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世界は運命を変えるほど俺たちを嫌う  作者: 池田ヒロ
第一章 巡り出会う者たち
1/96

女神

――もしも、溘焉(こうえん)として逝く俺自身の運命が変えられるならば――。


 運命の女神様を見た。だが、それが本物かどうかはわからない。ただ、彼女の姿がそう見えて、死にかけの俺を助けてくれただけの話だ。




 少年は心もとない様子で、ぼんやりと雪景色を見つめていた。息をするだけでもやっとのこと。そのため、視線を思うように動かせず、座り込んだ自身の足を眺めているだけ状態だった。冷たいという感覚はない。全身からは何も感じない。肩から腹にかけて大きな傷があるのに、その痛みすらも全くなかった。


 間違いなく少年はこのまま死へと向かって逝っているようだった。


 雪の上にある少年の足跡の周りには血飛沫が所々にあった。もちろん、その血の出処は彼からである。この自身の姿は必然なんだろうな、と少年は心の奥底で思っていた。


 そんな少年の現状の原因となった者――彼の目の前には異形のバケモノが存在していた。ぎょろりと顔に三つもある目玉で彼を見据えている。バケモノの体には赤い血がこびりついている。それは少年の物だった。


――ああ。


 いよいよと死が近付いてきている。耳の奥から小さな鼓動が聞こえてくる。頭では動けと命令を出しているのに、動こうとしない体があった。


――ちくしょう。


 本心とは裏腹に口角が上がっていた。笑いの声は出てこない。


 バケモノは黒い太い腕で少年を叩くように薙ぎ払った。彼は力なく数メートル先の雪の上に転がる。圧しかかった体からは止め処なく血が出てくる。どうしようもない。こればかりは分が悪過ぎた。こんなバケモノ相手に単身で突っ込むこと自体が間違いだったのだ。だが、今更後悔しても遅い。


「死ぬ、か?」


 少年の口からようやく出てきた言葉がそれだった。助からないと覚ったのだろう。彼は空笑いをしていた。


 不意に体が軽くなった。視界の先には赤くにじむ雪が見えた。その赤の周りには人一人の体の雪跡が見える。自分のだ。今度は視界が真っ暗になった。いいや、完全に真っ暗ではない。所々から白い光が見えていた。


 少年は心ならずも理解しなければならなかった。このままであれば、自分は形骸を留めないだろう、と。死の覚悟は、無論できていない。まだ死にたくないという叫び声が頭の中から聞こえてくる。その声は紛れもない、少年自身の声だった。


 体が下の方へと下ろされる。


――嫌だ。


 あっ、叩きつけられるんだな、と冷静に分析している自分がいた。己のことなのに。本音は恐れているくせに、他人事のように傍観している自分自身がいた。


 しかしながら、地面の上に落とされた少年に強烈な痛みは全くなかった。ただ、落とされた衝撃で傷が痛むことぐらいか。何かと思えば、真っ暗な視界が少しだけ開けてきた。隙間から人影が見えるが、助かったのだろうか。気力を振り絞って、頭に覆い被されていたバケモノの腕を退かした。視界は完璧に白と赤の世界が見えたかと思えば、急激に緑色の雨まで加わってくる。その正体は首が完全に雪の上に落とされたバケモノの首から出てくる血だった。それは噴水のごとく、周りを緑一色にしていく。


 やがて、首のない体は地面に倒れた。その体の向こう側には同じくして緑の雨に染まり、奇妙な武器を手にした誰か――少女がいた。


――綺麗だな。


 孤影の少女は腐臭のする汚水を被ってもなお、美しかった。


――目の前にいる女神様は俺の運命を変えてくれるだろうか。

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