携帯電話(続) vorbesc.鎹・進藤
本編完結済み。
ここからは、番外編中の番外編。
この話から後ろは、昔に戻ったり本編完結後の皆を書いてみたりと時間軸が右往左往しますのでご注意下さい。
『完結したらやりたい放題できる』
色々と思い付く限り書き綴りたく思います。
では、『携帯電話 vorbesc.鎹・進藤』の続きで『携帯電話(続) vorbesc.鎹・進藤』です。
「教えてくれ」
進藤は頑なに携帯番号を教えてはくれなかった。だけど、俺もこれに関しては絶対に引かなかった。
だって、携帯番号だぞ?
友達の携帯番号だぞ?
瀬川が知っていて、小日向も知っていて、玲君も知っていて、実は凛も知っていたという進藤の携帯番号。
きっと他にも知っている奴は大勢いるのだろう。俺の知らない連中も知っているのだろう。進藤のクラス連中の大半はもしかしたら知っているのかもしれない。
そんな進藤の携帯番号。
それを俺だけが知らない、だなんてありえないだろ。ないだろ。無理だろ。駄目だろ。
寧ろそれは友達とか以前の問題だろ。
だから俺は引かなかった。
引くわけがない。
そんな引かない俺に、進藤は渋々教えてはくれたのだが、進藤の態度が『渋々』だったのがちょっと気に入らなかった。
友達なのに。
友達に『渋々』って。
そして俺はその日の夜、進藤に初メールをしたのだが………。
「何で返信してくれないんだよっ!!」
翌日。
進藤のクラスまで出向き俺は進藤に詰め寄った。そんな俺に進藤はびっくり顔だ。
「あー…、ごめん」
「何で返信してくれないんだよっ!」
「い、いや、気付いたのが割りと遅くて…。夜中だったから、まぁもういいかなって」
もういいかな、だと…っ!!
「友達からのメールにもういいって何だよ!もうよくないだろっ。全然よくないだろっ!」
無視とか。
無視とか。
無視とかっ。
「友達だろぉっ」
あんまりすぎる。
そりゃ、携帯番号教えてくれたのだって渋々嫌々だったし、進藤はそんなに俺のこと友達だと思ってくれてはいないのかもしれないけどさ。
せっかくさ。
俺がさ。
友達のさ。
進藤のさ。
携帯番号知ってさ。
初めてさ。
初めてメールを出したのに。
「友達だと思ってくれてない」
「…………」
うぅ、としゃがみこんだ俺を見下ろす進藤。しゃがみこんでいる俺には分からないが、きっと進藤は俺を哀れみの目で見ているに違いない。
そんな俺達に声をかけてきたのが、いつも通り近くにいた瀬川と小日向だった。
「鎹君、あの、一応進藤さんとは付き合っている設定なんですよね?…だったらあんまり友達友達と大きな声で喋るのはどうかと……」
「たかがメールでウザイし」
瀬川のその言葉に俺はグサッ、ときた。
「…俺にとってはたかがじゃない」
そう。
俺にとっては『たかが』の問題じゃないのだ。死活問題、と言っても差し障りないぐらいの問題なのだ。これは。
「進藤にとって、俺って何なんだ…」
ポツリと呟く。
瀬川が「うぜぇ…」と言ったのを小日向が諌めた。
「な、何って…。と、友達に決まってるじゃない」
友達だよ?とひきつった笑顔で進藤はそう言った。
だが。
「進藤さんの一番の友達が私でー、二番目が瑛士君でしょー?で、鎹君はー……、最後?」
瀬川がそう言った。
「瀬川さんっ!」
「まぁまぁいいからいいから」
瀬川と進藤が一悶着しているが、俺はそっちを気にしている余裕はなかった。
最後。
さいご。
最下位。
「そ、そんなことないだろ。俺は二年の時から進藤とは友達だったんだっ。瀬川より早いっ」
そうだ。
それに瀬川は知らない進藤の秘密だって俺は知っている。さらに小日向よりも俺の方が早くにその秘密を知った。瀬川に関してはその秘密すら知らないのだ。知らないのだ。
だから、俺は最後なんかじゃないはずだ。友達優先度ランキング最下位なんかじゃないはずなんだ。
むしろ俺、一番だろ。
「あら。それを言うなら、私は一年の時から友達よ?一応」
「そんなに仲、良くなかっただろ」
確か以前進藤がそう言っていた。
「そうね。でも、今はまた同じクラスだし。一緒の時間多いし。それに喧嘩だってしょっちゅうよ?喧嘩するほど仲が良いっていうでしょ?」
喧嘩するほど仲が良い。
それなら。
「俺だって進藤とは喧嘩したことあるぞ」
それはもう進藤が希に見る怒り様を見せた喧嘩をな。それに他にも喧嘩を、喧嘩を、喧嘩、を……、いや、したんだ。した。したぞ。
友達だからなっ。
「進藤、俺達喧嘩するほど仲が良い友達だよなっ」
「…………」
進藤は何も答えなかった。
代わりに。
「鎹君のマイブーム、早く終わらないかな」とポツリと呟いた。
マイブームって何だよ。
俺にマイブームなんて……、
はっ!まさかっ……!
