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ばんぱいあヴァンパイア  作者: 葉月
詰合編 Diverse Am încercat
81/109

鎹君の欲求不満Returns vorbesc.鎹


何処にも行ってないけれど帰ってきました。『鎹君の欲求不満Returns』




『媚薬』という物を手にしました。


「…………」


違うんです。

違うんですよ。

別に手にしたくて手に入れた訳じゃなくてですね。大学の友達が「これ、やるぜっ」と言って俺に押し付けてきたものなんですよ。決して俺が欲しかった訳じゃなく俺が欲しがった訳でもなく、偶然手に入れたんだという事を皆さんの念頭に置いておいてこの話を聞いて頂きたいんですけれども。


「鎹君。これ、借りて行ってもいい?」


俺の家。俺の部屋。

進藤が本棚に置いてある一冊の本を手にする。語学の本。何に使うかは知らないが、進藤が貸して欲しいとの事。この用事で進藤は今日俺の家に来ているのだ。


「それだけでいいのか?」

「うん」


嬉しそうに笑う進藤。手にした一冊の本をパラパラと捲っている。俺の大学の教材なのだが、進藤も語学の勉強をするつもりなのだろうか。ちょっと考えられない。


「進藤、何か飲む?」

「んー、お構い無くー」


俺に視線をやることも無くそう言う進藤。とりあえず俺は部屋を後にしリビングキッチンへと向かった。冷蔵庫を開ければ紙パックのジュースが入っていたが、俺は麦茶を手にしグラスを二つ取り出し注ぐ。俺のポケットには例の『アレ』。小さなボトルに入ったソレ。


「…………」


やっぱりマズイかな、とも思う。

だけど進藤は一向に素直になってはくれない。だから、これで少しぐらいは素直になってくれるんじゃないかなって思うんだ。荒療治過ぎるけれど、進藤には丁度いいんじゃないかってさ。

俺は片方のグラスにソレを入れる。お茶と混ざり合うが量が量だけに色に変化は無かった。臭いも変わらない。


「バレたらさすがに嫌われるかな」


嫌いになるのだろうか。

だけど何故だろう。激怒する進藤は想像できるが俺の事を嫌いになる進藤は想像できなかった。怒られる事は想像できるが俺の事を心底嫌いになる進藤は想像できない。

進藤は多分それぐらい俺の事が好き。そう思うのは、やはり自意識過剰なのだろうか。


進藤はどれぐらい俺の事が好きなのだろう。





「はい」


机にグラスを置いておく。一つを進藤の方に、もう一つを俺の方に。俺は自分の方を一口だけ飲んで置き、未だ本棚の前に立っている進藤の方へと近づく。


「まだ何か借りるのか?」


進藤が唸る。


「いや、借りるのはあの一冊だけでいいんだけど……。鎹君さぁ、なんか硬い本ばっかだよね」


漫画とかないの?と聞く進藤に、俺は無いと答える。


「……今時漫画を一冊も持ってないだなんて人、いるんだね」

「持ってたけど売ったんだよ」


お金が必要になり漫画は全て売り払った。言っておくがアレのためのお金ではない。


「進藤は持ってるのか?」

「持ってるよー。今度貸してあげるよ」


そう言って俺に楽しそうに笑いかけた後、進藤は机に足を向けた。そして、俺が持ってきたお茶に手を伸ばす。


「あっ、進藤!」


俺は進藤を呼び止めてしまう。進藤が振り向く。


「何?」

「いや、あー……」


なんかやっぱり、やめた方がいいのかもしれない。そんな気がしてきた。

進藤が不思議そうに首を傾げる。


「何でも……、ない」

「何でもないなら何で呼び止めたのさ」


変な鎹君。

そう言ってくすりと笑う進藤。そんな進藤を見ていたら酷く胸がざわめいた。

俺、何バカなことやってんだろ。これじゃやってる事が名々賀と変わらないじゃないか。


こんなこと、やっぱりやめよう。

そう思った。


進藤はグラスを手にしたが口にはつけないで、そのまま持ち歩き始める。こうなると俺は進藤がソレを飲まないように注意して見ている事しか出来ない。どうにかして回収できないだろうか。


