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07

「そう、そこで落ち着いて足首を狙いなさい。気をつけてね」

『分かった』


 上段から勢い良く振り下ろされた、ショートソードをかいくぐり、体勢が崩れたコボルトの足の間をシロが駆け抜ける。

 駆け抜けざまに指示した通り、右足首裏の腱を切り裂いて走るのが見えた。


「そこで足元が崩れるからすぐに飛びのいて、逆の足の腱も狙いなさい」


 振り向こうとして足をもつれさせたコボルトをあざ笑うかのように、目の前を横切ったシロが逆の足の腱も断ち切ってコボルトの背後へと回る。


「相手は混乱して刃物を振り回すはずよ。刃物に気をつけながら軌道を読んで躱しなさい。大丈夫、あなたの敏捷値ならかする事すらないはずよ。万が一傷ついてもすぐに治してあげる」


 私の指示に従っめ、シロはめったやたらに刃物を振り回すコボルトの正面に立ち戻り攻撃をかわし続ける。

 遠目に見ても余裕を持って避けているのが判り、危なっかしい場面等は全く見当たらない。


「余裕があるならギリギリまで待って寸前で躱しなさい。躱す時の隙が少なければ少ないほど攻撃に転じやすくなるわ」


 指示を飛ばすとシロと振り回されるショートソードの距離が先程よりも近くなる。予想よりも見切りの精度が高いのか、ナイよりもギリギリのところで避けているみたいで少し心臓に悪い。


「いい子ね。落ち着いて見ればあなたには簡単に出来ることよ。そのままコボルトの剣筋が鈍くなるまで避けつづけなさい。これも訓練の一環よ」

『分かった』


 シロから返ってくる返事を確認し、隣にいるジックとナイに相談をする。


「有り余る敏捷性を生かす為、奇襲による攻撃と反撃し易い避け方を教える。は問題なさそうだけど、後はどんな事を教えればいいと思う?」


 二人は少し考えた後、最初にジックが口を開き、続けてナイも口を開いた。


「そうだね、直接戦闘はナイに見劣りしない程度に育ってきたし、今はこれぐらいできれば上々じゃないかな?

 それよりも訓練すれば魔法も使えるようになるはずだよね? 回復魔法と捕縛魔法も教え込んだら良いんじゃないかな?」

「素早さと体の小ささは斥候として有能そうだ。ヒメが視覚同期出来るようになりゃあ、迷宮探索が更に楽になるんじゃねぇのか?」


 魔法使いらしくジックは魔法に関して。ナイは実利主義らしく迷宮探索の役に立ちそうな技能の提案かぁ……。


「そうね。思った以上に筋がいいし、これが終わったら視覚同期しながらの偵察を試しみるわ。魔法は時間がかかりそうだから、泉に戻ってからの方が良いかな?」


 どちらも使いこなせば生存率が飛躍的に上がる。魔法に関しては魔力が低いから補助程度だろうけど、あって困る物じゃないし気長に鍛えれば問題ないかな。


「良いんじゃねぇか?」

「そうだね。でも視覚同期は危険もあるからしっかり気をつけて試してよ?」

「分かってるって」


 相談を手早く終え、ショートソードを振り回すコボルトとそれを紙一重で避けるシロに視線を戻しながら、シロを鍛えることになった経緯を思い返す。



--------



 無事使役契約を結ぶことができたので、最初にまず疑問だったことから聞くことにした。

 つまりシロが何故この迷宮(場所)にいたのか。を確認したところ、『気づいたらここに居た』という返事が返ってきた。


 そもそも迷宮のモンスターには二種類の産まれ方がある。

 迷宮の魔力が産み出す自然発生型と、産み出された魔物が繁殖して増える繁殖型の二つで、シロの答えから推測するにシロは自然発生型の魔獣と考えられた。

 本来この迷宮一階はコボルトしか産み出されないはずだけど、突然変異か何かがあったんじゃないかってジックは推測したし、私程度じゃいくら考えてもわからなそうだったのでそういうことで納得することにした


 次にコボルトと戦えるか確認すると『あれは強い。無理』と返されて首をひねってしまった。

 数値的には良い勝負をするはずなんだけど……、とナイに話すと「犬と猫じゃ犬の方が強いだろ」と的外れの答えが返ってきたのでジックにも聞いてみると、「ステータス的にシロはコボルトよりも強いはずだけど、それで勝てないのは戦い方を知らないのかもね」と言われてなるほどと思った。

 モンスターは産まれた瞬間から戦い方を知っているはずだけど、この子は新種か突然変異種の可能性が高いから、そんな事はあり得ないと断言はできない。

 迷宮は今だに謎だらけなので、こういう事もあるんだろう。と納得することにした。

 実際にシロの実力を見るため、ナイと手合わせをさせてみたけど、見事にフェイントに引っかかってあっさりと勝負がついたしね。


 他にも色々と聞きたい事はあったけど、それは今聞いておかなければならない事ではないし、帰った後にゆっくりと確認すれば良いこと、と思い、まずはシロが安全にこの迷宮を歩くことができるよう、戦い方をレクチャーすることになった。



