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ばんぱいあヴァンパイア  作者: 葉月
詰合編 Diverse Am încercat
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賊編 vorbesc.進藤

まさかまさかの展開でした。

これは開店時間を少し過ぎ、お客さんも数人入って来ている時に起こってしまった出来事です。

春も半ばを過ぎると言うのに、その男は毛糸の目出し帽を深く被り、上も下も黒で統一された服を着て。なのに足下、靴だけは白地に赤のラインが入っているスニーカーと言ういかにもな男が店に入ってきたのです。まぁ、ちょっと変わった客ならたまに、たまにですよ?この店にも来るものだから、すぐには気が付かなかったのです。


そいつが、『強盗』なのだと言う事に。





「金を出せっ!!」


玩具だろうか、と一瞬頭をそんな考えが過ったが多分それは本物。黒く鈍色に光る、カチャリと軽い音を立てて目の前に突き付けられたのは紛れもなく拳銃だった。

あわわわわ、と私が慌てふためけば強盗もさぞかし気分良いものだったのだろう。だが、残念な事にこの時の私は酷く冷静だった。

現実感がなかっただけなのかもしれない。


「聞いてるのかっ!!」


そんな怒号にも、私はあまりビビる事はなく。むしろ私の興味は強盗の持つ拳銃。その拳銃がカタカタと小刻みに揺れている事の方が気になっていたわけで。

拳銃が小刻みに揺れている、それは拳銃を持つ強盗の手が奮えているのと然り。声も若そう。雰囲気も若そう。


「初犯ですか?」と聞いてみたくなったが、さすがの私もそこまで強盗の神経を逆撫でするような馬鹿な事はしません。


「進藤ちゃんっ、何ぼけっとしてるの!」


名々賀さん。

毎度のごとく店に来ていてカウンター席に座っていた名々賀が少し慌てた様子で私に声をかける。名々賀にしては珍しい反応で、ちらちらと私と強盗交互に視線を向けている。


ぼけっとしてたわけじゃあないんだけど。

私は強盗の持つコンビニの袋を受け取り、レジを開けてお金を入れる。強盗がそんな私に「全部だぞっ」と言ったのでジャリ銭も全て入れた。ジャリ銭の重みで袋が破れそうだった。大丈夫だろうか。


ジャリジャリ言うソレを強盗に渡す。強盗は中を確認し一言。


「少なっ!!」

「…………」


開店してまだ数時間。

レジスターには、そんなにお金は入っていない。そんなに儲かっている訳でもないし。この店。


「しかも小銭ばっかじゃねーかっ!まだあるだろ!!」

「無いです」


ここには、ね。


店の裏、従業員しか入れない場所には小さな金庫が置いてある。そこにはこの強盗が欲しがるだろう何十万かのお金が保管してあるが、そこのお金まで強盗にくれてやろうだなどとは思わない。


「くそっ、くそぉっ……こんなんじゃ、こんなんじゃ足りねぇーんだぁぁぁぁ!!」


何を血迷ったか、強盗が激昂して拳銃の引き金を引いた。パァンッ!と言うテレビでよく聞くあの音と、拳銃の弾が何かに当たったガラスが割れた様な音が店の中響き渡った。

さすがに驚いた私は瞬間耳を塞ぎ座り込んでいた。知らず本物と口から言葉が零れる。


「大丈夫っ?進藤ちゃん」


すぐそばに名々賀がいた。

拳銃が火を吹く瞬間、私の所まで走って来ていた様だ。庇うようにして私に覆い被さっていた名々賀に大丈夫ですと言い顔を上げる。強盗は、まだ足りないまだ足りないとぶつぶつ呟いていた。


怖い。


「名々賀さん、あれ本物ですよ……」

「そうみたいだね」


しかも強盗には帰ってくれる気配が全くない。お金はないって言ってんだから、諦めて帰ってくれればいいのに。


店にいたお客さん数人は巻き込まれない様に、机の下などに潜り込んで避難していた。怪我はないようで安心した。私の視線に気付き微笑んでくれる。だけど、このままにはしておけない。お客さんに何かあったら大変だ。


「名々賀さん」


私はいまだ強盗から庇うようにしてくれている名々賀に声をかける。


「私が行きます」

「……何処に?」

「吸血鬼の目、使えば強盗大人しくなりますから」


人を惑わす鬼の目。

吸血鬼である私にはそれがある。

最初からそうしていれば良かった。失敗した。だが、名々賀は私の言葉に間髪入れず駄目だと言う。


「それ、わりと近付かなきゃ駄目だよね。危ない。危険。駄目。もしあの犯人が拳銃撃ってきたらどうするの?撃つ気は無かったとしても誤射とかあるかもしれないし、あの犯人の様子見てたらその可能性は高いっぽいよ?俺は許可しない」

「…………」


許可されなかった。

名々賀の許可が必要なのだろうかと思う所あれど、名々賀の言っている事はもっともだったので私は従うことにした。まぁ私自身、言っては見たものの正直拳銃が少し怖かったというのもある。生で見て聞く拳銃はテレビで見るのとは比べ物にならないぐらい人に恐怖心を植え付けるものらしい。


