プロローグ『未知との遭遇』
その日、この物語の主人公である向坂拓郎は失意の中で目を覚ました。
時刻は既に昼というよりは夕方に向かいかけていた。
彼は慌てて枕元に置いていたスマートフォンを手に取った。
同じ番号から14時30分を契機に電話が複数回かかっているのを確認すると、急いで電話をかけ直し、見えるはずもない電話口の相手に向かって頭を下げ続けていた。
「なんとかなりませんかね?今からすぐにでも時間取りますのでお願いします!」彼の悲痛な叫びが学生マンションの一室に虚しく響きわたる。
その後彼は電話を切った、今日は彼が受けている企業の最終面接だった。
彼は力なく膝から倒れた。
彼の倒れた横には昨日夜遅くまで遊んでいたファ○ナルファンタ○ーの七作目のケースが転がっていた。
向坂拓郎は浮かれていた。
「最終面接なら絶対に受かる」というよくわからない自信からフ○イナルフ○ンタジーに手を出してしまったのだ。
しかし彼に手を貸してくれたのはエア○スだけだった。
気がつけば院生でもないのに"六年生"まで行ってしまった月日は彼を大学はおろか、アルバイトでも忌み嫌われる存在にジョブチェンジさせてしまっていた。
「せめてフ○イナルフ○イトにしておけば...」
拓郎は涙を流しながらカーテンが締め切られた部屋で一人後悔の念を漏らしていた。
部屋を見回してみるとゲームに漫画、アニメのDVD、ポスターにフィギュア...
ありとあらゆるグッズが彼の部屋に飾られていた。
拓郎は大学生活の"六年間"をアニメとゲームだけに費やしてきた、所謂"オタク"だった。
拓郎がカーテンを開けると綺麗な夕焼け空がうかんでいた。
遊ぶ子供たち、自転車を押す主婦、足早に家路を急ぐサラリーマン、そして夕刻を告げるチャイム...
全てが眩しすぎるほどに輝いていた。
「終わった...、何もかも...。明日からどうすれば良いんだ...」拓郎は一人呟き、しばらくして思い出したようにPSの電源を着けた。つまりは現実逃避であった。
「終わった...、終わった...」
拓郎は呟きながらもガンガンゲームを進め、disc1を終わらせる一歩手前まで来ていた。
「今がチャンスよ!早く行きなさいよ!」
女性の声を聞くと同時に拓郎の部屋に何かが入り込んだ。
「ん?」一瞬、何かを感じ取った拓郎は立ち上がり玄関の様子を見に行った。
一通り見回したが変わった点はなく、何事もなかったかのようにテレビの前に座った。
しかし確実に拓郎の後ろに影が迫っていた。
その影は気づかれないように彼の後ろにピタッとついて、拓郎の動向を伺っていた。
そしてその影が拓郎にアクションをかけようとした瞬間、「エアリ○死んだーーーーー!!」という拓郎の叫び声が響いた。
「うわーーーーー!!」突然の叫びに驚いた影が叫び声を上げると、流石の拓郎も自分の背後の存在に気づいた。
拓郎の背後にいたのは宇宙人の解体シーンや自称宇宙人研究家たちがあげる、あまりにもテンプレート過ぎる宇宙人であった。
「ぎゃーーーーー!」と拓郎は当然の反応を示した。
結局、この叫び声の連鎖は隣人の壁ドンが行われるまで延々と続き、ここに日本人のダメオタクと宇宙人という「未知との遭遇」が果たされたのであった。