一緒に生きよう。
それからというもの。
俺はリコの病室に何度か通っていた。
「ナオト君は何歳なの?」
「…………」
本当の年齢など言えるわけがない。
「山崎さんが、見た目では三十手前ぐらいだろうって言ってたわ」
「そうか」
見た目年齢はそんなものだろう。
「私はね十六よ。高校生ぴちぴち」
「嘘をつくな。高校生にはとてもじゃないが見えない」
「酷い言われようね。でも、そうね。私本当は高校生じゃない。十九歳なの。十代ぴちぴち」
「それも嘘だろ。看護婦は二十四だって言ってたぞ」
「山崎さんね。あとで叱っておくわ。嘘を言っちゃ駄目よ、って」
「お前がな」
「ナオト君、仕事はしていないの?」
「している」
「何の仕事?」
「………」
「言えないのね。じゃあ私の想像だけど…、ナオト君。貴方の仕事は…殺し屋ね?」
ありえない。
「酷い妄想だな」
「そうかしら。貴方の『俺は吸血鬼だ』ぐらいの最高のセンスだと思うんだけど」
俺が吸血鬼なのは本当なのだが。
「私、ちゃんと覚えてるのよ。貴方が最初に会った時に言った言葉。そういえば、あの時のことで言ってないことがあるのだけれど」
「何だ」
「タオルね、風で飛ばしちゃった時実はラッキーって思ったの。これで、タオルを餌に男が近寄ってくるって思って。で、貴方が釣れた」
「釣られた覚えはないが」
「だから、タオル無くしたのは本当だけど、それを撒き餌的に利用したのも本当」
「そうか」
タオルを無くしてしまったのが嘘なら、俺はものの見事に釣られてしまったと言えるのだろうが、タオルを無くしたのが本当ならば別に俺は釣られたわけではない、と言えるだろう。
「怒った?」
「別に」
「…私、今別にナオト君の寛容さにときめいているわけじゃないのよ。ただ、嬉しくて嬉しくて…好きかも、って思ってるだけなの」
「そうか」
「嘘だと思っているでしょう」
「そうだな」
「ナオト君、良い事教えてあげるわ。嘘を上手につくコツは、嘘の中に少しだけ本当の事を混ぜることなのよ」
「………」
結局どれが本当でどれが嘘なんだ。
「ピノキオって話、知ってる?」
「…確か、鼻が伸びるやつだな」
「そう。嘘をつくと鼻が伸びるの。どういうことか分かる?」
「何がだ」
「私、鼻伸びてないじゃない?だから、私は嘘つきではないということになるのよ」
「………」
「あと、オオカミ少年って話知ってる?」
「狼の少年の話か?」
「違う違う。オオカミが来たーって叫ぶけど、その嘘つきだった少年の言葉は信じてもらえずオオカミに食べられちゃう話」
「残酷だな」
「そうね。でも、言いたいことはそれじゃないのよ。オオカミ少年は嘘つきで食べられちゃったけど、私は食べられてないじゃない?だから、私は嘘つきじゃないのよ」
「………」
「あと、裸の王様って話知ってる?」
「それは嘘つきとは関係ないだろう」
「裸の王様は、嘘をついて見えない服を着るの。俺には見えているって。でも、実際には見えていなくて…。私、ちゃんと見えている服を着ているじゃない?」
嘘つきじゃないのよ、と言いたいのだろう。俺は呆れる。
「別にナオト君に裸を見せた」
「お前は立派な嘘つきだ」
俺は言い放った。
「中井さん、ナオト君が酷いの」
「…山崎だから。どうしたの?」
「ナオト君が、私を好きになってくれない」
「あらあらそれは大変ね」
「………」
「酷いよね。こんなに愛を語っているのに」
