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04

 アタックキャットとただの猫の違いは見た目で分かる。もちろん、魔獣と化したことで発生する凶暴性の増加や、身体能力の上昇で見分けることも可能だけど、そもそも額に生えている小さな角を見れば一瞬で判る。


 そして目の前で泉から這い上がってきた猫は小さいながらも角が生えている。ならば間違いなく魔獣のはず、……なのになんでフィールドにしかいないはずの魔獣が、それも神聖な場所であるここにいて、なおかつ泉の水へ触れることが出来るのか。そんな数々の疑問が頭をよぎる。

 それに一階層に存在するモンスターはコボルトのみだったはず……。

 頭の中には次から次へと疑問が生まれてくるけれど、体は自然と目の前のアタックキャットに向かって拘束結界を発動していた。


「っギッ!!」


 アタックキャットの拘束は成功したようで、体の自由を奪われたアタックキャットはそのまま地面に倒れ、急に体が動かなくなったことで混乱しているのか、唯一動かすことが出来る頭をせわしなく動かして周囲の状況を確認しようとしている。


「拘束の効果は?」

「普通のアタックキャットなら、私がとかない限り一日は軽く……」


 これは普通のアタックキャット……なのか? と疑問ながら答えると、彼は構えた剣を納めゆっくりとアタックキャットへ近づいて行った。


「ならちょうど良い。ついでにこいつのステータスも見てみようぜ」


 噛み付こうとするアタックキャットの襟首を器用に摘み上げ、いたずらが成功した時の顔でジックが魔法陣を書いている場所へ向けて戻り始める。


「ちょっ!? ナイ!! 何するつもりなのっ?」

「丁度良いだろ? こいつのステータスも見て見ようぜ。

 ………おっと、そんな怖い顔で睨むなよ。魔素の代わりに干し肉やるから」


 軽い口調で何をほざくかと半眼になると、ジックは腰に吊るした皮袋から干し肉を一切れつまみ出し、私の目の前でぶらぶらと揺らした。


「そう言うことじゃなくてっ!!」


 私はジックの手から干し肉をひったくると一口噛んで咀嚼する。……貰える物はありがたくいただくのも一流の冒険者だ。……多分。


「むぐっ……、あら? 貴方にしては上物の干し肉を買ったんだ? 美味しいけどこれ何の肉?」

「あぁ、それはこの前に狩ったビックベアーを干し肉にしてみたんだ。以外と美味いだろ?」


 この間の討伐の後、肉を貰って何をやっていたのかと思っていたらそんなことをしていたのか……。でもこれ本当に美味しい。

 ついつい2口目、3口目を口に運んでしまう。


「そうね、これだったら何時もの安肉を買わなくても良いかも。

 ……っじゃなくてっ、なんだってすぐに殺さないのよ。これは魔獣よ! 人にあだなす存在は滅さないといけないのよ!?」

「んじゃぁ聞くが、ヒメは"神聖"なこの泉に漬かっていたイレギュラーなこの生物が気にならないのか? だから普段なら捕縛魔法に続けて飛ぶはずのメイスが動かなかった。違うか?」


 楽しそうに笑うナイに図星をつかれ、思わず言いよどんでしまう。

 ナイの言う通り、この神聖な泉に飛び込んだ時点で殺していいのか迷ったのは事実だ。


「う……」

「俺もその点が気になった。それに普通の魔獣は目の前に干し肉がぶら下がったら、体が動かなくても飢えたように喰いつこうとするだろ? だけど、こいつにはそれがない。

 視線は常に"この状況から逃げ出すにはどうすればいいか"を探ろうと油断なく動いているようにも見えるんだがな」


 ナイの言葉に驚き、改めてアタックキャットを見ると、その視線に写っているのが干し肉でないのはわかる。確かに私たちの装備や周囲の状況を視界に入れようとして、ナイのいう通り突破口を探しているようにも見えなくもない。

