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ばんぱいあヴァンパイア  作者: 葉月
詰合編 Diverse Am încercat
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二人の話を託すは願い vorbesc.山崎

その子はいつもいつも嘘つきで。

本当の気持ちを『嘘』で隠して笑う。

笑ってしまう。


光を無くした彼女はこの世界を見ることを放棄し、自らを隠し、自らを閉じ込め、『嘘』という仮面の下から自分の創造した『自分』だけの世界を見ていた。


だから私は嬉しかった。

そんなあの子が嘘を吐く相手が、私以外にもこうして存在してくれている現実が。今が。

それがどれだけ悲しくて寂しくてちっぽけで儚くて、束の間のうつろな、空しく一時的な、そんな繋がりだったのだとしても。


確かに今はこうやって。

繋がっているんだと感じられる。

それがどれだけ尊くて幸せな事だったのか。


『また来る』


貴方の言葉を伝えられなかった私には語る資格はないのかもしれない。だけど。それでも。


もう一度。



もう一度会う事を、

神様が赦して下さるのならば。









「ナオト君、まだかなぁ」


白い病室の白いベッド。

白いワンピースに身を包んだこの病室の住人、リコが綺麗に整えられたベッドの上に腰掛け、足を左右交互にブラブラと揺らす。膝丈のそれから伸びる素足は細い。靴下も履いていない今のリコのその出で立ちはまさに『夏』そのもの。


外に出れば自然と汗が噴き出すほどの熱い日差しが燦々と照り入る病室には、開け放たれた窓から気持ち良さそうな風が通り抜けていく。そんな午後。

彼女が待ち焦がれている相手は今だ現れない。


「リコちゃん。靴下くらい履きなさい」


洗濯から戻ってきたリコの服を畳んで引き出しに直しつつ、ベッドの上のリコに私は言う。

夏、とは言っても病院の中は冷房が利いていて比較的涼しい。この部屋の窓は今開け放たれているため夏の気温が入ってきてはいるが、病室の床は冷たいだろう。そのままの状態で彼女が病院内歩きまわるとは考えられないが、いかんせん彼女の事だ。やらないとも限らない。


「冷えちゃうわよ」

「知らないの?座木崎さん」


私の名前は山崎です。

と、何度訂正しても彼女が私の名前をちゃんと呼ぶ事は無い。


「靴下って言うのは靴の下に履くものなのよ」


にやりと笑い、いつものどや顔での彼女の嘘。

無茶苦茶言う彼女の嘘にはもう慣れっこだが、確かに靴下なのに靴の下に履かないのは何故だろうかとか、少し疑問に思ってしまった。もしかしたら昔々には靴の下に履いていたのだろうか。ちょっと調べておこうかと思う。


「ナオト君遅いぃぃ」


ベッドに仰向けに倒れ、右に左にとごろごろ転がるリコ。

リコの来ている白いワンピースが乱れ、長くさらさらな黒髪も同様に乱れて行く。私はため息を吐く。


「もう……、リコちゃん。ナオトさんにそんなはしたない姿見られても良いの?」


それにリコは遅い遅いと言うが、ナオトが何時に来ると言う事をリコは聞いているわけではないのだ。そして、あの人がいつも決まった時間に来るわけでもない。最近はほぼ毎日のように来ているが、それすらも約束をしたわけではないのだろう。


もしかしたら今日は来ないかもしれない。

もしかしたら明日も来ないかもしれない。


ナオトが何者なのか私は知らない。きっとリコもその辺り詳しくは知らないのだろう。

一度だけナオト本人に聞いてみた事があるけれど、その時は無言を貫き通された。リコとナオトが話しているのを見ていて分かった事。ナオトは言えない事や言いたくない事、言葉にしにくい事などは全て無言で返してくる。

