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ばんぱいあヴァンパイア  作者: 葉月
番外編 Honesty and a liar
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願望

ざっくりしてたらざっくりやられて、

緊急事態。


もうこの際だからと色々ぶった切りましたらば、こんな結果になりました。


番外編の名に収まらないんよね。

詰め込みすぎたね。






『私達は何も望んではいけないのよ』


あの日から。

最初から。

俺の中には『化物』だけ。










リコの目を治した後、すぐに気を失ったリコが起きるのを待っていたら一人の吸血鬼が俺の前に現れた。途中から気付いてはいた。その吸血鬼が俺を監視している事は。


その吸血鬼は言った。


「戻れ」と。

お前のいるべき場所へ。


戻る気は無かったが、上の連中に逆らってもいいことなど無いことを俺は知っている。俺は眠っているリコを抱き上げて病院に連れて行った。山崎にリコを託した。


また来る。

それだけ言い残して。





『お前は間違いを犯した。その力は消して人間に使用してはいけない力。強大過ぎる力は弱い人間を狂わせ、そして弱い人間はお前を狂わせる。それがオルロックの件で揚々理解出来なんだか』


そう言った古い時代の吸血鬼達は俺を十六日間外に出さなかった。リコの目を治すために俺の持つ化け物の、『怪物』の力をリコという人間に使った俺をソイツらは許さなかった。


分からせるために。

理解させるために。

そして、これ以上『間違い』を起こさせないために。


二度と人間と深くかかわることを許さないと口にはしなかったが云っていた。




『強大過ぎる力は弱い人間を狂わせ、そして弱い人間はお前を狂わせる』



馬鹿馬鹿しい。

俺はオルロックじゃない。

俺は決して狂わなかったというのに。




何故なら俺の中には最初から何も入ってはいなかったのだから。オルロックのように、色々悩み考えていたわけじゃなかった。ただ言われるがままに行動し言われるがままに生きて来た。