 試しに食べかけの干し肉を顔の前でぶらぶらさせると……。


「グルルルルッ」


  ナイの言うとおり、干し肉に見向きもしないで肉を持っている私の手に視線を固定し、威嚇音を立て始めた。


「ほんとだ……、魔獣なのに飢えた様子もないし、この様子じゃもしかすると知性もあるかもしれないわね。ほんと珍しい……」


 少し考えた後、試しにアタックキャットの目の前で干し肉を一口齧り、咀嚼して飲み込んだ上でアタックキャットにもう一度差し出す。


「毒はないから食べなさい。自衛の為に体の自由は奪ったけど、悪いようにするつもりはないわ」

「ルル……」


 視線を合わせて含めるように言うと、アタックキャットは覗き込むように私の目を見つめ始めた。

 視線を合わせたら逸らしたほうが負け。その言葉が頭に思い浮かび、じっとアタックキャットの目を見つめると、すぐに威嚇音が消え恐る恐るといった感じで今度は干し肉の匂いを嗅ぎ始めた。

 再度確認するように私の顔をみてきたので、頷いて返すと勢い良く干し肉にかじりつき始める。


「食べたっ!」


 思わず叫ぶとアタックキャットはビクッとして干し肉から口を離す。


「あ、ごめんなさい、驚かせちゃったね。大丈夫だから食べて良いよ。大丈夫、大丈夫。食事の邪魔しちゃってごめんね。

 体の自由はあげられないけど、危害を加えるつもりはないから安心して」


 慌ててそういうとアタックキャットはもう一度干し肉を齧り取り、ゆっくりと咀嚼をはじめた。


 ――可愛いっ。


「なぁに餌付けを始めてんだか。

 言っておくが、場合によっちゃ処分しなきゃならねぇんだぞ?」


 ナイが胡乱な目で私を見ていた。


「っうぇっ、いやっ、勿論分かっているわよ? でも知性があるなら狂っている可能性は限りなく低いでしょ? 敵意が無いことを示しておけば襲ってこないかもしれないし……、そうっ!! 使い魔にだって出来るんじゃないかなと思って」


 思わず、言い訳がましく最もな言葉を並べ立て、アタックキャットの可愛さにぐらついた理性を立て直す。

 って、自分で言っておいてなんだけど、ジックの使い魔にするのはいい考えかも知れない。

 一般的な使い魔は鳥やウルフといった動物が主流だけど、アタックキャットだって猫の一種。優秀な魔術師であるジックならば問題なく使役出来るんじゃないかな?


「使い魔って、ジックのか?」

「うん」


 私が頷くとナイはアタックキャットを目の高さまで持ち上げ、伺うように声をかけてきた。


「使い魔ってのは動物だろ? 魔獣なんぞ使役できるもんなのか? それにアタックキャットはお世辞にも使えるとは言い難い。定番のウルフとか鳥とかの方が良いと思うんだがなぁ」

「ん~、その辺はジック次第かな? 魔術師のくせにウルフは目が怖いから嫌だって言っていたし、鳥はフンの後始末が大変って嫌がるんで未だに使い魔を使役してないのよね。

 その分この子なら可愛いし、頭も良さそうだから躾ければ言うことも聞いてくれるんじゃないかな? ……それにね、私の直感がこの子に何かを感じるのよ」


 そう。魔獣は理性も知性もなく、ただ獲物へ襲いかかる狂った存在だから使い魔として使役することはできない。

 でも、今試して分かったようにこの子には理性があり、知性すら感じることが出来る。

 私がそう言うとナイはぎょっとしたように私と手に持ったアタックキャットを交互に見比べた。


「いつもの女の勘って奴か?」

「そうよ。何か問題でも?」


 いつものとは失敬な。これでも私の勘は結構な精度で当たるんだからね?


