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ばんぱいあヴァンパイア  作者: 葉月
詰合編 Diverse Am încercat
82/109

「そうだ、海に行こう」 vorbesc.夏イベ企画

三夜連続夏イベ企画。


第一夜「そうだ、海に行こう」

vorbesc.進藤


『高校三年、夏。海に来ました。暑いです。気温が暑いのは言わずもがな、他の熱さもまた堪らなく暑いです。助けて下さい。暑さに殺られそうです』



第二夜「そうだ、かき氷にしよう」

vorbesc.ナオト(三人称?)


『夏と言えば?リコがまたよく分からない事を言ってくる。またいつもの嘘だろう。だが、今日のリコは一味違うらしい。かき氷を食べよう』




第三夜「そうだ、花火を見よう」

vorbesc.進藤


『高校三年、夏。花火を見に行こう。珍しく小日向がそう言った。そして当日。瀬川に確信犯的に嵌められた私はあられもない姿に。殺す。そんな中、偶然にも私はあの男の子と出逢った。お願いだからそんな目で見ないで。玲衣君』




そんなわけで海です。


「海だー!!」


夏休み。

私と鎹と瀬川と小日向。四人は勉強の息抜きに海にやって来ていた。高校三年生である私達にとって、夏休みというものは最早無いに等しい。

進学就職進路に未来。勉強勉強また勉強の日々。そんな中、「そうだ、海に行こう」と言いだしたのは瀬川だった。


「鎹君、元気だね……」


勉強から解放されたからか、鎹のテンションは高い。

真上から照りつけて来る太陽、そして三十六度という真夏の化物に殺られまいと私は水着の上から羽織っているパーカーのフードを深く被る。少し暑さがマシになった気がしないでもないが体感温度はきっと変わらない。脅威の三十六度だ。


「暑い……」

「進藤はへばるの早くないか?」


先程から「暑い」の単語しか口にしない私に、鎹がそんな事を聞いて来る。が、この暑さでも普段とあまり変わらない状態の鎹の方がおかしいのだ。この暑さで何でそんな元気なのか。


「鎹君さぁ、焼けちゃうよ?」


同じく水着姿の鎹は私のように上に何かを羽織っているわけではない。荷物を置こうと今瀬川と小日向がパラソルを借りに行っているため、未だここには日陰すらない。何も遮ることなく紫外線を受ける鎹の体は帰る頃には真っ黒になっているのではないだろうかと思う。


「焼けるのが嫌だからパーカー着てんのか?水着もなんか服っぽいもんな」


私の水着は鎹が言うようにほぼほぼ服の様なものだ。ショートパンツに上はキャミソール状のものだから。対して鎹はそこいらにいる大半の男共と同じサーフパンツ。


「男っていいよね」


楽で。

皮肉気にそう言えば、鎹はきょとんとした顔で「進藤もさぁ、ああいうの着たらいいんじゃないか?」と海辺を指さす。そこには青と白のボーダー柄のビキニを着た二十代だろうお姉さん。美人でスタイルもいいそのお姉さんは友人らしき女性と二人並んで歩いていた。その友人らしき人もビキニだ。こちらは黒に、フリルが可愛らしく付いている。


「…………」

「進藤さぁ、見てて暑苦しいぞ。その格好」


きゃきゃうふふと海に遊びに来ている人達の楽しそうな声が聞こえてくる。暑いなりにもこの海を楽しみ、満喫しているのだろう明るい声だ。この近辺、そこまでまだ人は多く無い様なのだが多分これから徐々に増えて行くに違いない。じりじりと熱を伝えて来るあの太陽も、太陽に反射して下から燃え上がる様なこの砂浜も、きっとこれからその温度をさらに上げて行き、夏のギラギラが増すのだろう。


