自惚れかすがい君2
そんなこんなで日曜日。
俺的『デート』当日。
「名々賀さんのクリスマスプレゼントのお返しを鎹君に選んで欲しくてねー」
進藤談。
まあね。まあね。まあね。
分かってたけど。分かってたけどさぁ。だからってその理由はどうなんだよと俺は思うんだ。何でよりによって名々賀。名々賀。名々賀。名々賀。俺は爪の跡が残りそうなぐらい、ぎゅと拳を握りしめる。
しかもクリスマスプレゼントのお返しだと?
「俺、お返しとか貰ってないけど?」
クリスマスプレゼントとか。進藤から貰ってない。しかも何だよ、そのイベントで受かれる男女の腹立たしいリア充感漂う単語は。しかも名々賀。よりによって名々賀。よりによってあの男。
進藤はきょとん、とした感じで俺を見て口を開く。
「私も鎹君からは貰ってないけど?」
「…………」
そう言えばそうだ。
クリスマスの日は進藤が仕事になって。それで結局プレゼントすら渡さなかったんだっけか。あの日の俺、かなりやけくそになっていたからなぁ。
今から渡せば俺にも何かしらの進藤からの還元があるのだろうか、とかふと思ってしまったが今更過ぎてあり得なかった。今、もう春だし。
「でもホント良かったよ。名々賀さん、お返しお返し未だに煩くてさ。しかも私が最初にあげたお返しに不満だったのか、『あれは無いよね』とか言ってくるし」
「何やったんだ?」
つか、既に一度渡し済みなのかよ。二回も貰おうとかあの男、調子に乗るのもいい加減にしろよと今すぐにでも言いに行きたかった。あの男は俺の知らない所で進藤にちょっかいばかりかけやがる。また店の出禁とか喰らえばいいのに、とか心底思う。
何だかんだ俺に色々助言じみた事を言ってくるが、あの男が進藤を狙っているのに変わりはないのだ。
「お菓子の詰め合わせ」
「……いんじゃねーの。別に」
それで満足させろ。
進藤からのお返しは、まぁ、俺でも『これはない』と言いそうな物だった。お菓子の詰め合わせって。ガキじゃないんだから。
俺でもお返しの変更を訴えるだろう。
「私も律儀にお返しとかあげたんだから、それで満足しろよ、って思うんだけど。ホントもうあの人しつこいんだよね。十二月の事なのに未だに何かあるとその事ばっか言ってくるし。いい加減黙らせたいから」
「ふーん」
なんかちょっと羨ましい、とかそんな事を思ってしまう。何故だろう。
「で、何を買う気なんだ?」
実は今俺達がいる所は、最近出来たばかりの大型百貨店だったりする。百貨店なら何でもそれなりに揃っているだろうし、プレゼントなどを選ぶなら最適だろう。
「そこはさ、鎹君が考えるんだよ」
にこりと笑顔を向ける進藤は全てを俺に押し付ける気満々だった。
―――――――――――
「だって鎹君、名々賀さんと最近仲良いし。名々賀さんが欲しがってそうなものとか、好きなものとかさ、分かるかなぁって」
そのための俺だったわけで。
そのための『鎹君がいれば良いし』だったわけで。
「…………」
虚しい。
何で俺が恋敵のプレゼントとか選らばにゃならんのか。なんかもうデートとか。何バカなこと言ってんだ?って感じだ。
この状況って、もはや女友達が「彼氏にプレゼント買いたいんだけど何買ったらいいか分からないから一緒に選んでくれないかな?」と言われる男友達の図、ではなかろうか。
ヤバイ。まさにそれ過ぎる。
「ねぇ鎹君。何がいいかなぁ」
「さー」
俺の適当な返事に進藤が眉間に皺を寄せながら「何か聞いてないの?」と問いかけてくる。
「これが今欲しいとかさ。趣味で集めてるものとか。ホントしつこいんだよ名々賀さん。満足するもの突き付けて二度と四の五の言われないようにしたいんだから」
「ふーん」
欲しいものねぇ。
「進藤からの愛が欲しいって言ってたけど」
皮肉まじりに俺がそんな事を言えば、進藤は立ち止まり物凄い形相で俺を睨み付けてきた。俺はたじろぐ。
「それは私も言われた。全くもって参考にならないし、鎹君に言われるとなんかバカにされてる感じがして腹立つんだけど」