「進藤、それ」

「んー?」

「…………」


何て言えばいいんだ。

進藤がそんな俺を訝しむ。


「鎹君、なんかおかしくない?」

「…………う」


このままだと俺がお茶に何かしたのがバレそうで、進藤から視線を反らす。出来ればバレずに回収したい。

そんな折り、視線を戻せば進藤がグラスを傾けお茶を飲もうとしていた。ぎょっ、として慌てて伸ばした手でグラスに蓋をすれば、反動でパシャリとお茶が溢れた。進藤にかかる。


「うわっ、ごめ!」


溢れたのは少しだが、進藤にかかり進藤の服を濡らした。蓋をした俺の手も濡れに濡れたが今、それは問題じゃない。

濡れた所を進藤が見る。


「あらら。大丈夫だよ、このぐらい」

「た、タオル取ってくる」


部屋を出てタオルを探す。


「……はぁ」


何やってんだ、俺。






部屋に戻り進藤にタオルを渡して再度謝る。進藤はタオルで濡れた箇所を拭きながら笑う。俺はグラスに視線をやる。


「進藤、それ、飲んだ?」

「……?飲んでないけど?」


良かった。

俺のいない間に進藤が口を付けていたらどうしようかと思った。進藤が俺を見る。


「鎹君さぁ、ちょっと落ち着きなよ」


はい、と俺の飲み差しのお茶を差し出す進藤。なんかもう、散々だ。進藤が初めて俺の部屋に入ったというのに。それで浮かれていたのがいけなかったのか。


落ち着こうとお茶をぐいっ、と喉に流す。


「辛っ!!」

「…………」


俺は叫ぶ。

何だこれ。舌がビリビリする。喉がヒリヒリ痛い。俺は顔を歪め痛みを和らげようと口に空気を取り込もうとするが、ビリビリは治らない。


「……塩でも入れてたの?」


進藤がそんな俺を呆れ混じりに見ていた。まさか。


「おまっ、これ」

「うん」


こくりと頷く進藤。やられた。


「鎹君が飲むのを止めた方のお茶だよ」

「でも、俺の方にっ」


喋ると痛い。あんまり喋りたくなくてみな迄言わなかったら、俺の反応ににやにやし始めた進藤が俺に答える。


「入れ替えといたに決まってるでしょ」

「……っ!」

「鎹君さぁ、イタズラするなら最後まで貫き通しなよ」


途中でビビって止めようとするから、こう言う目に会うんだよ?と、にこりと笑う進藤。


「最悪……」


最悪だ。

進藤が飲むのもあれだが、俺が飲むのはもっとヤバくないか、これ。口の痛さに相成って体が火照ってくる。熱い。心臓の鼓動が早まってくる。息が荒くなる。本物だ。


荒い息遣いに進藤がさすがに心配になったのか、大丈夫かと問いかけてくるが大丈夫なんかじゃ全然ない。何だか喉が乾く。


「……進藤」

「何?」

「帰った方がいいかも……」


いや、置いて帰れるわけないでしょと進藤は普通のお茶の方を俺に差し出して来る。


「どんだけ塩入れたの」

「入れたの、塩じゃねーし……」


塩だったらどれだけ良かった事か。

きょとんとした顔でグラスを俺に差し出す進藤。そんな進藤に目をやり手を伸ばすが、進藤の手にあるグラスは通りすぎる。通り過ぎた先、俺は進藤の肩を押してそのまま体重をかけ押し倒す。