「暑い」

「そんな恰好してるから暑いんだろ?」


そんな鎹のぶしつけな言葉にも、脳みそが沸騰しそうなほどの暑さを感じていた私には何か言う気すらも起きず。自身の足下の黒く濃く写る影を見る。


「暑い……」


私の口からはもうこの一言しか出てこないみたいだった。














瀬川と小日向はパラソル以外にも浮き輪を借りて来たらしい。


「来なきゃ良かった」


パラソルで出来た日陰の下私は呟く。すると隣で日焼け止めを塗っている瀬川が「酷い言いざまね」と眉根を寄せる。


「誘った私にそれを言う?なんか私が悪いみたいじゃない」

「瀬川さんが悪いと思う」

「あなたね……」


鎹と小日向は二人ですでに海に入っている。浮き輪を使ってなんだか楽しそうに遊んでいるようだ。いやもう、ホント元気だ。


「いいじゃない。高校最後の夏よ。青春感じない?」

「暑さしか感じない」

「進藤さん、ホントそればっかりね……」


日焼け止めを塗り終わったらしい瀬川が立ち上がる。


「海に入れば暑さも和らぐわよ」


そう言って伸ばされた瀬川の手に私は掴まり立ち上がる。パラソルの日陰から出て二人で海の方へと歩き出す。来ていたパーカーは脱いで荷物の上に置いた。


「暑い」

「進藤さん、もうその言葉言うの禁止」


その言葉を聞いてる瀬川まで暑さが増すのだろう。ついに禁止用語にされてしまった。サクサクと砂を踏みしめて海に近付く。その方向には鎹と小日向。確かに涼しそうではある。


「なんかダブルデートっぽいわねぇ」

「ぽいじゃなくてさぁ……、瀬川さん、まさにそれを狙ってたんでしょう?」


私が来なければ良かったと思う要因は暑さだけじゃない。瀬川から誘われた時、よもや鎹がいるとは聞いていなかったからだ。

そんな瀬川に今日私が初めて口にした言葉は「はめられた」だ。


「楽しくなりそうね」


にっこり満面の笑みで笑う瀬川に私はため息しか出てこない。


「瀬川さんもさぁ、いい加減私の言ってる事を受け入れてくれないかな」


何度も何度も言っているが、瀬川が望むような鎹への恋愛感情など私には微塵もない。持ち合わせていない。なのに、この瀬川は事あるごとにその辺りを面白おかしく突いて来る。今日のこれもそうなのだろう。


「夏、海、水着、露出。夏のときめき。自ずと二人の仲は進展する」

「進展しないし」


進展だなんて、それを言うなら瀬川と小日向の二人だろう。

何故なら今日この日、小日向が頑張りさえすればもしかしたら二人はやっとこさ付き合えるのではないだろうかと私は思うのだから。今だ事実上両想いの二人であるにも関わらず「瑛士君から好きだって言われてないし」の瀬川の一言で二人は彼氏彼女ではない。


「瀬川さんにそっくりそのまま返すわ、その言葉」


『進展』


すると瀬川も実は満更でもないのか「あるかもしれない、とは少し思う」となんだか可愛い事を言った。ちょっと鼻を掻いて照れくさそうな所がいつもの瀬川らしくなくて可愛らしい。もの凄いギャップ効果だ。私は気付かれないように小さく笑った。


「おーいっ!」


鎹が私達に気付いて手を大きく振る。小日向も気付く。

私と瀬川は歩くスピードを上げて二人に近付いた。








四人でも遊んだが、おのおの一人でも海で泳いだりしていた。

昼も過ぎ、御飯も食べ終えた。

やはり昼を過ぎてから暑さが増した気がするのは気のせいだろうか。人が多くなってきた、というのも関係しているのかもしれない。

瀬川と小日向は二人でかき氷を買いに言った。鎹はというと、かき氷が来るまでの間ちょっと泳いでくる、といって海に入って行った。私はパラソルの下、そんな鎹を見送る。

やることも無いので離れて行く鎹をずっと見てたら、海に足を踏み入れた鎹に声をかける女性の姿。何やら鎹がおモテになっている様子。


「ああいうの、本当にあるんだねぇ」


私は感心する。

鎹がモテるのはもう私の見知っている事ではあるが、こんな公共の場で声をかけられる、なんて事は相当のおモテスキルがないと無理だと思うのだが。

そこまでのスキル持ちだったか、鎹よ。


どうすんのかな、とそのまま鎹の動向を見守っていたら何故か鎹がこちらを指さしている。そして、海に入らずこっちに戻って来た。鎹に声をかけていた女性は鎹にバイバイと手を振った後その場を後にする。


