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ばんぱいあヴァンパイア  作者: 葉月
詰合編 Diverse Am încercat
72/109

吸血鬼さんの憂鬱 vorbesc.ナオト

戻れない。戻らない。


『吸血鬼』という種族の問題に巻き込んでしまったあの雨の日。泣かなくなった少女はそう口にした。

その時も涙などは流していなかったと思う。それともあの雨で、涙かどうか分からなかっただけなのだろうか。

学校にも行かない、ましてや家にも戻らない少女に俺は寝床を与え、そして今度は遠くからではなく近くで少女を見守っていた。


『泣かなくなった少女』はその間もずっと、涙を流す事は無かった。


数年が経ち、店を開く段階になって周りがだんだんと騒がしくなってきた。店の事でも慌ただしかったがそれ以上に、若い蝙蝠、蝙蝠の連れてきた人間、カメラマンの男、そんな面々が周りをさらに煩くさせた。少女が少しだけ変化した。だけど、やっぱり涙は見せない。


そしてまた月日が経ち、店もなんとか起動にのって来た頃。店に少女の『大切な者』がやって来た。若い蝙蝠が画策した。少女のためだと。俺もそれに同意した。


『きゅ…、吸血鬼さんが殴ったぁぁぁぁぁっ』


そうしてこの日、『泣かなくなった少女』は泣かなくなったあの日から俺が知る限りで初めてその瞳から涙を流した。





――――――




「吸血鬼さーん。掃除終わりましたよ……って、何してるんですか?」


少女が手に箒を持ちながら横からひょっこりと俺の手元を覗き込んで来る。俺は完成したばかりのソレを三つ皿に乗せ、少女に差し出す。


「食べてみろ」

「また新しく作ったんですか」


少女は皿から小さな一口サイズのそれを手に取り口に入れる。そして一言。


「美味しいです」

「そうか」


店に出すための商品の開発。酒だけじゃなく、何か食べるものがあった方がいいだろうと言う提案というか強制というかがあり、こうやって時間がある時に色々作ってはいるのだが。


「吸血鬼さんが作る物は何でも美味しいですよね」

「…………」


俺が作った試作品を食べるのは、大抵がこの少女だ。店で出せる、手軽に作れて手軽に食べられる様なものを今まで何度か作って来たが、ソレに対してこの少女が『不味い』と言った試しはない。いつも『美味しい』だ。

お世辞、という訳でもないのだろうがあまり人間の食事というものをしてこなかった俺には、人間の好みの味がいまいちまだ分からないので『美味しい』という言葉だけでは些か困るのだが。


いつも思う。

本当にこれでいいのかと。


「おはようございます」


そうこうしている内に、ここの店長を任せている人間の男が店に入ってきた。制服には既に着替え終わっている。

いつも変わらない表情にいつも変わらない口調。見る人から見れば、寝不足でぼんやりしている様にも見えるだろう。少女に言わせると『やる気がない顔』らしいのだが。


「おはよう久遠君」

「ん……」


掃き掃除は私がやったから、久遠君は拭き掃除ね、との少女の言葉に、久遠と呼ばれた男はやはり何の反応も見せず、ただちらりと少女に視線を向けてから雑巾を取りに行った。少女は視線を向けられた事すら気付かない。と言うよりも、何も言わないし何も反応しないこの男には、何も期待していないのかもしれない。だけどあの男、やる気がない様に見えて少女よりも仕事熱心なのは、きっと少女の理解している所なのだろう。何だかんだで二人は上手くやっている。


これが日常だった。

いつもの変わらない平凡な日常。


「…………」


まぁ、これからが煩くなるんだがな。






そうして夜深くなってきてしばらく、少女の友人である瀬川と呼ばれる者が店にやってきた。仕事帰りに寄ったらしい。


「瀬川さんしつこい」

「そんな邪険にしなくてもいいんじゃない?私だって見たいもの」


カウンター。

向かい合い話し合う二人。少女の隣で俺は一人、もくもくと事務作業をする。本来、この様な事務作業は店の中ではしない、というかしてはいけないのだろうが、今店には少女一人しかいないので仕方なくここで色々と雑務をしている。店長を任せている人間の男は今日は早上がりだったため既に帰宅。少女一人に店を任せるのは些か不安だった。