望むこともない。欲しいものもない。


存在も。感情も。意志も。意味も。


『繋がれた生きる屍、ですね』


何もなかった生きる屍。空っぽの器の中には化物だけが入っていた。

そんな何もなかった俺が唯一欲したのはリコと言う一人の人間だけ。


そんなことにも後から気付いた。






「あの子は死んだんよ」


「だから言ったんになぁ」


「人間とは、深く深く、ふかくふかく、関わるべきじゃないんよ、って」


「で、どうするん?」


「あの子を殺したかもしれない俺達を、殺して回るんか?」


「あの『最厄』みたいに」


「それもいいと、俺は思うんやけど」


「これからどうするん?」


「逃げるん?」


「人間で言うところの復讐、をするわけでもなく」


「真実を知ることもせず」


「あの子の死が俺達吸血鬼の仕業かどうか調べんでいいん?」


「これから何処に行くん?」





これからも何もない。

何処に行く事もない。

俺が望んだものも、欲したものも、手にしたいと願ったものも。


もうここにはないから。







病院に行ったがリコはいない。

リコと話した場所、リコと会った場所。


そこにもリコはいない。何処にも彼女の姿はない。

当然だ。彼女はもうこの世にはいないのだから。


『時間だけは沢山ありますからね』


俺は一人、時間だけを食い潰す。


流れていく時間。

流れていく景色。

流れていく温度。

流れていく雑音。


流れていくのはそれらだけ。


変わっていくのも

終わっていくのも

壊れていくのも

消えていくのも


俺を残して続いていくのも


世界だけ。



終わりのない世界。

リコのいない世界。

そんな世界で俺は一人歩き続けた。


きっと気付いていなかっただけで、この時既に俺はオルロックのように狂ってしまっていたのかもしれない。


狂ってしまっていたのだろうか。

誰もその答えを俺にはくれなかった。


そんな俺の前に一人の少女が現れたのは、何かの陰謀だったのだろうか。

何かの策略、だったのだろうか。













「そこに寝てると危ないですよ」


声がした。


何も食べず、何も飲まず。

そんな状態が何年も続いていた。人間の血を飲まなくてもこれだけ生きれる事を俺はこの時初めて知った。だけどさすがに限界だったのか、俺は道路に倒れていた。

そんな時に声が聞こえたのだ。人間の声。だけど、道路にうつ伏せに倒れていた俺は動く事はしなかった。目も開けない。

もう俺は疲れていた。


「そこに寝てると危ないですよっ」


人間の女の声。

わざわざ話しかけてこなくてもいいだろうに。

放っておいたらいいだろうに。


そう思っていた。


「あの、ここ道路ですっ」


だけどまだその人間はめげずに俺に話しかけてくる。道路で動かず喋らず目も開けず、倒れている俺に話しかける奇異な人間。さっさと何処かに行ってくれないか、と思う。だけどその人間はしつこくて。俺は目だけを開けその人間を睨む。その人間は俺の目に怯えたように数歩だけ後ずさりした。

そこにいたのはまだほんの小さな少女だった。


「………」


人間は変な所でこうやって人に恩を押しつけるところがある。吸血鬼である俺に恩を押しつけても良い事など何もないのだから、さっさとここを離れろ、とそう口にせず暗に視線で伝えた。

だけど、やっぱりその少女はそこから移動しない。正義感、というやつなのだろうか。


「車が来たら危ないですよっ」


うざったい。

苛々していた。

俺はもう疲れている。

何をするでもなく時間だけが過ぎて行った。どれだけの時間が過ぎたのかも分からない。無駄な時間。無駄な時間だ。この時間も。


何もかも無駄だ。


俺は体を起こして歩道に行き、そして座った。これで満足か。これで満足だろう。だから放っておけ。俺に関わるな。恩着せがましい。


だけどやっぱりその少女はそこにいて。じっと俺を見る。じっと俺を見る少女は口を開く。


「疲れてるの?」


『疲れているの?椅子に座る?ちょっと待って、確かそこに椅子があったはずだから』


リコの声がよみがえる。リコの声が聞こえた気がした。リコを思い出す。あの時、俺にそう言ってくれた彼女の姿がよみがえる。

笑うリコの姿。俺に笑いかける彼女の笑顔。


「お茶でも飲む?」


『あ、じゃあお茶でも飲む?』

『いらない』

『…怒った?』



リコ。

もし、もしあの時俺が吸血鬼だとお前に信じ

させてやっていれたなら。もし、あの時俺がお前の傍を離れたりしなければ。ずっと傍にいると言った言葉通り、ずっと離れたりしなければ。


きっとまだ。











顔を上げると目の前には少女。

リコと同じ事を言う少女。


『一緒に生きようよ』


そう言ってくれた彼女の姿が見えた。


そんな彼女が今、俺の目の前にいる。

俺の目の前で、その瞳でその言葉でその声で俺の目の前で


生きている。


狂っている。

狂っているのは誰だ。俺か。誰もその答えをくれない。



手を伸ばしたらすぐ側にいるのに。俺が治したその瞳でまっすぐに俺を見ているのに。



手を伸ばす。手が触れる。

温かい体温が触れた手から伝わる。

心臓の鼓動が聞こえた。息遣いを感じた。

その瞳はまっすぐに俺を見る。

見てくれる。


嘘つきだった彼女。

目の見えるようになった彼女。


その声は。

その言葉は。



その姿は。





たったひとりのオレがねがうもの。





『一緒に生きようよ』


そうだな。


『人間として死にたいじゃない?』


だけどリコ。それじゃあ一緒にはいられない。




そうだろう?



手を伸ばし指で触れる。頬に触れる。首に触れる。温かい体温が俺の手に伝わってくる。どくりどくりと心臓の動きが伝わってくる。


なぁ、リコ。

リコには言わなかったけど。


俺はずっとずっとその首に、






牙を突き立ててやりたかったんだ。








俺は少女に咬みついた。









『どうして、私を吸血鬼にしたんですか…?』

『気まぐれだ』



俺の血の一部が少女を侵食し、少女は『人』では無くなった。


狂っている。

自分が狂っているのが分かるから俺は後悔する。




後悔したけれど、もう手遅れだった。





『私達は何も望んではいけないのよ』





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