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ばんぱいあヴァンパイア  作者: 葉月
番外編 Honesty and a liar
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一生の約束



これで、満足…?


「何が?僕が満足しているかってこと?違うでしょ。今までのも、そしてこれからのも全て君のためなんだよ?君の、そして君の仲間である吸血鬼達のため」


でも、違うでしょ…。


「何が違うんだい?僕には君が何を言いたいのか分からないよ」


分からないフリをするのは、狡いよ…。


「フリなんてしてないよ。本当に分からないんだ。僕は何か違っている?間違っている?何が?何処が?どれが?どうして?何故?」


本当は分かってるんだ。


「分からないよ。何が言いたいのさ。簡単に僕に分かるように説明してくれよ」


知ろうとしないから。


「何を知るんだい?知るべきこと、なんてこの世界には沢山あるじゃないか。そして知らなくていいことも同じくらい沢山ある。この世界には知るべき大切なことと、知らなくてもいい無駄なことがごまんとあるんだ。だけどその境界線が定められていないじゃないか。僕が知るべきことは何?」


そうじゃないよ。


「オルロック、そんな言葉じゃ僕は分からないよ」


知ろうとすること。それが大事なんだ。


「知ろうとしているじゃないか。今、この時、この場所で。君の目の前で。血だらけの、死体だらけのこの惨劇の場で。僕は知ろうとしているよ」


違うよ。


「違ってないよ。知りたい、と僕は言っているじゃないか。僕は何か違っている?間違っている?何が?何処が?どれが?どうして?何故?と。知りたい、と願っているよ」


それは知ろうとしているんじゃない。

それはただ単に求めているだけ。


『答え』を。


「……どういう、意味だい…?」


考えるのをやめた。

知ろうとするのをやめた。


ただそこにある『理』だけを見てる。


「…オルロック、君はたまに詩人めいた事を言うよね。そんな君も好きだけどさ。もしかして後悔してるのかい?この惨劇を」


後悔、はしてないよ。悔いてはいるのかもしれないけれど。


「それはどっちも同じことだよ」


じゃあ、失望、かな。


「何に?」


何かな…。何だろう。


「分からないんだね。でもごめんね。僕にも分からないよ」


…………。


「ね、オルロック。ここは静かだね。誰もいない。僕と君以外には誰も、何も。音がしない。これぞまさに、静寂、て言うのかな」


……死にたい?


「………どうしてそんなこと聞くの?」


どうしてかな。

そう思ったから、かな。


「…オルロック、死、って何なんだろうね」


…分からない。


「死、ってさ、永遠の謎だと僕は思うんだ。死って何だろう。死って何処から来るのかな。何処へ行くのかな。誰に来て誰に来ないものなのかな」


死は、平等に訪れる。


「ふっ、バカだなぁ。本当にそう思っているのかい?平等、なんて言葉はこの世界にはないよ」


…だけど。


「死は必ずしもやって来る。何処からかやってきて、何処にでも現れ、それが誰であったとしても何であったとしても平等に起こる世界の因果。本当に?ねぇ、オルロック。それは本当?」


…………。


「死、なんてそれこそあやふやな概念だよ」


あやふや?


「死って何だろう。生って何だろう。僕は分からないよ。……ああ、そうか。オルロック、君が言いたかったことが今分かったような気がするよ」


…………。


「知ろうとしない僕は何も望んではいない。考えるのをやめた僕は何かに期待することもない。答えだけを求める僕は、考えるのをやめてしまった僕は、死んでいるのも同然だ、ってこと」


生きて、いるよ。


「そうだね。生きてるよ。だけど、死んでいるも同じなんだよ。意思と感情を持ってしまった動物が考えるのをやめた時、多分その動物は生きる意味を無くすんだよ。何もかも、全てを。自分自身を。それは死と同じじゃないかい?」


…分からない。


「オルロック、君は満足かと聞いたよね。僕はね、満足なんてしてないよ。だって、僕には何かに満足するという感情すら、もうないんだから。死んでしまっている僕には、何もないんだよ。心満たされることは、きっともうない」


……死にたい?


「……分からないよ」


考えるのを、やめたから?


「……きっと人間なんてその程度の動物だったんだね」


吸血鬼も、変わらないよ。


「そうかな。君と僕とじゃ、随分違うように見えるけど」


違う、くないよ。


「じゃあ、僕も化物ってことか」


そうじゃない。


「何がそうじゃないんだい?」


同じだよ。

同じだから、きっと今一緒にいるんだ。


「………同じ?」


皆が救われた世界。

そんな世界がないことを知っている。


「…………」


誰かが願った希望の世界。

そんな世界は造れないことを知っている。


「…………」


変わらない世界で終わらない今を生きる。

そんな残酷な未来を、知っている。


「…………」


未来はずっと続いてく。

終わりなんて、永遠に来ない。


「…死は、平等に訪れるんじゃなかったの?」


平等、なんてこの世界にはないんでしょ?


「……ふっ、そうだね。そうだったね。そして、死、という概念もあやふやで不確定で、形無きもの、だったよね」


だから。


「終わりなんて来ない」


うん。


「…ねぇ、オルロック。そろそろ行こうか」


何処へ?


「何処か、だよ。僕達が求める何処か」


…何処かは、何処かにあるの?


「何処かは何処かにあるよ。それが何処か、なんだからさ」


どこか。


「どこか」


行こう。


「行こうか」


一緒に?


「一緒は嫌かい?」


ううん。…ねえ、何処かへ着くまで、一緒にいてくれる?


「それが君の望みかい?いいよ。じゃあ、僕の望みも聞いてくれる?」


望み?


「うん。…その時が来たら」


その時が来たら。


「君が、僕を殺してよ」


………分かった。


「約束だ」


約束、だね。





『二人だけの』

『《一緒》の約束だよ』




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