「っわ!」


どさっ、と背中から倒れ込む進藤と一緒に俺も倒れる。進藤の持っていたグラスが床に転がり溢れ流れて染みを作る。


「いたっ、たたた……」


頭を擦る進藤の両の手首を掴みあげ、進藤の顔の横、床に縫い付ける様に固定する。


「…っ…痛っ!」


手に力を入れすぎたみたいで進藤が顔を歪ませる。のし掛かっているから俺の体重の重みのせいもあるのかもしれない。


「ちょっ、鎹君!」


怒ったように名前を呼び、両手首を掴まれ固定されたままの進藤が俺を下から睨み上げてくる。


「言っておくけど、仕掛けてきたの鎹君が先だからね!」


何で私が怒られるのか、と俺の理不尽な対応に苛立つ進藤。だけど、俺は怒っているわけではない。

進藤の手首から手を移動させ、進藤の手に手を絡ませる。


「……!かっ…」


頭が朦朧としてくる。自分が今何をしているのかもよく分からない。だけど、下にいるのが進藤なのは分かっていた。

ドクドクと心臓の音が煩くて、体が熱くて、胸が苦しくて息苦しくて。だけど下にいるのは進藤なのだ。すぐ下にいるのは進藤なのだ。


「進藤……」

「ちょっ、か、鎹君っ?」


目が虚ろな俺に何だかヤバイと思った進藤が、絡ませ固定されている俺の手を何とかして外そうとする。が、剥がれないらしい。


「鎹君っ!ちょ、ちょっと待って!ちょっと落ち着こう!!一旦落ち着こうっ!!」

「……やだ」


落ち着けと進藤が言う。でも嫌なので嫌だと言った。ぐらぐらしてくる。何だかよく分からなくなってくる。だけど俺、落ち着いてない?結構落ち着いてないか?そう思う。凄いな。媚薬飲んだのに、俺、落ち着けている。凄い。俺、凄い。


「へへ……」

「……?」

「へへへへへ」


何だか楽しくなってきた。

俺は笑う。進藤の顔が不気味気に引きつる。


「しんどーぅ」

「か、かすがい、君?」


へらっと笑う。何だか楽しい。下に進藤がいる。すぐそこに進藤がいる。手を見る。俺の手が進藤の手を握っている。絡めている。カップル繋ぎ。嬉しい。にぎにぎする。進藤の手。


「へへへへへ」

「…………」


進藤は動かない。俺を見る。俺を見てくれている。嬉しい。楽しい。体がポカポカする。何だか今なら何でも出来そうだ。そんな気がする。

俺は進藤の手から手首へとまた手を移動させて、今度はぐいっ、と上に引っ張る。


「……ぅわっ!」


進藤の頭上で一纏めにしたソレを片手で掴む。ちょっと乱暴だろうか。


「ちょ、鎹君っ!」

「なにー?」

「いや、何じゃなくてさっ。いい加減落ち着いてよっ!ちょ、手ぇ離してっ!!」


また進藤は落ち着けと言う。

俺、落ち着いてるのに。

落ち着いてるって言ってるのに。

こんなに心穏やかなのに。


「おれ、落ち着いてる」

「いや、落ち着いてないでしょ!落ち着いてるように全然見えないからっ!これで落ち着いてるとかって、どうかしてるからっ!!」


片手で掴み上げている進藤の手が俺から逃げようともがく。それが何故だか急に悲しくなってきた。悲しくて悲しくて、何か込み上げてくるものがある。目の前が霞む。目頭が熱くなってくる。


「……うぅ」

「え、ちょ」


俺の瞳から涙が溢れてくる。悲しくて悲しくて仕方がなかった。溢れた涙がぼろぼろと零れて落ちる。


「か、かすが」

「おれ、落ち着いてるって、言ってるのに……」


進藤は俺の言うことを信じてくれない。泣きたくなってくる。俺はこんなにも落ち着いているというのに。媚薬なんてものを飲んだのに、俺はまだ進藤に手を出してもいないのだから。だから、こんなにも落ち着き払っているのが揚々分かると言うのに。


「……う、ひっく……うぅ」

「……鎹君」


「君、まさかお茶に入れたのは塩じゃなくてお酒なの?」との進藤の飽きれ混じりの言葉を俺は聞いてはいなかった。進藤に馬乗りの状態で、進藤の両腕を片手でしっかりと掴み上げたまま泣く。悲しかったから。とりあえず悲しかったから。


