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4話 アメリカ合衆国サンフランシスコ

アメリカ合衆国、サンフランシスコ。


世界トップクラスの技術と最高峰の武力を誇り、10年前、世界に敗北を見せつけた大国。

敗北をしてもその権威を失うことなく、10年たった今でも未だに世界各国へと良い意味でも悪い意味でも大きな影響を与えている。

世界を支える主要国の一つであるアメリカ。


その国の西海岸に位置しているサンフランシスコという都市がある。

地中海式気候であり、太平洋のカルフォニア暖気により気候が比較的穏やかな地域だ。

ニューヨークほどではないが、アメリカの大都市の一つであり、近代的なビルや建物が並ぶ中文化的な様式も見れる「最も歩きやすい街」として存在している。

また、ジャパニーズタウンもあり、日本人からの評価も高く、日本人観光客も後を立たない。

その中で何よりも注目を浴びているのは、大戦の被害を大きく受けておりながら最も初めに再生した都市として有名なところである。

それは、多くの人を元気付け、希望を持たせた。

まだまだ俺たちもやれるんだ、と。

それにより『奇跡』の象徴として国際社会に大きくアピールし、今では首都であるワシントンD.Cに勝らずとも劣らずといったところだ。


しかし一方で、大戦後の移民や難民を受け入れを積極的に行っているせいで人口は密集し、家すらも持てない貧困層が少なからずいる。

密集度は、世界人口の10%はそこにいるんじゃないかというくらいでその都市が壊滅すれば、世界人口が一気に削り取られるというリスクがあるという。


そんな『奇跡』と『リスク』の二つを持ち合わせている都市に2057年において大きな意味を持つ建物が1つある。


国際連合本部。


元々はニューヨークにあったのだが、フォボスの出現場所がニューヨークであったことを懸念し、サンフランシスコへ移動したのだ。

また、対フォボス戦のPPCTが多く存在する日本と近づけたかったという思惑もあったらしい。


正確に言えば、重要なのは国連本部ではなく、本部内のある一室で行われようとしていることだ。


「……そうですか。ついに国連も本腰を入れて対策を練ろうと」


春の白昼。

まだ日は沈んでおらず、サンフランシスコの街を明るく照らしている。


皇族の家を思わせるほどの豪華な作りをしている国連本部内の廊下に敷いてあるレッドカーペットの上を歩きながらそう言ったのは、スーツを側近のおかげで何とか着こなしている美女というよりは美少女と言った方が正しく感じる童顔の女性、成瀬咲夜だ。

一応20はとっくに超えているのだが、どう見ても10代にしか見えない。

彼女と初対面の人がこの人が国家元首ですと説明されてもナイスジョークだねとまんべんの笑顔で返されるか本物はどちらにとスルーされるかするだろう。

相手は正真正銘日本の首脳の一人。わははははは面白い、センスあるねで済まされる問題ではないのだが、そうは言っても仕方ない気もする。


一方、その隣で咲夜と同じペースで歩いているのが、彼女とは正反対にスーツが板についた柔らかい物腰の初老の男、阿形伸治。


「どうなるかはこの会議で決まるかどうかは分かりませんが、議題はそれですね。わざわざ呼び出したのはマスコミ除けでしょう。マスコミ除けはおそらく情報漏洩を防ぐためかと。彼らには、PCHとは無関係の会議だと勝手に悟らせておけば、適当に誤魔化せる。こそこそすると怪しまれる、逆に表立って行動した方が目立たないこともありますから。」


「ですが、この会議に参加できるはPCH(フォボス対策司令部)に所属している上位5国。つまり、アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、そして日本。主要国首脳会議を開くには5国足りないはず。マスコミにも他の5国にも不審がられます。常会には国連加盟国の過半数の参加が必要なはずです。…それでマスコミを誤魔化せるでしょうか。」


「彼らは鼻がいい。それを逆に利用したんです。アメリカとイギリスの強固すぎる関係を懸念したロシア、フランス、日本が話し合いのために両国へ呼びかけ会議を開いた、というストーリーです。あえてイギリスとアメリカが他の5国に非難されるような行為をして会議の参加を拒否らせればいい。それを彼らが大きく声明してくれれば、マスコミも不審がることはない。率直に言えば、餌をまいて誘導させた後どこか遠いところへ遠ざけておいたという形にしたようです。」