「いや、ねぇわな」


 ナイは大袈裟に肩を竦めるとアタックキャットをそっと肩に乗せ、大股でジックの方へ歩いて行った。

 どうやら私の提案を聞いてアタックキャットの待遇改善を考えたみたいだ。


「おぉいジック、そろそろ書き上がったか?」


 作業中のジックが目視で見える位置まで来ると、ナイは大声をあげた。……まだ10分と経ってないのになんだってこの男は気が早い。


「ごめん、もうしばらく待ってもらえないかい? あと半分ぐらいで終わるから」


 30分はかかるだろう。と予想していたのに、10分で半分まで進んでいるとは予想よりかなり早い。この調子なら20分もかからないかもしれない。

 ならその間にご飯の準備でもするかな。


「なら。その間に軽く食事でも作っておくわ。希望は?」

「干し肉のスープ」

「パンケーキ」


 予想通りの注文が返って来たので、すでに準備を始めていた鍋替わりのラウンドシールドに水をはって、取り出した干し肉を細かく切リ始める。


「了解、両方作っておくわ」


 パンケーキや乾野菜の準備も同時進行で進めながらナイに指示を出す。


「ナイはその子に干し肉でも与えておいて。少しでも害意が無いことを示しておけば、どう転ぼうと後が楽でしょ」

「了~解」


 ナイはもともと動物好きなので任せておいて問題はない。私は料理の方に集中だ。



――――――――



「これで……、完成かな」


 スープに具材を投入し、パンケーキを人数分焼き上げたところで丁度ジックが魔法陣を書き終えたみたいだ。

 後ろの方から嬉しそうな声が聞こえてきた。


「うん、出来たっ。……ん? 美味しそうな匂い。って、……ヒメ、あれは?」


 魔法陣に集中して、今までまったく気づかなかったんだろう。

 ジックはナイが細かくちぎった干し肉を食べさせているアタックキャットに気づいたようで、横目で見ながら恐る恐ると問いかけてきた。


「世にも珍しい回復の泉に浸かる魔獣よ。ジックの使い魔に良いかと思って餌付けしてるの」


 ナイが楽しそうに餌付けしているのを見ながら答える。なんだかんだ言って動物と触れ合えるのが嬉しくて仕方ないみたいだ。


「はっ!? ……ちょっと待って! ……えっと、魔獣が?」


 いつもは冷静なジックでも流石に驚いたんだろう。普段見ることの無い速さで私へと詰め寄ってきた。

 確かに魔獣がこの神聖な泉に近づくというのは驚きだろう。私もこの目で見ていなければジックのように驚愕していたに違いない。


「ちょっとまって、ちょっと待って! ただ捕まえて面白半分にこの広間へ連れて来たんじゃなく、泉に浸かってた(・・・・・・)んだよね?」

「うん」


 私が頷くとジックは慌てたように頭をかきむしり、顔を真っ赤にして詰め寄って来た。


「ヒメ、それがどう言うことか判ってて言っているのかい!?

 魔獣がこの泉に浸かると言うことは、核となる魔石が浄化されたと言うことなんだよ!?」

「う……、うん」

「確かに僕達の生活で使う魔石は一度浄化してから魔道具に組み込んでいるけど、それは死んだ魔獣から取り出した魔石だからできることであって、……これは僕も資料で知っただけの知識だから確実とは言えないけど、生きたままの魔獣を浄化するってことはできないんだ。

 泉へ魔獣を落とす実験っていうのも何度も行われていて、結果は何度行っても魔獣が泉の中でもがき苦しみ、引き上げた時はすでに生き絶えていたという記録しか残っていない。

 ついでに言えば、その核となる魔石は浄化出来ているのに魔道具などに利用することができない、全くの別物となった。っていう記録もあるんだよ。

 これは何例も実験を重ねているから、ほぼ確実なことに間違いない。それを分かってて言ってる?」


 その文献は見たことがないけど言っている意味はなんとなくわかる。でも、ジックは何を言いたいんだろう?

 私が疑問顔になっているのに気づいたのか、ジックは頭をかきむしると再度口を開いた。


「あぁもう!