「語ってもらった覚えはないが」
「じゃあもっと語らなくちゃね、りこちゃん」
「中元さんの愛ってどんなの?向学のために教えて?」
「山崎。さっきからかすりもしてないわよりこちゃん」
「山田さんの愛を教えて」
「……。相手にドキドキしてたら愛で恋なんじゃない?」
「え、じゃあ私のは愛じゃないのかも」
「…………」
「ドキドキしてないの?してるでしょ、りこちゃん」
「してない。ナオト君は?私にドキドキする?」
「…しない」
「ほら山内さん。ナオト君が酷い」
「山崎…。どっちもドキドキしてないならお相子じゃない」
「高橋さんが酷いこと言うっ!」
「りこちゃんの方が酷いから。私は山崎よ」
「ごめんなさい。山里さん」
「山崎ぃっ!!!!」
月日は流れて行った。緩やかに、着実に。俺がリコの所に行く日は増え、そして俺は
リコに引かれていった。
「リコ」
「何?ナオト君」
「お前の目を治す方法がある」
「治す方法?」
リコが首を傾ける。黒い綺麗な髪の毛がさらりと流れる。
「そうだ」
俺の吸血鬼の力を使えば、リコの目など容易く治せる。リコを吸血鬼にすれば、目などすぐに見えるようになるだろう。そうすれば、リコは見たいものを見れるし吸血鬼である俺とも一緒にいられる。
「リコ、俺は吸血鬼なんだ」
リコがくすくす笑う。
「懐かしいわね。最初に会った時に言ってた」
「嘘じゃない」
「そうね。貴方は正直者だものね」
信じていない。リコは俺が最初に言った吸血鬼だと言う言葉を、まだ冗談や嘘だと思っている。
「俺は嘘は嫌いだ」
「あら、じゃあ私は嫌われているということかしら」
「茶化すな。俺は嘘は言わない」
はいはい、とリコが笑う。
「お前の目を治せる。だけど、お前の目が見えないから…、やり方は酷く痛い方法になるんだ」
吸血鬼の目が使えない分、最初はリコに自分で牙の痛みに耐えてもらうしかない。
「ナオト君の職業って医者だったの?」
「違う。だけど治してやれる」
「痛いのは嫌だなぁ」
「耐えろ」
それしか方法がない。
「で、そのナオト君の目を治すやり方って何なの?」
「リコを吸血鬼にする」
一瞬リコの表情が止まる。そして、そのあと。
大爆笑。
「あははははははははっ!!わ、私を吸血鬼にするの?ナオト君が?」
「…リコ」
「あははははっ、ナオト君の冗談のセンスはもう神並みね!」
「俺は冗談も言わない」
冗談じゃない。
嘘でもない。
本当のことだ。全て本当の事。俺はリコに嘘をついたことなど一回もないというのに。
「リコ。これは本当のことだ」
「あはははっ。そうね、ナオト君は正直者だからね」
まだ微かに笑うリコ。
「リコ。じゃあ俺が吸血鬼だと信じてくれなくて構わない。お前の目は治せる。吸血鬼になれば。お前の目は見えるようになる。だから」
吸血鬼になれ。
だけど、リコは首を横に振った。
「嫌よ」
断られるとは思わなかった。俺は目を見張る。
「何故だ」
「別に見えなくてもいいからよ。だって、想像するのって楽しくない?」
見えなくても想像できる。風の音、鳥の声、工事の音、人の気配、人の声。色は無くても音で想像出来る。頭の中で構成する。自分の好きなように。こうだと思うように。そう想像するだけで楽しい。
「それに私は人間だもの」
リコは微笑し言う。
「人間として生きて、人間として死にたいじゃない?」
人間として。