「…今の時代の主要国首脳会議では参加拒否があってもそれに構わず開かれる……。」


「その通りです。事情を知らない自衛隊内で少し騒ぎになりましたが、フォボス対策をPPCTに任せきって訓練ばかりの彼らを引き締めるにはちょうど良かったかもしれませんね。会議の後でこの件は誤解だったと正当な理由も付け加えて言えば、何とかなるでしょう。なんせ相手側にアメリカがいる以上そこまで口出し出来ないのが現状ですから。」


「……流石です。フォボス対策しか頭にない私には、そこまで考えられませんでした。やはり敵いませんね。」


「政治面だけですよ。それに前から言うように貴女は世の中を正しく見れる目がある。そしてそれを貫き通す力がある。それは私も持ち合わせていません。今の時代、貴女のような人こそ大切だと私は思いますよ。」


2人が揃って歩いていると、スーツを着ていたとしても第一印象だけでは国連本部内には不似合いな二人。

幸い今はSPが取り囲んでいるため何かしらのVIPだと察することが出来るが、2人だけで歩いているとおじさんと高校生くらいの少女、下手をすればお爺ちゃんと孫のように見える。

そんなお爺ちゃんと孫を思わせる二人は日本の首脳であり、会話もれっきとした政治に関することだった。


現在、日本では二首制をとっており、大統領と総理大臣の二人の首脳がいる。

大統領が主にフォボス対策関係や外交、総理大臣が国内政治を担当する。


ちなみに咲夜が大統領で伸治が総理大臣だ。


10年以上前から政治に関して詳しく知っている人からすれば、だいぶ世界の政治は変わったなと思うかもしれない。


決まり事というものは何も問題がなければ変わることはない。

何か問題があり、この決まり事ではそれに対し対応できないと判断された時に変更されたり、追加されるのだ。


過去に総理大臣による権利濫用、主要国首脳会議への参加拒否国が出たことによる会議中止などがあった。

そのため日本は二首制をとり、三権分立から四権分立へと変化。

大統領と総理大臣で権利を分割することとなり、主要国首脳会議では参加拒否国があったとしても開催が可能、となった。


しばらく歩くうちに大きな扉の前の大広間に着いた。


扉の向こうはフォボス対策司令部第一高等会議室。


PCH上位5国だけが入れる会議室だ。


「おっと…今回の悪役が来たようですね。」

「阿形さん…それは流石に失礼ですよ。」


米国と英国のことを冗談のつもりで悪役と表す総理大臣と、それを注意する大統領の視線の先から黒いスーツのエリートSPに囲まれて30代くらいの男が歩いてくる。


米国大統領クリス=ローガン。


アメリカの頂点に立つ男であり、失意のどん底からアメリカを立て直した人物の一人である。


その隣には、秘書官と通訳と思わしき女性がいる。


「どうも、成瀬大統領、阿形総理。久々だな。」


普通にアメリカ英語を話すと思いきやペラペラの日本語を話すため通訳が、あれ?私必要ない?という顔をしている。

さまざまな国を渡って色々な人と会談をしてきたたまもの、とでも言おうか。

彼自身、個人的に日本を好いているということもあって会話には苦労しない。


「お久しぶりです、ローガン大統領。今回は、わざわざありがとうございました。」

「いやいや、俺たちのような大国が前に出なきゃ出来ない事案ってことだ。それに…」

「?」

「成瀬大統領のような可愛い子ちゃんの好感を得られたのが何よりの報酬だ。」

「え、えーと……」

「どうだ?うちのSPと変わらないか?こんなイカツイマッチョメン共ばかりがいたってむさ苦しくてしょうがねえ。成瀬大統領が1人いるだけで華が咲くってもんよ。」

「あの……」

「成瀬大統領ならグラビアだろうが芸能雑誌だろうが美女雑誌だろうがどんな雑誌の表紙にも載るくらいだ。そんなねーちゃん欲しいんだがなぁ…」


この人は…と伸治はため息をついた。

彼は、アメリカを立て直せたほどの有能な人物なのだが、中身は完全な中年のおっさんなのだ。それに思ったことを口に出すから余計タチが悪い。


