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別の作品の息抜きとして書きました。
基本的にはそっちを優先するつもりなので、この作品は不定期更新になります。
「一緒に来るか?」
「…コク」
俺は、目の前の少女にそう問い掛けると、小さく頷いた。
「じゃあ、ついてこい」
俺はそう言ってから踵を返して、ゆっくりと歩き始めた。すると、その少女は少し慌てた様子で俺のところまで走ってきて、それから俺とならんで歩き始めた。
この少女の名前はアリス。俺があるクエストを受けて、来ていた森で一人膝を抱いて泣いていた。
俺は、身寄りの無い子供か、と思いながらいつの間にかそう少女に声をかけていた。
これが、3年前の話だ。
3年後…
ドタドタドタ…
「とうっ!」
「『とうっ!』じゃねぇよ、殺す気か!」
俺は気配を感じて慌ててベットから降りると、丁度一人の少女がさっきまで寝ていた俺の所にダイブしてきた。
「何でかわすの!?」
「何でかわしちゃいけないの!?」
頬を膨らまして恐ろしいことを言ってくるこの少女にそう聞き返した。
頬を膨らましてブーブーと文句を言っているこの少女は3年前に森で拾ったアリスだ。
拾った当初はまだ、12歳とまだ幼くて何も知らなかったから俺が読み書きや算術、戦い方を教えながら面倒を見てきた。
それで、10歳くらい歳が離れていることもあったためアリスは何故か俺のことを『父さん』と呼んでくる。
最初はそれが嫌でやめさせようとしていたが、頑なにやめようとしなかった為、諦めて好きなように呼ばせることにした。
今思えば、3年もたったのに寝ている俺にダイブしてきたり、勝手にベットに入ってきたりと子供っぽい行動をまだすることがある。
体は立派に育っているのに。
俺はそんなことを思いながらも小さくため息を付いた。
アリスの面倒を見はじめてから俺はため息をよく付くようになった。
まぁ、家の家事とかしてくれているから良いんだけど、それ以外でよく俺に引っ付いて来るから少し疲れる。
「ため息ばかりついていると、幸せが逃げるらしいよ?」
そんな俺の様子に少し心配そうに声をかけてくるアリス。俺は頭を撫でて大丈夫だという意思を伝える。
「プロポーズ?」
「なんでやねん。スキンシップだろうそこは」
アホなことを言うアリスにデコピンをしてから額を擦っているアリスに訊く。
「もう、ご飯か?」
「あ、そうだよ。ご飯が出来たから起こしに来たの」
俺は引っ付いたままのアリスをつれて1階に降りたら、美味しそうな料理が机の上に並んでいた。
どれも凄く美味しそうで、お腹がなりそうだ。
「どれもうまそうだな」
「でしょ!今日、私頑張ったんだよ!」
何でこんなに張り切っているのだろう…少し気になったが、そこでふと思い出した。
そう言えば、今日は俺がアリスを拾った日だな。
何故か、アリスの中では勝手に【プロポーズ記念日】となっているが。
確かにそうとも取れるが、そうなった場合は12歳の幼女を口説いた変態野郎になってしまうだろう。
だから俺は頑なに否定をし続けてきた。3年間ずっと。
まぁ、一向に変えようとしないけどな。
と、そんなことを考えているとアリスは先に座っていて、手を合わせて俺を待っていた。
「悪い」とアリスに謝ってから俺もすぐにアリスの対面に座った。
その時、アリスは少し不満そうな顔をしてからすぐに料理をもって俺の隣に座り直した。
「「いただきます」」
いつものことだから俺は気にせずに座ったのを確認してから、食べる前のこの言葉をアリスと一緒に言う。
俺はこの言葉の意味は分からない…それ以前に俺は20歳より前の記憶がないんだ。
いつの間にか俺は森の中で倒れていて、その時に一人の女性に拾われた。
それで、俺はその女性…名前はアリーナ…に戦い方と文字の読み書きとさっきの『いただきます』、食べ終えた後に言う『ごちそうさま』と言わないといけないと教えてもらった。
俺は何故か会話は出来るのに、文字の読み書きは出来なかったのだ。
それから俺はアリーナにお礼を言ってから俺は旅に出た。理由は自分は何者なのか知りたかったからだ。
たぶんアリーナもそれを見越して俺に戦い方を教えてくれたのだろう。
それからもう六年になる。
アリーナは元気にしているのか?…アリスを連れて戻ってみるのもいいかもしれないな。
俺の近況報告と、アリスの紹介も込めて。
「アリス、この後用事あるか?」
「特には無いけど、どうしたの?」
「いや、ちょっと行きたい場所があってな。そこにアリスも一緒に来ないか?」
「行く!」
うーん、ちょっとズルい聞き方だったけど、何かアリスに悪いな。