 僕が言いたいのは、泉に落とされても生きている魔獣という、歴史的発見をしたというのに何のんきに使い魔にしようなんて言っているかってことなんだよ!!

 いい? 確かに研究自体は無名な学者が行ったものかもしれないけど、すでに定説として根強く浸透しているこの事実に、このアタックキャットはその定説を覆して歴史に新しい一ページを加えることが出来る存在かもしれないんだよ? 僕達、有名になるかもしれないんだよ!!

 幸いナイが餌付けを成功させそうだ。上手くこの魔獣を連れて街に戻ることが出来れば……。

 いやっ!! まて。そもそも迷宮の魔物を外へ連れ出すことが出来るのか? 別の資料では迷宮の魔物を外に出すと衰弱して死に至るという報告もあったような……。だけど泉に浸かることが出来るんだ、ならば外へ連れ出しても……。いやいや……」


 ジックはなにかブツブツと言いながら自分の思考に埋没したみたいだ。

 普段は冷静で合理的な判断ができる頼れる存在なんだけど、こうなった時は戻ってくるまで放置するしか手は無い。

 ナイはナイでアタックキャットに構うのが楽しいみたいだし、休息出来る時は目一杯休むに限るから、私も少しアタックキャットを構いながら休むとするかな。

 すでにアタックキャットから敵意は感じられなくなっていたので、私はそのまま拘束を解きがてらナイと一緒に構い倒しにかかった。




「っそうだよ!! ヒメの言っていたように使い魔にするのが最適なんだっ!! 迷宮の魔物が外に連れ出されると衰弱して行くのは迷宮から供給される魔力が途切れると言うのが有力な説であり……。つまり供給される魔力さえ途切れなければ外に連れ出すことが可能かもしれない。

 そして使い魔となった生物は主人の影響を受け、僅かながらも魔法を施行可能になる。……つまり使い魔と主人は繋がった魔力パスから影響を受けていると言えるわけで、主人から魔力を受け取って魔法を施行しているのなら魔力の供給も可能なはず。そう、つまりだ!! 迷宮の魔物だって使い魔にすれば外へ連れ出せる可能性が充分にあると言うことだよっ!!」


 10分程ブツブツとつぶやいていたジックは、いきなり大声で叫び出すと私たちの方へ駆け寄ってきた。うん、最初はこの奇行に驚いたものけどすでに慣れた自分が怖い。


「うん、使い魔にすれば良いんじゃない?」


 そう返すと私の櫛で(勝手に)アタックキャットのブラッシングをしていたナイの方を見て言った。


「だけど今まで魔獣を使い魔にしたと言う報告例は無い。何故だと思う?」

「確か凶暴で手に負えないからでしょ?」

「そう。魔獣は総じて本能のままに、ただ襲いかかるだけの存在と言われていたんだ。

 このアタックキャットは泉には浸かるし餌付けもされる。……ね、ふと思ったけど名有り(ネームド)じゃ無いよね?」


 そう確認されると私も首をひねってしまう。

 普通の魔獣ではあり得ない行動、奇行を行うのはネームドモンスターの特徴で、その凶暴性は類を見ないと言われている。放っておけば災厄となりうる存在であり、見つけ次第に全力で排除に当たらなければならないのも冒険者の仕事だ。

 今までの歴史でも有名どころでは魔王《悪魔》、ドラゴン凶鳥フレスベルグ海蛇シーサーペント大イカ(クラーケン)ミノタウロス(ビックホーン)鬼神(オーガ)の7匹で、いずれも息絶えるまでに幾つもの国を滅ぼしていると言われている。中には現在進行形で人類の天敵と呼ばれているのもいるけど……。