バカにしてるつもりは無いが、言い訳しようにも進藤の言葉は止まらない。
「誰かに何かをプレゼントするのって、私苦手なんだよ。欲しいもの言ってくれればそれを買うのにさ、名々賀さんふざけた事ばっか言うし。今の鎹君みたいにね」
「……わ、悪い」
冷ややかな空気が進藤から伝わってくる。俺は素直に謝っておいた。
多分かなりしつこく名々賀からそればかり言われでもしたのだろう。進藤のその辺りに対しての沸点は低いようだ。
エスカレーターに乗り上へと向かう。目的地があるわけでもなく百貨店内をうろうろする。だが、これといって決め手となる品は見つからない。色々見て回るが、色々あるだけにかなり選びづらくなってしまった。
「やっぱり食べ物じゃ駄目かなぁ」
「果物の盛り合わせとかさ。良くない?」と進藤は言うが、名々賀はいつ仕事で海外に飛んでいくか分からない。生物はさすがに避けた方がいい。
それに、お菓子の詰め合わせよりはまだマシだが、多分名々賀は果物でも納得しないのではなかろうかと俺は思った。
「じゃあ缶詰め」
「クリスマスプレゼントのお返しが缶詰めって。お菓子詰め合わせより酷くないか?」
「そう?」と進藤。
「私は物より食べ物の方が嬉しいんだけど」
「花より団子」
「人から貰うなら、って意味でだからね」
別に食い意地張っている、という訳ではないらしい。そういえば、花見にも結局進藤と行く事はなかった。今年の桜もすぐに散ってしまったし。来年は行けたらいいなと思う。
何だか春の季節期間が、年々短くなって来ていると感じるのは気のせいだろうか。
「そういえば、名々賀からのクリスマスプレゼントで貰ったものって何だったんだ?」
そういえばと、それを聞いていなかった事を思い出し聞いてみる。やはり食べ物なのだろうか。進藤は手近のワゴンに並べられている紳士用ハンカチを触りつつ口を開く。
「スノードウム?って言うのかな。置物だよ。こんな小さい」
これぐらい、と手で大きさを示す進藤。片手で握れるぐらいの大きさらしい。
「まぁ、雪じゃなくて中身は海だったけど」
「海?」
「魚とか珊瑚とかが中に入ってた。勿論本物じゃないけど。あ、でも珊瑚は本物なのかなぁ」
考える進藤。答えは出なかったようだ。
「だから雪景色じゃなくて海景色になってんの。店に飾ってあるからさ、今度鎹君も見てみるといいよ」
スノードウムならぬシードウム、ってか。
洒落たものプレゼントするよなぁ、と少し感心してしまう。下手に進藤にアクセサリーとか渡そうものなら、進藤は多分突き返しているだろうから。その手の置物とかなら突き返したりなどはさすがにしないだろうし。大きさも、小さいから邪魔にならない程度だし。
しかも形となって残るものだから、見るたびに進藤は名々賀の事を思い出す。
「…………」
「名々賀さん、風景写真撮らないとか言っておいて、意外とああいうの好きだよね。やっぱり職業柄かな」
「そーだなー」
話し半分で俺は返事をする。
進藤がアクセサリーや貴金属の類いを付けているのを見たことはない、と思う。前から薄々は感じていたが、あんまり興味も無いのだろう。その手の店は完全スルーで通りすぎるし。
服装もしかり。
今日の進藤の格好も、良く言えばシンプル。悪く言えば飾り気がない、と評される類いのものだ。お洒落にすら進藤は興味無いのかもしれない。進藤に『お洒落』と言う単語も似合わないけれど。
「スカートすら着ないしなぁ」
「……何の話?」
進藤がスカートを着てるのも見たことがない。高校の時も、そして大人になった今も。高校の制服はスカートだったわけだけど。
「進藤ってスカート着ないよな」
「着ないけど……。え、何?名々賀さんスカート着る趣味があったの?」
「女装趣味?」と言う進藤にきちんと訂正し、何故スカートを着ないのかを聞いてみた。すると、昔からあんまり着なかったし動きにくいからとの返答。スカート着ない女の子の大概の理由はこれなのだろう。あとは、自分で似合わないと思っているから、などの理由か。