そうして俺は数分間そのままの状態だったらしい。進藤は諦めたのか、俺が落ち着くのを静かに待っていたようだった。


「ねぇ、鎹君」


落ち着いてきたのを見計らって進藤が俺に話しかけてくる。


「腕がそろそろ痺れてくるんだけど」

「……うん」

「いや」


「うん、じゃなくてさ」と進藤はため息を吐いた。何だかぼんやりする。何で進藤は俺の下にいるんだっけ。何で俺、進藤の手を拘束してるんだっけ。何でこんなに。


「……暑い」


なんか暑い。身体中がポカポカする。頭もぼんやりする。思考が回らない。回らないけど、とりあえず暑い。俺は進藤を掴んでいた手を離し上半身を起こす。進藤がほっ、と息をついたのが分かった。


「進藤、暑い……」


そう言ったら俺の下で進藤は、少し痺れたらしい腕をゆっくりと動かしながら、ため息混じりに「知らないよ」とだけ呟いた。冷たい。

俺は仕方がなく来ていたシャツを脱ぎ始める。暑いから。暑い。涼しくなりたい。これが一番手っ取り早い。

進藤がそんな俺の行動にぎょっとし、慌てて体を動かし俺の下から脱出する。そして、俺に背を向け逃げ出そうとした所で俺の腕に捕まる。俺に背中を向ける進藤の腰を膝をついた半立ち状態で俺は片腕を回して捕まえ、ぐいっと自分の方へと引き寄せた。


「……っ、わっ!?」


俺に腰を捕まれ引っ張られた事により、どさっ、と背中から進藤が座る俺に倒れこんだ。逃げられないようにもう片方の腕も進藤の腰にぐるりと回す。ぎゅっ、と力を入れて逃げられないように後ろから抱き込み捕まえる。


「ちょっ!」


進藤が腰に回る俺の腕を外そうとするが、途中でビクッと揺れて動きが止まる。

俺の腕は素肌剥き出しで、多分密着してるから腕だけじゃなく上半身全てが素肌剥き出しなのだと気付いたのだろう。俺は進藤を捕まえる前に、上半身の服は脱ぎ捨て済みだったから。


「――――っ――!!」


突如暴れだした進藤。ジタバタもがき必死に俺の腕から逃げようともがく。

俺はそんな進藤の腰に回す腕に力を込めて進藤を抑えつける。進藤の動きが制限されるが、なおも諦めない進藤は暴れ続けた。

ぎゅうっ、とすれば進藤が近くて。もっとぎゅうっ、とすれば素肌の胸板に進藤を感じる。

何だか凄く気持ちいい。ずっとずっと、このままでいたい。


「ぅ、…っ…!、やっ……っだ!鎹くんっ!!」


必死でもがき続ける進藤。


「おねがっ、離してっ!!」

「やだ」


いやだ。

だって気持ちいいから。


素肌に進藤を感じる。それがこれだけ気持ち良いことだったとは。このままで一生いたい。これがいい。この状態が一番好き。もっと早く服など脱ぎ捨ててしまっていれば良かった。後悔。


