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転生直後の話です。
クララの主が、『至高の花園』の主役です。
天界。天帝を中心に神の住む世界。
東西南北と四つの大陸に別れ、様々な国によって成り立っている。
そのうちの一つ、東の蒼龍大陸のオスト王国の辺境の地クラウド公爵領にて一人の少女が生まれた。
クラウド公爵の館では、公爵の娘クララの出立の準備が進められていた。
「本当に王都に行かれるのですか?」
「ええ。王妃様もお待ちでしょうから」
赤ん坊を抱く乳母に尋ねられ、クララは身の回りの物を纏める手を休めずに答えた。
「侍女長というのが大変なお仕事であるのは判ります。ですが、せめてお子様方もご一緒にお連れにならないのですか?」
乳母の言うのも尤もだ。
だがー
「いくら世が平穏になったとはいえ、二年前の事件はまだ尾を引いています。危ないと判っている場所に息子と娘を連れて行くわけにはいかないでしょう」
そう言って、クララは乳母から赤ん坊を受け取った。
一ヶ月前に生まれた娘、アーデルハイド。
本来なら、息子フレデリックと共にクララの手元で育てたかった。
だが、フレデリックの出産直後と同様に、クララは単身王都に行かざるを得なかった。
フレデリックの父は、クララの又従兄でもあり、『代替わりの戦乱』で亡くなった。『代替わりの戦乱』はクララの夫だけでなく兄も奪った。
クラウド公爵の唯一残された子供であったクララは、本来なら父の元で戦乱後の復興に力を尽くすはずだった。
だが、そのときの政治的状況で、フレデリックを父の元に残し、クララはオスト王国の王宮にあがり、王妃付きの侍女長として勤めることになった。
そこでクララが得たのは、王妃グレイスの友情と周囲の侍女たちとの信頼。
そして、国王の側近の男性と恋に陥った。
それから数年経ち、幾つもの事件を目にし、更に二年前王国を襲った災禍で、クララもその犠牲となり床についた。
やっと復帰できたと思ったら、今度は自分が妊娠していることに気づき、ぎりぎりまで王宮勤めを果たし、長期休暇を願い出て内密に故郷で出産したのだ。
クララと乳母の会話を聞いているものは、誰もいない。
赤ん坊のアーデルハイド以外には。
(ふ~ん、優しそうだけど、結構芯はきついかも)
だから、二人の会話からアーデルハイドは自分の母親の性格を冷静に判断していた。
(お嬢様だけど、周囲に対してちゃんと気を配っているんだよね)
自分の母親がどうやら『いい人』でアーデルハイドはほっとした。
(私にも兄様にも時間の許す限り一緒にいてくれるし)
乳母の話や、時々姿を見せる兄の言葉から、それは容易に推察できた。
(でも、まさか、私が『神様』として転生するなんて思わなかったわ)
アーデルハイド・クラウド。
それは水城綾の転生したものだった。




