なやつだとは思った。だって、プログラムとして存在するガンでさえも困ったような表情を見せているのだから。
「お願い! その登録を今すぐに消して!」
「こいつ、なんなの?」
ガズトロキルスのツッコミにキリとガンは「知らない」と答えるしかなかった。
▼
「……えっと、ゲーム内容はこちらに迫ってくる隕石をこのメテオ・バスターで打ち壊せば、スターっていうポイントが入るんだな?」
このままだと話が脱線してしまうため、キリとガズトロキルスはいささか強引ではあったが、アンドロメダからゲームのルールを訊き出した。彼の確認にその場で正座させられるアンドロメダは「はい、そうです」と頷いた。
「で、そのランキングに入れないってどういうことだ?」
「このゲーム、ユーザーのチーム対抗戦なんだ。だからケア・プログラムは参加しても、ユーザーとしての存在ではない。どんなに得点を稼いでもランキングに入れないの。それで、僕のチームはずっと最下位。最初は気にしてもいなかったけどね。でもこの前、ここのシステムで恐ろしい物を見つけたんだ」
「恐ろしい物とはなんだ? まさか、バグ・スパイダーか?」
ガンは眉間にしわを寄せて腕を組んだ。それにアンドロメダは否定する。
「違う。最下位削除システム。僕、今期のランキングで最下位だったら消される運命なんだ。だから――」
だから、彼はユーザーとしてこっちに来て欲しいだなんて言っていたのか。キリはあごに手を当てて考えた。一度、戻って操作するのは構わないが、それではガンができない。かと言って、ヤグラにゲームをしてと頼むのも気が引けるだろう。なんて悩ましい顔を見せていたのだが――。
「だったら、私とヤグラに任せろ」
「え?」
「アンドロメダが言うには私たちがユーザーとして参加すればいいだけの話だろう? 三人の個々の端末機をきみたちにインストールすればいいんじゃないかい? 私の場合はヤグラのコンピュータの掌握権を握ればいいだけの話だし」
「で、できるのか? そんなこと」
「きみたちをこっちの世界に送り込めるほどの技術の持ち主なんだ。不可能じゃないと思うよ。じゃあ、訊いてみるね」
そうガンは言うと、ヤグラにメールを送った。しばらくすると、何もない真っ暗闇の上空から三つの光がキリとハイネ、ガズトロキルスに直撃した。これにアンドロメダはびっくりする。
「わっ!? わっ!?」
「安心しろ、アンドロメダ。今、これで彼らはユーザー型のケア・プログラムになったんだ。そして、私も!」
その言葉通りに一筋の光がガンへと当たる。
「ヤグラのコンピュータの掌握権を持った! これで、私たちはゲームに参加できる!」
アンドロメダにとってその四人が自分にとっての救世主のように見えた。あまりの嬉しさに、涙があふれ出てくる。
「ええっ、プログラムって泣けるんだ」
これにガズトロキルスはびっくりしていた。どうやら、アンドロメダには感情のプログラムが組み込まれているようだ、とガンが説明をする。
「ありがとう、きみたち!」
涙を拭い、四人にゲームを始めるよと伝えた。彼らは頷く。ゲームが始まった。
▼
ゲームがスタートすると、周りが一変した。流れくる星々。自分たちが移動しているのか。はたまた周りが動いているのか、よくわからない変な感覚に陥っていた。
「ははっ、面白そうだなぁ」
ガズトロキルスがのんびりと構えていると、急にアンドロメダが「隕石が来るよ!」と合図をする。
その声に四人はメテオ・バスターを構えた。すると――自分たちの眼前に突如として飛行、違う。現れた一つの隕石。さほど大きくはない。手始めにキリが撃ってみた。撃った瞬間、割とリアル調の隕石は突然として星形の物へと変えた。それは上空へと行ってしまう。
「今のがスターだよ! きみらはそれらを集めるトレジャーハンターなんだ!」
すぐさまアンドロメダが説明をする。なるほど、シューティングゲームというところか。
次に二つの隕石が出てくる。これはハイネとガズトロキルスが撃つ。すぐに星形の物――スターへと変貌し、上へと上っていく。
「あっ、これ意外と楽しいかも」
「ですね。もうちょい、バンバン来ても何ら問題ないかもです」
なんて会話をしている二人にアンドロメダは「次来るよ!」と言う。
「次のは大きいやつだ!」
その言葉通り、先程の隕石よりも二回り大きな物がやって来る。これにはガンが対処することに。
