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ばんぱいあヴァンパイア  作者: 葉月
詰合編 Diverse Am încercat
90/109

『特別』なのは vorbesc.小日向・瀬川


『自惚れかすがい君』の小日向、瀬川ver。




特別って何だろう。






「あれ?あそこにいるのって進藤さんと鎹君じゃない?」


日曜日。

空が休みということもあり、僕達は先日新しく出来た某百貨店に来ていた。中は何処もかしこもが開店セールやオープン記念などで品物を安くしているため人で賑わっている。物珍しさから来る人もいるようなので、尚更なのかもしれない。


そんな中、空が不思議そうな声で遠くを指差す方を見れば、確かにそこには高校時代の同級生で友人でもある進藤さんと鎹君の姿。


「ホントだ」


進藤さんと鎹君。二人は横に並んで時折話をしながら歩いている。買い物だろうか。

隣の空に視線をやれば、彼女はそんな二人をじっと凝視していた。


「…………」


空は知り合いの匂いや気配にはとても敏感だ。向こうが空の存在に気付いていなくても、空の方が大概先に気付けてしまうというかなりの強者。しかも、一度会っただけの人でも空はきちんと記憶し敏感に察知したりするものだから。

僕は本当に凄いなといつも感心していたりする。


「買い物かな?」

「デートじゃない?」


空がにやにやしながら言う。

進藤さんと鎹君。二人とは今でも一緒に何処かに遊びに行ったり飲みに行ったりするなどの付き合いがある友人で。きっとこれからも付き合いはあり続けるのだろうと思うし、あり続ければ良いなとも思う。


「ねぇ、瑛士君」


にやにやする空。こんな顔をする時の空は何かろくでもない事を考えているのが常日頃。僕はため息を吐く。何故なら、この状況じゃ聞かなくても空の考えが分かってしまったから。



空は二人のデートを付け回す気なのだ。



「駄目だよ、空ちゃん」


あの二人が本当にデートしているのかどうかは怪しい所だが、今見ている感じでは二人がここに『二人きり』で来ている事は確かだ。それを邪魔するようなことはしたくない。

最近鎹君から相談を受けたりなんだりしている僕としては、ここは何としてでも空を食い止めないとと一人意気込む。


「二人の邪魔はしちゃダメだよ」

「邪魔なんてしないわよ。見守るの」


意気込む僕に心外だな、と空が眉値を寄せる。


「だって心配じゃない?」

「……心配だけど」


確かに心配ではある。

高校生の頃も心配だったが、今はその頃よりも更に心配度が増している。

それは鎹君が進藤さんへの気持ちに気付いたから。そして進藤さんが鎹君への気持ちに気付いたから。


お互いがお互いを想い合っているのに、何故だかかみ合う事の出来ない二人。鎹君が自分の気持ちに気付いた今、問題は多分進藤さんの方。

進藤さんには抱えているものがある。小さな頃から人とは違うものを彼女は持ってしまっている。それがあるから進藤さんは素直に自分の気持ちを表には出さない。敢えて出さないようにしているのだろう。

高校生だった頃も。

そして今も。


「大丈夫よ。邪魔なんてするわけないじゃない。だけど、ほら。鎹君が上手くやれるかどうか見守ってさ、もしあれだったら気付かれないようにサポートとかさ、してあげようよ」