「泳いで来ないの?」


近付いて来た鎹に私は声をかける。鎹は何故か晴れやかそうな顔で「やっぱやめる」と言いだした。何だか不気味だ。


「進藤がさぁ、ナンパされたら大変だろ?」

「は?」


何をそんな晴れやかそうな顔で土地狂った事を言っているのだろうか。この男は。


「さっきさ、女の人に聞かれたんだよ。一人で来てるのか、って」

「さっきの……、ナンパでしょ?」


逆ナン、というのだっけか。


「そうそう。で、友達と来てるって言ったらさ、どの子って」


だから指差してたのか。

私は鎹がこちらを指さしてたのを思い出す。私はまた私をダシにしてナンパを断ってでもいるのかと思っていたのだが。


「彼女じゃないのって聞くから、彼女じゃないです友達ですって言ったんだよ。ここ学校じゃないし別に大丈夫かなって思ってさ」


学校では私達は彼氏彼女になっている。

だが、別に学校関係者でもない人ならそんな嘘吐かなくてもいいだろうと思っての事らしい。


「そしたらさ、彼女じゃないの?って不審げにまた聞かれてさ。いやいや、友達ですよ、って言ったんだよ」


にこにこと何故か楽しそうに語る鎹。

この数分の間で異常なまでのこのにこにこ感。感情の上がり様。やはりナンパされたのが嬉しかったのだろうか。女の子から声をかけられる事なんて今さらだろうに。


「で、この間やっと友達になれたばかりなんですよ、って言う話をちょっとしてたらさ、暫くしてあの人が、だったら傍にいてあげた方が良いんじゃない?って。女の子一人残して、ナンパされたら可哀想でしょ?って」

「…………」


鎹に声をかけた人はきっと勘違いしている。そんな気がした。だけどこの男はきっとその勘違いに気付いていない。


「あの、か」

「俺、その言葉聞いてああそうだよなって。進藤はナンパとかされるの嫌な人だろう?」

「…………」


にこにこと笑う鎹。この顔には見覚えがある。つい数ヵ月前までの、この顔をする男にどれだけ私が悩まされてきた事か。

「俺は友達だからそれぐらい分かる」と何故だか自慢げに鎹はそう口にした。うんうん、と大仰に首を縦に動かしている。


「だから『友達』として、俺が進藤の傍にいてボディーガードしてやろうと思ってな!!」

「…………」


『友達』。

そのワードには聞きおぼえがある。毎日嫌ってほど聞いていた。もうホント一生分ぐらいこの男から聞いていた名詞だ。


「可愛いお友達ね、だってさっ。進藤、俺達ちゃんとした友達に見える見たいだぞっ!そうだよな、ちゃんと見える人には見えるんだ。俺達が仲良しの友達に。見る人から見れば分かるんだ。俺達が友達だって事が」


友達友達。

友達だから。

友達だろ。

友達だよな。

友達だ。

俺達友達。


『友達』


「……鎹君のさぁ、その友達ブーム。終わったんじゃなかったっけ?」


鎹の友達ブーム。あの時の鎹と今の鎹、同じ匂いがした私は鎹に言う。そのブームは既に鎹の中で過ぎ去ったものだと思っていたのだが。


「進藤、俺もいい加減に怒るぞ」


だが鎹は私の言葉に苛立たしげにそう言い、眉間に皺で腰に手を当て睨み付けてくる。


「だけどまぁ、いいよ。本当は進藤も俺の事ちゃんと友達だって思ってくれてるもんなっ。進藤は言葉が足りなくてちょっとキツイだけで、本当は俺の事一番の友達だと思ってくれてるもんなっ!」