冗談も言わない。嘘も言わない。その口から出て来る言葉は全てが真実。全てがナオトの本心。


ナオトが何者なのか、私は知らない。

それでも悪い人ではないのだと、それだけは明確に確信している事だから。


「崎田さんもまだまだねぇ。ナオト君はね、ありのままのお前を愛してる、って言ってくれたのよ」

「はいはい」

「信じてないわね、崎田さん」


むっ、としたような口ぶりで寝転がっていたベッドから体を起こし私に突っかかって来るリコ。


「崎田さんは私の言ってる事を少しは信じた方が身のためよ」

「あら、どうして?」

「このまま私の言葉を信じ続けない様な日々を送り続けていたら崎田さんには一生彼氏がでひぃひゃいひゃ」


私はリコの両頬っぺをぐいーっと横に引っ張ってやる。


「私の名前は山崎よ」

「ひょへんひゃはい、ひゃひゃひゃひひゃん」


今彼女は『山崎』と言ったのだろうか。

分からなかったがとりあえず私はリコの頬から指を離した。


「痛い。頬っぺた伸びた」

「大丈夫よ。ナオトさんはそんな頬っぺたが伸びて垂れ下がってるリコちゃんでも愛してくれるんでしょう?」


だって、ありのままの貴方が好きなんだから。

そう言うとリコは「垂れ下がってるのっ?!」と驚いたように自身の頬を触り確かめている。


そんなリコの仕草が可愛くて、私はくすりと笑ってしまう。

今のリコが好きになった相手がナオトで良かった。不器用ながらも率直で誠実なナオトなら、今のリコも、そして『リコ』本人も受け止めてくれる。そんな気がする。


そしてリコも。

ナオトになら、きっとそのうち仮面の下の素顔を見せられることだろう。


「運命ってやつかしら」


これが運命なのだとしたら、この先の未来に二人にはどれだけ幸せな事が待っているのだろうか。想像すると自然口許が緩んでくる。

リコとナオト。二人のこれからが楽しみで仕方がなかった。何故なら二人が出逢ってから、まだほんの数ヵ月しか経っていないのだから。これから沢山あるに違いないのだ。


幸せな事が。

二人が一緒にすべき事が。


「ふふっ」


本当に二人は出逢うべくして出逢った二人なのだと最近強く感じる。『運命』とはこの事なのだと二人が私に教えてくれる。

未だに頬っぺたを触り、眉間に皺を寄せながら垂れ下がっていないか確認しているリコを見ながら、私は気が早いながらこんなことも最近思ってしまうのだ。



結婚式には呼んで欲しい、と。



リコに白いウェディングドレスとか。絶対似合うに決まっている。想像するだけで嬉しくて楽しくてワクワクしてくる。


リコとナオトの結婚式。

その時までには、私も運命の相手を見付けられていられればいいなと思うのだが、果たしてそれは叶うだろうか。


「…………」


考えるのはよそう。

まだきっと当分先の話だ。

当分先の話であって欲しい。

私が見付けるまで二人が待っててくれると有り難い。

待ってて。お願いだから待ってて。惨めだから。

物凄く可哀想感かんじちゃうから。



そしていつものように病室の扉がガラリと開かれ、リコの待ち人は現れる。


「ナオト君っ!!」


ぴょん、と飛び降りそのまま走り出した目の見えないリコはいつも通り前方を確認しない。


よって。


「きゃっ」

「わっ」


私にぶつかり折り重なって倒れそうになった所を二人ともがナオトに支えられ。


「酷いわ!!彼氏が出来ないからって崎山さんが私とナオト君の恋路を邪魔するっ!!」

「…………」


変な因縁をつけられるのだ。













―――――


「おばーちゃん、また書いてるの?」


机に向かって書き物をしている私に、小さな孫がそう問いかけてくる。そんな孫に私は微笑む。机にあるそれに獲物を狙う猛獣が如くじっ、とその真ん丸な黒い瞳で視線を与え続けて覗き込んでくる孫にそれを手渡してやると、孫は顔をぱぁっと明るくさせた。


「やった!私、リコちゃんとナオト君の話大好きっ!」


嬉しそうにそれを掲げ、喜ぶ孫。


「新しい話?新しい話?でもおばーちゃん。たまに同じ話も書いてる」

「そうかい?思い出しては書いてるからねぇ」


私が見てきたリコとナオトの事。

それが書かれたノートをわくわくと捲る孫。

そんな孫が愛しくて愛しくてしょうがない。


「ねぇ、おばーちゃん」

「ん?」

「これさ、リコちゃんとナオト君のお話が書かれたノート。最後にはナオト君に渡しちゃうんだよね?」


私は頷く。

あの日、ナオトの言葉を伝えることの出来なかった私のせめてもの償いのようなもの。

リコとナオト、私が見てきた二人の時間。ナオトの知らないリコの事。ナオトに言えなかった贖罪の言葉。


それら全てが詰まってるノート。


もう一度貴方に会えたなら。

贖罪の言葉とともに渡したい。そう思って今まで書いてきた。

思い出すたびに綴った数冊のノート。


私が貴方に伝えたいリコの事。

貴方と話したいリコのこと。


もし、私が生きている間に貴方に会うことが叶わなかったならば。


「それ、渡す役目を託してもいいかしら?」


きょとん、とした顔をした後、孫は重大な任務を受けたかのような顔でノートをぎゅっ、と抱き締め一つしっかりと頷いた。








ナオトさん。

貴方は今どこで何をしていますか?

貴方はまだ生きていますよね?

死んでなど、いませんよね?


もしもう一度貴方に会うことが出来たなら。

私は貴方に言わなきゃいけない言葉があるんです。


リコに会う前に。

私がリコに会ってしまう前に。



だから。


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