「……っ!か、かすがい君!!」

「なに?」

「なんか熱いっ……!離れてよ!!」


俺の体はまだポカポカ状態。服を脱いだけど、まだくらくらする感じは修まらない。そんな俺の熱が背中から直に伝わってくるらしい。進藤が暑いと言う。


「鎹くんもさっき暑いって言ってたじゃないっ。離れた方が涼しいって!!だから離してっ!!」

「……やだ」


離れた方が涼しい。確かにその通りかもしれないけれど、素肌に進藤の気持ち良さを知った今、暑さなどこの気持ち良さの前では到底敵ではない。


「おれはずっとこのままがいい」

「……っ!!」


気持ち良い。

夢心地だ。ふわふわする。


「しんどーぉっ」

「……っう!!」


むぎゅうっ、とさらに密着させれば進藤が変な声で呻いた。進藤は暑いのだろう。ならそうだ。進藤も俺のように服を脱げばいい。そしたら暑さはまだマシになるだろう。


「しんどーも服、脱ぐ?そしたら涼しくなる」

「なっ!!」


手伝おうと思って進藤の服に手を掛ければ、進藤がガシリと俺の手首を掴む。


「いっ、いい!いい、いい、いいっ!!服、脱がないっ!!」

「でも脱いだ方が涼しい……」

「大丈夫っ!!私、そんなに暑くないからっ!!このままでだいじょーぶだからぁっ!!」


そんなに暑くないらしい。なら、大丈夫か。


「ふふふ」

「…………」


何だかまた嬉しくなってくる。進藤は抵抗をやめ、力を抜いたらしい。俺に寄りかかり進藤の体重がかかる。逃げ出そうとする事が無謀だと考えたらしい。


「散々だ」と進藤が小さく呟く。

ぐりぐりと頭を擦り寄せれば、進藤のシャンプーだろう匂いがした。時々香る進藤の匂い。これ、好き。幸せ。至福。鼻歌とか歌いたくなるほどに俺はご機嫌だった。反対に進藤の顔は険しいが、俺は気付かない。


「進藤はおれのものーっ」

「え゛」


飽きもせずぐりぐりと頭を寄せ付けてくる俺に、進藤がため息らしきものを吐いたのが背中越しに伝わってきた。


「鎹君さぁ、まだ酔い覚めないの?」

「おれ、酔ってないし」


「はいはい」と進藤。また俺の言うことを信じてくれていない様子。むっ、とする。


「進藤は何で信じてくれないんだ?」

「信じてって……。だって鎹君、明らかに酔っ払ってるじゃん。お酒混ぜたんでしょ?私のお茶にさぁ」


「しかもあんだけの量でこれだけ酔っ払うって。どんだけ強い酒混ぜたの?」と進藤。だけど、俺が混ぜたのはお酒ではない。


「言っとくけど、私、結構強いからね」

「…………混ぜたの、酒じゃない」


お酒じゃない。

俺が混ぜたのは素直になれる薬だから。素直じゃない進藤に素直になって欲しくて混ぜたものだから。だけど結局、口にしたのは俺自身。じゃあ今のこの俺が、俺自身の『素直』なのだろうか。


「……ねぇ鎹君。水飲みに行かない?喉渇いてるでしょ?」

「……うん」


喉は渇いている。進藤が安心したかのように息を吐く。


「じゃあ離して」

「…………」

「おい」


離さない俺に突っ込みを入れる進藤。


「……やだ」

「いや、やだじゃなくて」

「やだぁーっ」

「…………」


駄々っ子か、と進藤。


だって俺はこのままがいい。何度も言うが、この状態が一番好きだし、一番気持ちいいから。だけど、進藤はそうじゃないらしい。事あるごとに逃げ出そうと考える。むっ、とする。進藤も俺と同じがいい。


ぎゅっと抱き締める後ろから見えるのは進藤の首筋。あまり露出をしない進藤の、肌の見えるそこに唇をそっと寄せる。軽く触れれば進藤が大袈裟なぐらい揺れて、舌でざらりと舐め上げれば大袈裟なぐらい進藤が肩を上げた。


「っ……!か、鎹くんっ?」


進藤が首を竦め手で遮ってくる。むっ、とする。片腕は進藤の腰を掴んだままにして、もう片方の手で進藤の首もと、服を引っ張る。少し汗ばんだ肌がそこから露になる。


「うっ…あ…ちょ、……っ!」


また唇を寄せればビクリと進藤。進藤の手が俺に伸びてくる。止めたいのだろう。俺は腰を掴んだままの方の手を動かす。服の間から手を差し込み進藤のお腹辺りの柔肌を触る。


「ぅわっ!」


少し汗ばんではいるがさらさらな肌。

だけど、俺の手に吸い付いてくるような感触もあってとても気持ちいい。俺は手を動かす。骨がある。指で骨の形をなぞる。


「……っ、すと、っか!!」


進藤の耳元、ふっと息を吹きかければ進藤が声をあげる。そして首元。歯を立てれば進藤の肌に赤い痕。それが面白くて嬉しくて、俺は進藤の肌に歯を立てまくる。赤い痕が増えていく。


