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『理想と現実の狭間で』

拓郎は見知らぬ布団の中で目を覚ました。

回りに置いてある小物も見たことのないものばかりで、ドアには学生服がかけられていた。

時刻は7時30分になった。

「本当に来ちゃった...」

最初は夢か騙されているのかと思っていたが、見知らぬ部屋で目を覚ましたのを見ると本当に二次元の壁を越えてしまったようだった。

「と、いうことは...」

拓郎が選んだ作品的にはそろそろ第一のイベントが起こる頃合いだった。

すると『とん、とん』と階段を上ってくる音が聞こえた。これは世の思春期男子が憧れ続ける"ヒロインが主人公を起こしに来る"という現実では絶対にありえないものだった。

特に多感な中高時代に女子から"オタク郎"という不名誉極まる名前をつけられていた拓郎にとっては自分の妄想が叶う最初で最後のチャンスだった。

「やっぱりラッキースケベな展開もあんのかな...。最低でもキスぐらいは...!」

拓郎は邪な妄想を膨らませながらも、ギラギラした瞳でドアを擬視していた。

遂にドアがノックされた。

拓郎の中では高校生とは思えない美声のヒロインが起こしてくれるという妄想が開始されていた。

ノックに負けじと拓郎も「むにゃむにゃまだ眠い」というテンプレートな台詞を吐きつつ布団のなかは臨戦態勢を整えていた。

すると目の前にいるはずのヒロインは突如としてドアを勢いよく開けて、

「いつまで寝ぼけてんだい!このバカ息子は!とっとと起きろ!」

という信じられない台詞を吐いた。

よく見ると理想のヒロインは綺麗なリンゴ型の体型で手には掃除機を抱えていた。

「あれ?あれ?誰?」

拓郎の口から自然と言葉が漏れた。

「とっとと準備して学校に行かないか!」

拓郎は布団から飛び起きて、階段をかけ降りた。

「あれ?ヒロインは?綺麗な豪邸は?トーストの朝食は?」

そんなものは一切なく、目の前にはヒロイン適齢期をとっくに過ぎたであろう母親らしき人と、北海道土産の木彫りの熊と、昨日の残りであろう野菜炒めの朝食だけがあった。


拓郎にとってはどうしても納得のいかない展開の連続だった。

それは"ヒロインに起こされなかった"というのもあるのだが、一番納得いかない点は自分の顔が現実世界の"冴えない男"の顔まんまだったことである。

24歳の大学生が学ランを着て町をぶらぶらしてたら、現実世界では通報一歩手前もしくは町の危険人物として村八分にあうレベルである。

「何だよ...!何で二次元の中でも人生ハードモードなんだよ...!」

そんなどうしようもないことをぶつくさ呟いていると、彼の後ろから名前を呼ぶ声が聞こえた。

「拓郎くーん!拓郎くーん!」

その声は先ほど自室で一悶着あった宇宙人のイチローの声だった。

拓郎は文句を言ってやろうと、すぐに後ろを振り返った。

すると、身体は高校生男子のものだったが、顔だけはミスターグレイなイチローがそこにいた。

「お前ー!何でー!?お前ー!」

「どうしたの拓郎くん?」

拓郎は流石に怒りを我慢できなくなった。

「リョーコいるんだろ!!出てこい!話がある!」

拓郎は回りの会社員や女子高生に怪しまれながらも、そんなのお構いなしに叫び続けた。

「あぁ、リョーコなら...」

そう言うとイチローは指を鳴らした。

すると、一瞬にして拓郎とイチロー以外の存在が世界から姿を消した。


「何なのよ!煩いわね!」

そんな声が響くと、二人の目の前に学生服姿のリョーコが姿を現した。

その姿は可憐で、もし現実世界にいれば町行く人を凝視させる程の美しさだった。

そんな姿を見ると、拓郎は黙りこんでしまって。

「何よ?何か用があるから呼んだんでしょ?」

「そうだ!お前に聞きたいことがある!まずイチローのこの姿は何だ!幾ら宇宙人だからってこれじゃギャグだろうが!とっとと人間の姿にしろ!」

「これダメなんですか!?結構気に入ってるのに...」

「お前以外にお前みたいなスタイルのキャラクターがいたか!?」

「仕方ないわね、直してあげなくもないんだからね!」

拓郎は雑なツンデレにイラッと来ていた。

「もう一つ!何で俺の前にヒロインの一人も出てこんのじゃ!ハーレムものの主人公だったら何かあんだろ!」

それを聞くとリョーコは不思議そうな顔をした。

「何言ってんの?あんたが主人公のはずないじゃない。」

「え?」

「この『ああっTo Loveるの憂鬱!?100%』の主人公はイチローよ。」

「え?えーーーーー!!」

イチローは照れ臭そうに拓郎を見た。

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