「気をつけて。小さな隕石だと一発でいいけど、大きいのはそれに相応する数を撃たないと!」
「わかった」
ガンは頷いた。その大きめの隕石に向かって数発撃ったところで三つばかりのスターが現れて上っていく。
「大きい隕石ほど、スターは増えるからね」
「ああ、なるほどな。ていうか、これは体が隕石に当たったらゲームオーバー?」
「えっとね、ここに体力表示があるから、これがなくなったらゲームオーバーだよ」
アンドロメダが指差す自分自身の胸にはハート形のデータが浮かんでいた。これがこのゲーム内での生命線らしい。
「あとは、隕石を撃ちまくれば撃ちまくるほど、出てくるから。じゃあ、頑張ってね!」
アンドロメダは言うだけ言うと、その場から消えた。邪魔になるとでも思ったのだろう。キリは三人を見る。彼らはそれぞれ頷いた。
「楽しそうじゃん、やろうぜ」
「ああ!」
▼
アンドロメダはスタート地点へと戻ると一人笑い出した。一人勝手に彼の目の前にモニターが現れる。そこに写るのはキリたち四人。
――これで……。
◆
同時刻、薄暗い某所にて。何台もののコンピュータを目の前にして、不気味に笑う者がいた。その者は元よりあやしい笑顔を浮かべた仮面を被っている。そこへディースが資料データを手にして不審そうに見つめた。
「何、ゲームで遊んでいんの」
「おっと、これはこれは。いいえ、遊んでなんかいませんとも。これは立派な私の戦い方です」
「ゲームじゃん」
はい、とその資料データを男に渡す。
「遊ぶのもいい加減にしたら? おかげでキリ君はまぁた、使い物にならなくなったし。あれ、作るの大変なんだから」
「はい、今がしたそのキリ君のデータを見つけたところですよ」
「ゲームで遊んでいるのに?」
「いやいや、彼はゲームで遊びたがる年齢でもあるわけでして。ほら、こちらのデータが彼ですよ」
そう、モニターを差す男であるが――ディースはただ、ゲーム画面が自動で動いているようにしか見えなかった。彼女は男をあやしむ目で見る。
「だから、遊んでいるようにしか見えないって」
「もう、わかってくださいよ。今のここにいるキリ君はユーザー型ケア・プログラムなんですから」
「……あたし、電子学が苦手なの。単刀直入で言って」
その言葉に男はゲーム画面にキーボードを操作すると、再びディースの方へと向き直った。
「つまりはですね、ここにあるキリ君の脳情報データをあなたのキリ君の脳へインストールさせるんですよ。後は『MAD』の開発者であるあなたならば、わかりますよね?」
「何それ」
男のその発言にディース喜色満面を見せた。あまりにも興奮し過ぎて涎が垂れているではないか。
「ちょお、ステキなことじゃない!」
「そうでしょう、そうでしょう。これで一からではなく、最初からのキリ君として存在します。そこからあなた好みに人格を軌道修正すればいいだけの話でしょう?」
「最高じゃない! ああ、早くキリ君を作らなきゃ! って、その前に先生に呼ばれてたんだったぁ。憂鬱ぅ」
ディースは急ぐようにして、その場を後にした。本当はマッドを早く作りたいのだろう。
立ち去ってしまったディースをよそに、男はゲーム画面――キリがプレイしているスター・トレジャーのプレイ画面を見てほくそ笑んだ。
「『オリジン計画』の実行のときが迫ってきますねぇ」
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一ゲームを終えて、周りが真っ暗なスタート地点へと戻って来た四人。隕石に対して指で動かすわけもなく、全体で動いていたから息が上がっていた。ただ、ガンだけは疲れ知らずらしい。
「三人とも、大丈夫かい?」
いくら怪我をしないというデータ世界だろうが、疲労はある。彼らはガンに「大丈夫だ」と伝えるものの、言動と行動が一致していなかった。
息を整えていると、四人のもとへとアンドロメダがやって来た。
「どうだったかい?」
「うん、まだランキングの圏外てとこくらいだね。あと、三回くらい同じようにしていけば、最下位は回避できそう」
まだ、と言われキリはへこむ。冗談じゃなかった。ずっと走り回り、ラストステージまで行ってラスボスみたいなのまで出てきて――体力がギリギリになるまで頑張ったのに。まだやれと?