「…………」

「なっ!進藤」

「…………」


残念ながら、私の口からは何も言葉が出て来なかった。





「もしかして本当に進展したの?」


その後帰って来た瀬川にそんな事を言われた。鎹のテンションがおかしかったからだろう。にっこにっこだ。海についた時のテンションと似たり寄ったりになってしまった鎹のテンション状態。疲れを知らないのかそれともバカなのか。私は後者を押す。


「再熱した」


ブームの再来。鎹の鎹による鎹のための『友達ブーム』再熱。

私がそう告げると瀬川が首を傾げた。


「進藤進藤!一緒に泳ごうぜっ!」


パラソルの下、日陰で座る私に対し鎹はパラソルの外、手をこちらに伸ばして立っている。その顔は暑苦しい。むあむあする。このテンションの高さもまた暑苦しい。むなむなする。

暑い。もう暑い。くそ暑い。

駄目だ。無理だ。私には無理だ。


「いいよ、私は。ちょっと休憩しとくから」


鎹のこの『友達ブーム』は熱過ぎた。夏の暑さで既に参っていると言うのに何故さらにこの男からの熱い体感温度を感じなくてはいけないのか。

だが夏の暑さはめげなかった。

そんな事じゃへこたれないのだ。


「じゃあ俺も一緒に休憩しよう」

「…………」


汗が多量に吹き出てくる様な気がした。

うぜぇと、口に出してしまいたい。

瀬川もまたそんな鎹を暑苦しそうにし「私、瑛士君と一緒に泳いでくる」と言って先に立ち去っていた小日向を追いかける。そんな瀬川に鎹も一緒に連れて行ってくれないかなの意を込めて視線を送るが、しっしっと手を振られただけで終わった。薄情者め。


「鎹君、ボール」


そんな時ころころと何処からかビーチボールが転がって来た。鎹の足元に止まる。何処から転がって来たのかとボールの主を探せば、遠くから「すみませーんっ」と男性の声。

その男性はこっちまで取りに来る気はないらしく、その場に立ったまま手を大きく振っていた。


「取りに来ないのかよ」


鎹はボールを拾い投げ渡そうとするが、距離が距離だけに投げる軌道で誰か人に当たらないとも限らない。仕方なく鎹はボールを手に持ち持ち主である男性の所へ持って行く。

すると男性は鎹の肩を抱き、さも友達かの様に仲良さ気に話しかけて来ている様子。鎹が戸惑っているのが分かった。


「…………」


鎹は絡まれやすい体質なのかもしれない。

そんな事を思っていると、何故だか私まで誰かに声をかけられてしまった。


「あの、すいませんっ」


声をかけられたのに気付いて見てみると、そこには同じ年代ぐらいだろうと思われる青年の姿。


「何でしょうか……」


よもやナンパかと一瞬頭を過ったがどうやら違うらしい。その青年は困ったような焦ったような顔で「これぐらいの」と手を足のつけね辺りで止める。


「これぐらいの女の子、見ませんでしたか?五歳ぐらいの女の子で……えー、黒いワンピースの水着着てるんですけど」


迷子を捜しているらしい。

私が知りません、と首を横に振るとその青年は少しだけ落胆した様な表情でありがとうございました、と言ってその場を去ろうとした。そんな青年に私は声をかける。


「あのっ!」

「……?」

「私も探しましょうか?黒いワンピースの」

「あ、でも……迷惑じゃ……」

「いえ、むしろナイスタイミングでした」

「……は?」


ちょうどいいとそう思った。


そうして私はあのむさ苦しい『友達』という名の真夏の化け物から、迷子を探すと言う名目のもと逃げ出す事に成功した。鎹も未だ絡まれているようだったので、しめしめと私は黙ったままその場から立ち去った。