空も二人が心配なのは一緒らしい。


「…………出来るだけ、二人の事は二人に任せようね?」


僕は折れた。空が「やった!」と喜び爛々と目を輝かせ始めた。僕は苦笑する。

邪魔をしたくないと思うのと同じぐらい、やっぱり僕も心配なのだ。


鎹君も。

そして、普通とは少し違う進藤さんの事も。










「それにしても、鎹君は空回ってるわね」


二人をつけ回して数十分。

そんな短時間にも、鎹君の駄目っぷりはかなり見てとれた。

進藤さんの話に話半分で聞いている節が多々あるし、かと思えば進藤さんを怒らせるし、スカートの話を持ち出したりしている。

「進藤さん、スカートは絶対着ないって前に言ってたわよ」とは、空の談である。


しかも一番最悪なのが、あのぶつかった女の子だ。


「あーあぁ……。やっちゃったわね、鎹君ってば」

「…………」


鎹君はぶつかった女の子に視線を向けている。そんな鎹君を進藤さんが見る。鎹君は気付かない。進藤さんは鎹君を置いて離れて行く。


「最悪。あいつ、馬鹿なの?」

「…………」


否定できない。

よもや鎹君が進藤さんといる時に他の女の子にうつつを抜かすとは。鎹君、何考えてるんだ。


「あれは不味いわね。取り返しのつかない事、鎹君はやっちゃったわね」

「……鎹君、何考えてるんだろ」


鎹君はいつも進藤さんの事ばかり考えていた。

進藤さんにどう接すればいいのか、どう接するのが一番良いのか。やっぱり待っていた方がいいのか。待っているだけじゃなくて、行動を起こした方がいいのか。

鎹君は進藤さんの事しか見ていなかったというのに。


「ついに鎹君も匙を投げたのかしら」

「空ちゃん」

「冗談よ。……だけど、鎹君が匙を投げたのだとしても、それは仕方がない事だって瑛士君は思わない?」

「…………」


何とも言い難くて僕は口を引き結ぶ。

進藤さんを見る。進藤さんは元の位置に戻り動かない。じっ、と案内表記に視線を向けている。


鎹君は進藤さんを見る。

進藤さんは鎹君を見る。

なのに、二人の視線はいつだって絡み合う事はない。


鎹君が進藤さんに近付き、二人はエスカレーターに乗った。


「今更だけど、あの二人は何か買うつもりなの?」

「さぁ……?」


百貨店内うろうろする二人は未だに何も買ってはいない。何のためにここにいるのだろうか。






さすがに後ろから乗り込む訳にもいかず、エスカレーターに乗った二人を探し出すのには苦労した。見付けた時、進藤さんは紙袋を持っていて既に何かを買った後の様だった。


「あの紙袋に書いてある店名って確か……」

「靴ね」


進藤さんが買ったのは多分靴。紳士靴だ。誰への物なのか。鎹君が持っていないのを考えれば鎹君にではない。父親とかだろうか。


鎹君と進藤さん。二人はまた歩き出す。そうして気付いたことが一つ。


「……ね、瑛士君。あの二人さぁ、なんか距離が微妙になってない……?」

「……多分」


今、進藤さんは鎹君の少し後ろを歩いている。さっきまでは確かに隣を歩いていたはずなのだが今は後ろ。


「……やっぱりさっきの女の子が効いたのかしら」

「でも、なんか鎹君の方が機嫌が悪いような気がしないでもないけど」


何だろう。

まさに微妙という言葉がしっくりと当てはまる今の二人の距離。やはりさっきの女の子の件で、なのだろうか。


「何処行くんだろ……」

「そういえば、もうちょっとでゆるキャラが来るみたいなんだけど……、もしかしたら進藤さん達もそれを見る気なのかしら?」


今大人気のゆるキャラ。

実は僕達も当初ここにはそれを見に来たのだが、今となってはゆるキャラなんかよりもあの二人、だ。


ゆるキャラ目当てだろう人が段々と周りに集まって来て、人込みが増していく。押して圧されてを繰り返すうち僕達はまた二人を見失った。


「まずいっ、また見失った!」


空がきょろきょろと必死に探すも見えてくるのは他人の頭の数々ばかり。


「くそ邪魔ねっ!」

「空ちゃ……」


吐き捨てるようにそう口にする空を周りの数人が睨んで来ていた。僕はすみませんの意を込め作り笑いを浮かべ、空の腕を引っ張る。


「空ちゃんっ、ちょっと」

「何っ?まだ見つかってな……」


苛立ちを隠しもしない空の腕をぐいぐいと引っ張り、とりあえず拓けた場所に出る。その時、きゃーと言う歓声と共に騒がしさが一層増しゆるキャラが現れた。さすが大人気と言われるだけの事はある。

