『地球人の理由。宇宙人の理由。』
「で、お前は一体何なの!?」
隣人からの無言の「黙れ」アピールである壁ドンから暫くたって一人と一匹(?)は叫び疲れていた。
それでも拓郎は自分に降りかかっていた三流小説でも今日日見られない状況を何とか噛み砕こうと目の前のテンプレ宇宙人に尋ねた。
「て言うか、日本語通じんのか?...もしもし?」
「我々は宇宙人だ。」
テンプレ宇宙人から返ってきた反応はこれまたテンプレ的なものだった。
「見ればわかるわ。...日本語通じてるみたいだな。何で俺の部屋にいんの?」
「えー、えー、私は貴方に会いに来ました。」
どうも声色を変えながら話しているらしく、最後には宇宙人ジョー○ズの声に落ち着いた。
「うわ!谷○節まんまだ。他にも声変えられんの?」
宇宙人は返事の代わりに色々な声優の声で近くにあった漫画を朗読すると、拓郎は一人喜び、その反応を見て宇宙人も声色を変え続けた。
「あんた達、いい加減にしなさいよ!」
どこからともなく聞こえた声に拓郎は一際舞い上がった。
「今のもお前の声!?すげぇな!」
その拓郎の反応にたいして宇宙人は恥ずかしがったが、謎の声は更に捲し立てた。
「ちゃんとしなさいよ、イチロー!あんたがしっかりしないと話が進まないじゃない!そこの地球人!私達はあんたに頼みがあんのよ!」
「へ?お前、イチロー星人って言うの?」
「いや、そうじゃなくて名前がイチローなんです。」
イチローと名乗った宇宙人はやっと声色が落ち着いたらしく青年の声で話始めた。
「ふーん...。見た目もテンプレなら名前もテンプレなんだな...。そうだ!お前何しに来たんだ!」
「はぁー...。私達はね、あんたにオタク知識を教えてほしいのよ。」と謎の天の声が拓郎に話した。
「オタク知識?それって漫画やアニメのこと?」
「そうなんです!貴方の深い知識と愛があれば僕らは救われるんです!」
「救われるって...」
拓郎はイチローの話を流しながら再びゲームのコントローラーに手を伸ばした。
「嘘みたいですけど、嘘じゃないんです!私達の星にはポップカルチャーが存在しないんです!」
イチローは拓郎の手からコントローラーを取り上げ様としたが、拓郎は抵抗しながら話を続けた。
「そんなもんあったって何の役にもなんねぇだろ...。」
「そんなことありません!私達の星は今半分半分にわかれて戦争状態なんです。だから何としてでも文化が必要なんです!でも難しいクラシックや絵画はすぐに広がらない...。だから比較的わかりやすい日本の漫画やアニメを私達の星に輸入すれば戦争の愚かさを理解して少しずつでも平和に向かうはずなんです!」
「そんなことで平和になるはずが...!」
「なります!だって漫画やアニメは老若男女関わらず楽しめるもののはずなんです!貴方も楽しいから面白いから人生の貴重な時間を無駄にしてでもこんなにグッズを揃えたんでしょ!」
イチローから意外ながら的を得た発言は拓郎の精神にジワリジワリとダメージを与えていた。
「人生の貴重な時間を無駄に...!」
「え?違うんですか?だってリョーコのリサーチでは大切な面接を忘れてたって...。そうだよね、リョーコ?」
「間違いないわ。しかもこいつ大学の授業もサボってて余分に二年間も通ってるらしいわ。」
さっきまで天の声だと思っていたリョーコという存在はたった一言で拓郎に止めをさした。
「うっさいわ!本当のことだけどうっさいわ!余計なお世話だ馬鹿野郎!」
「なんでそんなに嫌がるんですか!良いじゃないですか!その知識と愛は他の誰にも負けてませんよ!」
「ぎゃーーーーー!!」
拓郎は耳をふさぎ大声でイチローとリョーコの声を遮ったが、結局隣人の壁ドンで小さな抵抗も徒労に終わった。