「……っ……!」


腰に回る俺の腕をぎゅっ、と掴んだまま堪え続ける進藤の耳元。その熱くなった耳をぺろりと舐めあげ耳朶を甘咬みし舌を差し込む。


「――っ!ふぎゃゃぁぁっ!!」


変な奇声を上げながら両耳を隠した進藤が前のめる。だけど、俺が腰を掴んだままなのでどうにもこうにも逃げられはしない。


「…っ……うー、うーーっ……」


ついに進藤が変な唸り声をあげ始めた。壊れたのかもしれない。


そしてそれからしばらく。

「もういい」と進藤がポツリと溢した。


腰を掴まれた状態のままで進藤がこちらを振り向き俺を見る。進藤の、通常では自分達と同じ黒い瞳が鮮やかな深紅に染まっていく。血のように赤く、宝石のルビーのように赤い瞳が電光に反射して一瞬妖しく輝く。


その赤は吸血鬼の赤。

進藤の赤い瞳は吸血鬼の瞳。

人を服従させて眠りに落とす、唯一無二の血を吸う鬼の瞳の色。その瞳が俺の瞳と絡みあい逃さない。目が離せない。


「鎹君……」


ぐいっと進藤が俺の両肩を掴み押し倒す。倒れた俺の上に進藤。


「起きたら覚えてろよ」


捨て台詞のようにそう吐き出した涙目の進藤を視界に入れつつ、俺はゆっくりと目を閉じた。











――――――――――――


僕の目の前には真剣な表情をした鎹君の姿。「小日向」と、口を開く鎹君を僕は見る。


「この路線で責めようかなって思うんだけど、どう思う?」

「……媚薬なんてあるかわからない様なものに手を出すんですか?」


鎹君が首をゆっくりと横にふる。


「かなり強い酒なら、俺、少量でもこれだけへべれけになれる自信がある」

「……………」



鎹君がついに爆発しそうです。




鎹君がカラオケ行ったら歌う唄100選より


鎹双弥『●●イエスタディ』ふゅーちゃりんぐ作者



鎹「♪『そそぐ太陽あびて楽しげに、はしゃぐ人の顔を、にーらーみなーがらに横ぎっていくー、徹夜明けの朝で』♪」


作者「何で徹夜明けかと言いますと、色々悶々としたり色々考えたりしているからであります」


鎹「♪『腹が立って憮然な私の目を避けた人の先に』♪」


作者「(鎹)色々考えてたら、なんっか苛々してきたぞ。何で俺がここまで何で俺がここまで何で俺がここまで……」


鎹「♪『おはよーって言って、伸びをすーる、寝癖たってるアイツが立ってたー』♪」


作者「(進藤)おはよー。(鎹)また店に泊まったのか?(進藤)帰るのがめんどくさくてねー(鎹)…………はぁ(ため息)」



――長いので割愛しました。




鎹「♪『この感情もう分かっんないよ、ばーくはつしそうだぁっ!』♪」


作者「いや、分かるだろ。明らかに欲求不満だろ」


鎹「♪『たらたったったら太陽が沈む前にー、何とか、伝えたいからぁ』♪」


作者「(鎹)寧ろ伝えて欲しい!」


鎹「♪『どうにか、してよっ、……かみさまぁーーっ!!』♪」


作者「…………ねぇ?」←神様


鎹「♪『……ららららー、ららららーら……ららららー、ららららーら……ふんふんふんふーん……、ふんふんふんふーんふん……』♪」

↑(哀愁)


作者「……………」





進藤さん、早く伝えてあげて下さい。



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