「着ればいいのに」
「…………」
進藤の眉間に皺。何故だろう。
「そんな事より名々賀さんだってば。ねぇ、何かない?名々賀さんが四の五の言わなさそうなやつ」
「んー……」
あいつが文句言わなさそうなやつと言われても。名々賀との会話は大半が進藤関係の話であって。あとは、くだらない馬鹿げた話ばかりで、趣味とかも特に知らない。好きなものも、聞いた所で「進藤ちゃん」と答えるのだろう事が名々賀の事だから予想されるわけで。
「あ、なら靴とかどうだ?」
「靴?」
名々賀は写真家。いい被写体を探してそこら中歩き回るのだろう。だから靴がすぐにすり減る、と前に聞いたことが確かあった。
「でも、サイズ分かんないんだけど」
「俺が知ってる」
その話の時に、足の大きさやサイズの話にもなった。俺とそう対して変わらなかったから、俺が履いて試して合えば、名々賀にも合うことだろう。
「靴ねぇ……。まぁ、鎹君が言うなら大丈夫かな。じゃあ靴にしよう」
そう言って、進藤は靴売り場が何階か調べるためにエスカレーター近くの案内表記へと足を向けた。歩いて行く進藤に、俺も後を続こうと足を踏み出した所で人にぶつかってしまう。高校生ぐらいだと思われる年代の女の子。よほど慌てていたのか、あたふたとした動きでぶつかった俺に頭を下げる。
「す、すみませんっ」
「あ、大丈夫大丈夫」
大丈夫大丈夫と手を振る俺に、女の子はすいませんでしたともう一度謝り、俺の横を通りすぎて行く。可愛らしいフリルが付いたロングスカートをひるがえしながら女の子が走って行った先。そこには高校生ぐらいの男の子がいた。見るからに不機嫌そうな顔のその子は、女の子に何か一言二言言った後、女の子の手を取り強引に歩いていく。その強引さにつんのめりながらも女の子は男の子と手を繋いだ状態で歩いて行く。嫌がっている素振りはない。むしろ、ちょっと嬉しそうだった。
「……いいなぁ」
「何が?」
いつの間にか俺のすぐ後ろにいた進藤が、俺の視線の先、あの高校生二人組に視線を向けながら俺にそう聞いてきた。俺の小さな呟きが聞こえたらしい。
「んー、別に」
あの付き合ってる感じ。羨ましい。だけど、進藤にはさすがにそんな事言えなかった。いやでも、ここは逆に言うべきなのか?恋人っぽい事したい、と。
でもはたして俺達は恋人同志なのだろうか。進藤といると、恋人と言う概念がよく分からなくなってくる。付き合うとは何だろう。好きあっているとはどういう状態なのだろう。
進藤といると、たまに分からなくなる。
今まで付き合ってきたどの女の子達とも違うから。
どうすればいいのか、分からなくなる。
いつの間にか進藤がいなかった。
あれ、と思い辺りを見回すと案内表記板の所に進藤の姿。いつあそこに戻ったのか。
また、案内表記板へとじっと視線を向けている進藤に俺が近付くと、進藤は「四階みたいだよ」と言った。紳士靴売り場の事だろう。
「この上だね」
そう指で上を差しすぐ近くのエスカレーターに乗り込む進藤に俺も続く。後ろから進藤を見る。
進藤はよく分からない。名々賀は進藤の事をとても分かりやすいと言うが、俺には分かりにくくてしょうがない。何をしたら喜ぶのかも。何をしたら悲しむのかも。
そんな事を考えていたら、進藤が俺の事を好きなのかどうかさえ不安になってきた。
今更ながらに俺の勘違いだったらどうしよう。
目の前に進藤。
さっきぶつかった女の子を思い出す。手を引かれ嬉しそうだった女の子。繋がれた手と手は確かな恋人の証。
「………………」
す、と手を伸ばす。進藤の手を掴もうとする。
が。
すかっ、と俺の手は空を切る。
エスカレーターが終わり、進藤が平地を歩き出してしまったから。
「…………」
なんかさぁ、
なんっか。
「何なんだっ!!」
叫んだ俺は進藤の視線に気付かない。