「お、俺、限界……」
そう弱音を吐くキリにアンドロメダは泣きついてきた。
「やってくれよ!! 僕、消えたくないんだよぉおお!!」
頭を揺さぶられるキリ。なんとも無茶ぶりを要求しているガイドである。これにはハイネもガズトロキルスも困り果てていた。彼らも実は体力というより、精神的に限界な気がしていたから。
「ていうか、なんでデータ・スクラップ・エリアにいたんだ? そこじゃなくて、他の場所で人を集めればよくないか?」
ガズトロキルスが的確な発言すると今度は彼の方にアンドロメダが詰め寄ってくる。
「うるさいな! 最下位の僕の宣伝はああいうごみの掃き溜めみたいなところでしかできないんだよ!」
「でも、データ世界って結構広いじゃないか。他のランキングのやつらもそこまで大幅に利かせないんじゃないの?」
「ああ、そうかもね。ほら、色んなページにリンクを張らせてもらうとか」
ハイネも提案を出してくるが、アンドロメダは「わかったよ」と悲しそうな顔をしてきた。
「きみたち、このゲームがつまらないんだろう? いいよ、僕のことはもう。最後に、きみたちがくだらない僕のためにゲーム参加してくれてありがとう――」
ふと、今まで自分たちがいた場所と変わって、データ・スクラップ・エリアへと移動した。アンドロメダは少し離れたところで情報の大海へと足を踏み入れようとする。
「ふふっ、最下位で消えるより、最初からこの海の中に入って消えてしまえばよかったんだ……」
嫌に響くアンドロメダの言葉。キリの、四人の良心が痛む。
――ああっ、もうっ!!
キリは消えようとしていたアンドロメダの腕を掴んだ。
「わかったよ! ランキングでトップになればいいんだろ!? やればいいんだろ!? いいよ、他のみんなにも声かけて、アンドロメダのチームに入ってもらうから!」
「え……?」
そこへ、ハイネもやって来る。
「そうだよ、別に私たちはゲームをやりたくないじゃないの。ただ、この人数だけじゃランキングに入れそうにもないなって思っていたから」
「そうそう」
ガズトロキルスが頷く傍ら、ガンはメテオ・バスターを手にする。
「私、こういうの参加したことなかったから新鮮で楽しめたよ。またやりたいね」
「み、みんな……!」
また、アンドロメダはあふれ出てくる涙を拭い、意気込みを始める。
「よし! みんなでランキング一位になるぞ!」
「おぉ!!」
◆
夕暮れに染まるのシエノ港町にて。アイリは一人波止場でたそがれていた。潮風が体に当たる。それが虚しく、悲しかった。
ふと、一件のメールが入ってくる。それはキリからだった。
『今、みんなでゲームをしているんだけど、ハルマチも参加しようぜ』
文章の下にはスター・トレジャーというゲームのリンク先があった。それをクリックしようか指が迷うも、指はオンラインゲームのリンク先ではなく、メール削除。
何かが気に食わなかったのか、アイリは自身の連絡通信端末機を目の前に広がる海へと投げ捨てた。落ちる音が出航のサイレンによって掻き消された。
「…………」
◆
現実世界から数時間が経って、キリたちは外が暗くなるまでスター・トレジャーでランキングに入るまでずっとプレイをしていた。自分たちの連絡通信端末機に登録された友人たちにメールや呼び込みをして、手伝ってもらっていたのだ。
「目が……」
ずっとゲームをプレイしていたせいか、三人の目は現実に戻ってもなお、ちかちかとした状態でゲーム画面の残像が残っていた。
「話は聞いたよ、お疲れ様」
事情を知るヤグラは苦笑いしながら三人にお茶を振る舞う。そして、外を眺めながら「今日はもう泊まっていったら?」と促した。
全身の疲労に堪える彼らは、ヤグラの言葉に甘えることとした。
「あ、ありがとうございます」
キリがそうお礼を言うと、ガズトロキルスが何かを思い立ったようにしてヤグラを見た。
「そう言えばですけど、ガンをこっちの世界に連れてくることって可能ですか?」
「ガンをかい?」
その言葉にヤグラは腕を組んで難しそうな顔を見せた。
「できなくはないけど、今のところ仕事がない状態だからね。製作費がこのマシン並だろうから時間はかかるなぁ」
脳情報変換機を製作するだけでも莫大なお金がかかると言っていたことを思い出す。それと同等の費用だ。
「うーん。無理ならば、仕方ないですよ。諦めます」
ガズトロキルスは諦めた。こればかりは仕方ない、と。
「問題がお金と材料だけだからね」
「そうスか……」
ヤグラの発言にキリとハイネは驚いていた。ガンを現実に来させることは理論上可能。それができないでいるのは、お金と材料の問題であるならば、彼はとんでもない技術者なのではないだろうか。いや、そもそも人がコンピュータ世界へ行けるマシンを開発している時点でその通りだと言わざるを得ないのだが。
そんなことよりも、と話を流すヤグラ。どうやら夕食ができているらしい。それに伴い、彼らはその部屋を出ていく。部屋の電気は消されたが、コンピュータの電源は消されずにそのままの状態であった。
その画面にはスター・トレジャーのランキング表のページが。そこの一位にはアンドロメダのチーム名が二位との圧倒的差をつけていた。そのランキングの表の横にはアンドロメダの顔が不気味に笑っているようにも見えるのだった。




