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ばんぱいあヴァンパイア  作者: 葉月
第二章 恋愛
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序章〜愛のために僕は

第二章



「吸血鬼になりたいんです。だからお願いします。僕を吸血鬼にしてもらえませんか?」


そう言ったのはクラスメイトの男の子。名前は小日向瑛士こひなたえいじ

この日の昼休み、私はこのクラスで『おとなしい男子』に分類されるであろう小日向に呼び出され…、というか、教室で「…ちょっと」と言われてついてきてみれば、まさかの吸血鬼になりたい発言をされてしまった。



私は、真剣な顔で「吸血鬼にして下さい」と言ってくる小日向を見る。


そう言われてもな、と私はため息をはく。自ら吸血鬼になりたがる人なんて、まさかこの世にいようとは。もしいたとしても、小日向がそんなタイプだとは思えない。



小日向瑛士。

静か、大人しいと評される彼を上中下に分類するとしたら、下に入る男の子だと私は思う。

別に顔が悪いだとか、嫌われているだとか、虐められているというわけではない。ただ、学校という閉鎖空間ではこういった人間の分類が言うまでもなく真しやかになされている。

中学や小学校ならきっとそれが虐め問題に発展していったりしてしまうのだろう。だがここは高校。高校生にもなって、そんな事をするのはよほどの低脳かよほどの暇人か、だろう。


「どうしても駄目ですか?」


小日向が食い下がるようにそう私に言った。


「そう言われても」


駄目っていうか。


「何でそこまで吸血鬼になりたいんだ?」


私の隣にいた鎹が口を挟む。鎹双弥。小日向と同じ、私のクラスメイトだ。

吸血鬼でもない、人を吸血鬼にする力を持ってるでもないこの男がどうしてここにまで出刃って来たのか。

小日向の「吸血鬼にして下さい」への返事など決まっているのだから、どうして?などと理由など聞いても仕方ないと思うのだが。


それに。


私はため息をはく。


「鎹君さ、教室に戻った方がいいよ」


私は鎹にそう言う。


「何でだよ。俺には聞く必要も権利もないってのか?」

「あのね、今何の時間か分かってる?昼休みだよ?さっきのでもちょっと目立っちゃってたんだからこれ以上の面倒ごとはごめんなんだけど」

「すみません…」

「あ、いや、」


小日向が謝る。


「大丈夫だろ。ここ人気ないし」

「……その油断が命取りになるんだけど」

「大丈夫だって」

「鎹君の大丈夫は今後一切信用しない事に決めてるから」

「え、酷い」

「あのね…、大体誰のせいでこんな展開になってると思うの?そもそも誰のせいで小日向君に私が吸血鬼だってバレたと思ってるの?」

「……もしや俺のせいだとでも?」


まごうことなくお前の責任だろうが。


「だから私は明日でいいって言ったのに」

「今更過ぎたことを言っても仕方ないだろ?それにバレたのが小日向みたいな奴で良かったじゃないか」

「…そもそもバレるのが駄目なんだって事、ちゃんと分かってる?」

「分かってる」


分かってない。

絶対分かってない。


そんなやり取りを繰り広げていたら、ずっと黙っていた小日向がぽつりと口を挟んだ。


「仲、良いんですね…」

「小日向君、なんかソレ私凄く嫌」

「二人が教室で喋ってる所なんて見たこと無いですけど、あれはわざと何ですか?」


教室で私と鎹は滅多に喋らない。それは私が吸血鬼だと鎹にバレてからも変わらなかった。


「わざと、というか」

「別に教室で何か喋ることもないし」


喋る必要もないから喋らないだけ。それはずっと変わらない。吸血鬼だとバレてしまったからといって、喋らないといけないわけでもないだろうし。


「…なんか、殺伐としてますね」

「そう?普通だと思うけど。それにいきなり私と鎹君が仲良く話し出したりなんてしたら、それこそなんか変だと思われるし」


だからこそ、今のこの状態は不味いのだ。昼休みのこの時間に誰が来るかも解らない教室。そこに、何の繋がりもないはずの三人。クラスメイト、という肩書きしか共通点のない三人が、あたかも悪さの相談でもしているかのように、薄暗い教室で話しをしている。

こんな所、誰かに見られでもしたらあらぬ疑いをかけられてしまうのは必須。


「でも進藤さんが吸血鬼だって知ってるの、鎹君だけなんですよね?」

「そうだね」


この間、見事に君にもバレましたけどね。


「進藤がばんぱいあだと知ってるのは俺だけの秘密だったのになぁ」


鎹がそう言った。多分言ってみたかっただけなのだろう。言葉の感じが、いつもの『ふーん』と似ている感じがした。



あと『ばんぱいあ』じゃなくて『ヴァンパイア』な。



じぃ、と小日向が何か言いたげに私を見る。だが、小日向が何を言いたかったのか解ってあげられるほど、私は人の気持ちをよめる吸血鬼ではない。


「で、小日向は何で吸血鬼になりたいんだ?」


大幅にそれた話を戻すように、鎹は小日向に向かってそう言った。

小日向は気持ちを切り替えるように真面目な顔をして、隠すつもりもなかったのであろう吸血鬼になりたい理由を教えてくれた。






「好きな人がいるんです」






恋愛と吸血鬼に何の関係があるというのだろうか。





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