空がその方向を睨み付け一言。


「たかがゆるキャラ如きで!」

「…………」


当初、そのゆるキャラを自分達も見に来たというのにこの空の言い様は何だろう。まぁ、いつもの事と言えばいつもの事か。


「瑛士君っ」


そんなことを考えていたら、空が僕の名前を呼び一点を指差す。そこには鎹君と進藤さんの姿。その直後。


「え?」


空と僕の視線の先。

二人、キスしたのかと思った。


「ねぇ、瑛士君……。今、触れたかしら……?」

「…………」


正直分からなかった。

だけど。


「双弥っ!」


誰かの鎹君を呼ぶ声。遠くからその声の主とおぼしき数人の男女。その後、進藤さんは鎹君から離れ、一人足早に何処かへと歩いて行く。


「……空ちゃんはここにいて」

「えっ、ちょ、瑛士君!」


空を残して僕は一人進藤さんを追いかけた。進藤さんに伝えなきゃいけないから。

鎹君がどれだけ進藤さんを大切にしているのかを。鎹君がどれぐらい進藤さんが好きなのかを。



進藤さんが未来を諦める、その前に。











――――――――――




酷い言葉を口にした自覚はあった。だから明日、頭を冷やしたその後でちゃんと本人に謝ろうと思う。


「……憂鬱だわ」


私が進藤さんの秘密を知ったのは本人からじゃなく他人の口からだった。本人からもその事については詳しくは聞いていない。それに、秘密を知ったところで進藤さんに対する私の態度が変わるわけでもなかったし、何よりそんなことはそれほど重要な事だとは思ってはいなかった。


人間であれ、吸血鬼であれ。

進藤さんが進藤さんであることに変わりはないし、今も昔もそこにいるのは進藤つなぐという私にとっては友達である普通の女の子だったから。

それに私は未だに疑っているのだ。あの進藤さんが本当に吸血鬼なのかどうか。あの進藤さんの何処に吸血鬼らしさがあると言うのか。


「空ちゃんっ」


瑛士の声。振り向く私の顔は自然険しくなる。


「何よ、浮気者」

「ぅえっ?!」


浮気者発言に瑛士が心底驚く。


「瑛士君は私に隠れて進藤さんといちゃラブしたかったわけだ」

「えっ!!違うよ空ちゃんっ、僕は」

「分かってるわよ」


分かってるけど腹が立つという事をそろそろ瑛士にも気付いて欲しいものだ。


「進藤さんの方はいいの?」

「……うん」


うん、と言っておきながら心配そうな顔。


「……私、前にも言ったと思うけど進藤さんを甘やかし過ぎるのは良くないと思うわよ」


彼女ももう大人。

何も考えなしの子供ではないのだから。

そう前に瑛士に言った時は苦笑されたっけ。


「うん……。だけど、進藤さんは少し特別だから」

「…………」


『特別』


ぎゅっ、と胸が締め付けられる様な気がした。瑛士の言う進藤さんは特別の『特別』は存在が『特別』なんだと言う意味で、瑛士にとっての『特別』と言う意味ではないのだろうけれど。


「……私、ちょっとトイレ」


それでもやっぱり、何故かその言葉を瑛士の口からは聞きたくないなと思ってしまった自分がいた。








「吸血鬼ってそんなに特別かしら」


トイレ内。鏡の前。

私は鏡に映る自分を見つめる。機嫌の悪そうな顔。瑛士の前で私はこんな顔をしていたのだろうか。ため息。


だけど、人間じゃないのってそんなに特別な事なのだろうか。普通の人とは少し違うってことが、そんなに重要な事なのだろうか。


「不毛で愚問ね」


私は小さく笑う。人の価値観は人それぞれで、何を特別に思うかも人それぞれ。特別の定義などそれこそ人の数だけ存在する。何を特別と呼ぶのか。誰を特別とするのか。

その中で、誰かの『特別』になれるかどうかは自分次第で、誰かを『特別』にするのも自分次第。


「特別、かぁ……」


やっぱり進藤さんにはメールで先に一言謝っておこうとそう思い、私は携帯を取り出した。進藤さんのアドレスでメールを作成する。暫くポチポチとボタンを押し、書いた謝罪内容が写し出されている携帯画面を見下ろしながら私は一人呟いた。


「特別って何だろう……」



一人、ぽつりとそう溢した。


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