「いいじゃない。私、いまだに疑ってるんだからね」


カメラマンのあの男がいれば、少女一人で店に残しても大丈夫なのだが、あいにく今日は来ていない。あの男は気が利くし、よく気が付く。客として来ているのにも関わらず、少女を知らず知らずサポートしているのが端から見ていて分かる。素なのか地なのか計算なのか。その辺りはよく分からないのだが。


「だから、信じてくれなくてもいいって」

「ちょっと見るだけだってばー。お願い!一回だけでいいから!」

「嫌っ!」


騒ぐ二人に煩いぞ、と一応注意したら少女の友人の興味が俺に向かう。


「オーナーさんもこの分からず屋に言ってやって下さいよ。一回で良いって言ってるのに堅くななんですよ、進藤さん」


さっきからの二人の会話は耳に入ってきていたが、正直くだらないなとは思う。少女も、何故ここまで嫌がるのか分からない。


「ちょっと瀬川さんっ、吸血鬼さんに余計な事言わないでよ!吸血鬼さんも聞かなくて良いですからね!」

「聞かないようにしたくとも、耳に入ってくる」


ため息を吐き、事務作業をする手を休めて少女の友人と向き合い「諦めろ」と言ってやる。

ここまで嫌がるのだ。何を言った所で少女はその意思を曲げないだろう。





『スカートを履かない』、という意思を。





少女の友人は眉間に皺を寄せ「これだから甘やかし族は」と小さく呟いた。


「オーナーさんは結局進藤さんの味方なんですよね。オーナーさんは見たくないんですか?進藤さんの可愛いスカート姿を」

「前に見ている」


前、と言っても数年か前に、だが。

少女が小学生だった頃。そして、中学生の頃にも一度見かけた事がある。勿論制服などではなく私服姿で、だ。


「その時可愛いと思ったでしょう?それをもう一度見てみたいとは思いませんか?」

「…………」

「瀬川さん、いい加減吸血鬼さんを巻き込むのはやめてよね。吸血鬼さん、仕事してんだから」


俺もしてるが、お前も同じく仕事中だろう。とは言わなかった。


「そうよ、せーちゃん。吸血鬼様のお邪魔はやめてね。吸血鬼様はお忙しい方なのだから」


そう言って、話を聞いていたらしいカグラと呼ばれる若い蝙蝠が裏から店に入ってきた。多分、裏にある出入口から入ってきたのだろう。にこりと微笑みながらこちらに歩いて近付いて来る。


「吸血鬼様。こちらは私が残りますので、裏でゆっくりと事務作業を進めて下さい」


そう言う蝙蝠に俺は甘える事にした。少女と少女の友人、この二人の会話に心底関わり合いになりたくなかったからだ。俺にこの二人の会話に着いていけるほどの技量はない。


「カグラさんっ、アレ見せて下さい!アレ!」


蝙蝠の姿を視認した少女の友人が、嬉々として蝙蝠に近付いて行く。そんな姿を横目に俺が裏へと引きこもれば、そこには帰ったはずの店長を任せているあの人間の男の姿。


「……何してる」

「送ってきただけです」


言葉足らずだが、あの蝙蝠をここまで送り届けに来ただけ、という事なのだろう。眠そうな顔をしながら、それでもきっとこの男はまだ帰らない。まさか、あの蝙蝠が帰るまでいる気なのだろうか。


「仮眠しておけ」


それだけ伝え、俺は事務作業をするため机へと向かった。人間とは恐ろしく面倒な生き方をする生き物だな。そう感じながら。


吸血鬼さんも色々憂いておいでですが、私も色々憂いておいでです。

なので、ここでちょっと募集したいと思います。メッセなどで気軽にお便りって下されば嬉しいですねー。

で、何を募集するのかと言いますと。


『久遠君の名前』&『カグラちゃんの苗字』


名前って難しいんですよね。

別に考えるのが面倒だ、とかではないですよ。ええ決してね。


久遠君の方は別に無いですけど、カグラちゃんの方は、出来ればなんか蝙蝠っぽい名前が良いなぁ。なんか良いのないかなぁ。


誰からも来なければ、頑張って自分で考えます。発表は、次回の話をあげるときにでも。

ではでは。


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