それは、吸血鬼の俺とは一緒にはいられないということだ。俺は人間ではないから。人間とは、進む時間が違うから。どうやったって、人間は老いていき、そして死んでいく。だけど、吸血鬼の俺は老いもない。普通じゃ死なない。リコは知らない。
俺がどれぐらいの時をこの身で過ごしてきたのか。
どれだけの時間、この世界で生きているのか。
生きるために、何をしているのか。
俺は吸血鬼だ。
どうやったって人間にはなれない。
それが答えだ。
「人間として、死にたいか?」
「ふふ、そうね。だから吸血鬼にはなれないわ」
笑うリコに「そうか」とだけ言う。
無理やりに、リコを吸血鬼にすることなど造作もない。だけど、リコにそんなことしたくない。リコは吸血鬼にはなれない、と言った。俺が吸血鬼であるのだと信じてはいないのだろうが、それがリコの言葉だ。人間として死にたい。それがリコの答えだ。
「ナオト君は吸血鬼になりたいの?」
「…俺は吸血鬼だ」
「あら。それまだ続けるの?さすがに路線変更した方がいいわよ」
くすくす笑うリコ。
「ナオト君。吸血鬼になんてならないで、私と一緒に生きようよ」
人間として。
無理な話だ。
どう足掻いても、俺は最初からさいごまで吸血鬼なのだから。
一緒に生きよう。
それが出来る唯一の手段を、今リコは拒んだのに。
「リコ」
「何?」
「さっきの言葉は本当か?」
「あら、私の言葉は全て真実よ」
「…嘘つきだな。お前は」
リコの言葉のどれが嘘でどれが本当のことなのか、俺には分からない。だけど、リコを無理矢理吸血鬼にすることは出来ない。
人間であるリコに俺は引かれた。
きっとそれが答えだ。
産まれた時から死ぬまで、
俺は吸血鬼だ。
それが答えだ。
リコの嘘に付き合ってやるのが、少し長引いてしまったみたいだな。
俺はリコに会うのをやめ、この地を離れた。
ここにいたのは、数ヵ月間。
それだけの時間だけだった。
それから一年余りが経った。
元々、彼処での俺の仕事は取るに足らないものだったので、長く居続ける必要もなかった。
俺があそこに留まっていたのはリコに会うため。リコに会いに行くためだった。
だけど、もう関わる気もなかった。
戻るつもりも。
なのに。
一年ぶりのその場所。
俺は何故かそこにいて。
リコに初めて会った場所。
リコと初めて話した場所。
そんな場所に俺はいる。
遠くを見つめる。
そんな場所に、リコもいた。
一年前と変わらない姿。白いワンピースに胸辺りまである黒い髪。それが風ではためいて、ゆらゆらと波のように揺れている。太陽がギラギラと照りつけてきて暑いのに、リコは帽子も被っていない。
そして、目も閉じられたまま。これも以前と変わらない。
変わらない姿。
リコはそこに、何もせずただじっとしたまま身動きすることなく立っていた。
まるでその姿は、体全体で音を聞いているようだった。鳥の声、虫の音、風の声、人の音、人の声。そんな色々な音を逃さぬように、太陽の下静かに立っているリコの姿は俺には眩しく見えた。白いワンピースが太陽の光でさらに白く光り輝く。
リコがそこにいる。
俺はリコに会いたかったのだろうか。
自分でもよく分からない。俺がここに来たのが、リコに会うためだったのかどうか。あれからまだ一年しか経っていないのだ。だけど、人間の、リコにとっての一年の感覚は俺とは違う。俺にとっての一年という期間はほんの一握りの時間にすぎない。
だが、リコにとっての一年は?