「『友達』が俺のマイブームなんかだと思ってるんじゃないよなっ!!」
「………」
進藤は「しまった」というような顔をした。
「進藤…、お前、そんな…、俺がお前を友達だと言っているのをマイブームだとか…っ、そんな、そんなこと考えてたなんて…っ」
冗談にしても酷すぎる。
俺は本気で、
本気でお前のことを……っ
「友達だって、思っていたのに…っ」
こんなにも。
こんなにも伝わらないだなんて。
よもや『ブーム』だなんて。
遊びだなんて思われていただなんて。
どうしてだ。
どうしてそんなすれ違いが起こってしまったんだ?
俺か?俺が何か足りないのか?
進藤の友達として相応しくないとでもいうのか?
秘密だって誰にも喋らずに黙っているし。
勉強だって教えている。
色々身の内で大変な進藤を助けてやってもいる。
そりゃ、色々迷惑や厄介事もかけたけど。
だけど、それも友達だから許し許された。
友達だからだ。
友達だから。
だけど、まだ足りないのか。
進藤が俺の事を真の友達だと思ってくれる何かが。「私達、友達じゃない?」と手に手を取って熱く語り合う絆が。
『何か』が俺達には足りないのか?
「鎹君、もう授業始まるから…」
暗に「自分のクラスに帰れ。戻れ」という進藤。そんなに俺を邪険にしたいのか。友達したくないというのか。
「…帰りたくない」
「お前は飲み屋で男誘うバカ女かっ!」と突っ込んだ瀬川を小日向が諌める。
「だって、だって……」
「…鎹君」
進藤が俺の肩に手を置く。
「鎹君、ごめんね。私が悪かったわ。全面的に私が悪い。『お友達』にこんな酷いことを言ってしまうだなんて。『お友達』に対してあんな酷い態度取ってしまうだなんて。『お友達』に対してあんまりだわ。『お友達』にする行為ではなかったわ。だから…、だから今日は一緒に帰りましょう?『お友達』だもの。当然よね?」
進藤は優しく微笑んだ。
優しく微笑み俺を見る。
お友達。
お友達。
『友達』
「ああ!一緒に帰ろう!俺達、友達だもんなっ」
そうだ。
そうなんだ。
俺達はやっぱりちゃんとした、
『友達』なんだ。
―――――――――――――
「いや、もうホントないわ」
鎹が帰った教室。
授業が終わった休み時間。
さすがにこの時間まで鎹はこなかったのだが。
「鎹君のマイブーム、いつ終わるのよ…」
鎹の『友達』ブーム。
鎹のマイブーム。
何だか段々ブーム熱に火が衝いているような気がするのは気のせいだろうか。時間が経つにつれて鎹の『友達』というワードが口から出る回数が増えている気がする。
冗談じゃなく本気で。
「まっ、ブームなんだからそのうち終わるわよ」
私の前の席を陣取り瀬川は言う。
「でも、携帯は不味かったんじゃない?何でメール返さなかったのよ」
「さっきも言ったじゃない。見たのが夜中だったからまぁ、もういいかなって。夜中に返すのは不謹慎でしょ?それに、メール内容もひたすらどうでも良い内容だったし」
瀬川が首を傾げ、「どうでも良い内容って、どんなのよ」と私に聞くので、私は昨日きた鎹からのメールを瀬川に見せた。
そして瀬川の反応がこれだった。
「………………」
私は携帯を仕舞う。
「だから、まぁ、いいかなって。なのに、あんなに怒るとは…。誤算だったわ」
『何で返信してくれないんだよっ!!』
こんなことなら適当でもいいから、何か返信しとけば良かったと思うのだが後の祭りだ。
「…でも進藤さん。玲君とはそんなくだらないメールのやり取りもしてたんでしょ?」
「玲君と鎹君じゃ全然違うし。比べたら玲君に失礼よ」
「…………」
それにしても。
『進藤、俺達喧嘩するほど仲が良い友達だよなっ』
『…帰りたくない』
『ああ!一緒に帰ろう!俺達、友達だもんなっ』
「…………」
なんか。
なんか、本当に。
酷すぎないだろうか。
「まぁ、鎹君。クラス一人だけ離れたの相当寂しがっていましたから」
「空ちゃん、コレ、先生から」と、職員室に行っていた小日向が瀬川にプリントを渡しながらそう言った。
「たかがクラスじゃない。小日向君の目の錯覚じゃないの?」
寂しい、って。
そんな寂しがるような事でもないし。
「でも、携帯番号も鎹君に教えてあげてなかったんですよね?」
「別に教える義務もないじゃない。教えたら教えたで面倒なことになったし」
やっぱ教えるべきではなかった、と私は思う。今後もろくなことになりそうにない。
「…クラスが離れて、携帯も実は自分だけ知らなくて、さらに初めて出したメールはガン無視……。まぁ、これだけ立て続けに起これば鎹君がああなるのも無理ないのかもね」
瀬川が鎹を憐れむようにそう言ったが、そんな鎹にあれこれ要らんこと言って、更に悪化させたのは紛れもなくコイツだ。
「でも鎹君、最後には『放課後デート』で元気になったし。結果オーライ、よね」
「放課後デートじゃないし」と私が言ったら、「あら?でも貴女達『付き合っている』のよね?」とにやりと嫌な笑みを浮かべながら瀬川に言われたので、私はもう口を開くのでさえ億劫になってしまった。
「ブーム、早く過ぎ去らないかな…」
今の私の一番の願いはそれだった。




