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ばんぱいあヴァンパイア  作者: 葉月
番外編 Honesty and a liar
63/109

そのままで

『番外編 Honesty and a liar』は、


「そのままで」と、

「いつまでも vorbesc.リコ」


二話同時投稿で終わります。

ここまでお付き合い下さりました方々、ありがとうございました。

番外編の名に収まらなく、謎が謎でなぞなぞな感じになっちゃったので、まぁ、またやる気があれば構成のし直しとかしたいです。

やる気があれば。


だから私はラブラブ話とわちゃわちゃ話を書きたかっただけなんだってば。




そして、これに伴いまして、

本作『ばんぱいあヴァンパイア』も


『完結』となります。



長いようで短い間でしたが、キャラクター達にも、そして当たり前ですが読んで頂いた方々にも大変感謝しております。


ありがとうございました。


最後まで

いつまでも

これからも。


そのままで。


読んで頂ければ幸いです。

ではではこれにて。



「ちょ、何で押すんですかっ?!」


店を放り出し裏へと入ってきた少女の背中を、俺は店に戻れと押し返す。が、少女は負けじとそれに抵抗する。


「やですよっ!今日は私、気分が乗らないんですっ、やっぱり裏で作業してますっ!」

「さっきと言ってることが違うだろ」

「さっきはさっき!今は今、ですよっ!」


ぐいぐいと俺を押し返す少女。

意地でも店には戻らないつもりらしい。


「吸血鬼様」


少女の知り合いであり、ここの店長を任せている男の知り合いでもある小さな女の子の姿をしている蝙蝠が俺を見る。

俺は頷く。


「…ちょっ」


俺は無理矢理少女を店側に押してから扉を閉め、そしてガチャリと鍵をかけた。

少女が入って来れないように。


ガンッ!と扉の外側で大きな音がした。


「…………」

「しーちゃんもこれで幸せになれますね」


にこりと笑う蝙蝠に、俺は無言で視線をやる。後で少女には扉を叩くな、と言っておかねばならない。営業中ならなおのこと。


「それにしてもあの男の子。今日の今日で来るだなんて、少しだけ見直したわ」


「全くもって私に気が付かないことは、これでチャラね」と一人喋っている蝙蝠をそのままに、俺は仕事に戻る。


在庫整理。

事務作業。

発注管理。


やることは色々ある。


そんな俺の後ろから蝙蝠は着いてくる。


「それは吸血鬼様の仕事なのですか?」

「…店長であるアイツがまだ出来ないからな」


本来こういった事は、一応『店長』という肩書きを持つものの仕事になるのだろう。だが、店長を任せているアイツはまだ色々勉強中でこういった作業などはまだやらせていない。


