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ばんぱいあヴァンパイア  作者: 葉月
詰合編 Diverse Am încercat
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幸せでありますように vorbesc.瀬川


今日の日が幸せでありますように。

そんな祈りを何度しただろうか。


「空ちゃん」


瑛士の声に私は目を覚ます。


「……瑛士君」

「おはよう」


朝の挨拶と共に私に微笑む瑛士に、私も頬笑みを返す。窓から入る眩しい朝の陽光が、カーテン越しに瑛士を照らす。それがとても綺麗で奇麗で。

何故だか無性に胸がぎゅっと締め付けられる息苦しさに、私は手を伸ばし瑛士の頬にそっと触れる。


「空ちゃん?」


触れた瑛士の頬はすべらかで触り心地が良い。まるで女の子の肌のようだなと思う。私よりも肌の質感が良いのではないだろうか。

羨ましい。恨めしい。


「うらやまめましい」

「空ちゃん……怖いよ」


朝昼夜ときちんとお手入れしている私よりスベスベお肌とは何事か。私はじと目で瑛士を睨む。


「珈琲で良いよね?」


暫くのち苦笑しながら瑛士はそう言いつつベッドから起き上がり、脇に置いてあった眼鏡片手にキッチンの方へと向かう。私が「コーンスープが良い」と言うと、瑛士が笑う気配がした。私はそんな瑛士を見送り、一人ベッドの上で大きく伸びをする。

ボサボサになっている髪の毛を手櫛で少しだけ直した後、ベッドから降りて瑛士の居るキッチンに向かう。向かう途中欠伸が出て、私ははしたなくも大口を開ける。誰も見ている人がいないから出来る事で、多分瑛士が見ていてもしているのだろう事。


「……良いにおい」


キッチンに近付くにつれコーンスープの良い匂いが強くなっていき私の鼻孔をくすぐった。そんな匂いにお腹まで空いて来た私は、キッチンの端に置いてある食パンの袋を取って封を開け、食パンを一切れ取り出しトースターに入れた。瑛士も食べるだろうかと思い聞くと、瑛士は首を横に振った。


「はい、どうぞ」

「ありがと」


マグカップがテーブルに置かれ、私はその前に座りカップに手を伸ばす。瑛士も自分の分のコーンスープを入れたマグカップ片手に私の前に座った。お揃いのマグカップ。ついこの間買ったもの。


「うー、温まるー」

「空ちゃん、ほんとコーンスープ好きだよね」


よほど私が美味しそうに飲んでいるように見えたのだろう。瑛士は笑いながら自分もコーンスープを一口飲み「温まるね」と一言。


「やっぱり寒い日はコーンスープに限るよね」

「空ちゃん、昔から好きだもんね」

「うん。でも、瑛士君の入れてくれたコーンスープが一番好きだよ」


そう言った私の言葉にほんの僅かに顔を赤らめて行く瑛士を楽しく盗み見ながら、私はリモコンを取ってテレビをつけた。変わらない朝のニュース番組が流れる。また欠伸が出た。


「空ちゃん、今日はお休みでしょ?まだ寝てたら?」


私の欠伸を見て瑛士がそう言ってくれるが、私は立ち上がりトーストにつけるためのジャムとマーガリンを出すべく冷蔵庫に向かいながら口を開く。


「進藤さんとの待ち合わせに遅れるといけないし……、起きとくわ」

「空ちゃんなら目覚ましでちゃんと起きられると思うけど」

「瑛士君はたまに二度寝しちゃうけどね」


もうすぐ無くなるいちごジャムとマーガリンを片手に私はテーブルに戻る。今日は進藤さんも仕事が休みなので一緒に映画を見に行く約束をしている。その進藤さんとのお出かけついでに買い物もして、常備品も補充しておかなければいけないだろう。


「進藤さんによろしくね」

「はいはい」


私はテレビの音に耳を傾けながら、適当に返事をする。すると「……進藤さん、鎹君と上手くやってるかなぁ」と、瑛士がぼそりと呟いた。私は瑛士を睨み付ける。


「そ、空ちゃん?何で睨むの……?」

「別に」


今日はちょっと進藤さんを虐めてやろう。そう思った瞬間だった。


「瑛士君は本当にあの二人に親身だよね。上手くやってるかなぁってさぁ……。瑛士君、鎹君とはわりと頻繁に会ってるんじゃなかったっけ?」


瑛士は誰に対しても優しい。確かこの間も鎹君と会ったのだと言う話を聞いた。


「うん、でも最近は名々賀さんも一緒の事が多々あるから……。名々賀さんが一緒だとあんまり真剣な話にならないというかなんと言うか……」

「へぇー」


男三人で何を話しているのだろうか。まぁ、静さんは人をからかうのが趣味と生き甲斐の人だし、鎹君は進藤さんの事で手一杯に違いないだろうし。

きっとしょうもない話なのだろう。


「瑛士君。付き合ってあげるのもほどほどにしなよ」

「う、うん……」


コーンスープを一口飲む。温かくてほんのり甘くて、とても美味しい。





「じゃあ行ってきます」と瑛士が家を出た後、私は洗いものを持ってキッチンへと移動する。進藤さんとの待ち合わせまでは、まだかなり時間があるので、ゆっくり片付ければいいかと動きを鈍くしていれば、また欠伸が出た。

瑛士といる時は、なんだか時間が穏やかに流れていく気がする。凄くのんびりしている自分がいる事に気付くのだ。


小さな頃、インスタントのコーンスープを瑛士が私に作ってくれた事があった。それはとても温かくて、とても美味しかった。瑛士の家はとても暖かい。そんな空気が今ここにもある。あの時の感覚が、今ここにもある。


『どうして一日の最後にそんな祈りをするの?』


瑛士が私に初めてインスタントのコーンスープを作ってくれたその日の夜、私は瑛士に話をした。


「今日の日が幸せでありますようにって、どうして空ちゃんは祈るの?今日はもう、終わっちゃうのに」

「……今日一日が幸せであったんだと自分を錯覚させるため……かな」


今日は幸せだったんだよ、と自分自身に言い聞かせるために私は何度も祈っていた。今日一日が幸せでありますように。今日一日が、幸せでありますようにと。

本来なら一日の初めに祈るだろう事を、私は一日の終りに祈っていた。全てが終わったその後で、一人静かに祈っていた。嫌な事や辛いことがあった時ほど、強く強く言葉にして祈っていたんだと思う。


そんな昔のことを思い出した。

私の顔には自然と笑みが溢れ落ちる。


「ねぇ瑛士君。私は今、本当の幸せにいるんだと思うよ」


今日一日が幸せでありますようにと祈ったあの時の幸せとは違う、これが本当の幸せなんだと思える今日が、きっとこの先、ずっとずっと続いてく。


「進藤さんも早く幸せになればいいのに」


だから今度は誰かのために、幸せを祈ろうと思えるようになった。


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