--------



 ジックの予想通り、シロは戦い方を知らないだけで実際に教えてみればかなり強いのがわかった。

 戦い方を教えながら何匹かのコボルトを狩らせてみると、目に見えるほど動きが良くなったし、ナイですら目で追えない動きをすることもたびたびあった。

 今、教え込んでいる回避も問題なくモノに出来そうだし、視覚同期も出来るようであれば泉に戻って魔法の訓練を始めても良いかもしれない。

 その後は一旦休憩し、シロをパーティに組み入れた後で連携の調整。明日には二階に足を踏み入れてオークを狩れば今回の目的は終了だろう。


 そんなことを考えているうちにコボルトは限界を迎えたのか、ショートソードを取り落とし、地面に倒れ伏してゾンビのように体を引きずってシロの元へ向かおうとしていた。


「シロ、もういいわ。一息に殺ってしまいなさい。たとえモンスターと言えど、生ある者の命を奪うんだから苦しませないよう、急所を狙いなさいね。

 殺す事に必要性を感じても、奪うことの快楽に溺れてはダメだからね」


 頷いたシロは風のようにコボルトに迫り、噛みつこうと伸ばしてきたコボルトの首を一閃、胴体から首を切り離すと私の足元へ戻ってきた。


「良くやったわ。回避についても問題ないようね。

 次の訓練を始めるけど休憩しないで大丈夫?」


 屈んで頭を撫でてあげると『まだやれる』と力強い返事が返ってきた。


「流石教会の娘だね。魔獣相手にも命の尊厳を説くのかい?」


 ジックがにまにまとしながら皮肉った言葉で私たちに言ってきた。ジックにしては珍しい物言い……? なんて思ってみるけど直ぐに思惑に気づいた。


「命の尊厳を教えておくのは大事なことでしょ? それにシロは私の使い魔になったんだから変な癖とかつけたく無いの。私の考えを理解して、人の世で生きる常識を学んで欲しいって思っているわ。

 それともジックはこの子が血に飢えた魔獣になった方が良い?」

「いや、そう言うつもりで言ったんじゃないんだけどね……」

「なら良いじゃない」

「そうだね。うん、変な事言った」


 ジックはシロに聞かせる為、わざとあんなことを言ったんだろう。顔を見合わせるとどちらからともなく笑い合う。


「んじゃ、さっさと視覚同期だっけ? それを試して斥候職の真似事ができねぇか試してみようぜ。

 うまくいきゃ迷宮探索がさらに楽になる」

「そうね、それじゃ試してみようか。シロも良い?」

『いい』


 ナイの提案を受け、シロに確認する。

 彼女も準備が整っているようだったので、目を閉じ、使い魔と自分に繋がるパスを意識し、浮かんできた言葉を詠唱する。

 そして最後に力ある言葉を唱えて術式を発動させる。


「視覚同期」


 するとまるで目を見開いているかのごとく視界が広がった。

 目の前には茶色のパンツと紺のローブを身に纏い、その上に皮でできた胸当てを身につけた女性——つまり私がまるでオーガのような巨大さで立っていた。


「——ヒッ」


 一瞬悲鳴を上げそうになったけど、直ぐにこれがシロの見ている世界。と気付いてなんとか押さえ込む。


『ヒメ、どうした?』


 シロに心配されてしまった……。

 私達と色々な話をしてるうちに、私達のような感情を理解できて来たのか、心配げな感情がわずかに含まれている。


「なんでもないわ、大丈夫。それよりシロ、周りを見渡して貰える」

『分かった』


 シロが視線を移動させると、それに合わせて私の視界も周りを見渡すように変化してゆく。


「これは……、慣れないと酔いそうになるわね」


 視界がまた移動すると、額に手を当てた私が顔をしかめているのが見えた。


『頭、痛い?』


 シロがわずかに感情の見える声音で再度問いかけてくる。


「今、あなたの視界を共有しているの。

 体が動いていないのに視界だけ動くからちょっと慣れないだけよ」


 なるべく心配をかけないよう、穏やかな声で答える。


「ヒメ、こればかりは慣れるしかないから練習あるのみだよ。

 最終的にはその視界を確保しつつ、自分の視界を確保して戦闘を行うのが理想だからね」

「……そうね」


 ジックに言われて目の前が真っ暗になりかけ、なんとか踏みとどまる。

 今でさえ目眩が起きそうなのに、更にこの状態で目を開くなんてどんな拷問? もし目を開いたら視界は一体どうなるんだろう?

 誘惑に負けて試しに目を開いてみる。


「あっ、ヒメ!!」

「ヒメっ!?」

『ヒメっ』


 そう言えば視覚同期を行う際、最初は目を閉じたまま使い魔の視野に慣れ、その後片目づつ開くのに慣れて行くように言われている。

 それなのにシロの視界に慣れていない私が、その状態で両目を開いた場合どうなるか。

 反転した視界の中、天井を見上げる視点と後ろに向けて倒れようとする私へナイとジックが手を伸ばしながら、慌てて駆け寄る視点が同時に頭へ飛び込んできて、そのまま意識が何処か遠くへ飛んでゆく結果となった。


 確か脳が過負荷に耐え切れなくて卒倒するのが関の山。とか言われていたなぁ……。


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