「くーちゃんの仕事なのですね。すみません、くーちゃんが迷惑を」

「………」


迷惑にはなっていない。

そもそも店長を任せたのは俺なのだから。


そう。

ここの店長は俺ではなく久遠という名の人間の男だ。



色々。

色々あって、俺はこの蝙蝠が連れてきた少女の知り合いでもある人間の男をこの店の店長にしている。俺はオーナーという立場だ。


『私は蝙蝠のカグラと申します。吸血鬼様のために、誠心誠意心の尽く限りお仕えさせて戴きます』



「………」

「私がお手伝い致します」

「…大丈夫だ」



蝙蝠。

血の選別をし、吸血鬼に仕える種族のこと。このカグラと名乗る蝙蝠は、俺に仕える気満々だった。

だが、俺に蝙蝠は必要ない。


だが、不要だ、と言ってもこの蝙蝠は聞かなかった。俺が本気で言えば、この蝙蝠も諦めるのだろうが、少女の知り合いであるこの蝙蝠にあまり強くは言えなかった。


『吸血鬼様。こちらが私が選別いたしました血の提供者でございます。こちらの者は協力的ですので、どうぞ存分にご堪能下さいませ』


「………」


あの時のことを思い出すと、今でも疲れが来るから不思議だ。あの人間の男が協力的というのも、まぁなくはないことなのだろうが稀だろう。

人間に吸血鬼のことは一切漏らしてはならない。確か、蝙蝠にはそういった決まりみたいなものがあるはずではなかったか。


いや、

そんな決まりごとも、時代の流れで変わっていったのかもしれないな。


「くーちゃん、今日は確か来られるのですよね?」

「ああ。多分もうすぐ来るだろう」


本来は休みだが、「来る」と言っていた。仕事を教えて欲しい、と。

アレは勤勉だ。

あの勤勉さが何処から来るのか、なんて今更考えなくても分かることだが。


「お前はアレのことを、もう少し考えてやれないのか」

「カグラです」


蝙蝠は俺が甘いのを良いことに、きっちり笑顔で訂正してくる。


「何を考えろと言われるのですか?」

「アレの気持ちだ」

「もう十分な時間考えました。そして、結果も出してその結果もくーちゃんには伝えてあります」


考えるべきことは何もありません、と蝙蝠が言った直後、店の方からガタンッと何かが倒れるような音がした。


「……何の音だ」

「私が見て参ります」


眉間に皺を寄せた俺に蝙蝠はそう言い、先程鍵を閉めた扉の方へと歩いていった。

その蝙蝠を見送り俺は仕事に戻る。

椅子に座りため息を吐く。


何故こんなことになっているのだろうか、と俺は頭を悩ませる。

少女だけでも悩みの種は尽きないと言うのに、さらに蝙蝠や店長を任せているあの人間の男までもが俺を悩ませるのだからため息も出ようというもの。


さらに言えば、少女の知り合いであるカメラマン。


あれがここに来るようになってからは、さらに騒がしさが増してしまった。少女にとって、それはとても良いことなのだが、あまり騒がれても困る。

人間とはここまで煩く騒がしい生き物だっただろうか。




そうこうするうちに、蝙蝠が戻ってくる。



「問題はありませんでした」

「またアイツが何か落としでもしたか」


そう思い俺は聞いてみるが、蝙蝠は予想だにしていなかった言葉を口にした。


「いえ、あの男の子がしーちゃんを押し倒していただけです。何も問題はありません」




『押し倒し』




「……………」


俺はその言葉に固まる。


「…そ、れは」


がたり、と俺は立ち上がる。


「問題、ではないのか」

「店の方にはしーちゃんとその男の子しかおりませんでしたから。大丈夫でしょう」

「………」


蝙蝠の大丈夫の基準が俺には分からない。

だが、今来ている人間の男は少女の大切な人間だ。少女が待ち望む人間。

ならば、いい、のだろうか。



「……合意か」

「それは何とも」


合意でなければ助けた方がいいのか。

いや、だが。


俺は椅子に座り直す。


が。



「…どちらにせよ、店で、というのは問題だろう」


やるならせめて家でしろ。

店に客がいないとは言っても、まだ営業中なのだから。


俺は立ち上がり、「それもそうですね」と口にする蝙蝠の横を通りすぎ、店の方に行こうとするが。


「名々賀さんっ!!」という少女と少女の大切な人間の男であるだろう怒ったような声が聞こえ立ち止まる。名々賀、とはあのカメラマンのことだ。

あの男も店に来たらしい。


「静も来たようですね」

「…そうだな」


あの男が来たのなら、蝙蝠が言っていたような状況は覆されているだろう。俺はため息を吐き引き返す。


「静もタイミングが良いというか、悪いというか」


蝙蝠が一人ぼやく。


「最近は見なかったな」


あれほど毎日来ていたが、最近は全く姿を見ていなかった気がする。