のだが、その数十分後。

すぐにその真夏の化け物に見つかってしまう私。一時の儚い涼しかった夢が終わる。暑うざい夏が帰ってくる。


「進藤っ!」

「……ちっ」

「なんで舌打ち?」


「探したぞー」という鎹の肩の上、肩車宜しくそこには黒いものの姿。黒いワンピース状の水着を着た小さな女の子が私をその鋭い目つきで見下ろしてくる。


「鎹君、その子……」

「ああ、迷子なんだと。さっき見かけてさぁ、迷子センターは何処だって聞くもんだから……。なぁ、ここに迷子センターなんてあったっけ?」


鎹が首を傾ければ黒いワンピースの女の子の体も同じだけ傾く。危ない。女の子はぎゅ、と手に力を入れた様だった。


「迷子センターがあるかどうかは知らないけど……」


迷子センターは知らない。が、その子の保護者なら多分私は知っていた。先程会ったあの青年が探していた黒いワンピースの女の子とはきっとこの子の事なのだろう。

じっ、と私を見るその子の瞳は妙に鋭い。睨んでいるのかと思われたが、多分元からの物なのだろう。黒いワンピースと相成ってまるであの黒い野鳥、カラスの様だった。


「行こう。探してたよ君の事」


そう女の子に言えば、女の子は仏頂面のまま「そうか」とだけ私に返してきた。泣いたり駄々を捏ねたりしていないのは偉い事だが、凄く表情の乏しい子だなと感じた。







先程の青年を鎹と一緒に探し見つけて、無事に迷子の子供を保護者のもとへと帰してあげる事が出来た。青年の側には迷子になった女の子の他に、同い年ぐらいだろう小さな子供が二人もいて賑やかだった。三人も小さな子がいて大変そうだ。

怒られている迷子だった女の子の顔に少しだけ柔かさが出る。やはり寂しかったのだろう。


「良かったなー」

「そうだね」


ありがとうございましたと言う青年と青年の連れ達に別れを告げ、私達は自分達の陣地であるパラソルに戻るため歩き出す。


「進藤を探してたら迷子の子供を見つけるなんてなー。まぁ、結果オーライだったわけだけどさっ」

「そうだね」


凄い偶然もあったものだ。

この群衆の中、まさか私が探していた迷子の子を鎹が見付けてしまうとは。凄い因果だ。


「あれだな。やっぱ俺達は『友達』だから引かれ合ったんだな。はぐれてもはぐれても最後の最後には側にいる。それが、真の友達ってやつなんだなっ!!」

「…………鎹君、ちょっと想像してみて貰いたいんだけど」


隣を歩く気狂いに私は言う。


「いいかな?」

「想像?」

「うん。……鎹君の前に女の子が現れました。その女の子は鎹君が好きです。でも鎹君はその女の子が好きではありません。なので、告白されてもごめんなさいと言って振ってしまいました」

「しょうがないよな。可哀想だけど」


隣を歩くこの気狂いは今までにどれだけの女の子をしょうがなく振ってきたのだろうか。しょうがなく無かったら全ての女の子達とお付き合いしてしまうのだろうか。

この男ならやりそうだが。


「でも、その女の子は振られたにも関わらず鎹君の側にいつもいます。断っても断ってもめげずに鎹君の近くにいて、さも恋人のように接してきます。毎日毎日……。どう思う?」

「……振った子にそんな事、今までされた事ないぞ?」

「だから想像だっつの」


たまに話通じないんだよな。この男。

私は少し苛立つ。


「周りをうろちょろされるの。どう思う?」


しばらく考えた後、鎹が疑問系で答えを口にする。


「…………そこまで俺の事好きなんだー?」

「よし分かった。例題を変えよう」


全く伝わらなかった。

私は鎹になんとか自力で自分がやっている気狂いに気付いて貰うため、頭の中でいい例題は無いものかとひたすら考える。

そんな私を隣でにこにこしながら鎹が見ていたのは、私の預かり知らぬ所である。





夏はまだまだ終わらないらしい。


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