まだあの病院にいるのだろうか。
そういえばリコの病気は何だったのかと今更思う。今思えば、目が見えないだけで入院などするものだろうか。人間は、目が見えなかったら入院しないといけないのか。
リコの病気の事など一切聞いたことはない。それは、リコが下らない話をするから。下らない嘘をつくから。俺も別に気にしてなかった。だって、あそこに行けば会えたのだから。
嘘つきで目が見えないリコは、
まだあの白い建物にいるのだろうか。
「リコ」
俺はリコに声をかける。リコは、はっとしたような顔をしたがこちらを振り向きはしなかった。そして、少しだけ口の端を上げる。
「…ねぇ、その辺りにタオル落ちてない?」
「………」
また落としたのか。
ため息をつきたい気持ちを抑え辺りを見回す。だが、赤と青のタオルらしきものは見当たらない。
「同じタオルなのか?」
「同じタオルって?」
とぼけているのか。それとも、いつもの冗談か。
「一年前にも、タオルを無くしていただろう。ここで」
その言葉に、ああ、とリコが楽しそうに言う。
「そういえば無くしたわね、一年前に。もうあれから一年経つのね。一年。一年。一年。一年って春夏秋冬なのよね。あの夏から、秋、冬、春、と来てまた夏が来た。秋、冬、春、ときて今は夏。…これがどう言うことか分かる?」
「…一年、経ったな」
「一年『も』経った」
リコは「も」を強調した。
そして、俺の方を向く。
「ナオト君が病院に来なくなってから、一年も経った」
「………」
「私の病が悪化したらどう責任取ってくれるの?」
貴方に会わないと生きていけない病。
そんなもの。
「嘘だろう?」
「嘘ね」
リコが笑った。一年しか経っていないのに、そのリコの笑顔が太陽の下とても眩しく見えて、俺は目を細める。
さっきは変わっていないと思ったが。
人間は一年経てばこんなに変わるものなのだろうか。それとも、リコを見る俺の何かが変わったのだろうか。
「まだ、あの病院にいるのか?」
そう聞くとリコは首を振り「退院してる」と苦笑した。
「ナオト君が来なくなってから数日で退院。驚かせようと思って言わなかったのに、その前に来なくなるんだもの。どれだけ肩すかしを喰らったか」
「目のことで病院にいたのではないのか?」
その俺の言葉に「まさか」とリコは言う。
「ちょっとしたただの病気よ。でもほら、私目が見えないから色々支障とかがあって入院してたの。夏の間だけの入院だったのよ、最初から」
その病気も完治し、今は病院にはいないらしい。だけど、たまに山崎などには会いに行くようだ。
暫くしてから、「ナオト君」とリコが俺の名を呼ぶ。
「何だ」
「…ナオト君が来なくなってから、私色々考えて。あの時、目が見えなくても良いって言ったのは、本当は…本当はね……」
徐々に顔の角度が下がっていくリコ。そして、それに伴って声も小さくなっていく。本当は嘘だとでも言いたいのだろうか。だとしたら俺は。
「本当は何だ」
リコはなかなか続きを口にしなかった。だから急かすようにそう言ってしまう。
そしてリコが口を開くが。
「……実は私の目は魔眼という特殊な目であって、それが」
「リコ」
嘘をつくな。そう「リコ」という言葉に強く込めてリコに言う。リコがうっ、と言葉を詰まらせる。嘘はリコの専売特許だが今俺は嘘など聞きたくない。本当の事を聞きたい。
リコは息を長く吐き、いつになく真面目な顔をして俺を見た。
いや、見えてはいないのだが。
「目が、見えるようになったら…、ナオト君が、……ぅな気がして」
俺は眉をひそめる。最後がうにゃうにゃと聞こえなかったから。
「俺が何だ」
「だから…、ナオト君が……ぅな気がして」
「…リコ、お前わざとだろ」
実は俺に聞かす気が無いだろう。
「わざとじゃないもん。ナオト君の耳が悪いんだもん」
「一年経って、リコは我儘になったのか」
嘘つきの上に我儘。手がつけられない。
「わ、我儘じゃないしっ!だから、ナオト君が…い、いなくなっちゃうような気がしたの!!」
いなくなる?