「仕事で静は日本を離れていたのです。きっと、今日こっちに帰ってきたのでしょう」


仕事。

カメラマンの仕事。


「お前も仕事があるのではないのか」


俺は蝙蝠を見る。蝙蝠はそんな俺に微笑みながら「私の仕事は吸血鬼様にお仕えすること、ですから」と言った。


「くーちゃん以外にも既に何人かは目星がついておりますが」

「…俺には必要ないと言っただろう」

「『血』は必要です。…やはりくーちゃんの血がお気に召しませんでしたでしょうか」


蝙蝠が不安げに俺を見る。


「アレの血は飲んでいない」

「やはり男よりも女の血の方がいいということでしょうか」

「違う」


俺はため息を吐く。

やはりきつく言うべきか。俺に蝙蝠は必要ない、と。


そう考えていると、裏口から「おはようございます」と、ここの店長で『くーちゃん』と呼ばれるあの人間の男が入ってきた。


「くーちゃん」

「…………」


ソイツは、蝙蝠がいた事を知っていたのか知らなかったのか。無言で視線をじっと蝙蝠に向けている。

そんなソイツの心情を知ってか知らずか、蝙蝠は呆れたような顔で口を開いた。


「くーちゃん、貴方まだ吸血鬼様にちゃんと血を飲んで頂いていないみたいね。見損なったわよ。くーちゃん、貴方どうしてここにいるか分かってる?分かってないわね。分かってるわ。私は分かってる。くーちゃんが何にも分からずただ流れでここの店長になったことなんて、私はちゃんと理解しているわっ!」

「…………」


無言で蝙蝠をじっと見ていたソイツは、おもむろに俺の前まで歩いて来る。そして、ピタリと目の前で立ち止まり、着ていた服の首もとをぐいっ、と弛める。


「………」


挑むような目で俺を見るのはやめてくれ。


そんなソイツの態度を見て、蝙蝠は俺に向かってこう口を開くのだから参ってしまう。


「吸血鬼様、さぁどうぞ」

「……いらん」


蝙蝠はにこやかにそう言ったが、俺はいらないとキッパリ断り仕事に戻ろうとした。


が。


「…うるさいな」


店の方が騒がしかった。

カメラマンの男が来た時も騒がしかったが、今現在あれ以上にぎゃいぎゃいと騒がしくなっている。

アイツらは店で何を騒いでいるのか。


はぁ、と俺は歩きながらため息を吐き、店へと続く扉を開けた。開けたらさらにその騒がしさが増し、俺は眉根を寄せる。


「やっぱり静さん知ってたんじゃないですかっ!進藤さんの居場所っ!!」

「当たり前でしょ、瀬川ちゃん。俺を誰だと思ってるの」

「あの時は知らないって言ったくせにっ」

「だってさぁ、俺が瀬川ちゃんに教えたら必然的に鎹にまで情報は行くわけでしょ?そんなのずっこいよねぇ。なーんにもしない鎹に情報が簡単に渡るだなんて、俺は許せないし」

「俺が何にもしてないなんて、何であんたに言われなきゃいけないんだよ」

「えっ!何かしてたつもりなの?」


ああ。

煩い。


「それに進藤さんも進藤さんよっ!私に何も言わないままだなんて」

「だ、だからそれは…」

「何?言い訳?この期に及んでまだ言い訳する気なの、貴方は」

「瀬川、つなぐは悪くないからそう怒るなよ」

「そうそう。悪いのは進藤ちゃんじゃなくて、かすがーいぃ」

「はぁ?何で俺なんだよ」

「ともだちー、とか言っといて進藤ちゃん押し倒してんだから鎹が悪い」

「ちょっ…、名々賀さんっ!!」

「押し倒したっ?!何ソレっ?!進藤さんっ、貴方押し倒されたのっ?!」

「や、っちが…っ」

「好きなやつを押し倒してなにが悪い」

「うっわ、開き直った。それ、最低な男がすることだぞ鎹。やっぱ駄目だな鎹じゃ。ね、進藤ちゃんやっぱ俺にしときなよ」

「ねぇ、進藤さんっ!押し倒されたって本当なのっ??そこんとこもっと詳しくっ!微細にっ!!」

「何処が駄目なんだよっ。つなぐ、つなぐはこんな男より俺の方が好きだよなっ、好きだよなっ」



少女の肩が怒りに震えているのが後ろからでも分かった。わなわなと震え、三人の猛攻に一人無言で耐える。だが、ぎゃいぎゃいと収まることなく騒ぐ三人に、さすがに耐えられなかったのか「煩いっっっっ!!!!」と、割れんばかりの声で思い切り叫んだ。


俺はそんな少女の頭を後ろから丸めた新聞紙でスパーンッ!とひっぱたく。



「お前が一番煩い」

「…っ…!!」


後ろを振り向く少女。

目には涙。




『泣かないで』



あの日から『泣かなくなった』少女はこの日。



いとも簡単に。









泣いた。





「きゅ…、吸血鬼さんが殴ったぁぁぁぁぁっ」



うわーん、と泣く少女。





それはあの頃の幼かった小さな少女。

そのままだった。







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