「……これが?」


 いずれも元となる個体は凶悪な魔獣、悪魔種のみでどう考えてもアタックキャットがそんな伝説に比肩するとは考えられない。どちらかといえば……


「言っちゃ可哀想だけど、名有り(ネームド)と言うより名無し(なりそこない)じゃ無いの? 魔獣になりそこなったただの猫、みたいな?」


 私の答えが聞こえたのか、アタックキャットを構っていたナイが大笑いして立ち上がった。


「ぶぁっはっはっは。

 なりそこないか、そいつは良いな。それならこいつを殺さないで済む。

 そういうのはステータスを見てみりゃ一発で分かるだろ。俺達のついでにこいつのステータスも確認して、利用出来るなら利用する。出来なきゃ放置する。で良いだろ。

 餌付けしてる間にこっちに敵意が無いことはわかってくれたみたいだからな、ほら、可愛いもんだろ?」

「にゃぁ」


 その胸にはアタックキャットを抱いており、左手で支えて右手で頭を撫でていた。

 ――本気で餌付けに成功したようね。

 アタックキャットはナイの手から干し肉を貰ってご機嫌そうに咀嚼している。


「どうやら人の言葉も理解しているみたいだね」


 ジックが興味深そうに視線を移すと、ナイは歯を見せて笑った。


「あぁ、それに結構賢いぜ。ほれお手」


 ナイはアタックキャットを肩に乗せると手を差し出す。アタックキャットは咀嚼を終えると、器用に肩の上で後ろを向き、後ろ足で手を蹴り返した。

 うん、命令の意味は間違いなく理解している。ただ視線と行動から干し肉程度でそこまで安く見るんじゃない。と言いたげに見えるのはなぜだろう。

 そんな態度を取られても、にこにことアタックキャットの頭を撫でようとするナイに、生暖かい視線を送ってしまうのは仕方ないことだと思う。


「な? 干し肉は喜んで食う癖に命令しようとするとおもしれぇぐらいにシカトしやがる」


 ナイはそれでもご満悦みたいなので私から言うことは何もない。

 楽しいのかな? 試しに私も同じことをしてみる。


「お手」


 アタックキャットの前に手を差し出してみる。アタックキャットが私の顔を伺うように見て来たので、笑ってあげると、一瞬動きが止まり、すぐに「にゃあ」と鳴いた後、おずおずと言った感じで右手を差し出してきた。……なにこれっ? 可愛いっ!!


「あっ、てめっ、俺の時はシカトする癖にっ!!」


 どうやらアタックキャットの中に格付けがあるらしく、私の方がナイより高い位置にいるのが態度からよくわかった。思わず勝ち誇った目でナイを見るのも仕方ない。

 あ、嬉しくて頬が緩んじゃった。

 

「あっ、くそっ勝ち誇りやがって。こらっ、お手しろお手っ!! そうじゃなくっ!! ちょっ!? こらっ!? てめっ、ぶっ殺すぞ!!」


 あらあら、流石に発言が物騒になって来たのでそろそろナイの方を止めないと。


「ぷっ、あはは。

 うん、その子なら使い魔になってくれる可能性は高いかもしれないね。見たところ危険性もなさそうだし知性もナイより高そうだ。……どうだい? 僕たちの元へ来るかい?」


 動き出そうとしたところで、それまでじっと私達を観察していたジックが急に笑い出すと、「それどういう意味だ」と憤慨するナイを無視してアタックキャットに右手を差し出した。

 アタックキャットは私にしたのと同じようにジックの顔を見た後、やはりナイの肩で反転すると後ろ足で手を蹴り返す。


「あれ?」


 ジックは蹴られた手とアタックキャットを交互に見渡して、ポツリと呟く。


「嫌われた? いや、これは警戒されていると見た方が良いかな。でも会ったばかりの僕だけならともかく、ナイも同じように見られていると言うのが理解できない……。

 ヒメ、ナイ、このアタックキャットを捕獲した時の状況を教えてくれないかい?」


 ジックが説明を求めてきたけれど、このまま説明に入ったらせっかくの暖かいスープが冷めてしまう。


「良いけど、ご飯を食べながらでも構わない? そろそろお腹空いて来たから」


 少し冷めてしまったかも知れないけど、そろそろ空腹も限界に近い。話なら食べながらでも出来るので提案してみると、ジックに異論はないようですぐに返事が返ってきた。


「分かった、それでお願いするよ。ナイも良いかな?」

「あぁ」


 ジックが笑顔で、ナイは憮然とした表情で頷いたので、さくっと二人の心情は無視して鍋がわりに使っていたラウンドシールドから各人のお椀に均等にスープをわけ、パンケーキを配る。