意味が分からない。
「それも嘘か」
「本当よっ!失礼な!」
本当、とリコは言うがその言葉すら嘘だと思ってしまうのは無理もないと思う。だけど、リコの反応をみて本当なのかもしれないとも思う。
「何故俺がいなくなるんだ?」
リコの目が見えるようになっても、俺が消えないといけない理由などない。ただ俺はリコに会いに行っていただけなのだから。だけど、俺が理由を問うても「ただそう思っただけ」とリコは言葉を濁した。
リコの目が見えるようになっても、俺は消えはしない。リコの前からいなくなったりはしない。あの時、リコの前からいなくなったのは俺が吸血鬼だからだ。俺が吸血鬼でリコが人間だから。
じゃあ何故俺はここに戻ってきたのだろう。
目の見えないリコ。
俺が吸血鬼だと信じないリコ。
ああ、そうか。
きっと俺は。
「リコ」
「………」
「リコ、お前の目を治す」
「えっ…」
まだ何か言おうとしたリコの頬に手をやる。こうやってリコに触れるのは初めてだ。リコが緊張したかのように固くなる。
リコを吸血鬼にせずに目を治す方法はある。だけど、これは本来使ってはいけない力。人間には使用することは許されていない力。だからあの時はそれをする事はしなかった。
だけど、俺は。
リコの目の上に手を置く。その手を、リコが掴んだ。
「リコ?」
リコは何も言わない。ただ黙ったまま俺の手を掴む。
「多少の痛みがあるだけだ。すぐ終わる」
俺は俺の手を掴むリコの手を離そうとするが。
「ナオト君は魔法使いか何かなの?」
リコがぽつりとそう言った。
何だそれは。
「違う。俺は吸血鬼だ」
そう言ったら、リコは「…一年前にも、そう言ってた」と小さく溢す。
「リコの目が見えるようになったら分かる」
俺の言っていることが真実であると。
俺が人間ではなく吸血鬼なのだと。
そうすれば、リコは俺と一緒に生きてくれるだろうか。吸血鬼になって、これからを一緒にいられるだろうか。あの時、リコは俺の言葉を信じなかった。だから。
だから俺は今、リコの目を治そうとしているのか。
だけど。
「………」
だけど結局俺は、リコを俺と同じようにはしたくないと何処かで思っている。俺は吸血鬼で、吸血鬼の中でも少し特殊で。
多分。だからかもしれない。
人間であるリコに俺は引かれた。人間として生きているリコを俺は好きになったんだ。
陽の光の下、俺とは違う生き方をして笑うリコが好きなんだ。人間の命は俺達とは違う。だからこんなにも引かれるのだろう。リコがリコだから。
一緒にいたい。リコのそばに。
それは変わらない。
そこは変わらない。
そう思っているのに。
『一緒に生きようよ』
「………」
俺の手をリコはずっと掴んだままだ。
そんなリコの手を、俺が無理矢理引き剥がしてもいいのだろうか。そんな思いも俺の中にはある。
これはきっと俺の我が儘だから。
俺が、俺のためにやろうとしている事だから。
「…見えるようになっても、ナオト君は私の前に、来てくれる?」
リコがそんなことを言った。そういえばさっきも同じようなことを言っていたな。そんなに不安なんだろうか。何がそんなに心配なのだろうか。俺は今も目の前にいるというのに。
目が見えるようになったら、もっとずっと一緒に居られるかもしれないのに。
「リコ、目が見えるようになっても俺はここにいる」
お前のそばに。
お前が望むなら。
一緒にいる。
ここにいる。
俺はお前と共にいよう。
リコがゆっくりと掴んでいた俺の手を離した。
俺はリコの瞼にのせていた手に力を込める。
俺はリコの目を治す。
リコの目を治して、『俺』という存在を。
リコに。
リコに見てもらうんだ。
そうして俺はリコの目を治した。普通の吸血鬼にはない、『直系』である俺が持っているこの力で。
本来は人間などには仕様してはいけない力なのは分かってた。だけど、俺は
リコの目を治せる力を持っていたから。
リコの目を治してやりたかったから。
リコが見るものを、一緒に見てみたかったから。
リコと一緒にいたかったから。
何もなかった俺が唯一望んだこと。
空っぽで、何もなかった俺が初めて自ら望んだもの。
それがリコだった。
直系。
繋がれた屍。
怪物の力。
意味のない者。
『俺』という存在。
だけど、俺はリコの目を治すべきじゃなかったのかもしれない。
結局、リコが俺を見てくれることは一度も無かったのだから。
そしてこの先も一生ない。
リコはいない。
リコは死んだ。
もうここにはいない。
この世界に、リコという者は存在しない。
リコ。
俺がお前の側にいなければ。
そうすれば、こんなことにはならなかったんだろうか。




