存在
――自分の存在って一体何だろう?
そう心の中で問う。答えは帰ってこない。すべての原因はわかっている。自分がこのような目に合っている理由も知っている。
――全部、あいつのせいなんだ。
己に非などない。そう言い聞かせて、その場にいない自分自身が恨む相手を呪う。
――あいつがあんなことをしなければ……。
そうであれば、自分の運命はどうなっていただろうかと思う。簡単なことだ。誰にも、己にもわからないから。それが自分なのかもしれない。
――あいつが悪い、あいつが悪い。
すべての責任をここにいない誰かに擦りつける。なぜならば、自分は全く悪くないのだから。
視界の端に映る、古びたピンク色の分厚い本。ページ部分が黄ばみ過ぎている。これを手放したいと思った。これを自らのこの手で捨てたいと何千、何万――それ以上に胸に抱き続けている思い。だが、それは叶わぬ願い。できそうにない願望。自分から手放せば、どうなるかわかりきった話。そうでなくとも、今の自分の身に降りかかっている事実を受け入れるしかない。
偶然にもすがった彼を思い出す。死に直面し、必然的に死に逝くはずだった彼は強欲にも生きることを強く願った。
そう、彼が強欲的だったから自ら選んだ。彼ならば、とルールの裏を掻いてまでも思いついたことを実行した。これを咎める者は誰もいやしない。そう思っていた。
自分が思い描いていたのとは全く違う現実を突きつけられた。理想とはかけ離れた彼がそこにいた。あのときに見た彼は誰だったのだろうか、と問い質したい気分になった。それでも我慢した。いずれ彼は自分の願いを叶えてくれる者と信じて。
彼も願いを叶えてくれようと必死になってくれていた。だが、やはり彼は理想的人間ではなかった。このままでは本当に自分の願いなんて叶えてくれそうにもない。
言う? ばかばかしい。言ったところで今の彼は説教垂れてくるだろう。それが一番煩わしい。自分にとって絶対に聞きたくないもの。
そう――。
――彼の使い方……。
もう、あのときの彼のような優しい人間に見えて、物事すべてを恐れているような者が現れるわけがない。他に所有する権利を明け渡したい人間なんているはずがない。否、この世に存在しないようなものだから。彼を見つけたのはただの偶然だった。
ある種の選ばれし者。
彼だからこそ、その願望に沿って与えた虚の命。彼だからこそ、代償として与えた使命。それを彼は記憶から消そうとしている。別の使い方をしようとしている。虚勢を張ってまで得た物で満足する。嘘をついてまで得た物で満足する。それのルールを利用してなかったことにするならば――。
――それだからこそ、あたしはまだ死ねない。
運命は彼らを翻弄する。それは死を望む者すらも、不死を望む者すらも――。