何故なら俺がこうやって訊くと、アリスは絶対に俺に付いていくって言うのが分かっていたからだ。
俺は心の中でまた埋め合わせするから許してくれ、と思いながら、食事を進めていき、アリスと一緒に食べ終えた。
俺が洗い物を終える頃にアリスも準備を終えたようで、俺はアリスにちょっと待つように言ってから俺は着替えて、ついでにおみあげも必要かと思い、この辺りで取れた物を何個かバッグに詰め込んでからアリスと一緒に家を出た。
「父さん、これから何処に行くの?」
「それは着いてからのお楽しみ」
俺ははぐらかしてアリスに答える。
だって、お世話になった人(女性)に会いに行くって言ったら絶対にアリスは切れるからな。
だから問題を先送りにしていると分かっていながらも、アリスに目的を伝えられずにいる。
俺たちはある程度歩いてから、転移石を使ってからアリーナのいる森に飛んだ。
人目に付かないところでやらないと、物取りとかに目を付けられるからな。
まぁ、返り討ちには出来るけど、毎度毎度相手にするのがめんどくさいんだ。
転移石とは、時空魔法のひとつである『転移』の魔方陣を刻み込んだ、いわゆる魔法石と言われるものだ。
大変高価な物で、1個で金貨2枚もする。
少し分かりにくいと思うからもう少し詳しく説明すると、金貨の前に、石貨、銅貨、銀貨とある。
石貨は1枚1デルタ、銅貨は100デルタ、銀貨は1000デルタで金貨が10000デルタだ。
ここで比較対象として生活費を出すが、普通の人が贅沢をせずに1年暮らそうと思えば、銀貨5枚で足りる。
また、稼ぎは1ヶ月銀貨1枚もあれば良い方だと言われている。
これを踏まえて考えると、この転移石がどれだけ高価なのかが伺い知れる。
因みにだが、俺たち親子はこの転移石を余裕で10個以上はまとめ買いを出来るほど稼いでいる。
職業はなんなのかって?俺が旅に出たと言った時点である程度の予想はつくだろ?
お察しの通り、俺たち親子は冒険者をやっているんだ。
冒険者というのは、ギルドと呼ばれるある程度の大きさがある町にひとつはあるアリーナいわく市役所見たいな所だ。
要するに、そこに冒険者として登録をし、色んな仕事を紹介してもらう所だ。
また、冒険者にランクがあり一番下のランクでFランク、一番高いランクがSランクだ。
アリーナはSランクだ。
確か、アリーナの二つ名が付いていて、『虚無の眠り姫』だったような気がする。
この由来は、クエストをクリアした後にアリーナは絶対にギルドに併設されている酒場で寝ていて、寝ているアリーナに手を出そうとすると、彼女の特異魔法である《虚無魔法》を使ってくることから『虚無の眠り姫』と付けられた。
余談だが、冒険者に二つ名が付けられるのはAランク以上の人たちだ。
まぁ、功績とか残している場合はそれに限らず付けられることもあるが。
と、そんなことを考えているとアリーナが住んでいる小屋に着いたな。
アリーナ、いるかな?
「ここだ」
「どこなの?ここ?」
初めてくる所にアリスは周りをキョロキョロと見周していた。そんな様子のアリスに俺は教えてあげた。
「あぁ、ここはニブルゲン森林だ」
「へぇー、ここがそうなんだ……えぇぇ!?」
俺が場所を教えてあげると、アリスは大声を出して驚いた。
「いきなり大声を出してどうした」
「何でそんなに冷静に要られるの!?ここはSランク冒険者でも滅多に近付かないところなんだよ!?」
アリスの言う通り、ここはSランク冒険者が5人のフルでパーティを組んだとしても80%の確率で全滅してしまうと言われていて、ほとんどの冒険者は近付かないんだ。
でも、慣れれば人が居ないし、空気は少し綺麗だから住みやすいよ、慣れれば。
というか、その場所にずっと俺はアリーナと一緒に住んでいた訳だしね。
一人でこの森のモンスターを倒してこいと言ってくるくらいだからね。
最初は知らなかったけど、冒険者になってここのモンスター物凄く危険ということをしって俺は初めてアリーナに少し怒った。
そんな所に俺を一人で行かすなよっと。
と、遠い目をしながら昔を思い出していると、アリスが俺を必死に揺さぶりながら訴えてきた。
「ここにいちゃ危ないから早く帰ろうよ!」
「大丈夫だから安心しろって」
「でも!」
アリスがここまで取り乱すのは滅多にない。それほどここは危険な場所なのだが俺は懐かしさを覚えていた。
まぁ、そろそろ帰ってくるだろ。
と、そんなことを考えた次の瞬間…
「いきなりか」
俺はそんなことを呟きながらアリスに向かって飛んできたナイフを弾いた。
アリスはいきなりのことで驚いていた。
「こんな辺鄙な場所にくる物好きな賊は誰だい?」
そんな懐かしい声を響かせながら15歳くらいの少女が姿を現した。