SPは仕事上気を抜けないのでそんな大統領を構ってる余裕はないが、通訳と秘書官は完全に引いている。

秘書官に気の毒そうな目を向けられて咲夜は苦笑で返した。


「おい…、セクハラもそこまでにしろ。」


突然横から声が聞こえたので振り向くと複数のSPを引き連れたスーツが似合う女性が1人立っていた。


声の主は、リリー=ラッカス

アメリカに並ぶトップ国、英国首相だ。


男口調で話す彼女はクリスと同じ年らしいが、実年齢より若く見える。

彼女も日本語がペラペラだった。


「やあ、リリーちゃん。電話ぶり。」

「あのな…仮にもお前はアメリカ大統領で私はイギリス首相だ。ちゃんするな、立場をわきまえろ変態ゴリラ。」

「いやーん、リリーちゃんこわ…って変態ゴリラ!?リリーちゃんも立場わきまえようぜ!?」

「うるさい。オカマ口調も気持ち悪い。少しは黙ったらどうだミジンコ。」

「ゴリラより酷くなりやがった!!」


目の前で繰り広げられるコントに日本の首相2人組は置いてけぼりである。

中学、高校が同じだった仲良しコンビのような息の合いっぷり。

この2人の仲良し度がアメリカとイギリスの強固な関係を築いてるとしたら頭が痛くなる。

『首相ってなんなんだろう……』と絶賛コントなうの彼らとそのSP以外でその場にいる全員が思ったのだが、これが現実である。


「にしても相変わらずスタイルいいな。成瀬大統領と一緒にうちのSPと交代してくんない?」

「………いいからそのセクハラなセリフしか出てこないその口を閉じろ。また脳天にヒールぶち込まれたいのか。」

「…っ!そ、それは新しい快か…ちょっと待て!攻撃準備するな!分かった分かった俺が悪かった!な?な?だからその足を下ろそうか」

「…チッ。あ、すまないな。成瀬大統領、阿形総理。こんな奴で。」

「おい、アメリカ大統領に向かってこんな奴ってなんだ。」

「黙れ。」

「え!?いや…。」

「黙れ。」

「はい。」


……何度でも言うが、二人は本当にアメリカとイギリスの首脳である。

だとしても誰がどう見てもコントをしているようにしか見えない。


あれ?世界の首脳ってこんなユニークな人ばかり?私が間違ってる?と咲夜は自分の常識的な考えすら不安になる。


そんな世界の上位5国が集まる会議室の前でそんなユニークなネタを見せてくれた仲良しコンビを置いておきながら、咲夜は阿形へ質問した。


「他の方々は?」

「フランスは10分後に。ロシアはすでに会議室内です。少し早いですが集まり次第会議は開始すると思います。」

「『教会』への対策…か。」


さっきまでコントをしていた2人が急に真面目な顔になって話に入ってくる。

こうしていると首脳らしいのだが。


ポケットへ手を突っ込みながら何かを考えるクリス。

「遅すぎるな。連中は10年前から動いてやがった。いくら戦後でボロボロだったとしても10年の月日は長すぎる。連中に関して口を出さないことにメリットはどこの国にもねえはずだ。」


アメリカは今まで国連としてではなく、1つの国として彼らの言う『教会』を追ってきた。

『教会』による国内での被害も少なくない。死傷者すら出ている。

そのため日、米、英の共同で『教会』対策を練ってきた。


が一方で、国連は全く動きを見せず、この3国が呼びかけをしても動じなかった。

何か裏がありそうな気もするが、国連を動かすのは主要国の10国であり、国連を疑うというのは、日米英の3国以外の7国を疑うことになる。

それはリスクが大きすぎる。


『教会』と通じている国があるとすれば今にでも大統領権限でアメリカ軍を出撃させたいのだが、情報が少なすぎていた。

少ない情報だけでアメリカ軍を出撃させ、他国と戦争すれば国際的な問題になりかねない。

それだけは避けたかった。


「とにかくこの会議では『教会』の尻尾を掴むためだ。出来ることならしたくはないが、ロシアとフランスも疑ってかかる必要もある。」

「そんじゃあ、会議室に入りますか。会議には相応しくない豪華すぎる部屋が待ってるぜ。」

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