「じゃあ、どうしましょう……」


このままなす統べなく放置はまずいんじゃないだろうかと名々賀に問えば、名々賀本人はその顔にいつもの変わらぬ笑みを浮かべて私を見る。


「大丈夫だよ。ナオトさん、もうすぐ帰ってくるんじゃない?」


ナオトさん、吸血鬼さんはついさっき買い出しに出かけた。そんなに時間はかからないだろうからすぐに帰っては来るのだろうが。


「ナオトさんならあんな強盗一発でしょ」

「吸血鬼さんって、強かったでしたっけ?」

「なに馬鹿な事言ってんの。ナオトさんは『吸血鬼』さん、でしょう?」


そうでした。

吸血鬼さんは『吸血鬼』なのだ。

一緒にいる時間が多いからか、何故かたまに忘れがちになってしまう。


人間よりも身体能力が高く、普通の人間なら絶対に敵わない相手。『吸血鬼』。そしてその存在は不死身と言っても過言ではない。


「けど名々賀さん、相手は拳銃ですよ?」


刃物だったのなら簡単に避けられるだろうが、果たして拳銃の弾を吸血鬼さんは避けられるのだろうか。吸血鬼は白木の杭でしか死なないと過去聞いたことはある。だが、言っても怪我はするのだろう。出来るなら怪我は負って欲しくない。


「吸血鬼だし、拳銃の弾でも手で受け止められるんじゃない?」

「えっ、そんな超人ですかっ?」


吸血鬼さんが?

そんなテレビのアニメヒーローみたいな芸当、本当に出来るのだろうか。


「まぁ、とりあえず俺達は犯人を逆撫でしないように大人しくしておこうよ」


そう言って名々賀は強盗に視線を戻した。私も強盗を見やれば、強盗は何かを考えているのか拳銃を手にその場をしきりにぐるぐると行ったり来たりしていた。ホント、帰ってくれないかなと思う。


そう言えばと、さっき強盗が撃った弾は何処に当たったのだろうかと辺りを見回す。ガラスの割れるような音がしたから何かには当たったのだろうが。




そして私は発見する。

強盗の撃った弾が何に当たったのかを。





「ああぁぁぁぁーーーーっ!!!!」


私は叫び立ち上がる。

信じられなかった。だから近くで確かめようと思ったのだ。足を踏み出す。だが、名々賀に止められる。手を掴まれる。強盗が「な、何だっ?!」と拳銃をこちらに向けるがそれどころではない。


「ちょ、進藤ちゃんっ?!」

「名々賀さんっ、アレが、アレが割れちゃってますっ!!」


最悪だ。

何でよりによってアレに当たるのか。


「アレっ?」

「お酒ですっ!!」


私が指差した先、ボトルが一つ無惨にも真ん中辺りを弾に貫かれたのだろう。瓶が割れ、上半分が何処かへと消えていた。床に残骸があるのだろう。


「高いお酒なのっ?しょうがないよ。だから今は」

「しょうがないで済む問題じゃないんですっ!!」


私は名々賀の言葉を遮る。

何故ならアレは。


「あ、アレは吸血鬼さんが絶対に割るなって言ってたお酒なんですっ。絶対に割るなよって私に……っ。絶対ですよっ、絶対!あの吸血鬼さんが『絶対』って言ったんです!絶対って……、あの吸血鬼さんがですよっ?」


何度も何度も。

念を押すように言っていた。

『絶対に』『絶対に』割ってくれるな、と。


「絶対って、絶対、ぜったい……。それなのに、わ、割れ、割れて……」

「し、進藤ちゃん、ちょっと落ち着いてっ」


割れた。

『絶対』が割れた。これが何を意味するか。


「……うぅっ」

「ちょっ!し、進藤ちゃんっ?!」


吸血鬼さんが。

吸血鬼さんが『絶対』と言っていたものを割ってしまった。吸血鬼さんが『絶対』って。吸血鬼さんが『絶対』って。


「わ、私がわ、割って、わ」

「進藤ちゃんっ、だ、大丈夫だって!進藤ちゃんが割った訳じゃないんだからさっ」

「で、でも、わ、わた、私が」


私が吸血鬼さんの『絶対』を。


『絶対』を


『絶対』を




「ナオトさんも許してくれるってっ」

「吸血鬼さんが言う『絶対』は『絶対』なんですよ!!」


許す許さないの問題じゃない。そんな簡単な問題じゃないのだ。

それはまさに『絶対』なのだから。


吸血鬼さんの言う『絶対』は『絶対』なのだから。












――――――――


「っていう事がこないだあってね」


目の前の男、鎹は目を丸くして「凄いな」と一言。

私は頷く。


「まさか強盗がこの店に入ってくるとは思わなかったよ」


ここじゃなく、無難にコンビニに辺りにしておけば良かったのに。あえてこの店を選ぶ辺り、やはり初犯の浅はかな考えなしのする事だったと言えなくない。


「で、そのお酒。怒られたのか?」


吸血鬼さんの『絶対』のお酒。


「う、うん。まぁ、ね。収まるところに収まったよ」


私は言葉を濁す。

その辺り、詳しく話したくは無かったのだ。

ふーん、と鎹。


「で、強盗は『吸血鬼さん』が捕まえたのか?」

「ううん」


私は首を横に振る。鎹が不思議そうな顔をする。そんな鎹に、私は最終的に強盗がどうなったのか教えてあげた。


「久遠君とカグラちゃんが半殺しにした」

「は?」


半殺し?と驚く鎹に、私は『賊編』の続きを話すために口を開く。


「えっとね」



次回『賊編の続編 vorbesc.名々賀』


祝、カグラちゃんの苗字と久遠君の名前決定(ええ、自分で考えましたよ自分でね)。

そのうち作中で「てろっ」と出ます。

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