「ありがとう。それじゃいただこうか」


 私とナイはご飯を食べつつ、ジックが魔法陣を書き始めてから向こう側の通路の調査にいったこと、アタックキャットが泉に向かって突進してきたので、それを拘束し、ナイが餌付けを始めたところまでを話した。


「なるほど。魔獣は魔力感知能力が高いと聞くし、なりそこないでもその辺の感覚があった場合、拘束したのがヒメと気づいたかもしれないね。

 力量の差を肌で感じ、ヒメに関して自分より格上と認識しているのかもしれない。だから大人しくお手に応じたのかもね」


 ジックは納得したかのように頷くと、横で大人しく干し肉をかじっているアタックキャットを見て言った。


「んじゃ、俺は?」

「ん? エサ係(ご飯をくれる人)じゃないかな」

「なんだとぉ!?」


 すかさずナイが尋ねると、当たり前のことを返されて一人で憤慨している。


「となると僕の使い魔にするより、ヒメの使い魔にした方が良いんじゃないかな?」

「ほへ!?」


 そして考えてもいなかったことを言われ、思わず素で返してしまった。


「ほら、使い魔って対象に主と認められなければ契約出来ないでしょ? 今から僕が主と認められるより、すでに認められているヒメが主になった方が早いと思うんだ。

 僕としては研究さえ出来れば主が誰であろうと関係ないけど、魔獣を外に連れ出すには主からの魔力供給が必要不可欠なはずだしね。

 使い魔を持つ神官戦士は珍しいけど使い魔を持つ神官はざらにいるんだから、ヒメが使い魔を使役したってなんら問題は無いわけだよ」


 ねっ? と笑いかけながら、肯定の返事しか許さないよ。と言いたげに迫ってくるジックを見てため息を吐く。


「私は別に使い魔とか欲しく無いんだけどね? それに断定してるようだけど、迷宮内の魔獣を外に連れ出して衰弱死するって研究があっても、使い魔にすれば連れ出せるって研究はないのよね?

 何か問題があっても私には責任取れないからね?」


 私の言葉を聞いてジックは嬉しそうに頷いた。


「ありがとう!! 責任取れないって言うことは、責任さえ追求しなければやってくれるって言うことだよね?

 大丈夫、使い魔契約は意思の疎通を取ることが出来るようになり、命令を出せるようになるのとほんの少し魔力を吸われるようになるだけでヒメにとってのデメリットはほとんどないから。

 吸われるって言っても一日にヒール1回分程度。ヒメは一日に最大25回は使えるから些細な量だよ。

 使い魔になった方だって、魔力を受ける影響でヒメの得意な魔法を使えるようになるし、任意で人に言葉を飛ばせるようになるからお互いに良いことばかり。winwinの関係って奴だね。だからさ、やってくれるよね?

 ご飯食べ終わったら直ぐに契約の魔法陣書いてあげるから」


 相当このアタックキャットの研究をしたいんだろう。迷宮に入る時もそうだったけどいつになく押しが強い。


「うん、まぁ……、そこまで言うんだったら……良いけどね」


 そしてやっぱり私も甘いんだろうな。頼られるのがくすぐったくてつい頷いてしまう。


「ありがとう!! それじゃっ、直ぐに契約して外に出よう」


 ジックは破顔するとご飯を流し込むように勢い良く食べ始めた。


「……待ってくれ」


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